ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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教えて、よーこ先生!

「皆さんこんこんわ! 今回の教えて、よーこ先生のお時間です!」

「さて、今回のお題はこれです!」


~京都ってどんなとこ?~


「以前にお話した二大都市の一つですね!」

「古き伝統を良しとし、帝都とは対照的な都市ですね。 首都の街並みはあえて昔にならった建造物になっていますし、昔からの建造物も多いんですよ? まぁ大体は皆さんの知っている京都と同じ感じですね!」

「霊や妖怪が見える人が多いのも京都の特徴の一つですね。 それらを退治するのを生業としている人達もいるみたいですしね。 あぁ、もちろん留美子ちゃんみたいな人達の事ですよ?」

「伝統的な儀式やお祭りを今も行っているそうで、是非とも私(わたくし)も一度はご主人様と行きたい所です!」

「ではでは、今回はここまで!」

「ちなみに、ご主人様のお養母様は京都出身らしいですね! では、皆さんあでぃおす!」


第九話 少女の思いは雨と共に流るる

―前回のあらすじ―

 私(わたくし)とご主人様との愛の巣に侵入者が! その正体はなんとご主人様のお養母様でした!

 その力は桁外れで徐々に追い詰められる私(わたくし)と留美子ちゃん…… しかーし! ここでご主人様が身を挺した一撃をお養母様へとぶち込むっ! なんという愛の力! その結果、私達二人は救われ、なんとか和解する事が出来たのでした! やはり愛の力は偉大ですね。

 そんな事でお養母様のお墨付きも頂き、私(わたくし)達の愛は一層深まるのでした…… え、拡大解釈しすぎですって? シャラップ!

 

 

 

 

 

 二人の少女が駆けまわっている。 どちらも巫女服を纏い、一人の少女がもう一人を追いかける形で走り回っている。

 

 

「待ってよ――ちゃん!」

 

「待たないよー!」

 

 

 まるで時間が静止したように静かな空間、彼女達二人だけの世界。 そこに他人が入り込む余地はなく、世界はそれだけで構成されているような――

 

 

―ノイズが走る―

 

 

 急に場面が変わる。 どこかの神社の境内だろうか? 空は雲に覆われ、薄暗い中で激しく雨が降っている。

 

 私は傘も差さずに雨に打たれていた。 雨独特の匂いが鼻孔を突く。 こうして雨に打たれていれば悲しみも誤魔化せるだろうか、そんな期待を持っていた時もあった。 しかし、そんな希望もなく私の悲しみはここに留まったままくすぶっている。

 二度と届かない思い、残るのは後悔、だけどもう全ては遅すぎた。 そこに私はいない、どんなに言葉を紡いでも誰も見向きもしない、どんなに泣き叫んでも雨の音に掻き消される、どんなに手を伸ばしても――何も掴めない。

 分かっている、私はもう死んでいるんだと。 それでもここに留まり続けている、ずっと縛られているのだ――自らの後悔に。

 

 

「っはぁ!」

 

 

 最悪だ。 私は凄い勢いでベッドから上半身を起こした。 下着は汗を吸いびしょびしょで寝間着まで湿っている。 それだけ大量の汗をかいたという事を物語っている。

 額の汗を袖で拭いベッドを抜け出し洗面台の前に行く――鏡に映る自分はひどい顔をしていた。

 

 

「最近は無かったんだけどなぁ。」

 

 

 これは昔からある、私の悩みの種の一つだ。 一つは霊や妖怪が視えてしまい、それらを引き寄せてしまう体質。 そしてもう一つは、霊と同調してしまうというものだ。

 分かりやすく言うならば、降霊術のようなものだ。 ランダムに身近にいる霊を引き寄せ、その思いと同調する事で記憶を読み取ってしまう。 当然その思いや記憶を疑似体験してしまう私にも負荷は高い。

 

 

「おぇっ……」

 

 

 盛大にリバースする。 あぁ、これでゲロインが定着したら嫌だなぁ。 なんて、片隅で思考する余裕はあるくらいは、まだ慣れた事ではある。 それでもこの1か月は一度も無かったのだが。

 二度目のリバースをしていると、いつの間にか現れた菊梨に背中を擦られていた。 菊梨は何も言わずに、無心に擦ってくれていた。

 

