ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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教えて、よーこ先生!


「はーい、皆さんこんにちは! よーこ先生ですよ~!」

「今回も楽しく先生と一緒にお勉強しましょうね!」


「では、今回のお題はこれです!」


~八咫烏ってどんな組織?~


「留美子ちゃんが所属している組織の事ですね。」

「京都にて発足された組織で、日常を脅かす妖怪や悪霊を退治する事を任務とした組織なのです!」

「非公開の組織ですが、国からは公務員として扱われているみたいですね。」

「退治のために色々な化学兵器を開発したりと、国からも結構な予算が下りているそうで……」

「まぁトップの人間が天皇なのでお金も当然動くって感じですかねぇ。」

「では今回はここまで、皆さんあでぃおす!」


第十七話 私達、入れ替わってる!?

 いつもと同じ朝、今日も平凡な一日が始まる。 私はベッドから起き上がりシーツをぶん投げる。

 ――ここで一つの違和感を感じる。 なんというか……身体が軽いのだ。 今だってベッドから起き上がる時に、勢い余って空中で一回転からの満点着地をしてしまうくらいだ。

 

 

「明らかにおかしい……ってぇ!?」

 

 

 そして二つ目の違和感に気づいてしまった。 明らかに自分のものではない声音。 しかもどこかで聞いた事のあるような……

 

 

「そもそも、ここ私の部屋じゃないし。」

 

 

 プラモもなければフィギュアも無い、最低限の家具だけ置かれた飾りっ気のない殺風景な部屋。 ――私はこの部屋に覚えがあった。 そしてこの声にも……

 現状確認のため、私は部屋に置いてある姿見鏡の前に立つ。

 

 

「……嘘でしょ?」

 

 

 そこに写された姿は、猿女 留美子 のものであった。

 

 

「もしかして……私達、入れ替わってる!?」

 

 

―前回のあらすじ―

 (わたくし)が拾ってきたマリーちゃん、実に愛らしかったのですがまさかあの店長さんの娘さんだったとは…… 髪と瞳の色くらいしか似ている箇所ありませんでしたよね? 実は店長さんにもあんな可愛い時期があったのでしょうか? ちょっと想像できませんね…… それとも父親似なんでしょうか? 今度店長さんに聞いてみましょうか。 しかし、ご主人様と私の子供が出来たとしたらどんな愛らしい子供が生まれてくるのでしょうか? ――これは今すぐ子作りに励まないといけませんね! って、ご主人様? どこに行ってしまわれたのですか!?

 

 

 

 

 

「今朝から様子がおかしいとは思いましたが、まさか中身が留美子ちゃんだったなんて……」

 

「肝心の私本体は行方不明かぁ、まずは留美子を見つける所からね。」

 

 

 留美子の身体のまま自分の家にやってきたが、なかなか信じてくれない菊梨を説得するのにかなりの時間をとられてしまった。 原因は分からずだが、とりえずは入れ替わってるであろう留美子と合流しようとしたわけだが……世の中うまくいかない。

 

 

「それでご主人様、どうするつもりなんです?」

 

「留美子なら入れ替わりの理由を知ってると思ったんだけどね。 しかし私の身体で一体どこに……」

 

「ま、まさか! ご主人様の身体を使ってあんな事やそんな事を……なんて羨ましい!」

 

「おーい、なんか想像がおかしい方向にいってません?」

 

「許せません、これは明らかな協定違反です!」

 

「何その協定って……」

 

「それは、ご主人様を独占しないようにするための協定です!」

 

「いつの間にそんな協定結んでたのよ……」

 

 

 おふざけ狐は放っておいて、真面目に留美子の居場所を考えてみる。 そもそも、私の身体である時点でそこまで遠くには行けないはずだ、私の身体スペックはそこまで高くない。 逆に言えば、留美子の身体をフル活用すれば追いつく事は容易である。

 では、次にどこに向かおうとしてるかだ。 もし身体を戻すために思い当たる場所があるならば、そこを目指すであろう。

 

 

「うーん……」

 

「ご主人様、霊力を探れば簡単に見つけられますよ。」

 

「何その気を探って探すみたいな某少年漫画みたいなノリ。」

 

「――まぁ似たようなものですよ。 (わたくし)にお任せ下さい!」

 

 

 菊梨は瞳を閉じると大きく深呼吸をする。 微動だにしない菊梨が面白いので、目の前で手を振ってみたりしたが、集中しているのか全く反応が無い。

 

 

「見つけました! 電車で帝都の北部に向かっているようです! ……なにしてるんです?」

 

「いやぁ、あまりに反応無いからついね?」

 

 

 マジックで顔に落書きしようとした直前で目を開かれてしまったため、悪戯の瞬間を見られてしまった……

 

 

