ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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教えて、よーこ先生!



「はーい、皆さんこんにちは! よーこ先生ですよ~!」


「今回も楽しく先生と一緒にお勉強しましょうね!」


「では、今回のお題はこれです!」



~東欧地方ってどんなとこ?~


「はーい、今回の話に関係ある内容ですね!」

「東欧地方は帝都領の北西に位置する地域で、ロシアを中心にして小さな集落が点在していますね。」

「ただ帝京歴774年の事件のせいでロシアが壊滅、今は復興作業中なのです。 一応公式発表では発電所が事故を起こして大惨事になったと公表されていますね。」

「まぁ、実際は何が起こったかは当事者にしか分からないでしょうけどね……」

「では今回はここまで、皆さんあでぃおす!」


第十六話 店長(マスター)に秘められた思い

帝京歴774年 帝都、東欧地方

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 謎の武装集団からの攻撃は苛烈を極めていた。 奴らはロシアへの最終防衛ラインを今にも突破しようとしていたのだ。 私は部下達に防衛を任せ、増援を要請するために連絡のつかない首都へと向かっていた。

 

 

「こんな、馬鹿な事が……」

 

 

 しかし、辿りついた私の目の前にはありえない光景が広がっていた。

 ――街のあちこちから火の手が上がり、道路には死体が転がっている。 皆守るべき市民達だ。

 

 

”ママ!”

 

 

 出撃前に軍の施設に置いて来た娘の顔が脳裏に浮かぶ。 ――私は車を再び走らせる。

 

 

「マリー……」

 

 

 娘はきっと大丈夫だ、そこまで攻め入られているはずがない。 そもそもまだ最終防衛ラインを突破されてはいないのに――そこで一つの答えが導き出される。

 

 

「軍の中に裏切り者がいるのか?」

 

 

 この状況ではそう考えざるおえない。 でなければ説明がつかないのだ。

 フェンスを突き破り基地内に侵入する。 中は戦闘中とは思えない程静かで、私は突撃銃のセーフティを外して慎重に中を進む。

 いくつの扉をこじ開けたか分からない、途中から数えるのも億劫になった。 中にはヒトは一人もおらず、死体すら見当たらず……

 

 

「ママ!」

 

「マリー!」

 

 

 最初に見つけたのは、自分の娘だった。 私は金のポニテを振り乱しながら娘の元へ駆け寄った。

 

 

「こわかったよぉ……」

 

「大丈夫、ママがついてるよ。」

 

 

 チッチッチッ……

 

 

「ママ、ママぁ……」

 

 

 チッチッチッ……

 

 

「マ――」

 

 

 ――娘の身体の中に埋め込まれた爆弾が爆発する。 気づいていても放す事など出来なかった。 娘一人逝かせるなら自分も、そう思っていた。 しかし結果は……

 

 

「アタシは、生きている。」

 

 

 娘の写真をテーブルに戻す。 あれから11年、帝都内部にあの事件の関係者がいると掴み、この地へとやって来た。

 

 

「待っていてくれマリー、仇は必ずとる。」

 

 

 顔と両腕の火傷後が……疼く。

 

 

―前回のあらすじ―

 サークル活動のための資金を稼ぐため、ゴーストバスター隊としての初仕事を終えた私達。 無事任務は達成できたわけだけど、本気でこの名前を採用する気なのかねぇ…… もう少しまともな名前に、というかこんな事でお金稼ぎするっていうのもどうなのよ! とりあえず売り子として優希が参加する事も決まったし、あとは開催日を待つだけね。

 

 

 

 

 

「ご主人様、朝ですよ~」

 

「ん、あと5分……」

 

「早く起きないとぉ、キス……しちゃいますよ?」

 

「はーい起きた! 起きた起きたよ!」

 

「ちっ……」

 

「今露骨に舌打ちしたよね! この淫乱狐!」

 

 

 ――我が家の朝は今日も騒がしい。

 

 

「今日の授業は午後からだから、お昼まで寝てる予定だったのにぃ~」

 

「健康的な生活を維持するのが大事なのです、これもご主人様の身体のためなんですよ。」

 

「あ~、ハイハイ……」

 

 

 菊梨の説教を右から左に聞き流しながら卵焼きを頬張る――今朝も飯が美味い。 しかし私の睡眠時間を奪う事は許せんな。 何かしら対策を講じるべきか?

