ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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教えて、よーこ先生!


「はーい、皆さんこんにちは! よーこ先生ですよ~!」

「ルーミーです。」

「今回も二人で皆さんの疑問に答えていきますね!」

「任せて。」

「では、今回のお題はこれです!」


~天皇ってどんな事をしてるの?~


「先生、人間の社会に興味ありまーす!」

「私が解説するのね……」

「お願いしますね!」

「コホン…… 皆が知っている天皇と名称は同じだけど立場は全然違う。 イメージ的には昔の日本の天皇に近いかもしれない。」

「それって神の子だからみんな崇めろ~ みたいな感じです?」

「そこまでがっつりじゃないけど、全ての人のトップなのは間違いない。 天皇がダメと言ったらダメになるし、許すと言えば全て許される。」

「やっぱりワントップのやばいやつじゃないですか~!」

「一応歯止めとして3老が存在してる。 気休め程度だけど。」

「これ、やっぱり最初に言った崇めろ的なので間違いないのでは……?」

「……そうかもしれない。」

「という事で、結論を言ってしまえば独裁者って事ですね! 皆さん分かりましたか?」

「一応変な事はしてないから、国民からは大きく支持されてはいる。 私は嫌いだけど。」

「私(わたくし)も嫌いです! ……なんとなくですけどね。」

「なんとなく……」

「では、今回はここまで! 皆さんあでぃおす!」

「またね。」


第二十一話 赤ちゃんはどこからくるの?

「お嬢さん。」

 

「……どちら様?」

 

 

 コンビニの帰り道、怪しげな人に声をかけられた。 街灯の明かりが薄っすらと辺りを照らしているが、フードを深く被っているため表情をうかがい知る事は出来ない。 声から察するに30代くらいの女性だろうか?

 

 

「この子を預かってはくれませぬか?」

 

「え……?」

 

 

 そう言って彼女は私に自身が抱いている赤子を差し出してきた。 赤子は静かな寝息を立てている。

 ――待てよ、こんな話をどこかで聞いたような気が……

 

 

「どうかお願い致します、この子を……」

 

 

 あぁ……思い出した。 私は右手に意識を集中してソレを形成する。

 

 

「悪霊退散! ハリセンアタック!!」

 

 

 霊剣――ハリセンで思いっきり女性の頭を叩いてやる。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

 

「よしっ!」

 

 

 女性は叫び声を上げながら走って逃げていく。 彼女はおそらく産女だ、昔おばちゃんから教えてもらった記憶がある。 通りがかった者に、抱いている赤ん坊を渡そうとする。 受け取ればそれは石となり、拒否すればどこまでも追いかけて来るはた迷惑な妖怪だ。

 

 

「これくらいの小物妖怪なら私一人でも祓えるわね!」

 

 

 いつもは二人にお世話になっているが、少しでも自分でなんとか出来るなら自己解決していきたいしね。 おんぶにだっこ状態のままは性に合わない。

 

 

「あれ、なんだろこれ……」

 

 

 ふと、足元に卵が一個落ちている事に気づく。 大きさはうずらの卵くらいだろうか? ――少し暖かい気がする。

 

 

「さっきの産女が落としていったのかな? 妖怪の卵とかなら高く売れたりして!?」

 

 

 それなりの額になれば欲しかったプラモやアニメの円盤が買える!

 

 

「いやぁ~、今日はラッキーだったなぁ!」

 

 

 私は機嫌よくスキップしながら帰路についた。 ――これから起こる事も知らずに。

 

 

―前回のあらすじ―

 ――わしが来た! 要約しすぎて分からんじゃと? しょうがないのう、もう一度言ってやるから耳穴かっぽじってよく聞くのじゃ! ――わしが来た!(ドヤァ) これ以上言う事などなかろう! 別に初めてのお使いに失敗した可哀想な幼女なんかじゃないんじゃからな! 泣いてなどおらんぞ!! 気づいたら主様の元に戻されていたなんて死んでも言わないんじゃからなぁ! ばかぁ~!

 

 

 

 

「留美子よ、金の卵を手に入れたんだが買い取る気はないかね?」

 

「あまてるちゃん、熱でもある?」

 

「呆れた顔でそんな事言わないでよ、傷つくでしょ!」

 

「だって、ねぇ?」

 

「最後まで話を聞きなさいよ!」

 

 

 そう言って私はポケットから昨日拾った卵を取り出す。 それを見た瞬間、留美子の顔色が変わる。

 

 

「それ……どうしたの?」

 

「昨日の戦利品よ。」

 

 

 留美子は私から卵を受け取り観察を始める……

 

 

「まさか本当に姑獲鳥(うぶめ)の卵……? だとしたら奴らの生態を知るきっかけに……」

 

「ねぇ留美子? その卵、貴女の組織で買い取ってくれない?」

 

「多分喜んで買い取る筈。 特にアイツなら。」

 

「アイツって……もしかして天皇様の事?」

 

 

 以前身体が入れ替わった時の事件を思い出す。 私達の身体を戻してくれた男性――組織のトップであり現天皇の安倍晴明。

 留美子が何故そこまで嫌うのかは、彼女の記憶を少し覗いてしまった私にはわかる…… しかし今は何よりもマネーのためだ!

