「はーい、皆さんこんにちは! よーこ先生ですよ~!」
「今回は、助手を連れて参りました!」
「助手のルーミーです、宜しく。」
「はい、不愛想ですけどいい子なので皆仲良くしてあげてね!」
「一言多い。」
「コホン…… では、今回のお題はこれです!」
~神域(かむかい)ってなぁに?~
「久々の専門用語の説明ですね! ではルーミーちゃんお願いします!」
「神域(かむかい)とは結界の事を指し、術者が妖怪や悪霊から身を守るために使われる。 規模の大きさは術者の霊力に比例し、強力な物になると気配や存在を隠す事すら出来ると言われている。 更に近年では化学の発達により、人工的に神域(かむかい)を発生させる装置が発明され、これは勾珠(まがたま)と呼ばれ組織の人間に愛用されている」
「な、長い説明ありがとうございます。 勾珠と同じようなもので、術者が自らの霊力を込めて作る水晶なんかも存在するんですよ! これはご主人様の家にも置いてあるもので、その力で家に神域(かむかい)を展開しているわけですね!」
「あまてるちゃんは色々と引きつけやすい体質だから、そうしないと危険。」
「まぁ、何かあれば私(わたくし)達二人が守るんですけどね!」
「もちろん。」
「では今回はここまで、皆さんあでぃおす!」
「またね。」
「当日の予定はこんなものね。」
「羽間先輩、流石にハード過ぎません?」
私達さぶかるのメンバー(優希さんは予定があって欠席)はカフェ黒猫にてコミマの作戦会議を行っていた。 このカフェは羽間先輩の行き着けの店だそうで、わざわざ店の一角を貸し切りにしてくれている。 店長の田辺さん、あざっす!
「効率よく多くのサークルを回るにはこれが最善の動きなのだ。」
「売り子の菊梨と優希が動かないのは仕方ないですけど、なんで大久保先輩まで待機なんですか?」
「なんだ雪! お前は葵にも働けと言っているのか!?」
「いや、あの、そういうわけじゃ……」
「私が島を網羅するから、大丈夫。」
確かに留美子のスペックなら可能な気がする…… この前実際に体験したし。
「雪がコスプレゾーンに行きたいのも分かってはいるが、先に回収だけは済ませたいのでな。」
「そもそも、回るとこほとんどが羽間先輩の目当てじゃん……」
「何か言ったか?」
「はい! 何も言ってません! 喜んで回らせて頂きます!」
歯向かったら後でどんな目に合うか・・・ 想像したくない。
「そういえば、二人にはどんなコスプレをしてもらうんです?」
「うふふ、それはですね・・・」
待ってましたとばかりに目を輝かせる大久保先輩。 話振るの待ってたのね……
「今回の雪ちゃんの作品、お狐物語の主人公とヒロインをやってもらう予定ですの。」
「
うん、知ってたよ…… 去年も私の作品のキャラだったもんねぇ。 それでも話を振らないと大久保先輩がヘソ曲げて、私が羽間先輩に説教食らうからね。
「あぁ、二人なら似合うんじゃないかなぁ。」
「雪ちゃんはどうしますの?」
「私は今回はスルーかな、コスプレゾーンで知り合い達には話聞く予定ですけど。」
「うーん、残念です。」
まぁ内心やりたい所なんだけど……
「楽しみですねご主人様!」
「そうね。」
こういうハイレベルの横では恥ずかしくて出来ねぇぇぇ!!
