ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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教えて、よーこ先生!


「はーい、皆さんこんにちは! よーこ先生ですよ~! と、言いたい所なんですが、残念ながら今回はお休みです……」

「ネタ切れ。」

「こら! なんて事言うんですか!」

「実際、解説するネタがない。」

「基本的にはその回のお話に関する事を説明するのですが、今回は必要ありませんからね。」

「じゃあ、惚気話でも……」

「はいはい、そういうのはいりませんから! では、皆さんあでぃおす!」

「ちっ……」


第二十二話 開幕! 夏のコミマ! 前編

「今回は良いデータが取れたよ。」

 

「……はい。」

 

 

先日の事件での修復作業に、研究所は大忙しだった。 いくつもの機器は破壊され、何匹か逃げ出した妖怪もいる。 ……やる事は山積みだ。

 

 

「まさか催眠だけで、あそこまで妖怪をコントロール出来るとはね。 万能ではないが良い結果だ。」

 

「……」

 

 

 そう言って、晴明は手に持っていた卵をゴミ箱へと投げ捨てた。

 

 

「ただの鶏の卵を自分の子だと思い込むのだから滑稽だよ。 そして君は、予定通り彼女をここへ誘導してくれた。」

 

「産女と戦わせる事によって彼女の今の霊力の検証。 しかし、最後のあの行動は聞いていません。」

 

「なんだ、嫉妬しているのか? 君のお気に入りをとったりはしないよ。」

 

「そんな事……」

 

 

 晴明は意地の悪い笑みでこちらを見やる。 吐き気を催すほど気持ち悪い……

 

 

「私も彼女とはゆっくり話をしたかったのだよ。 例えば、君の普段の行動とかをね?」

 

「……」

 

「私は君が裏切っている可能性も考慮しているのだよ。 違うと言うならば、その行動で潔白を証明したまえ、猿女留美子。」

 

「はい……」

 

「私達の目的のために、共に頑張ろうじゃないか……」

 

 

 私、は……

 

 

―前回のあらすじ―

 あ、ありのまま今起こった事を話すぜ! 私は産女の卵を受け渡すために研究所に行ったんだが、気づいたらおめかしさせられていた。 な、何を言っているのか分からねーと思うが、私も何をされたのか わからなかった…… 頭がどうにかなりそうだった…… 催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

 ――ご主人様、多分ただの催眠術ですよ。

 

 

 

 

 

「見ろ菊梨、これが夏の戦場だ。」

 

「すごい人の数ですね、ご主人様。」

 

「去年よりも多い……」

 

 

 帝京歴785年 8月11日 火蓋はついに切って落とされた。 コミックマーケット――略してコミマ、年に二度、2日間行われる大きなイベントだ。 企業もスポンサーとして参加しており、私のように漫画家を目指す人間にとっては自己アピール出来る場でもあるのだ。 実際、私の憧れである秋美先生もこのコミマで才能を見出されてプロのイラストレーターになった。

 

 

「私達の出店は2日目だ。 1日目である今日は、目的のブツを入手するために諸君に奮闘してもらう。」

 

「ご主人様、何か様子がおかしいような……」

 

「こらひよっこ! 無駄口を叩くな! 我々は既に戦場にいるのだぞ!」

 

「りょ、了解であります軍曹!」

 

「それでいい! では各員散開し、予定通り回ってくれたまえ!」

 

 

 菊梨と留美子は敬礼してから、ありえない速度で走って行った。 あれなら普通の人に認識される事もないだろう。

 ――私は大きくため息をつく。 勢いで乗り切ったとはいえ、正直菊梨と話すのは気まずい……

 

 

”――(わたくし)が、壊しました……”

 

 

 結局訳は話してくれなかった。 その時まで待つとは言ったものを、自分自身で消化し切れていないのは明らかだった。

 

 

「あぁもう! 気持ちを切り替えていかないと!」

 

 

 自分の両頬を思いっきり叩いて気合を入れる。 ――自分で待つと決めたのだ、こんな事でどうする!

 

 

「まずは壁側から攻めないとね!」

 

 

 大手の出店は基本的に壁側に配置されている。 完売の可能性が高い大手を優先に周るのがセオリーである。 決めてあったルート順だと、まずは羽間先輩が欲しがっている廻画集を回収か。

 

 

「って……思った以上に並んでるわね。」

 

 

 あまり聞き覚えの無い名前だが人気のサークルなんだろうか? 少し気になってスマホを取り出して検索をかける。

 

 

「何々……綺羅(きら) (めぐる)、本名は染野(そめの) 艷千香(あでちか)か。 ――へぇ、画家さんなんだ。」

 

 

 確かに絵画には興味が無いので、私が知らなくても仕方ない。 羽間先輩らしいなとは思うけど、どうしてプロの画家さんがコミマなんかに参加しているのだろう?

 そんな事考えてるうちに列はどんどん進んで行き、私の順番が回って来た。

 

 

「画集を2冊下さい。」

 

「はい、2000円になります。」

 

 

 ピンク色のメイド服の売り子さんに2000円渡して画集を受け取る。 本当は1冊だけでよかったのだが、気になって自分の分も買ってしまった。 しかしなんだろう、この売り子さんをどこかで見た事があるような……

 

 

「もしかして、どこかで会った事ありません?」

 

「何をおっしゃいますか、私達は初対面ですよ。」

 

 

 眼鏡をくいっと人差し指で上げると、きっぱりと面識を否定した。

 

 

「ごめんなさい! 変な事聞いちゃって。」

 

「いえいえ、気にしていませんよ。」

 

 

 やはり気のせいだった……? でもなんだろう、何か引っかかる……

 

 ”間近で見ると、更に際立つわぁ。 正に100年に1人の逸材ね。”