「よ、よし! 早速追いかけるわよ!」

 

「……ご主人様?」

 

「早く来ないと置いてくよ!!」

 

 

 私は玄関から飛び出し大きく跳躍する。 ――背後から文句の声を上げながら菊梨がついてくる。

 

 

「……なんか忍者になった気分ね。」

 

 

 時代劇に出てくる忍者のように、屋根を伝いに跳躍を繰り返す。 明らかに普通の人間の性能を越えたポテンシャルだ。 日常生活を送るにはいささかオーバースペックすぎる。

 

 

「ご主人様、慣れてない身体なんですから気を付けて下さいまし!」

 

「わかってるって! いやっほう!」

 

「絶対分かってない……」

 

 

 しかし自身で体感して分かるが、留美子や菊梨はこのレベルの世界で戦っているわけだ。 一般人である自分には踏み込めない領域なのは間違いないのに、何故あの時は二人の動きがはっきり見えたのだろうか? 未だにあの時の現象は説明不可能である。

 仮にもし、私にもこんな力があれば……どうするんだろうなぁ。 あくまで私は平穏に暮らしたいだけで、出来る事なら関わり合いにはなりたくない。 それなのにいつも、妖怪や幽霊に絡まれて平穏とは程遠いではないか?

 

 

「明らかに最近多くなってるよね……」

 

 

 そうだ、菊梨と出会ってから明らかに回数が増えている。そして危ない目に合う事もある。 もしこれが偶然ではなくて何か作為的なものだとしたら…… そもそも、菊梨の現れた理由すら分からないのに……

 

 

「ご主人様、もうすぐ追いつきますよ。」

 

「……うん。」

 

 

 ――自分の中で、菊梨への疑念が再び生まれていた。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「見つけた!」

 

 

 自分の身体が路地を曲がるのが見える。 私と菊梨は慌ててその後を追う。 同じ路地を曲がると、そこは日通りの少ない、所謂裏通りという感じの道だった。

 

 

「なんでこんな場所に…… 菊梨、近くにはいるのよね?」

 

 

 ――返事が返ってこない。 不安になって後ろを振り向くと、そこには誰もいなかった。

 

 

「……ちょっと、冗談でしょ? 出てきなさいよ菊梨。」

 

 

 しかし一向に姿を現す気配ななく、人のいない裏路地に虚しく声だけが響くだけである。

 ――いや、確かに”人”はいない。

 

 

「留美子の身体だから察知出来るわけね。」

 

 

 数は――3,4つ、明らかに悪意を放った霊体がこちらに近づいてきている。 普段の私なら助けを呼ぶ所だが、今の私は留美子だ……余裕で対処出来るはず。

 私は身体の感覚に身を任せて霊銃(レイガン)を取り出し構える。 私が使い方を分からずとも、どうやら身体に染み込んでいるようだ。

 

 

「さっさとくたばりなさい!」

 

 

 ――躊躇なく引き金を引く。 撃ち出された霊力の弾丸は、真っ直ぐ悪霊へと飛んでいき――眉間にクリーンヒット。 素人が撃ったとは思えない腕前だ。

 私は霊銃(レイガン)をしまい、意識を集中させる。 きっと、私にも霊力を感じる事が出来るはずだ……

 

 

「……おかしいわね、霊力を一つだけしか感じない。」

 

 

 一般の人にだって微量な霊力は感じるし、菊梨の霊力も感じ取れないとなるといよいよおかしい。 それとも私が力を使いこなせていないだけなのか?

 そう悩みつつも、感じ取る事が出来た霊力に向かって走り出す。 ヒントはそこにしかないのだ、何があろうと向かうしかない。

 細い路地を、右、左――迷路のように入り組んでいる道進んで行く……

 

 

「やっと、追いついたわ!」

 

「あまてるちゃん。」

 

 

 私の声でそう答えるのは、間違いなく留美子だった。

 

 

「留美子、どうしてこんな場所に? それに菊梨はどこに行ったの?」

 

「彼女は神域(かむかい)の外、ここには入ってこれない。」

 

「なにそれ、ここって結界の中なわけ?」

 

 

 留美子はコクリと頷くと、壁を2回コンコンと叩いた。

 

 

「うわ、隠し扉。」

 

「ついてきて。」

 

 

 地下へと続く階段が現れ、そのまま進む留美子。 私にはついて行くという選択肢しかない。

 

 

「留美子、この先に進めば元に戻れるの?」

 

「帝都支部の施設なら可能。」

 

「なんだか怪しい響きだけど大丈夫なの?」

 

「私が所属している組織、だから問題ない。 ただ……」

 

「ただ……?」

 

「私は、アイツが嫌い。」

 

 

 私の顔で、心底嫌そうな表情をした。

 長い階段を進むと、やがて研究所のような場所に辿り着いた。

 

