「はーい、皆さんこんにちは! よーこ先生ですよ~!」
「今回も楽しく先生と一緒にお勉強しましょうね!」
「では、今回のお題はこれです!」
~雪ちゃんの田舎ってどんなとこ?~
「はーい、実は私も気になって調べちゃったんですよね!」
「ご主人様の実家があるのは、帝都領域の北部にある青森という雪国だそうですよ。」
「そこには霊峰”恐山”があって、観光地としても有名だそうです! 是非行ってみたいですね。」
「ご主人様のおば様は、そこでイタコという職を営んでいるそうで、かなりの資産をお持ちのご様子…… 道理で帝都に土地と家を持っているわけですね。」
「ご主人様にとっては義理の親という事になりますが、お互い凄い霊力を持っているんですよねぇ…… 私もあの時はヒヤヒヤしましたよ。」
「では今回はここまで、皆さんあでぃおす!」
「諸君……我々は再び危機に直面してしまった。」
私達さぶかるのサークルメンバーが集う中、羽間先輩が真剣な面持ちで語り出す。
「実はだな……新たな売り子を雇ったせいで、予算を少々オーバーしてしまたのだ。」
「なん……だと……」
「というわけで、新たな売り子を雇うための資金が必要だ。」
机の上に両手を組むポーズ、所謂ゲン〇ウ的ポーズだ……眼鏡も光ってるし。
「先輩、それって必要なんなんですか? 元々菊梨と留美子が売り子やるって話だったんじゃ?」
「実は留美子が不参加になってしまってな、そのための補充要員なのだよ。」
「なるほど、それでか…… それでいくら必要なんです?」
「10万だ。」
「……は?」
えっと、1日だけでなぜ10万とかふっかけられてるんですかね! 完全にぼったくりじゃないですか!
「流石に高すぎでしょ! 一体どんなレイヤー拾ってきたんですか!」
「我が校の優希君だが。」
「あぁ、そういう事ですか……」
「私が鏡花ちゃんにオススメしたのよ。」
そう言って笑顔の大久保先輩、チョイスは悪くないけど彼女には一つだけ問題があるのだ……
彼女の彼氏であるとある男性の問題なのだが、今は説明する必要はないだろう。
「というか、その10万は大久保先輩のポケットマネーでどうにかしてくださいよ。」
「ごめんなさいね、今回だけはダメなの。」
何故ダメなのか、という突っ込みは飲み込む。 しかしそんなお金をどうやって用意しろと言うのだろうか。
「というわけで雪君!」
「は、はい!?」
「君には幽霊退治で稼いでもらう!」
「はぁぁ!!」
予想の遥か斜め上の答えが舞い降りたのだった。
―前回のあらすじ―
久々のお出かけで胸躍らせていた私だったが、そーんな甘い裏には仕掛けがあったわけで…… なんと、私を餌にした女郎蜘蛛の捕獲大作戦だったのだ! いいように使われる私……やっぱ、つれぇわ…… 私に平穏が訪れる日はいつになるやら。 そんなこんなで今回も面倒な事に巻き込まれそうな予感……!
「ゴーストバスターズ! とか超絶ださすぎるですけど!」
「まぁまぁご主人様、機嫌を直して下さいまし。」
「留美子も用事でしばらく京都だし、ほんともう!
「どうどう……」
ゴーストバスター隊とかいうセンスの欠片も無い名前を羽間先輩に与えられ、こうして学校の寮へとやってきたわけだが……正直めんどくさい。
「で、ここが依頼された開かずの間ってわけ?」
「そのよう……ですね、間違いないです。」
「確かに中から気配を感じるけど、そんなにヤバそうなのとは思えないわね。」
その辺にいる浮遊霊に毛が生えたレベルと言ったところだろうか。 そこまで脅威性は感じないが、依頼されたのならばこなすしかない、なんと言っても10万円がかかっているのだ。
「ドアは普通に……開いてるわね。」
「おかしいですね、鍵をかけてないのに開かないと報告があったのですけど。」
ドアノブを回して扉を開くと、ソレと目が合ってしまった。
「……」
お下げ髪の眼鏡少女がベッドの上に座っていた。 足が半透明で、いかにも幽霊ですと自己主張しておりますよ。
「もしかして、私の事見えてます?」
「うん、ばっちりと。」
「……」
「……」
「お待ちしておりました!!」
急接近してきたかと思うと、私の両手を握りブンブンと上下に振る。 当然私の手をとれるわけがなく、一人で上下運動を繰り返している状態なのだが。
「ちかっ、近いからぁ!」
「ずっと待ってたんです! 私を成仏させてくれる人を!」
「成仏って……アンタ何したわけ?」
「実は……」
彼女は水野彩芽、帝都大学に通っていたが、成績不振に陥り自殺してしまったというのだ。 それで地縛霊となりこの部屋を占拠してしまったらしいが……
「それで、どうしたら成仏できるわけ?」
「それが、分からないんです。 そもそも、この部屋に縛られる程強い思いがあったわけでもないし。」
「うーん、ヒントは無しか…… これは厳しいわね。」
「ご主人様どうします?」
昔の事を知ってそうな人なら、やはりここの寮長のおばあさんを訪ねるべきか? それくらいしか思いつく相手はいないし。
「唯一の希望にすがってみるとしますか。」
―――
――
―
「水野彩芽? どこかで聞いた事があるねぇ。」
「なんでもいいんです、覚えている事があれば!」
「……確か10年くらい前だったかね、部屋の窓から飛び降りたって。」
「ほほぅ、10年前ですか。 それで?」
「それだけじゃ。」
「……ありがとうございます。」
ダメだこりゃ…… 全く役に立たないじゃないの!