 そんな事を考ええていると、いつの間にか菊梨の姿が見当たらない事に気づいた。

 

 

「あれ、菊梨? 菊梨ちゃんや~い?」

 

 

 返事がない、ただの無人のようだ。

 

 

「自由だぁぁああ!」

 

 

 ついガッツポーズをしてしまう。 食器を台所に片付け、そーれベッドにダーイブ!

 

 

「ダメです!」

 

 

 首根っこを掴まれる事によって、私のダイブは中断されてしまった。

 

 

「私は猫か!?」

 

「自堕落生活はさせませんよ!」

 

 

 私の身体を軽々と持ち上げる菊梨、やはり妖怪というのは馬鹿力のようだ。 というか――

 

 

「菊梨、何そのお腹。」

 

「へけっ。」

 

「照れで誤魔化すな! その異常に膨らんだお腹は何よ!」

 

「これはぁ、ご主人様との、愛の結晶です///」

 

 

 ――とりあえず目の前にあった枕を顔面に投げつけてやった。

 

 

「いったぁい、何するんですかもう!」

 

「そんなわけあるかぁ! そもそも女同士で子供なんて出来るわけないでしょ!」

 

「えっ、出来ますよ?」

 

「は?」

 

「だからぁ、(わたくし)ならご主人様相手でも子供作れますって。」

 

 

 つまりそれは、アレなのか? アレが生えてるのか!?

 

 

「いやぁ! 近づかないでケダモノぉ!」

 

「ご主人様、何か勘違いしてません?」

 

「金輪際、私の半径5mに近づかないで妊娠する!」

 

「……どんな反応ですか。 (わたくし)が言いたいのは、ご主人様のDNAさえあれば妖力と掛け合わせて子供を作れるという事です。」

 

 

 なんだ、フタナリってわけじゃないのか。 ――というか、サラりと恐ろしい事言ってね?

 

 

「じゃあ私の体液さえあれば……」

 

「うふふ……」

 

 

 妖しい微笑みを浮かべながら自らのお腹を擦る菊梨。

 

 

「うそだぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 おばちゃん、私の人生詰んだかもしれません。

 

 ――その時、ソレは顔を覗かせた。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「完全に騙された。 というかペット感覚で子供を拾ってくるな。」

 

「だってぇ、玄関の近くで困った顔でウロウロしてたんですもん、仕方ないですよね?」

 

 

 菊梨が隠していたのは6歳くらいの少女だった。 綺麗な金髪のセミロングに、緑色の瞳が印象的だ。

 

 

「それで、君の名前は? 迷子なの?」

 

「私はマリー、ママをさがしてるの。」

 

「マリーちゃん、可愛いお名前ですね。」

 

「水差さないの。 それで、お母さんのお名前は?」

 

「エレーナ・アレクセイ・トルスタヤ しょーさだよ!」

 

 

 やけになっがい名前、というか帝都出身ではなさそうな感じだ。

 

 

「ふむ、名前の感じからして東欧地方の出身なのではないでしょうか?」

 

「よく分かるわねぇ。 身近に東欧地方出身者の知り合いがいれば相談するんだけど。」

 

「何を言ってるんですご主人様、お一人いるじゃないですか。」

 

「あ……」

 

 

 ――メイド喫茶”ガーベラ”の店長だ。 あの雌ゴリラの顔が浮かんでしまう。 いや、美人ではあるんだろうけど、あの纏った雰囲気と筋肉のせいでどうしても雌ゴリラという名称がしっくりきてしまう。

 

 

「あの人に聞くわけ?」

 

「他に聞けそうな相手、いないですよね?」

 

「はい……」

 

 

 結局選択肢があるわけでもなく、私達は店長の元へ向かうしかないのだ。

 

 

「でも、この子大丈夫なのかねぇ。」

 

「うーん、泣きださない事を祈るばかりですね……」 

 

 

 何も知らないマリーは無邪気な笑顔を見せている。 私が優しく頭を撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細めた。

 

 

「かわいいなぁ……」

 

「子供、欲しくなりました?」

 

「本気で怒るよ?」

 

 

―――

 

――

 

 

 

「さて、覚悟はいいわね?」

 

「もちろんです。」

 

 

 私達は開店前のガーベラへとやってきた。 一応優希に中に入る方法を確認しているので大丈夫。 インターホンに指を乗せ、教えてもらった手順で鳴らす。

 

 --- ・-・--

 

 詳細は分からないが、きっとこれが暗号となっているのだろう。

 

 

「なんだい、出勤時間にはまだ――」

 

「ど、どうも……」

 

 

 雌ゴリラが飛び出した! 私は菊梨を繰り出した! 菊梨は怯えて行動出来ない!