 

 ふと、嫌な記憶が一瞬蘇る。 流石にそれは無いと首を振って振り払う。 あいつは今頃実験体にされているはず、こんな場所にいるわけがない。 それに人の姿に化けれるわけもないだろう。

 

 

「化けると言ったら狐とか狸の特技だもんね! 気にしすぎよね~」

 

「きゃっ……」

 

「おっと、ごめんなさい! 大丈夫?」

 

 

 売り子さんの事に集中しすぎていたせいか、目の前で歩いていた相手に気づかなかったようだ。 視線を下に向けると、小学生くらいの女の子が座り込んでいた。

 可愛いツインテールに、あまり見る事の無いオッドアイが目を引く。 しかし可愛さとは対照的に紫色のゴシックドレスを身に纏っていた。

 

 

「うん、大丈夫だよ。」

 

「ごめんね、ちょっと考え事してて。」

 

「――可愛いお姉さん。」

 

「えっ?」

 

「じゃあね。」

 

 

 少女はそう言って手を振りながら去ってしまった。 何か言っていたような気がするが、なんだったのだろう。

 

 

「とりあえず他も急いで回るか……」

 

 

 色々と考える事はあるが、今はひとまず動き回る事で忘れる事にした。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「二人共、マジで回り切るとはね……」

 

「余裕。」

 

(わたくし)にかかれば朝飯前です!」

 

 

 合流した私達は、ベンチの上で戦利品の確認をしていた。 まさか予定通り全部回収してくるとは恐れ入った……

 

 

「ほんとグッジョブ。 これで昼からはかなり余裕があるし、お昼休憩しよっか。」

 

「そうですね――というわけで、菊梨特製愛妻弁当を用意してあります!」

 

「私も、作ってきた。」

 

 

 そう言って二人共私にお弁当を差し出してくる。 いや、気持ちは嬉しいけど……一人で食べきれない3重のお弁当をもらってどうしろと!?

 

 

「わ、わぁ……ウレシイナァ。」

 

「あ~ん、して食べさせてあげますね!」

 

「私もやる。」

 

「お二人さん、とりあえず落ち着いて……」

 

 

 パシャリ、っとカメラのシャッター音が聞こえる。 音の方を見やると、見覚えのある男がシャッターを切っていた。

 

 

「こら竜也! 勝手に撮らないでよ!」

 

「なんだよ、折角良い百合ショットが撮れたんだからよ。」

 

「アンタはいっつも……」

 

「ごめんなさい雪、この人配慮が無いものだから。」

 

 

 彼の隣にいたのは――やはり優希だった。 しかもあの衣装は……間違いない! 桜花大戦のメインヒロイン、桜のコスプレだ! あの朱色の行灯(あんどん)袴がいいのよねぇ。

 

 

「いつもの事だから慣れてるし大丈夫だって! それよりも、今年は桜のコスプレなんだ!」

 

「友達に作ってもらったんだけど、かなり出来が良くてね。」

 

「だよねぇ、素人目から見てもそう思うよ!」

 

 

 衣装もそうだが、メイクも完璧だし、何よりもベースの優希が綺麗という要素全てを統合して作られた美しさだと私は思う。

 

 

「そうだ、友達が雪の分も作ってくれたんだ。」

 

「マジっすか。」

 

 

 色々事件が起きすぎて、装を用意する暇が無かった私は、今回のコスプレは諦めていたのだが……これは運が回って来たかもしれない!

 

 

「今日は時間的にもう遅いし……明日着るかい?」

 

「はい、喜んで! お姉さまありがとう!」

 

「――えぇ、良くってよ。」

 

「ナチュラルにネタで返してくれる辺りが流石っすね。」

 

「伊達にご近所付き合い1年じゃないよ。」

 

 

 パシャリ――再びシャッター音がする。

 

 

「竜也、そんなにお仕置きが欲しいのかい?」

 

「な、なんだよ! いつ撮ったっていいだろ?」

 

「次に僕を怒らせるような事をしたら――分かってるよね?」

 

「はい、すみませんでしたぁ!!」

 

 

 なんというか、竜也ってほんと尻に敷かれてるなぁ。 本人が満更でもないのがまたアレなのだが……

 

 

「折角だし、みんなでお昼食べよっか? ちょっとお弁当が多くてさ。」

 

「ふふっ、雪も苦労してそうだね。」

 

「――はい。」

 

 

 皆での楽しいランチを終え、午後も無事に回収完了した。 何かトラブルでも起きるかと不安だったが、問題一つ無く1日目の日程を終える事が出来た。 明日もこの調子で……

 

 などという思いは夢物語だったと、思い知らされる事になった。

 

 

「一体、何がどうなってるの……」

 

 

 灰色の空、静止した人々、会場全体を覆う見えない壁――

 

 

「間違いありません。 これは――神域です!」

 

 

―to be continued―




―次回予告―


「ちょっと! こんな続きの気になる箇所で区切らないでよ!」

「ご主人様、やはり前後編をやるならこういう引きは大事ですよ。」

「いや、それは分かるけどさ。 気になって仕方ないじゃん!」

「そうですけど……そういうものですよ!」

「ぐぬぬ…… しかし今回は気になる人物が2人程出て来たわね。」

「ピンク眼鏡メイドと幼女ですか? 確かにとても臭いますね。」

「――それはどういう意味で?」

「そのままの意味です。」

「そもそも、幼女ってカテゴリーはわしの専売特許じゃぞ!」

「こら! 出番の無い貴女が出てきてどうするんですか!」

「次回! 第二十三話 開幕! 夏のコミマ! 後編」

「えっ……誰この狐?」

「絶対見るのじゃぞ!」
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