「ご主人様、今までありがとうございました。」
妖狐は前に立ち、両手を広げる。 その体は半透明で、今にも消えてしまいそうになっていた。
「この世界を守るためならこの命、惜しくはありません!」
「いや、そういう作品じゃねぇでしょ。」
「やっぱりダメです?」
「当たり前でしょうがぁ!(ハリセンアタック)」
―――
――
―
ガイア2大都市の一つ、帝都。 多くの若者は、この地を目指す。 時代の最先端、あらゆる技術、娯楽が集う場所。
「雪、やっと来たか。」
「ごめんなさい先輩、ちょっと野暮用で。」
田舎娘の私には、その全てが眩しくて……
「夏コミの新刊なんだが――」
でも、夢を叶えるためにはこの大都会に進出するのが近道であるわけで。
「もうショタ本は勘弁してくださいよ! あのコス恥ずかしかったんですから!」
「結構人気だったじゃないか~」
「あれ、今日は
「二人共、休みのようだな。」
実際、慣れぬ地でテンションが上がっているのも確かで。
「なるほど、あの留美子がねぇ。」
「いつもお前についてるものな、金魚の糞みたいに。」
ただただ、この平穏が続いてくれたら嬉しいなぁと思うわけです。
「またそんな表現…… ん、ごめんなさい、おばちゃんから電話が。」
「うむ。」
しかし、現実は甘くないわけで――
「えっ? 荷物? 今日届くって勘弁してよ!」
「うん、トラブったか?」
「なんかおばちゃんが荷物送ったらしくて、ごめんなさい打ち合わせは今度で!」
私が望もうと望むまいと、トラブルはやってくるのだ。
「まったく、あまり時間がないんだからな!」
「ごめんなさーい!」
私は
そんな私でも夢がある。 漫画家になるという、わりとよくある夢だ。 そのために大学のサークル活動で同人誌を書いてたりする。
「ふぅ、ギリギリ乗れた……」
なんとか電車に滑り込むように乗り込む。 これを逃すと、2本分待たなければならない所だった。
まぁそういうわけで、普通が希望の私なのですが……そんな私に神様は一つの悪戯をしました。
それは日常生活を送るには全く必要の無い力で、むしろトラブルを作ってしまう原因でもある。
電車内に嫌な音が響く――肉を踏み潰したかのような音だ。 しかし、乗客の誰も反応していない。
何故なら、この音は私にしか聞こえていないのだから……
「はぁ……」
――私は額の汗を拭う。 無意識に、私の視線は窓へと向いていた。
そう、私に与えられた能力は――
”お憑がれざまでじだぁぁぁ!”
そこには――滅茶苦茶に潰れた顔があった。
――霊や妖怪が見えてしまうというものだったのだ。 しかも、とり憑かれやすいというボーナス効果つきの……
―――
――
―
”お憑がれざまでじだぁぁぁ!”
「コイツ、まだついて来てるし。」
やっと秋奈町の自宅まで戻ってきた。 背中に面倒なのを背負ったままだが。
「ふっ、だが貴様もここまでなのだよ!」
私は勢いよく玄関の扉を開き、中に駆け込む――それと同時に肩が軽くなるを感じた。
「肩が重く感じるなら胸の重さがいいわ。」
さすがおばちゃん印の
この家はおばちゃんが用意してくれたもので、家具も全て揃って家賃もタダ! 貧乏学生には大変助かる理想のマイホームなのだ。
私は扉に備え付けのポストに不在票が無いのを確認し、玄関に鞄を投げ捨てて座り込む。
「ふぅ、なんとか間に合ったか。」
ほんとおばちゃんには困ったものだ。 こういう事は事前に連絡して欲しいのだが――私にだって色々予定があるわけで、そろそろ夏のコミマに向けた打ち合わせだってしなきゃいけない。 こう見えても色々と忙しいのだ――そういうお年頃だしね!
あぁでも、私には恋人はいない――正確に言うと邪魔になるので作っていない。 勘違いされたくないのでもう一度言おう、作れないのではなくて作らないのだ!!
「まだ来ないのかなぁ~」
電話で聞いた話では、指定した時刻を30分は過ぎているが業者が来る気配はない。 トラックの音も聞こえてこないし、人の気配も……
「こんにちわ、コンコン急便です。」
「はーい!」
――玄関を開けると、青い制服のお兄さんが荷物を持って立っていた。
「ハンコお願いします。」
「えっと、サインで~」
私は伝票にサインして荷物を受け取る。 しかし――ナニコレ、玉手箱? 無駄に漆塗りっぽい綺麗な箱。 それに何か掘ってある――菊? なんでこんな箱で荷物送ってきたんだろ? というか伝票張ってないよねこれ。
「ちょっとすみま、あれ?」
荷物を返そうと顔を上げると、宅配のお兄さんはもういなくなっていた。
「私への荷物よね?」
――なんだか非常に嫌な予感がした。 開けたらこう、何か取返しのつかない事が起きそうな予感――そう、人生全てが変わりそうな感じだ。
そんな事ありえないはずなのだが、私の直感は警鐘を鳴らしている。
「ええい、ままよ!」
私は、蓋に手をかけて勢いよく開け放った。 それと同時に、急に中から大量の煙が湧き出て視界を奪う。
ちょっと、私まだおばあさんになりたくないよ!? やはりこれは玉手箱だったのか!
絶望に苛まれ、私は頭を抱える。 明日からの大学どうしよう――ふと、そんなどうでもいい事が頭をよぎった。
「旦那様!」
凛とした女性の声が響く。 一体今度は何が……
徐々に晴れていく霧――開けた視界の先に、その声の主を捉える事が出来た。
「
不束者ですが、どうか宜しくお願い致します。」
そこにいたのは、狐耳と尾を持った、全裸の変態露出狂だった。
―田舎のおばちゃん、今日も私は元気です―
―次回予告ー
「さてさて、ついに始まっちゃったわよこの問題作!」
「ついに私(わたくし)達の愛の物語が語られていくのですね!」
「そんな事はないっす。」
「え? これ百合小説だって聞いたんですけど?」
「私はギャグ小説って聞いたんだけど?」
『どっちなのよ!(どっちなんです!)』
「次回、第二話 もしもしポリスメン!」
「ちがーう!(ハリセンアタック) 次回! 第二話 命短し恋せよ乙女。」
「ところで、ご主人様のそのハリセンってなんです?」
「それは後々分かるわ。」
「なるほど、では皆さま、次回をお楽しみに!」