 ――外では嫌な雨が降り続いていた。

 

 

―――

 

――

 

―

 

 

「まだ気持ち悪い。」

 

「大丈夫ですかご主人様?」

 

 

 私と菊梨は大学へと向かう途中だった。 何故か傘が二本あるのに私の傘の中に入ってくるという意味不明な行為に及んでいる菊梨である。

 

 

「なんとかね、久々だったからさ。」

 

「やっぱり今日はお部屋で休んでいた方が?」

 

「確かにその方が良かったかな……」

 

 

 体調は頗る悪い。 確実に昨日の同調が効いている。 アレは負担が高いうえに自分でコントロール出来ないという大問題を抱えている。 つまり無意識のうちに同調してしまうのだ。 無理矢理同調された側もたまったものではないだろう、なにせ記憶を勝手に覗かれてしまうのだから。

 私は額を右手で押さえながら、バスの停留所のベンチに座り込む。 これは完全にダメなやつだ。

 

 

「やっぱり帰りましょう! 私(わたくし)が代わりに連絡しておきますので!」

 

「こういう時はほんと良妻ね。」

 

「でしょでしょ!」

 

 

 誇らしげに腰に手を当てて胸を張る菊梨、でも今はとても頼もしい。 このままおぶって家まで連れて行ってもらおうかしら。

 

 

「じゃあ――」

 

 

 私は立ち上がって歩き出す。 菊梨は慌てて私の後ろをついてくる。

 

 

「ご主人様、そっちは家とは逆方向ですよ?」

 

「ん……」

 

 

 そうだ、確実に家とは逆方向へと歩いている。 間違っていると頭で分かっていても、足は勝手に動いてどこかを目指している。

 

 

「ご主人様、悪ふざけもそのくらいにしてお家に帰りましょ?」

 

「ここ――」

 

 

 足がやっと止まる。 そこには古い神社があった。

 

 

「帝都に神社があるなんて珍しいですね。 基本的に仏教徒ですのに。」

 

「あぁ、ここだ。」

 

 

 そうだ、この神社だ。 私が”視た”神社と同じなのは間違いない。

 階段を昇り神社を目指す。 傘が一つという問題上、菊梨も私についてくるしかない。

 

 

「……」

 

 

 菊梨も完全に口を閉ざす。 この状態から無理矢理引き戻すのは良くないと判断したのだろう。 こうなったらもう会ってみるしか方法はないのだ。

 鳥居を潜り、参道を進み、手水舎で清めてから拝殿の前に立つ。 そこには夢で見た巫女の少女が立っていた。

 年齢は16歳、不慮の事故でこの世を去った悲しい娘。 伝えられなかった思いを引きずって、今もここに縛られている。

 

 

「貴女、私が見えるのね?」

 

「……」

 

「私の声が聞こえるのね?」

 

 

 彼女(わたし)は歓喜する。 やっと、自分を認識できる人が現れたと、自分を地獄から解放してくれる人に出会えたと。

 

 

「ご主人様をどうする気です?」

 

 

 菊梨は彼女(わたし)を威嚇する、大事なご主人様のためならなんでもする菊梨の事だ、彼女(わたし)が害をなす者ならば容赦しないだろう。 そんな菊梨を片手で制す。

 

 

「どうこうするつもりはありません、ただ私の思いをあの人に伝えて欲しいのです。」

 

 

 それは彼女(わたし)が生前思いを寄せていた相手。 最後まで思いを伝えられなかった後悔の相手。 この思いが私を縛り続けている、ずっとここで――

 

 

「そうすればご主人様を返していただけるのですね。」

 

「もちろんです。」

 

「ならばさっさと済ませて下さい。 これ以上ご主人様に無理をさせたくないので。」

 

 

 菊梨の声には焦りと怒りが入り混じっていた。 彼女(わたし)は頷くと、再び私(かのじょ)は歩き出す その後ろを心配そうに菊梨がついて歩く、そうする事しか出来なかった。

 

 

―――

 

――

 

―

 

 

 20分も歩き続けると、とある一軒家で足を止めてインターホンを鳴らした。 すぐに玄関の扉は開かれ、中から20代の女性が現れた。

 