「一応前日にホテルを手配してあるから、当日は即会場入り可能だ。」
「流石羽間先輩、準備がいいですね!」
「あら、楽しそうなお話をしてるわね?」
「え……?」
その乱入者は突然現れた。 綺麗な茶色の髪を腰まで伸ばし、赤みのかかった紫色の瞳、大人の色気を出す香りと着物姿……
私はこの人を知っている。 そう、ずっと憧れていた……
「
―前回のあらすじ―
朝、目が覚めると私は雪になっていた。 とりあえず体の隅々まで観察し、色々な実験もした。 狐の邪魔が入ったので、施設の自室でゆっくりと実験の続きをしようと思ったのに…… アイツが余計な事をしてくれたおかげで元の身体に戻る事になってしまった。 正直、非常に遺憾である。 まだまだ試したい事がぎっしりだった。 でも、私が見たあまてるちゃんの記憶、あれは……
「ねぇ菊梨、私の頬抓って。」
「えーい(はーと)」
「うん、全然痛くない。 でも夢じゃないのよね。」
憧れの敷島秋美先生に会えただけでなく、まさかお家に招待してもらえるとは! 嬉しすぎて憤死しそうなんですが。
「あまてるちゃん、顔緩んでる。」
「可愛いです!」
「人の顔をジロジロ見ないでよ!」
「あらあら、3人共仲が良いのね。」
私達のやり取りを見てクスクスと秋美先生が笑う。 なんだかとても恥ずかしい……
「うぅ…… それにしても、本当に凄い家ですね。」
秋奈町には珍しい京都式のお家だ。 瓦屋根の家なんてまず見る事はないわけで、これだけ目立つなら家の場所もバレやすいのではと思う。
でも実際、私はこの場所を知らなかったし、テレビで放映された事もない。
「珍しいでしょ? 知り合いに頼んで建ててもらったの。」
「そうなんですか。 良い趣味ですね。」
木造の門を潜った時に違和感を感じる。 これは自分の家の中に入る時と同じ感覚だ。 菊梨も留美子も気づいているようだった。
「ひっそりと暮らしたかったからね。 そういう意味では凄く助かってるわ。」
なるほど、
そのまま私達は先生のアトリエに案内される。 アトリエと言ってもデジタルで描く今の時代ではパソコンが置いてあるだけだが。 壁には多くのイラストが額縁に入れられて飾られている。
床は当然畳で、パソコンの前には可愛い花柄模様の座布団が置かれている。
「これはっ! 氷冬ちゃんの浴衣verのイラストじゃない!!」
ヤバイ、原画だよ! 生原画だよ!!
鼻息荒く額縁の前に急接近し、そのイラストの酔いしれる。
「ご、ご主人様?」
「今日のあまてるちゃん、ハイテンション。」
「こっちは灯火ちゃん! 嵐春もある!!」
「本当に好きなんですね、この子達が。」
ここが天国か、生きてて良かった……
頬擦りしたい衝動を抑えるので精一杯になっている。
「すみません、他にも色々見て回っていいですか!?」
「どうぞどうぞ、好きに見て回って下さいな。」
「よし、行くわよ菊梨!」
「ちょっと、ご主人様!」
菊梨は私の隣まで来ると、そっと耳元に近づいて囁く。
「留美子ちゃんが家の中で妖怪の気配を感じて先行しちゃったんですよ。」
「うっそ、なんで結界内に妖怪がいるのよ。」
「
「そうね、少し心配だわ。」
―――
――
―
「留美子!」
「あまてるちゃん、遅かったね。」
「もう、一人で勝手に行かないでよ!」
留美子が立っていたのは子供部屋のようだった。 色々な玩具が詰まった箱、何体か飾ってある人形…… しかし、長い間使われていないような感じではあった。
「見て。」
留美子が指差した先を見ると……小さな女の子が座っていた。 赤い小袖のおかっぱ頭――間違いでなければ、きっと座敷童だ。
「……初めて見たかも。」
「
座敷童は何をするでもなく、正座のままずっとこっちを見ている。
「幸運のお裾分け貰えないかな?」
「欲丸出し、みっともない。」
「そ、そんな風に言わなくても……」
「……ご主人様危ない!」
菊梨が私を庇うように上から覆い被さる。 それと同時に背後で風を切るような音が聞こえた。
「お前達、人の家で何してるわけ!?」
制服を身に纏った少女が部屋に乱入してきたのだ。 どうやら今のはこの少女の蹴りだったらしいが、普通そんな威力の蹴りを出せるものなのか?
