「はーい、皆さんこんにちは! よーこ先生ですよ~!」
「ルーミーです。」
「今回も二人で皆さんの疑問に答えていきますね!」
「任せて。」
「では、今回のお題はこれです!」
~敷島 秋美って何者?~
「前回出て来た謎の女性ですね! 彼女は一体何者なのでしょうか!?」
「本名は羽川(はねかわ) 翔子(しょうこ)、今ブレイク中のイラストレーター。 人気の始まりは、”式神伝”というゲームのキャラデザを担当したから。 その時に世間の目に触れて人気が爆発した。」
「それそれ、私にも見せて下さい…… おぉこれは、なんと愛らしいキャラ達なんでしょうか!? まぁ、私(わたくし)には負けますけど。」
「……」
「ルーミーさん、その物騒なモノを下げて頂けます?」
「彼女はあまてるちゃんの目標でもあり、憧れの先生でもあるのだ。」
「だから銃を向けたまま説明するのはやめましょ?」
「ちなみにあまてるちゃんのお気に入りキャラは”氷冬”」
「全く聞く耳を持ちませんね…… まぁ、察しの良い方は彼女の事は知っているのではないでしょうか?」
「firstlineも宜しく。」
「言っちゃいましたよ…… では今回はここまで、皆さんあでぃおす!」
「またね。」
『嘘つき!』
「違うっ、私は!」
何か見覚えのある教室で、小さな私は黒い影達に囲まれていた。 奴らは私を指差して、嘘つきと言い続ける。
「嫌ぁ!」
『嘘つき! 化け物!』
違うっ、私は嘘つきでも化け物でもない! 普通の人間だよ!
心の中で叫んでも、その言葉は口から紡がれる事はない。 この地獄絵図から抜け出す事は出来ずに、私は一方的に責められ続けるのだ。
「だれか、たすけて……」
涙を流しながら手を伸ばす私、当然誰も助けてはくれない。 きっとこの世界に、味方は誰もいないのだろう。 自分の事のはずなのに、何か他人事めいた感覚……
「おいでよ、こっちに。」
「え?」
黒い影達の声ではない。 輪の外で佇む一つの白い影、それが声の主だった。
「君はこちら側なんだ、だからおいでよ。」
「……何言ってるの?」
「君は僕達と同じ――人ならざる者なんだからさぁ!」
「嫌ぁぁぁ!!!」
――叫び声を上げながらベッドから飛び起きる。 ここが自分の部屋だという事を認識し、さっきまでの出来事は夢だと気づく。 全身汗びっしょりで、寝間着が汗を吸って湿っている。
「はぁ……はぁ……」
深呼吸をしてなんとか息を整える。 額の汗を拭ってゆっくりとベッドから立ち上がる。 ――いつも横で寝ている菊梨の姿が見当たらない。
私はフラフラと歩きながら着替えとタオルを取りに向かう。
「もうこんな時期か……」
私は昔から周期的にこんな状態になる事がある。 おばちゃん曰く、私の霊力が不安定になる時期なのだそうだ。 こういう時は自身に霊を呼び寄せやすくなってしまい、非常に危険な状態だ。 家の結界は機能しているようだが、後でおばちゃんに連絡してみた方がいいだろう。 あんな夢を見るからには、何かあるのかもしれない。
私は着替えを済ませると再びベッドに横になる。 ふと、窓の外を眺めると――月を眺める菊梨の姿があった。 その姿は美しく、まるでこの世の者とは思えないほどであった。
「まぁ、人間じゃないもんね。」
”君は僕達と同じ――人ならざる者なんだからさぁ!”
