ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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教えて、よーこ先生!


「はーい、皆さんお久しぶりです! よーこ先生ですよ~! 今回も、先生と楽しくお勉強しましょうね!」

「少々間が空きましたが、これからも元気にこのコーナーを続けていきますよ!」

「では、今回のお題はこれです!」


~宇迦之御魂神ってどんな神様?~


「はい、前回の回想で登場した主様の事ですね!」

「主様は、建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)様と神大市比売(かむおおいちひめ)様のお子様で、穀物の神として祀られていたのですよ。」

「しかし、あまりにも性活が乱れすぎていたために、始祖神の怒りを買って鏡に封印されてしまったというわけです……」

「まぁ、それが功を奏して……今では唯一現存する神様になったわけですけど。」

「顔はイケメンな感じの女神様なのですが、兎にも角にも女を食いまくる方でしてね。 あれだこれだと手を付けまくっていたそうです。 まぁ、今もそんな変わりないような……」

「ちなみに、男は大っ嫌いだそうですよ!」

「では今回はここまで、皆さんあでぃおす!」


二十六話 安倍という一族の宿命(さだめ)

「う~ん、今日もいい天気ね。」

 

「そうですねぇ。」

 

 

 私は大きく伸びをしてから大学への歩みを再開する。 9月も近くなり、だいぶ暑さもマシになってきた。

 

 

「あれ――留美子~!」

 

「……」

 

 

 道歩く人影の中から留美子を見つけた私は、彼女の元へと駆け寄ろうとする。 しかし、留美子は私に気づいていないのか、早歩きで私との距離を開かせる。

 

 

「ちょっ、待っててば!」

 

「お待ちくださいご主人様!」

 

 

 菊梨の制止も聞かずに留美子の背中を追いかける。 何故逃げるのかという疑問の前に、私の声に見向きもしない留美子を一発殴りたいという気持ちが先行していたからだ。

 

 ――だから、近づく妖力に気づかなかった。

 

 

「やっと追い――」

 

 

 手を伸ばせば、留美子の肩を掴める距離まで届いた瞬間――不運にも小石に躓いてしまった。 いや、この場合は”幸運”だったのかもしれない。

 

 

「――ぁ」

 

 

 何かが掠める感触、そして透き通った殺気……間違いなく、転んでいなければ私の首は胴と切り離されていただろう。

 私はそのまま地面を転がり、ソレから距離を置く。

 

 

「何よ、この大男……」

 

 

 目の前にいたのは、身長2メートルもある大男だった。 どうやらさっき掠めたのは、コイツが持っている馬鹿でかい日本刀のようだった。

 

 

「あれじゃあ、斬られるんじゃなくてミンチじゃないのよ!」

 

「ご主人様! だからあれ程待つようにと!」

 

「ごめん、全然気づいてなかった……」

 

 

 こんな巨大な妖力に気づかないなんて、私はどうかしていたようだ。

 

 

「あんたも三妖の一人ってわけ!?」

 

「……」

 

 

 大男は無言で日本刀を構え直す――沈黙は肯定という事だろう。 菊梨は私を庇うように前に躍り出た。

 

 

「ご主人様は下がって下さいまし。 あとは(わたくし)が処分致します。」

 

「コイツも酒呑とかいう妖怪みたいに強いんじゃないの?」

 

「大丈夫です――いざとなれば奥の手がありますので。」

 

 

 一触即発の雰囲気の中、先程まで沈黙を維持していた留美子が飛び込んでくる。

 

 

「留美子!? 一体何を――」

 

「任務遂行……」

 

 

 二丁の霊銃(レイガン)を抜くと、大男と菊梨に発砲する。 大男は弾丸を切り払い、菊梨は手刀で弾く。 それと同時に、辺りを強烈な閃光が包んだ。

 

 

「っ……ご主人様!」

 

「菊梨っ!」

 

 

 真っ白に塗りつぶされた世界の中、私の意識は急速的に失われていった……

 

 

―前回のあらすじ―

 私の目の前に現れた少女、それはかつてのおばちゃんの姿だった。 最後の時を二人で過ごし、天へと昇っていった魂は無事に成仏出来ただろうか? それは死んだ者にしか分からない事で、今の私には到底理解出来る事ではない。 強いて言うなら、成仏出来たと信じたい……

 そして帝都へと私は戻って来た、一つの手紙を持って――

 

 

 

 

 

 少し色が黄ばんだ手紙、それはおばちゃんが私へ伝えようと書き残してくれたものだった。 私は震える手でその手紙をゆっくりと開く……

 

 

 雪へ

 

 このような形で打ち明ける私を許して下さい。 本当ならば直接伝えるべきなのですが、他への漏洩を防ぐために手紙として孫の愛子に預けました。

 そしてこの手紙を貴女が受け取ったという事は、私はもうこの世を去った後でしょう。 母親として、どれだけ愛情を注げたか――それだけが逝く前に気がかりです。

 

 まず最初に話さなければならないのは、貴女の体質についてです。 これは自身が一番分かっているでしょうが、強すぎる霊力が妖怪や霊を引き寄せるというものです。 現状、私が用意した神域で凌いでいるでしょうが、今後貴女の力が更に強まる事を考えての対策を用意しました。 同封された勾玉を使い、自分で神域を形成するのです。 やり方は別紙にて解説しているのでそちらを読むように。

 

