ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

15 / 87
第十三話 お隣さんはPAD長!

「はぁ、今日も暑そうねぇ。」

 

「もう7月ですからね。」

 

 

 激しい日照りの中、快適な砦である家から出て、学校に向かわなければならないという地獄。 あぁ、学校までの道に冷房が欲しい。

 

 

「電車に乗れば涼しいんですから、もう少しだけ我慢して下さいね?」

 

「わかってるって――あ、おはよう!。」

 

 

 玄関から出て来たお隣さんに手を振る。 彼女の名前は榛名(はるな) 優希(ゆうき)、私と同じ帝都大学の2年生だ。

 

 

「あぁ、おはよう。」

 

 

 整った顔立ち、綺麗な茶髪、そして何よりこのカッコイイハスキーボイス! 同性でも惚れてしまいそうですお姉さま!

 

 

「ご主人様?」

 

 

 隣の菊梨がすごい笑顔でこちらを見ている、アノー、コレウワキジャナイヨ。

 

 

「優希もこれから学校に向かうの?」

 

「今日は午前から授業があるから。」

 

「なら一緒に行こうよ!」

 

「そうだね。」

 

 

 彼女の両親は科学者でほとんど家には帰ってこないらしい。 私が一人で暮らしていた時は、たまに一緒にご飯を食べたりしていたけど、最近はご無沙汰だったなぁ。

 

 

「ねぇ優希、今晩は久々に一緒にご飯食べない?」

 

「僕は構わないけど、同居人の方はいいのかい?」

 

 

 私達が仲良く話しているのが気にくわないのか、菊梨はすごいオーラを纏いながら後ろを歩いている。 こうなると菊梨を手懐けるのは難しい。

 

 

「き、菊梨さん?」

 

「ぼそぼそ……(浮気は甲斐性、浮気は甲斐性、浮気は甲斐性……)」

 

 

 な、なんか同じ言葉を呟いてて怖いんですけどぉ!

 

 

「あー! 菊梨の作るご飯が食べたいなー! みんなで食べたらもっと美味しいだろーなー!」

 

「もちろんです! ご主人様のため、全身全霊愛を込めて作らせていただきます!」

 

「だ、そうです。」

 

「あ、あぁ……」

 

 

 流石の優希も苦笑い、私達にとってはいつものやりとりと変わらないんだけどね。

 

 

「そうだ雪、君って確か霊とかそういうのに強かったね?」

 

「うん、確かにそうだけど。」

 

「君に解決して欲しい事があるんだ!」

 

 

 

 

 

「さぁ始まりましたよ第二シーズン!」

 

「なら二期オープニングも歌いますねご主人様!」

 

「だからこれはアニメじゃないって言ってるでしょ!(ハリセンアタック)」

 

「あ~ん////」

 

 

―今までのあらすじ―

 ”(わたくし)、貴方様の嫁となるために参りました菊梨と申します。 不束者ですがどうか宜しくお願い致します”

 そう言って現れたのは狐の妖怪菊梨(露出狂)! 勝手に人様の家に現れて、勝手に嫁宣言するやばい奴!(露出狂)

 彼女が現れてからは、元々霊や妖怪に絡まれやすい私の人生は更に酷くなってしまった! ほんと迷惑な(露出狂)である。

 色々な事件に巻き込まれつつも私達はその仲を深め、とりあえず主人と奴隷というレベルまでには変化したのであった、第一章完!

 ご主人様そのあらすじなんかおかしいですよ! というか(わたくし)をさりげなく露出狂と呼ぶのはやめてくださいまし!

 そんなわけで、ふぉっくすらいふ! 第二シーズン始まるよ!