 

 

「うん。」

 

「確かに若干マッドサイエンティストな雰囲気はあるよねぇ。」

 

「研究となれば喜んでやる。 あの女郎蜘蛛も今頃は玩具にされてる。」

 

「うわぁ、妖怪とはいえ同情するわ……」

 

「講義が終わったら行く?」

 

「そうね……菊梨はいない方がいいでしょ?」

 

 

 留美子は静かに頷いた。 前回もわざわざ結界で遮って菊梨の侵入を防いだくらいだ。 恐らくは妖怪に踏み込んでほしくない場所なのだろう。

 

 

「でもこれ、途中で孵ったりしないよね……?」

 

「多分……」

 

 

 その時――ゴツンと窓にぶつかる音が聞こえた。 無意識に音の下方に顔を向けると――

 

 

「がえせぇぇぇ!」

 

「きゃぁぁぁぁ!」

 

 

 それは昨日出会った産女だった。窓にべったりと張り付いてこちらを睨んでいた。 ただこちら側に来れないのか、張り付いたまま微動だにしない。

 

 

「ちょっと、なんでついて来てるのよ!」

 

「おそらく、あまてるちゃんの霊力を追ってきている。」

 

 

 私の叫び声で野次馬達が集まってくる。 彼らにはアレが見えないため、その危険性を理解する事が出来ない。

 

 

「流石にこのままはまずいわね……行くわよ留美子!」

 

「うん……!」

 

 

 私達は慌てて教室を飛び出す。 ――しかし、菊梨は動く様子が無かった。 今は深く考えるのはよそう、まずはあの妖怪をどうにかしなければならない。

 

 

「もう一度私の霊剣をぶちかましてやろうかしら。」

 

「やったんだ。」

 

「昨日はそれで撃退出来たから――今日も余裕よ!」

 

 

 構内から出ると、私に向かって真っすぐ駆けてくる産女。 その鬼の形相と速さは明らかに人間レベルではない。 私はそれを狙って思いっきり霊剣を振る――!

 

 

「ハリセンアタック!」

 

「ぐべびゃぁ!」

 

 

 顔面へ綺麗にクリーンヒット。 白目を剥いてその場に倒れ込んだ。

 

 

「よし、地球の平和は守られた。」

 

「おー」

 

 

 留美子も後ろから拍手をする。 これで少しは私の事を見直してくれたかな!?

 

 

「威力はともあれ、完璧な一撃。」

 

「これは手加減してるのよ! 妖怪といえど、やばい奴以外は出来るだけ殺したくないの!」

 

「そういう事にしとく。」

 

 

 相変わらずの辛口モードに私は頭を抱える。 少しくらい褒めてくれてもいいのに……

 そんな事を考えながら、私達は気絶した産女を連れて組織の施設へと向かった。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「で、どうしてこうなった。」

 

「お気に召さなかったかな?」

 

 

 目の前にいる男性――安倍晴明はビジネススマイルでそう聞いてくる。 私は緑茶に口を付けて一度気持ちを落ち着ける。 まずは現状整理をしよう……

 私と留美子はこの研究施設に足を踏み入れた。 卵と気絶した産女を研究員の人に渡した所までは何も問題なかった。 その後、報酬の受け渡しのために、私は一人この和室に通される事になったのだが……何故かお風呂に入れられ、こんなお姫様みたいな着物へ着替えさせられたのだ。

 

 

「気に入らないとかではなくてですね! どうしてわざわざ着替えさせられたのかなぁって。」

 

「美しい女性(ひと)には、それ相応の身なりが必要だと私は思っていましてね。」

 

「美しいなんてやだなぁ……ですわ!」

 

 

 ダメだ、普段言い慣れていないから敬語なんて使いこなせない! 私はどうすればいいのよ……助けて留美子!?

 

 

「しかし近くで見ると――私の妹にそっくりだ。」

 

「え、えっと……天照様の事ですよね?」

 

「あぁ、妹は本当に良い子だった…… 力の強さに身体が耐えられずにあのような不幸な事になってしまったが。」

 

 

 その出来事は私も留美子の記憶で直接視た。 もしかしたら、私にもありえるかもしれない末路。 だからこそ留美子は常に失う恐怖に蝕まれていたのだ。

 

 

「君はまさに生き写しだ。 猿女が任務に私情を挟むのも仕方ないのかもしれない。 元々は世話係としてずっと共にいたのだから。」

 

「それって、今回の件と関係のある話ですか?」

 

「――怒ったその顔もそっくりだ。 関係は無いが意味はあるよ。 例えば――猿女が任務拒否をしている事とか。」

 

「ぇ……?」

 

 

 あの留美子が任務拒否……?