 

「やぁ、待っていたよ。」

 

「えっと、あの……!?」

 

 

 待っていたのは、私の予想を超えるような人物だった。

 安倍 晴明、知らない人は誰もいないであろう人物だ。 13代目天皇として君臨する権力者、まず私のような一般人が会って話をするような相手ではない。

 

 

「そう硬くならないでくれ。 私は彼女の組織トップでもあってね、こうして君達が来るのを待っていたんだ。」

 

「そ、そうだったんですね! いやぁ凄すぎて言葉もでませんよ!」

 

「……やるなら早く。」

 

「そうだったな、案内しよう。」

 

 

 部屋の中に入ると、よくわからないベッド型の機械が二台設置されており、大量のコードが繋がっていた。

 

 

「さあ、二人共そこに横になってくれ。 あとは私がやる。」

 

 

 ベッドに横になり、ゆっくりと目を閉じる。

 

 

「あまてるちゃん、ごめんなさい……」

 

 

 留美子が謝ったように聞こえたのは、私の空耳だったのだろうか……

 

 

―――

 

――

 

 

 

「天照様!」

 

「嫌ね、いつもみたいにあまてるちゃんって呼んでよ。」

 

 

 ――見覚えのない映像だ。 きっとこれは留美子の記憶なのだろう。

 

 

「774年 4月25日 7時40分、ご臨終です。」

 

「あまてるちゃん! いやぁぁあ!!」

 

 

 留美子と誰かの記憶、私ではない他の”あまてるちゃん”だ。 おそらくは、彼女が本来の……

 

 

「私は、一人で生きる、他には何もいらない。」

 

 

 痛いのが辛いから、そうやって自分の殻に閉じこもってたんだね……

 

 

「ほーれ、痛いの痛いの飛んでけ~!」

 

「私を守るんじゃないの? こんなとこで死ねないでしょ!」

 

 

 そっか、そうだったんだ。 あの時の私は必死だったけど、留美子には気持ちが届いていたんだね。

 二人の記憶が、思いが、心が交わって、溶けていく……

 

 

「大丈夫、私が傍にいるから、だからもう泣かないで……」

 

「あまてるちゃん、私は……」

 

「留美子には、私の記憶が見えたの?」

 

「……」

 

 

 彼女は答えない。 まぁ、留美子に比べたら大したものではないが。

 

 

「私も全部見えたわけじゃないけど、それでも留美子の事が色々分かった。」

 

「……うん。」

 

「どれだけ辛かったとか、何が嬉しかったとか、”あまてるちゃん”の事とかね。」

 

「バレ、ちゃったか……」

 

「びっくりしたよ、本当に私にそっくりでさ! 実は血が繋がってるんじゃないか疑いくらいね。」

 

「……」

 

「まぁ、そんな事無いのはわかるけどさ。」

 

「ごめんなさい……」

 

「なんで謝るのさ、私の事を頼ってくれてるって事でしょ?」

 

「……」

 

「私は代わりになれないかもだけど、貴女を支えるくらいは出来るよ。」

 

「うん……ありがとう……」

 

 

 少しづつ意識が遠のいていく…… どうやらお互いの身体に戻されるようだ。

 

 

「入れ替わって、良かったよ。」

 

「うん……」

 

「じゃあ、また明日ね!」

 

 

 留美子の表情は、最後まで暗いままだった。

 

 

―――

 

――

 

 

 

 いつもと同じ朝、今日も平凡な一日が始まる。 私はベッドから起き上がりシーツをぶん投げる。

 

 

「ふぁぁ、よく寝た。」

 

「昨夜はお楽しみでしたね///」

 

「ぎゃぁぁ! なんで同じベッドで寝てるのよ!」

 

 

 結局、入れ替わった理由は分からなかった。 あれに何か意味があったのかと言われても分からない。

 

「いやん、ご主人様のい・け・ず////」

 

「ダメだこいつ、早くなんとかしないと……」

 

 

 互いを知っても何か変わるわけじゃないと思う。 ただ、ただ少しだけ……

 

 

「よーし、今日も頑張るかー!」

 

 

 優しくなれるような気がした。

 

 

―田舎のおばちゃん、今日も私は元気です―




―次回予告―


「いいなぁ、いいなぁ、私(わたくし)もご主人様と身も心も一つになりたいです!」

「菊梨が言うと性的な意味にしか聞こえないんですけど!」

「私の方が、一歩リード。」

「むきぃ! 私(わたくし)負けませんからね!」

「いい加減私の身が持たないな……」

「次回は凄い人が出てくるそうですよご主人様!?」

「なん……だと……?」

「次回、第十八話 彼女が噂の敷島秋美!」

「正義の力が嵐を呼ぶぜ!」

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