ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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第一話 狐が嫁にやってきた!

「ご主人様、今までありがとうございました。」

 

 

 妖狐は前に立ち、両手を広げる。 その体は半透明で、今にも消えてしまいそうになっていた。

 

 

「この世界を守るためならこの命、惜しくはありません!」

 

「いや、そういう作品じゃねぇでしょ。」

 

「やっぱりダメです?」

 

「当たり前でしょうがぁ!(ハリセンアタック)」

 

 

―――

 

――

 

 

 

 ガイア2大都市の一つ、帝都。 多くの若者は、この地を目指す。 時代の最先端、あらゆる技術、娯楽が集う場所。

 

 

「雪、やっと来たか。」

 

「ごめんなさい先輩、ちょっと野暮用で。」

 

 

 田舎娘の私には、その全てが眩しくて……

 

 

「夏コミの新刊なんだが――」

 

 

 でも、夢を叶えるためにはこの大都会に進出するのが近道であるわけで。

 

 

「もうショタ本は勘弁してくださいよ! あのコス恥ずかしかったんですから!」

 

「結構人気だったじゃないか~」

 

「あれ、今日は留美子(るみこ)大久保(おおくぼ)先輩も来てないんですか?」

 

「二人共、休みのようだな。」

 

 

 実際、慣れぬ地でテンションが上がっているのも確かで。

 

 

「なるほど、あの留美子がねぇ。」

 

「いつもお前についてるものな、金魚の糞みたいに。」

 

 

 ただただ、この平穏が続いてくれたら嬉しいなぁと思うわけです。

 

 

「またそんな表現…… ん、ごめんなさい、おばちゃんから電話が。」

 

「うむ。」

 

 

 しかし、現実は甘くないわけで――

 

 

「えっ? 荷物? 今日届くって勘弁してよ!」

 

「うん、トラブったか?」

 

「なんかおばちゃんが荷物送ったらしくて、ごめんなさい打ち合わせは今度で!」

 

 

 私が望もうと望むまいと、トラブルはやってくるのだ。

 

 

「まったく、あまり時間がないんだからな!」

 

「ごめんなさーい!」

 

 

 私は坂本(さかもと) (ゆき)。 平和を愛する花の大学生だ。 成績ノーマル、運動神経程々、まさにモブキャラの鏡!

 そんな私でも夢がある。 漫画家になるという、わりとよくある夢だ。 そのために大学のサークル活動で同人誌を書いてたりする。

 

 

「ふぅ、ギリギリ乗れた……」

 

 

 なんとか電車に滑り込むように乗り込む。 これを逃すと、2本分待たなければならない所だった。

 

 まぁそういうわけで、普通が希望の私なのですが……そんな私に神様は一つの悪戯をしました。

 それは日常生活を送るには全く必要の無い力で、むしろトラブルを作ってしまう原因でもある。

 

 電車内に嫌な音が響く――肉を踏み潰したかのような音だ。 しかし、乗客の誰も反応していない。

何故なら、この音は私にしか聞こえていないのだから……

 

 

「はぁ……」

 

 

 ――私は額の汗を拭う。 無意識に、私の視線は窓へと向いていた。

 

 

そう、私に与えられた能力は――

 

 

”お憑がれざまでじだぁぁぁ!”

 

 

 そこには――滅茶苦茶に潰れた顔があった。

 

 

 ――霊や妖怪が見えてしまうというものだったのだ。 しかも、とり憑かれやすいというボーナス効果つきの……

 

 

―――

 

――

 

 

 

”お憑がれざまでじだぁぁぁ!”