 ――などとふざけている場合ではない。

 

 

「わざわざ暗号まで使って、何の用だって言うんだい?」

 

「え、えっとですね! お聞きしたい事があって参ったと言いますか……」

 

「はっきり言いな!」

 

「はひぃ!!」

 

 

 まじこえぇ、ほんと殺されるってこの雌ゴリラに!

 

 

「ママ!」

 

 

 ――それ以上に驚く出来事が起きた。 マリーがありえない言葉を口にして、店長に駆け寄ったのだ。 当の店長もありえないとう表情をしている、流石に勘違いするにも相手が……

 

 

「これは、何の冗談だい?」

 

「実はこの娘の母親探しをしてまして、その相談がしたかったわけで……」

 

「……」

 

 

 ――これは殺気だ。 冗談抜きの殺意を私達に向けてきている。 流石に菊梨も身構えるレベルの……

 

 

「どういうつもりだ、まさかお前達……」

 

「ママやめて!」

 

 

 マリーは店長にしがみついて必死に止めようとする。

 

 

「放せ! お前は、マリーはとっくに死んだんだ! 私の前に現れるはずがないんだよ!!」

 

「え?」

 

「……」

 

 

 その言葉を聞いて驚いたのは私だけだった。

 

 

「ママ、私言いたい事があってここに来たの! そのためにこの身体も貸してもらって!」

 

「な、何を……」

 

 

 身体を貸してもらって……? つまりあれは、とある少女の身体をマリーが借りている状態だったというのだろうか。 まるで、私のように……

 

 

「菊梨、あんた最初から知ってたんでしょ?」

 

「はい……」

 

 

 何故、私が気づけなかった? いつもならばすぐわかるのに……

 

 

「ママが辛そうだから、元気になってもらいたくて…… だから、だから!」

 

「あぁ、泣かないでおくれマリ―…… それでもアタシはお前の仇をとりたいんだ。」

 

「ママは優しいから、私の事を思ってくれてるんだよね? でもそんなママは見たくないよ。」

 

「っ……!」

 

「だからお願い、ママはママのままでいて。 それが私の、一番の願いだから……」

 

「マリー!」

 

 

 互いに涙を流しながら抱き合う親子に、私もつられて涙が流れる。

 

 

「ごめんよ、アタシは何も分かってなかったのかもしれない……」

 

「ママ、大好き……」

 

 

 私に母親の記憶はないけれど、きっと私にもあんな母親が……

 

 ――ザザッ

 

 何か、思い出せそうな……

 

 

”いきなさい”

 

 

「ご主人様?」

 

「ん、何?」

 

「……なんでもないです。」

 

 

―――

 

――

 

 

 

 マリーちゃんは母親への思いを伝え終わると、満足して成仏していった。 店長は複雑な顔だったけど、思い詰めた感じは薄まったような気がする。 なんというか、少し話やすい雰囲気になったという感じだ。

 そういえば、マリーちゃんが身体を借りていた少女は店長が面倒を見る事になった。 孤児らしく、他に行く宛も無かったらしい。

 

 

「収まる所に収まったって感じよね。」

 

「そうですね。」

 

「でもマリーちゃんを殺した奴ら許せないわね! さっさと捕まればいいのに。」

 

「――捕まえられませんよ。」

 

「え、何か言った?」

 

「……なんでもありません。」

 

 

 私の母親との記憶、なんで思い出せないだろう……

 

 

―田舎のおばちゃん、今日も私は元気です―




―次回予告―


「今回もお疲れ様ですご主人様!」

「いやぁ、今回ばかりはあの雌ゴリラに殺されると思ったわ!」

「親子の絆強し、ですよ! というわけで私(わたくし)達にも子供を……」

「誰がつくるかぁ!(スパーン)」

「あひん!///」

「次回、第十七話 私達、入れ替わってる!?」

「なんですと!」

「次回は、私も復帰する。」

「あ、留美子おひさ!」

「次回もお楽しみにして下さいね!」

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