6畳の和室に重苦しい空気が漂っていた。 医師は俯き、少女は横になっている女性の手を強く握っている。 女性の顔は青白く生気を感じない、手足は細く枯れて目は虚ろだった。
「
「嫌ね、いつもみたいにあまてるちゃんって呼んでよ。」
少女は更に強く手を握る。 この手を離してしまったら、大事な人にもう会えないのではという恐怖に駆られていた。 そんな少女を慰めるように、天照はもう一つの手で頭を撫でてやる。 ――少女の溜め込んだ涙が溢れ出す。
「ずっと、一緒だって…… 約束したのに!」
「ごめんね、針千本飲まなきゃだね。」
一度決壊した涙は止まらず、布団を濡らしていく。 少女は自らの無力さを嘆いた、彼女を守れなかった非力さを呪った。
「でも、神様が決めた事だから、だから――」
「嫌っ!」
「貴女は、貴女の幸せを見つけるのよ……?」
天照は少女に微笑んだ。 そしてそのまま――
「774年 4月25日 7時40分、ご臨終です。」
「あまてるちゃん! いやぁぁあ!!」
医師の宣言が虚しく部屋に響いた。
帝京歴774年 12代目天皇
―10年後―
少女は大人へと近づいていた。 彼女は無表情でグリッブを握り、的に向けて正確に発砲している。
「精が出るね。」
「
少女は頭を垂れる。 彼は
「そんな君に今日は仕事を持ってきたよ。」
「一体どのような?」
彼はテーブルの上に何かの書類と写真を1枚置く。 その写真を見て少女は絶句した。
「妹にそっくりだろう? 彼女は僕の弟の娘だ。」
「となると、772年の惨殺事件の生き残りですか?」
「その通りだ。 やっと行方が掴めてね、君に彼女の護衛を頼みたい。」
「……」
「見慣れた顔で、君も仕事がしやすいだろう?」
晴明は彼女の耳元でそう囁いた。
少女はすぐにでも、この男に銃口を突きつけて引き金を引きたかった。 裏では、この男が天照の死に関わっているという噂さえあるくらいだ。
「――分かりました。」
「期待しているよ、猿女 留美子。」
(あまてるちゃん、私は……)
留美子は血が流れる程強く唇を噛みしめた。
―――
――
―
―前回のあらすじ―
したいのは山々なんだけど、正直私の記憶にあまり残ってないんですけど! 菊梨任せた!
仕方ないですね、なら
自らの思いを伝えるため、同調したご主人様の身体を借りた幽霊さん。 彼女は思い人への告白をする事で無事に成仏する事が出来ましたとさ、めでたしめでたし。
おかげで私の身体がぐったりモードなんですけどね! 全くめでたくないわ!
そんなわけで、私は数日寝込んでいた。 体の疲労感が酷く、立って歩くのも正直辛い状況だ。 家事は菊梨が全てやってくれているので問題ないが――
「ん~」
「なんで留美子も来てるわけ!」
何故か留美子も私の家にいた。 私の寝ているベッドの横で、ひたすらぷちぷちを潰している。
「よし、記録更新。」
「何の記録だ! というか講義に出なさいよ!」
「私の任務は、あまてるちゃんの護衛。 講義に出る必要はない、お前を殺す。」
「その台詞の使い方は前に教えたでしょうが、全く貴女は。」
諦めて大の字になって寝そべる。 まぁ邪魔にはならないから良しとしよう。
「そういえば、留美子ちゃんはいつご主人様と出会われたんです?」
冷やし素麺をテーブルに並べながら、菊梨が留美子に尋ねる。
「ん、入学式。」
「そうそう、あの時急にトイレに連れ込まれてさぁ……」
「むむむ、少し気になりますね!」
「菊梨になら、教えてあげてもいい。」
私も起き上がってテーブルにつく。
「なら、お食事を頂きながら聞かせてもらえます?」
「いいよ。 あれは、1年と少し前……」
―――
――
―
目標はすぐに見つかった。 確かに彼女は元気だった頃の天照様にそっくりであった。 当然それは顔や背格好の話であり、観察していて別人だとはっきり分かる。
「そこの君! 是非我が”さぶかる”サークルに入らないかね?」
「もしかして、コミマ参加もしてるんですか!」