 

 

「コイツ、まだついて来てるし。」

 

 

 やっと秋奈町の自宅まで戻ってきた。 背中に面倒なのを背負ったままだが。

 

 

「ふっ、だが貴様もここまでなのだよ!」

 

 

 私は勢いよく玄関の扉を開き、中に駆け込む――それと同時に肩が軽くなるを感じた。

 

 

「肩が重く感じるなら胸の重さがいいわ。」

 

 

 さすがおばちゃん印の神域(かむかい)――こいつは強力すぎる! 神域とは、まぁ言うなれば結界のような物である。 霊や妖怪はこの中に入る事は出来ず、私に敵意を持っているならば強制退出となるわけだ。

 この家はおばちゃんが用意してくれたもので、家具も全て揃って家賃もタダ! 貧乏学生には大変助かる理想のマイホームなのだ。

 私は扉に備え付けのポストに不在票が無いのを確認し、玄関に鞄を投げ捨てて座り込む。

 

 

「ふぅ、なんとか間に合ったか。」

 

 

 ほんとおばちゃんには困ったものだ。 こういう事は事前に連絡して欲しいのだが――私にだって色々予定があるわけで、そろそろ夏のコミマに向けた打ち合わせだってしなきゃいけない。 こう見えても色々と忙しいのだ――そういうお年頃だしね!

 あぁでも、私には恋人はいない――正確に言うと邪魔になるので作っていない。 勘違いされたくないのでもう一度言おう、作れないのではなくて作らないのだ!!

 

 

「まだ来ないのかなぁ~」

 

 

 電話で聞いた話では、指定した時刻を30分は過ぎているが業者が来る気配はない。 トラックの音も聞こえてこないし、人の気配も……

 

 

「こんにちわ、コンコン急便です。」

 

「はーい!」

 

 

 ――玄関を開けると、青い制服のお兄さんが荷物を持って立っていた。

 

 

「ハンコお願いします。」

 

「えっと、サインで~」

 

 

 私は伝票にサインして荷物を受け取る。 しかし――ナニコレ、玉手箱? 無駄に漆塗りっぽい綺麗な箱。 それに何か掘ってある――菊? なんでこんな箱で荷物送ってきたんだろ? というか伝票張ってないよねこれ。

 

 

「ちょっとすみま、あれ?」

 

 

 荷物を返そうと顔を上げると、宅配のお兄さんはもういなくなっていた。

 

 

「私への荷物よね?」

 

 

 ――なんだか非常に嫌な予感がした。 開けたらこう、何か取返しのつかない事が起きそうな予感――そう、人生全てが変わりそうな感じだ。

 そんな事ありえないはずなのだが、私の直感は警鐘を鳴らしている。

 

 

「ええい、ままよ!」

 

 

 私は、蓋に手をかけて勢いよく開け放った。 それと同時に、急に中から大量の煙が湧き出て視界を奪う。

 ちょっと、私まだおばあさんになりたくないよ!? やはりこれは玉手箱だったのか!

 絶望に苛まれ、私は頭を抱える。 明日からの大学どうしよう――ふと、そんなどうでもいい事が頭をよぎった。

 

 

「旦那様!」

 

 

 凛とした女性の声が響く。 一体今度は何が……

 徐々に晴れていく霧――開けた視界の先に、その声の主を捉える事が出来た。

 

 

(わたくし)、貴方様の嫁となるために参りました菊梨(きくり)と申します。

 不束者ですが、どうか宜しくお願い致します。」

 

 

 そこにいたのは、狐耳と尾を持った、全裸の変態露出狂だった。

 

 

―田舎のおばちゃん、今日も私は元気です―




―次回予告ー

「さてさて、ついに始まっちゃったわよこの問題作!」

「ついに私(わたくし)達の愛の物語が語られていくのですね!」

「そんな事はないっす。」

「え? これ百合小説だって聞いたんですけど?」

「私はギャグ小説って聞いたんだけど?」

『どっちなのよ!(どっちなんです!)』

「次回、第二話 もしもしポリスメン!」

「ちがーう!(ハリセンアタック) 次回! 第二話 命短し恋せよ乙女。」

「ところで、ご主人様のそのハリセンってなんです?」

「それは後々分かるわ。」

「なるほど、では皆さま、次回をお楽しみに!」

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