部屋を出て私は頭を抱える。 これで完全に振り出しに戻ってしまった。
「何か思い出さないわけ、自分の事でしょ?」
「うーん、さっぱりですね。」
「一発どついてやろうか。」
私はハリセンを形成して構える。 こいつなら霊体へ打撃を与える事が出来る。
本能的に察したのか、首を横にブンブンと振って拒否している。
「なら少しは考えなさいよ、自分の事なんだから。」
「ごめんさいごめんなさい!」
「はぁ…… 菊梨、面倒になったらコイツ焼いちゃってね。」
「はい、お任せください!」
「ほんと止めて下さいってば!! あぁ、もしかしたら私の部屋に何かヒントがあるのかも!」
「確かに、あの部屋に縛られているならヒントは残ってるか…… ひとまず部屋に戻るわよ。」
とりあえず開かずの間へと戻って部屋を調べてみる。
「教科書とかは全部当時のままなのね。」
伊達に開かずの間なって呼ばれていたわけではなく、事件後の状態がそのままになっている感じである。
「ご主人様、これ見て下さい!」
「何か見つけたの!?」
「これです!」
そう言って持ってきたのは――
「誰が成人コミックなんて探してこいなんて言った!(スパーン!)」
「あぁ~ん/// だってベッドの下から出て来たんですもん……なかなかマニアックですし。」
「中身まで読んでるし、駄狐は……」
ほんと、もう少し真面目にやって欲しいものである。 この調子じゃ今日中に終わらないじゃないの……
その時、先程の寮長のおばあちゃんが部屋に入って来た。 お盆の上には美味しそうなメロンフロートが乗せられている。
「色々調べて疲れただろう、少し休みなさい。」
「ありがとうございます。」
根を詰めても仕方ないか、少し休んで頭を切り替えよう……
「いざ、いただき――」
メロンフロートを受け取ったその瞬間だった……私の身体は水野彩芽に奪われていた。
「いただきまぁす!」
「ご、ご主人様?」
物凄い勢いだった。 獲物に飛びつく獣のように荒々しく平らげる。
「そんなに美味いんかい?」
「はい! とっても!」
水野彩芽は目を輝かせながらメロンフロートを完食した。 それと同時に私の身体に自由が戻る。
「あれ、戻って……?」
「ご主人様、見て下さい。」
菊梨が指さす方向を見ると、光輝く水野彩芽の姿があった。
「あれ、もしかして私?」
「なんでメロンフロート食べて成仏するわけよ……」
「そうだ! 確かあの日はデザートがメロンフロートだから舞い上がっちゃって…… その勢いで窓から落ちちゃったんでした!!」
「コイツ…… 成仏する前に私が叩き潰してあげるわ!!」
「ご主人様落ち着いて!」
ハリセンを構えて暴れる私を、背後から羽交い絞めにして菊梨が止めに入る。
「ありがとうございます、これで成仏できそうです!」
「待ちなさい!! あと私のメロンフロート返してよー!」
消えゆく幽霊には、全く無駄な叫びであった……
―――
――
―
「羽間先輩、例の資金が準備できました……」
「よくやってくれた雪君、これで無事に彼女を雇えそうだ。」
「……もう二度とごめんですからね。」
「何を言っている、今後も暇があればゴーストバスター隊として働いてもらうからそのつもりでいろ。」
「……」
はぁ、そんな事だろうとは思っていましたよ。 やっぱ、ほんとつれぇわ……
「もうやだぁ……」
「まぁまぁ、明日はきっといい事がありますよ!」
「そんな慰めなんていらないわ…… どうせ私は不幸の星の元に生まれてきたのよ……」
「もう、元気だして下さいまし。 そうだ、この前のメイド喫茶いきましょ? ね?」
「うん、そうするぅ、癒してもらおう……」
「あぁでも…… 浮気だけは許しませんからね?」
「は、はい……」
―田舎のおばちゃん、今日も私は元気です―
―次回予告―
「レディースえーんどジェントルメン! 今宵は狐のマジックショー!」
「急に何を言い出したかと思えば……」
「はーい、このシルクハットから、狐が一匹……狐が二匹……」
「スヤァ……」
「ちょっとご主人様! 効果出るの早すぎじゃありません!?」
「Zzz……」
「もう…… 次回! 第十六話 店長(マスター)に秘められた思い。」
「イリュージョンを見逃すな……スヤァ。」
「イリュージョンというか、催眠術ですね……」