「当然さ、売り子衣装は隣のコイツが担当してる。」
どうやら何かの勧誘を受けているようだ。 これは警戒するべきではないのか? どんな危険があるか――
「そこの君も興味あるのかい?」
怪しい勧誘をしていた眼鏡の女性に掴まった。 こういう時の対処法……
①対象の射殺 ②護衛対象を連れての撤退
許可無き発砲は許されていない、ここは②を選択しよう。
「っ!」
私は護衛対象の手を握って走り出す。
「ちょっと、何するのよ! その話後できかせてくださーい!!」
身を隠せる場所――あそこなら。 私は視界に入ったトイレに駆け込み、そのまま一番奥の個室に入り込んだ。
「ちょっと、貴女なんなの?」
「不用心な行動、許さない。」
「あの、何言ってるわけ?」
「私は坂本 雪、貴女を護衛するために組織に送り込まれたエージェント。」
「エージェントって、確かにそれっぽいビジネススーツ着てるけどさ。 サングラスと記憶操作するペンがあったら完璧だけど。」
どうやら彼女は信用していないらしい。 非公式な組織故、信じてもらえないのも仕方ない。
「貴女が信用するかどうかは勝手、私に護衛任務があるのは変わらない。」
「新手のストーカーか。」
かなり警戒している様子だ。 やはり彼女と接触したのは失敗だったか? しかし命令書では彼女と親しい仲になるのがベストと書かれていた、ならば彼女との接触は間違いではないはずだ。
「ともかく、これからは勝手な行動は控えて。」
「そんな事言われてもねぇ。」
その時彼女の後ろで何かが動いたのが見えた。 ――おそらくは浮遊霊か何かだろう。 引きつけやすい体質とは資料に書いていたが、こんな低級な霊まで引きつけてしまうのか。 ますますあの人の事を思い出す。
私はホルスターから
「ちょっ、なんで銃とか持ってるわけ!?」
「黙って。」
私は躊躇なく引き金を引く。 撃ち出された霊力の弾丸は霊体を完全に破壊し消滅させる。 目の前の雪は目を見開いたまま硬直していたが、やがて口を開いた。
「貴女、視えるわけ?」
「私の組織は退治の専門。」
私が浮遊霊を消滅させたのを理解しているようだった。 これで少しは話がしやすくなる事を願う。
「と、とりあえずその組織の話は信じてあげるわ! それで、なんで私みたいな平凡人を護衛する必要があるわけ?」
「それは秘密事項。」
「本人にも教えられないわけ?」
「教えられない。」
「あぁもう、なんなのよ……」
彼女は頭を抱えてうずくまる。 何かをぶつぶつ呟いているが、私には全く関係のない事だ。 私の任務は、彼女の護衛なのだから。
―――
――
―
「成程、その頃はまだ仲は宜しくなかったんですね。」
「文句ばっかりで苦労した。」
話をしている間に、食事を終えたあまてるちゃんは眠りについていた。 同調の負荷がかなり高かったのだと推測される。 ――あまり無理はして欲しくない。
私と菊梨は二人で皿洗いをしていた。
「それなら、仲良くなるきっかけもあったってわけですね。」
「うん、大事な思い出。」
「そう言われると、ますます気になりますね――正妻として。」
「正妻は譲らない。」
「ほほう?」
私と菊梨の視線の間で火花が散る。 これだけは譲れない、だってあまてるちゃんは私のものだもの。
「最初に仲良くなったのは私、だから権利も私にある。」
「言いましたね留美子ちゃん、ならその大事な思い出を話してもらおうじゃありませんか。」
「いいよ、教えてあげる。 そして絶望するがいい。」
そう、私の大事な思い出。 あまてるちゃんとの約束……
―to be continued―
―次回予告―
「出番あって良かったぁ。」
「菊梨嬉しそうね。」
「でも、メインは私。」
「ふん、いつか私とご主人様のイチャラブ話が来ますもーんだ!」
「はいはい、拗ねないの。」
「うわーん! ご主人様ぁ!」
「次回、第十一話 私とあまてるちゃんの約束」
「あまてるちゃん、私の本当を受け取って。」
「どういう事なのですか!」