 

 

 

 

 

「よくわからない叫び声?」

 

「あぁ、バイト先の店で最近頻繁に起きているんだ。」

 

 

 三人でお昼を食べながら優希の相談を聞いていた。 どうやらバイトしているお店で、急に叫び声が聞こえる事があるらしい。 近所ではなく店の中、客がいない時にでさえ聞こえてくるらしい。

 

 

「それで店長がイライラしててね、あのままだといつか大噴火だよ。」

 

「その店長さんも大変そうね……」

 

「そういうわけで、君に白羽の矢が立ったってわけだ。」

 

 

 私はコップの麦茶を一気に飲み干して立ち上がる。

 

 

「任せなさい、全部菊梨が解決してくれるわ!」

 

「あぁ、君がじゃないんだ。」

 

 

 妖怪や霊の相手は菊梨か留美子に任せるのが一番である。

 

 

「ご主人様の命とあれば、火の中水の中! なんでもやりますよ!」

 

「君達、元気だなぁ。」

 

「というわけで、大船に乗ったつもりでいて!」

 

 

 まぁもちろん無償でってわけではなく、お店の無料券くらいはもぎ取る算段なのだが。 なんと言っても優希のバイト先は、最近出来たメイド喫茶なのだ! 是非一度行ってみたかったのだが、高くてどうしても足を運ぶことは出来なかった。 これはきっとまたとないチャンスなのだ! まぁ、風の噂によると、開店には羽間先輩が関係しているらしく、頼めば入れない事もなかったわけだが。

 

 

「あぁ、よろしく頼む。」

 

 

 そう言って、食べ終わった食器をトレイに乗せて優希は席を立った。

 それにしても、今日は留美子を見ないわね。 まぁ彼女にとって単位なんて関係のないものだし、何か他の――そう考えて一つの考えに至る。 アイツ、また一人で大変な任務をやってるわけじゃないでしょうね。

 

 

「ねぇ菊梨。」

 

「なんでしょう?」

 

「留美子がどこにいるか探れる?」

 

「――出来ますけど。」

 

「ちょっと調べてきてもらえない? アイツすぐ一人で無理するから。」

 

「わかりました。 ただし、何かあったらすぐに呼んでくださいね。」

 

「わかってる。」

 

 

 ――また無理してなきゃいいけど。 最近留美子も変わって来たと思っていたのは、私の勘違いだったのだろうか?

 

 

「約束、守りなさいよね……」

 

 

 私はそう小さく呟いた。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「ここがメイド喫茶”ガーベラ”か!」

 

 

 ついにやって来ましたとも! さぁ、パワーを両手に! いざ行かん夢の国!

 

 

「ご主人様、なんかニヤニヤしてません?」

 

「気のせいよ気のせい!」

 

 

 笑って誤魔化す! 私がフリフリな服にに目がないなんて、死んでもバレたくない!

 

 

「――先に入るよ。」

 

 

 優希が入口の木造のドアをゆっくり開く、そこには夢の国が広がって――

 

 

「嘘でしょ。」

 

 

 夢は儚く消え去った。

 

 

「お帰りなさいませご主人様! ってPAD長じゃないですか。」

 

「PAD長言うな!」

 

 

 確かに綺麗な内装だ、メイドさん達(という名のフリフリエプロン)は可愛い。 何も問題はないのだ、おそらく見えているのは私と菊梨くらいのものだろう。

 

 

『全員、整列!』

 

 

「うわ、また聞こえて来たよ。」

 

 

 優希や他のメイドさん達が耳を塞ぐ。

 

 

「何なのよあんた達は!」

 

 

 この夢の国をぶち壊す張本人達にそう文句を言ってやった。 この空間に全く似合わない、軍服姿のおっさん達がどうやら全ての元凶のようだ。

 

 

『もしや、視えるのでありますか!?』

 

「そりゃあもうはっきりくっきりね! あんた達馬鹿なの? あんたらみたいなおっさんは、このメイド喫茶には不釣り合いなのよ!」

 

『そうは言われましても、我々は上官への報告無く成仏は出来ないのであります!』

 

「何よそれ、ここにあんた達の上官がいるわけ?」

 

 

 つまりあれか、こいつらはここに住む上官に報告するために集まってきてしまったと。

 

 

「なんだい、騒がしいねぇ。」

 

 

 店の奥からやばそうな人が出て来た。 女性とは思えない筋肉質な体型、顔や手足には無数の傷が見える。

 

 

「あ、店長。」

 

「てんちょうー!?」

 

 

 流石に私と菊梨は驚く、この人店長なんだ。 そして何故かおっさん軍達は店長に敬礼している。

 

 

「誰だいそこの小娘二人は? 騒ぐなら店からつまみ出すよ。」

 

 

 うわぁ、絶対つまみ出すとか言って発砲されそうな勢いだよ、女マフィアみたいで怖いよ…… なんてびびっている場合ではない!