「ちがう……私は人間よ。」
結局、私は眠る事は出来なかった。
―前回のあらすじ―
カフェ黒猫にて夏のコミマの打ち合わせをしていた私達だったけど、そこに現れたのはなんと! 私の憧れである敷島秋美先生だった! しかもお家にお呼ばれなんてされちゃって、もういつ死んでもいいです! しかし先生の娘さんは中々の脳筋さんで、勘違いで私達に襲い掛かってきた! なんとか誤解は解けて仲直り、此度も一件落着ってね。 しかし、先生が私と同じ妖怪が視える体質だったなんてびっくり、家に
「あまてるちゃん、凄い顔。」
「あぁ、昨日眠れなくてね……」
私は机に突っ伏して留美子と話していた。 当然の如く目の下にはくっきりとクマが出来てしまっている。
「何かあった?」
「いやぁ、いつものだから大丈夫だって。」
「生理。」
「違うわっ! 留美子も知ってるでしょ!?」
「冗談。」
真顔で言われると冗談のように聞こえないんですけど……
「しかし結界が弱まってる気がするし、どうするべきかねぇ。」
「……私が、見てみる。」
「ほんとに? 助かるわぁ。 菊梨にお願いしようと思ったんだけど、朝から出かけちゃったのよね。」
「……そう。」
留美子は何か考え込んでいるようだったが、今の私はそこまで気を配る余裕はなかった。
「おーい、お二人さん。」
「あれ、先輩?」
羽間先輩と大久保先輩が教室の中へと入って来た。 私は起き上がりもせずにそのまま手を振った。
「おいおい雪、何を死にそうな顔をしてるんだ。」
「大丈夫ですの?」
「だ、大丈夫ですよ! ただの寝不足ですので!」
元気を装うが、こんな顔では説得力は皆無であろう。 しかし、二人は何をしに来たのだろうか?
「今日開催の花火大会にお誘いに来たのですが、その体調では難しそうですわね。」
「――なんですと。」
「本当は二人で行くつもりだったんだがな、まぁ雪はゆっくり休んで――」
「い、行きますとも。 行かせていただきます。」
「いや、無理しなくてもいんだぞ?」
実を言うと、私は根っからのお祭り好きなのだ。 そんな楽しいイベントがあるのに参加しないわけにはいかない!
「留美子、さっきの件をさくっと片づけてお祭りよ!」
「……うん。」
留美子は少し困ったような表情を見せたが、すぐにいつもの顔に戻り頷いた。
―――
――
―
「菊梨? まだ戻ってないの?」
家に帰ってきたのだが、まだ菊梨が戻った様子はなかった。 集合時間まであと2時間くらいしかないし、このままでは菊梨を連れていけないな……
「あまてるちゃん、勾珠はどこ?」
「ん? ――あぁ、水晶の事ね。 それなら神棚の中に祀ってあるよ。」
「わかった。」
留美子は手水を済ませ、神棚の前に立つと二礼二拍手一礼をし祝詞を唱える。 用意した脚立に乗りゆっくりと御扉を開く。 ――中には手のひらサイズの水晶玉を収められている。
「どう?」
「……」
水晶を眺めたまま難しい顔のまま硬直している留美子。 心配で声をかけるが返事が無い。
「効力を失ってる……」
「え?」
「これにもう、
「嘘でしょ……」
それは絶対にありえない。 ――家の中に入る時に、いつもと同じ結界の感覚はあったのだ!
「別の
「どういう事よ。」
「わからない、一つ言えるのは……」
”この
その言葉を、最初は理解出来なかった。 そもそもこの中には、私が許可した相手しか入ってこれないのに。 それで中から破壊するなんて……
「っ!?」
一瞬、脳裏に菊梨の顔が浮かぶ。 私は全力で頭を左右に振って掻き消した。 そんなのありえるはずがない。 彼女が、そんな……
「あまてるちゃん、大事な事を忘れてる。」
「え?」
「菊梨は妖怪、それを忘れちゃダメ。」
「でも! 菊梨はいい奴で! 鬱陶しい時もあるけど、いつも私の事を考えてくれて!」
「本当に、そう言い切れるの? 私達と、彼女は違う。」
昨夜の夢が思い出される。 人と妖怪、絶対に分かり合えない存在……
「それでも、私は……」
「……ごめん、言い過ぎた。」
「私もちょっと熱くなりすぎた…… ちょっとシャワー浴びてくるわね。」
「うん。 対策は考えておく。」
「お願いね……」