 

 

「それに君が関係しているとしたら――どうかね?」

 

「……」

 

 

 もしかして、私が危ない事はするなと言った約束のせいなの? 組織からの命令だ、命に係わる危険な任務だってあるだろうし、もし約束を守るために全て拒否しているとしたら……?

 

 

「――心当たりがあるようだね? もしよければ話してもらえないだろうか?」

 

「それは……」

 

「……話してもらえれば、悪いようにはしない。」

 

 

 彼は私へと近寄り、耳元で囁く。 何故か彼の言葉は、私に妙な安心感を与える。 彼ならば信用出来る、話てみようという気を起こさせるのだ。

 

 

「実は――」

 

 

 口を開こうとした瞬間、けたましいサイレンの音が響き渡る。 彼は慌てて立ち上がり、壁に備えられているインターカムを手に取る。

 

 

「何があった――何、侵入者!?」

 

「侵入者って……」

 

 

 ――背後で物凄い音がする。 それは鉄製の扉を蹴飛ばした音だと理解するのにしばらくの時間を必要とした。

 

 

「ご主人様、帰りますよ。」

 

「菊梨!?」

 

 

 侵入者の正体は菊梨だったのだ。 彼女は私をお姫様抱っこで抱え上げると、目の前にいる男を睨みつける。

 

 

「留美子ちゃんは信用出来ますが、やはり貴方は信用出来ません。 黒と断定出来た時点でその首を頂きますのでお覚悟を。」

 

「――化け狐が言ってくれる。」

 

「ではご機嫌よう。」

 

 

 菊梨はそのまま大きく跳躍し、天井を吹き飛ばしながら外へと脱出した。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「救出が遅れて申し訳ありませんでした……」

 

「い、いいのよ! 私も留美子も無事だったんだし!」

 

「私が甘かった…… アイツがあんな行動に出るなんて。」

 

 

 別室に閉じ込められていた留美子は、菊梨が先に助け出していたそうだ。 申し訳なさそうな顔で謝る留美子だが、むしろ私は彼女の方が心配だ。

 

 

「私よりも留美子の方が大丈夫なの!? ほら、こういうのって組織に刃向かった事になるんじゃ? 天皇様って組織のトップでもあるんでしょ?」

 

「むしろ逆、トップとして不自然な解雇や報復は出来ない。 今頃は妖怪の襲撃で混乱してる。」

 

 

 そうは言うがタダで済む事はないだろう。 良くても謹慎処分とか……その辺に詳しいわけではないから予想でしかないが。

 

 

「心配しないで、なんとかなるから。」

 

「そこまで言うなら……」

 

「これに懲りたら、あの男の場所には不用意に近づかないで下さいませ。」

 

「ごめんね菊梨……」

 

 

 いつになく真面目な顔の菊梨に素直に謝ってしまう。 こんな風に怒っている菊梨を見るのは初めてかもしれない。

 

 

「分かって頂ければいいんです。 何かあった後では遅いんですから!」

 

「そうだね……」

 

「それにしても――可愛いお召し物ですね!」

 

 

 あ、いつもの菊梨に戻った。 涎を垂らしながらこちらに熱い視線を送る菊梨に少し安心する。 それと同時に聞きたかったあの事が頭に浮かんできた。

 

 

「そ、それよりも! 菊梨、一つだけ確認したい事があるの。」

 

「なんでしょうかご主人様!」

 

「家の神域、どうして壊れたのか説明してくれない?」

 

「……」

 

「……」

 

 

 三人の間に長い沈黙が訪れる。

 何か理由があった、そうだよね菊梨……? 私は信じてるからね!

 

 

「あの神域は……」

 

「うん。」

 

「――(わたくし)が、壊しました……」

 

「嘘……」

 

 

 しかしその希望は打ち砕かれて、菊梨は悲しそうな顔をするだけで……

 

 

「どうしてよ、何か理由があるんでしょ!? じゃなきゃわざわざ自分で神域を作り直したりなんてしないでしょ!」

 

「……」

 

「お願い、何か言ってよ菊梨……」

 

「ごめんなさいご主人様、こればかりは絶対に言えません。」

 

 

 どうしてそこまで隠す必要があるのだろうか? 答えを知る菊梨は、それ以上何も答えてはくれなかった……

 

 

―田舎のおばちゃん、私はどうしたらいいのかな……―




―次回予告―


「ついに夏がやってきた!」

「ご主人様、夏はとっくに来てますよ?」

「違うわ! コミマが来てこその夏なのよ!」

「そんなもんなですか?」

「そうなんです!!」

「次回、第二十二話 開幕! 夏のコミマ! 前編。」

「前編って事は続きものなのね。」

「いい加減、私(わたくし)の扱いが酷いのどうにかなりません?」

「それよりも今回のタイトルの意味の方が……」

「それは、ご主人様が自分で気づいて下さいね。」

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