 

 

「店長さん、つかぬ事をお聞きしますが。」

 

「あん?」

 

 

 やっぱこわいぃぃ! ――正直膝が笑っている。

 

 

「店長さんはその、昔軍で働いてたりとか、あるのかなーって?」

 

「――フン!」

 

 

 すごい形相で睨んでいる。 視線だけで十数回は殺された、恐るべし。

 

 

「それがどうした?」

 

「えっとですね、死んだ軍人さんが上官に報告しないと成仏出来ないってこのお店で騒いでまして……」

 

「なにぃぃ、アイツらがここにいるってのかい!」

 

『イエス! マァム!』

 

「ほほぅ。」

 

 

 声だけは聞こえているらしく、店長さんは納得とばかりにニヤリと笑った。 もう、漏らしそうです……

 

 

「アンタ達! アタシの店にまで来てなんのつもりだい!」

 

『東欧戦線での防衛失敗を謝りに来たのです!』

 

「ハァ? 10年以上も前の小競り合いの話を持ってくるじゃないよ! 今更そんな報告なんて聞きたきゃないよ! もう一度精根叩きなおしてやろうか!」

 

『ノー! マァム!』

 

「アンタ達〇○(ピー)の小さいクソガキを育ててやったのは誰だと思ってるんだい! ○○(ピー)しか出来ないお前らに戦い方を教えて――」

 

 

 なんだか、とんでもない事になってきた。 幽霊達は店長には刃向かえないらしく、大人しく説教されている。

 

 

「まさに、この世の地獄絵図ね……」

 

「こういうのは、視えない方が幸せと言いますが、まさに今がそれですねご主人様……」

 

「全くよ。」

 

 

 その説教は軽く3時間は続いたそうで、今日の店は臨時休業となったとさ。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「なんかどっと疲れたわねぇ。」

 

「なかなかの厄介事に巻き込まれましたね。 ご主人様ってそういう相でも出てるんじゃないですか?」

 

「それは激しくお断りしたい所ね。」

 

 

 私がソファーに横になると、何か硬い物が頭に当たる。

 

 

「いっっ――何これ、ペンダント?」

 

「もしかして、優希ちゃんの忘れ物では?」

 

 

 言われてみれば、たしかに身に着けていた気がする。 大きな青色の宝石、サファイア? が埋め込まれた綺麗なペンダントだ。

 

 

「ちょっと私届けてくるね。」

 

 

 そう言って部屋を出て玄関の扉を開ける。 綺麗な月明りの中、隣の家に向かおうとすると何か人影が見えた。

 

 

「あれ、留美子?」

 

 

 優希の家から出て来たのは留美子だった。 話しかけようとするが、凄い速さでその場を立ち去って行ってしまった。

 

 

「なんで留美子が優希の家に……」

 

 

 特別仲が良いという話も聞かないし、一体どうしたんだろうか?

 

 

「まぁ、なんでもないか。」

 

 

 特に問題もないだろうし、私はペンダントを握りしめながら早足で優希家の玄関に向かった。

 

 

―田舎のおばちゃん、今日も私は元気です―




―次回予告―


「はーい第二シーズン始まりましたね!」

「今期も皆さん宜しくね!」

「早々に新キャラも登場してきましたね、浮気したら私(わたくし)怒りますからね?」

「だから私にそっちの気はないから!」

「じゃあなんでメイド喫茶の優待券貰って喜んでたんです?」

「そ、それはその……」

「ご主人様?」

「あぁぁもう! 次回、第十四話 脚フェチ妖怪、女郎蜘蛛の罠!」

「正直に言わないと――」

「誤解だってば!」

「――お楽しみに。」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。