ねぇ菊梨――貴女が何を考えているのか教えて? どうして貴女はずっと私の傍にいるの? どうして私を守ってくれるの? どうして貴女は……
―――
――
―
結局、私の体調不良と水晶の破壊は関係がない事がわかった。 恐らくは菊梨が用意したであろう、新たな
待っても菊梨は戻らず、仕方なく私と留美子は浴衣に着替えてお祭りへと向かった。
「見て見て留美子! 出店がいっぱいあるよ!」
「うん。」
私は留美子の手を引いて歩いて回る。 先輩達はそんな様子を呆れ顔で見ていたが、他を見て回ると言って二人でどこかへ行ってしまった。
「ふふふ、私の射的の腕を見せてやろう!」
「おー」
私は銃を構え、狐のぬいぐるみに向けて引き金を引く――見事命中するがぬいぐるみは少し揺れただけだった。
「くっそ! これほんとにとれるわけ!?」
「――任せて。」
いつもの無表情で留美子が前に乗り出す。 左手にはコルク弾を指に挟んでいる。
「一点集中で落とす。」
発射――そして即装填、それを高速で繰り返す。 常人には出来ない芸当……流石プロだ。
4発目の弾が当たった時点でぬいぐるみがついに落下した。
「任務、完了。」
「ありがとう留美子! これ大事にするね!」
「……うん///」
心なしか、留美子が照れているように見えた。 きっと気のせいだろう。
その後も私達は出店を網羅する勢いで次々と回っていった。 留美子のオーバースペックのせいで金魚掬いでは強制ストップを食らったが……
「あぁ楽しかった!」
「私、も……」
「そっかそっか! やっぱお祭りっていいよね!」
「うん。」
静かに留美子も頷く。 夢の事で悩んでいたのが嘘みたいに今は調子が良かった。
「菊梨も来れば良かったのに。」
「っ……」
「きゃっ!?」
留美子が繋いでいた手を急に引っ張って走り出す。
「ちょっ、どうしたの留美子?」
「……」
留美子は何も言わずに走り続ける。 ――人通りの少ない林の中に入ったくらいで急に立ち止まった。
「はぁ……はぁ…… びっくりしたでしょ。」
「――ごめん。」
「一体どうしたの?」
俯いたまま、口を開閉させて何かを話そうとしているのだが、全く聞き取れない。
「……なんでもないなら戻ろ?」
私は留美子の手を引いて祭りの会場に戻ろうとするが――
「待って!」
今まで一度も聞いた覚えのない留美子の叫びに足が止まった。
「このままでもいいから、聞いて!」
「……わかった。」
私は向き直り、真っ直ぐに留美子を見つめる。 留美子は今にも泣きそうな顔で私を見ていた。
「あのね! 私……怖いの。 あまてるちゃんが、遠い所に行っちゃうんじゃないかって!」
「大丈夫、私は何処にも行かないって。」
「”あまてるちゃん”もそう言ってた! でも、わたしの元からいなくなって……」
「それは……」
私が留美子の身体に入っていた時に見た記憶。 彼女が最初に”あまてるちゃん”と呼んだ人物――
「もう嫌なの! 大切な人がいなくなるのは! 今度はもう、耐えられないよ……」
「大丈夫よ……」
私は優しく留美子を抱きしめた。 ゆっくりと背中を擦ってあげると、緊張の糸が切れたように声を上げて泣き出した。
「私の力が不安定になるのはいつもの事だから、そのうち収まるよ。 留美子が心配するような事には絶対ならない。」
留美子は泣きながら何度も頷いた。 まるで、自分に言い聞かせるように。
「だって約束したじゃない私達――ずっと一緒だって。」
そう言って私達は見つめ合い、ゆっくりと互いの唇を重ねた。 夜空には、綺麗な花が咲き乱れていた……
―田舎のおばちゃん、今日も私は元気です―
―次回予告―
「ふふふ、どうやらわしの時代がやって来たようじゃのう。」
「ちょっと菊梨、次回予告に変な狐が紛れ込んでるわよ?」
「一体何を言って――えぇ!?」
「どうしたの菊梨?」
「どうしてここにいるのですか!?」
「驚く事はない、これもわしの愛ゆえに――」
「ご主人様、後は任せました!」
「ちょっ――もう菊梨ったら何なの? じゃあ気を取り直して……」
「次回、第二十話 のじゃロリ狐、梨々花推参!」
「絶対見るのじゃぞ!」