「わ、私達は秋美先生に招待されて……」
「問答無用! お母さんも椿も私が守る!」
少女は拳を突き出すが留美子がその攻撃をカードする。 互いに同じ色の銀髪が揺れる。
少女は赤い瞳を細めると、不敵な笑みを浮かべた。
「私の拳を止める奴なんて初めて。 ……少しは楽しめそうね!」
「雌ゴリラ。」
「誰がゴリラですって!」
少女は肉体に似合わない破壊力の拳を連続で繰り出してくる。 しかし、留美子は手慣れたように全ての攻撃を受け流す。
「所詮は素人、私の敵じゃない。」
「ほんっと……むかつく!!」
勢いのある回し蹴り……しかし、チャンスとばかりに軸足を狙った留美子の攻撃が決まる。
「きゃぁ!」
少女はそのままバランスを崩して、畳の上に倒れ込んでしまった。 その姿を留美子が見下ろすという構図が不幸にも完成してしまう。
「これで終わり。」
「くっそ……」
その時だった。 突然座敷童が立ち上がり、少女を庇うよう両手を広げて留美子の前に立ちはだかったのだ。
「椿ちゃん、危ないから下がって……」
「……見えてる?」
「見えてるって、何当たり前の事言ってるわけ?」
「留美子、多分その子知らないのよ。」
私は少女の前に立ち、手を差し伸べる。 最初は睨んできたが、半ばやけくそのように私の手をとってくれた。
少女の名前は秋子、秋美先生の娘らしい。 彼女と座敷童の椿ちゃんは幼い頃から一緒に育ったらしい。 母親にも普通に見えていたらしく、妖怪という認識が全く無かったらしい。 むしろその状況の方が恐ろしい話だが……
「君、うちの組織に入らない?」
「アンタは何勧誘してるのよ。(スパーン!)」
いきなり勧誘を始める留美子にハリセンの一撃をお見舞いする。
「彼女はかなりの逸材、磨けば光る原石。」
「だからってねぇ。 未成年の女の子には酷でしょうが。」
「訓練生として、仮入部。」
「学校の部活動みたいなノリで言わないの!」
「お前ら面白いな!」
秋子はお腹を抱えながら爆笑している。 ……そこまで笑う要素はあっただろうか?
「でも座敷童とお友達って、凄いお話ですね。」
「そうなの? 椿は友達のいない私とずっと一緒にいてくれたから……」
「そうですか……」
異能故の孤立か…… 私にも他人事じゃない話ではある。 実際に中学、高校と私の力については隠してきた。 おばちゃんがそうした方がいいと言っていたからだ。 人間は自分とは違うモノに恐怖を抱くものだと。 もしかしたら、私も彼女のような人生を歩む事があったのかもしれない。
「ともかく、お前らが悪い奴じゃなくて良かったよ。 椿もまた遊びに来て欲しいって言ってるし。」
「ほんと? また来てもいいの!?」
「ご主人様の場合、目的は別なんじゃないです?」
「そんな事ないですしー! ねぇ留美子?」
「のーこめんと。」
「この裏切り者め!」
妖怪と人間の絆……これもまたありえる物なのよね。 ねぇ、菊梨……信じてもいいよね?
―田舎のおばちゃん、今日も私は元気です―
「貴方の珈琲、いつ飲んでも美味しいわね。」
「そりゃあいつでも変わらぬ味を目指してるからな。」
「ほんと、何年立っても変わらない……」
「そういえば、秋子ちゃんは元気にしてるのか?」
「うん、学校ではうまくいってないみたいだけど。」
「そうか……」
「そういえば和樹、あの元気な団体様は?」
「あぁ、常連さんの連れだそうだ。 なんでもコミマの打ち合わせだとか。」
「へぇ……面白い娘達ね。」
「なんだ、気になるのか?」
「あの娘達なら、娘の友達になれそうね。」
「ん……?」
「さてと、ちょっかいかけに行ってくるわね。」
「おう、行ってこい!」
そう言ってペンネーム、敷島秋美――本名、
―次回予告―
「今回もまた新キャラが登場して来ましたね!」
「彼女の事は、既に知ってる人もいる。」
「そうなのですか留美子ちゃん!?」
「彼女の活躍は、Firstlineで是非。」
「cmも兼ねてという流れですね。 そういえば、ご主人様さっきから黙ってますけど?」
「……」
「ご主人様、どうかしました?」
「次回、第十九話 夜空に咲き乱れる花。」
「菊梨、貴女の本当を私に教えて……」