 

「どちら様ですか?」

 

 

 女性は怪訝な顔で私(かのじょ)を見る。 見ず知らずの相手が訪ねてきたら当然の反応だ。

 

 

「桐原篝の知人です。」

 

「えっ?」

 

 

 その名を聞くと女性の表情は一変した。

 

 

「彼女は! 篝は今どこにいるんですか!」

 

 

 私(かのじょ)の肩を掴み乱暴に揺する。 それだけ女性にとっては大事な相手の名前であったのだろう。 ――心の奥が温かくなるのを感じる。

 

 

「あの子、急に引っ越しちゃって連絡先も分からないし……」

 

「それは貴女達を引き裂くための親の策略。 ずっと家に閉じ込められていたの。」

 

「そんな、あの優しそうなおじ様が!」

 

 

 彼女(わたし)には親の決めた許嫁がいた。 それに同性同士の恋愛なんて許される事ではなかったのだ。 彼女(わたし)と彼女の関係を知った父親は、彼女(わたし)を18歳になるまで軟禁する事を決めた。 子供さえ産んでくれるならそれでよかったのだ、血を残すための産む機械程度にしか……

 

 

「では、彼女の最後の言葉を伝えます。」

 

「――はい。」

 

 

 きっとこの女性も覚悟はしていたのだろう、数年の失踪と見知らぬ人物の来訪――結果は彼女の死しかないと。

 

 

「由愛ちゃん、彼女(わたし)は貴女が好き。 今までも、そしてこれからも――」

 

「わたし、私もよ! 死ぬまで――いいえ、死んでからも! 何度生まれ変わっても貴女を見つけて愛し続けるわ!」

 

「彼女(わたしもよ)、由愛ちゃん……」

 

 

 ――やっと伝えられた。 これできっと、また会える。

 ずっと重かった心が軽くなるのを感じる、あらゆるモノから解放されて自由になる感覚。 燻っていたものが晴れていく……

 彼女(わたし)の頬を冷たい雫が伝う。

 

 

「雨が、止みましたね。」

 

 

 降っていた雨はいつの間にか止んでいた。 暗い雲を掻き分けて、一筋の光が辺りを照らしていた。

 

 

―田舎のおばちゃん、今日も私は元気です―

 

 

―――

 

――

 

―

 

 

 二人の少女が駆けまわっている。 どちらも巫女服を纏い、一人の少女がもう一人を追いかける形で走り回っている。

 

 

「待ってよ――ちゃん!」

 

「待たないよー!」

 

 

 まるで時間が静止したように静かな空間、彼女達二人だけの世界。 そこに他人が入り込む余地はなく、世界はそれだけで構成されているような錯覚に陥る。

 

 

「貴女はどうして、そんな悲しそうな顔をしているの?」

 

「お父様が私をいじめるの。 だからお家に帰りたくない。」

 

「そうなんだ、でもここは特殊な神域(かむかい)の中だから、現世(うつしよ)の人はいちゃいけないってお父さんとお母さんが言ってた。」

 

「そんなの知らない!」

 

「ふふっ、ならうちの子になる?」

 

 

 その言葉は子供の何気ない一言であった。 しかし、彼女にとっては天から差し出された救いの手にも見えたのかもしれない。

 

 

「なりたい!」

 

「なら、私達はこれから姉妹だね!」

 

「――うん!」

 

 

 これは誰のものか分からない、ダレカの記憶。 決して誰も触れる事のない、色褪せない思い出……




―次回予告―

「ナニコレ、全くふぉっくすらいふらしくないわ! というか私の出番があるようでほぼ無いじゃないの!」

「身体貸してたんだから仕方ないじゃないですか!」

「私の出番も、全くない。」

「それは、うん……仕方ないのよ。」

「(しゅん)」

「で、でも! 次回からは留美子過去編に突入するから出番たっぷりよ!」

「ほんと?」

「ほんとほんと!」

「でもそれ、私(わたくし)の出番皆無って事ですよね?」

「そ、そうね。」

「(しゅん)」

「今度は菊梨がいじけたぁ!」

「次回、第十話 波乱の大学生活の幕開け!」

「見ないと逮捕しちゃうゾ!」
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