 次に、貴女の両親についてです。 これはずっと隠してきましたが、今の貴女ならば受け入れられると信じてお話します。

 まず、両親は既に他界しています。 私とは血縁関係はありませんが、貴女の母親とは親友でした。 貴女を預かったのは彼女の最後の願いからです。 貴女の命を救うため、その身を犠牲としたのです。 しかし、それを悔いてはいけません。 貴女が今生きている事こそ彼女の願いだったのだから。

 

 父親についてですが――彼は有名な一族の生まれです。 その一族の名は”安倍”……そう、あの天皇の一族です。 恐らくは政権争いに巻き込まれるという形であの事件が起きてしまったのでしょう。 でなければあんな死に方はあり得ません……詳細は記述しませんが、気になるならば帝京歴772年の大西家惨殺事件を調べてみなさい。

 

 狐の娘さんの事は、私からは何も語りません。 きっと、時が来れば本人から語ってくれるでしょう。 それが彼女と私がした約束です。 どうか、その時まで問い詰めないであげて下さい。

 

長くなりましたが、私が最後に言いたいのは……貴女の事を本当の子供として愛していたという事です。 たとえどんな時でも、貴女を思わない日はありませんでした。 どれだけ彼女の思いに答えられたか、毎日不安が胸を締め付け、まるでガラス玉のように抑揚の無い貴女の瞳を見ては涙を流していました。 でも、今の貴女はこんなにも感情に溢れ、私も本当に嬉しかったです……

 

 その笑顔が、ずっと続きますように……

 

 

 貴女の母より

 

 

―――

 

――

 

 

 

「――やっとお目覚めかな?」

 

「ここ、は……」

 

 

 意識がゆっくりと、夢から現実へとシフトしていく。 どうやら青森に戻ていた時の事を夢で見ていたようだ。

 現状を把握するため、辺りを見渡そうとするが――身体の自由がきかない事に気づく。 どうやら手足を縛られて椅子に座らせられているようだ。

 

 

「そのまま寝顔を拝見しておくのも良かったが、それでは話が進展しませんしね。」

 

「貴方は!」

 

 

 この妙に鼻につく声――間違いない!

 

 

「そう警戒しないで下さいよ、とって食おうというわけでは無いのですから。」

 

「安倍晴明! 私を攫ってどうしようっていうのさ!」

 

「やれやれ、騒がしい人だ……まずは落ち着きなさい。」

 

「胡散臭さの塊みたいな貴方の話なんて知らないわよ!」

 

 

 ――意識もだいぶはっきりしてきた。 状況把握のために、気づかれないように視線だけ移動する。

 

 

「嫌われたものですね。 これでも私は天皇なのですが?」

 

「何よ、だから敬えって言うわけ? 権力を盾にしちゃって恥ずかしくないの?」

 

 

 間違いなく前来た研究所だ。 この病院みたいな真っ白な部屋の感じは見覚えがある。 そして私が座らせられている椅子……なんだか歯医者の椅子に似ている気がする。 手足はこの椅子に直接繋がれているようだ。 力任せで外せる代物ではないし、どうしたものか……

 

 

「安心しなさい、君をここに呼ぶのは今回で最後にするつもりなので。」

 

「へぇ、それはどんな心変わりなのかしらねぇ。」

 

「簡単な事だよ――君への興味が無くなったからだ。 確かにあの日、神域を破壊した力は凄まじかった。」

 

「なんでその事を知って――」

 

「――やれやれ、おいで猿女。」

 

 

  ゆっくりと近づいてくる足音……思考停止していた事実が近づいてくる。 何かの間違いだと思いたかった心を砕くように少しずつ近づいて――

 

 

「留美子……」

 

「彼女は本当に優秀でね、君のデータを常に送ってくれていたよ。」

 

「嘘よ! だって留美子はお前を憎んでいたはず!」

 

 

 そうだ、私が視た留美子の記憶では……晴明は天照を殺したかもしれない憎むべき敵で、絶対に協力なんてするわけがないのだ。

 

 

「君が何を言おうが、現実は見ての通りだよ。」

 

「何か脅したりとかしてるんでしょ!」

 

「――では話を続けようか。 私はとある計画を進めていましてね……2つの実験を同時に行い、成果の出た計画を採用しようと思っていたのですよ。 その一つが君だよ、坂本 雪。」

 

「何よそれ……」

 

「もう知っているのでしょう? 君の父親が安倍の一族だという事を……」

 

「……」

 

「沈黙は肯定と捉えさせて頂きますよ。」

 

 

 晴明の言葉が全く耳に入ってこない。 頭の中は留美子の事で一杯だ……ありえない、奴に従う理由なんて無いはずだ……

 

 

「彼は私の兄でね、私よりも強力な霊力を持っていました。 しかし――本当に馬鹿な人だったんですよ。 力の使い方を知らない愚か者だったのです。」

 

「……」

 

「始祖神の使いである葛の葉の血……つまり、神の血を色濃く受け継いでいたのにですよ? だから私は彼に道を用意してあげたんですよ――実験台としてね。」

 

「私のお父さんが、実験台……」

 

「そうですよ。 霊力の強い家系に神の血を混ぜ合わせたらどうなるかという実験です――それで産まれたのが君なんですよ。」

 

 

 全てがこの男の手の平の上だった……? じゃあ、私って何なのよ……

 

 

「しかし、君は思った程の力を発揮しなかった。 強いとは言っても、所詮は”人間”レベルの力だ。 私が求めているのは――世界そのものを書き換える程の力だ。 神の御石の全てを覗く事こそが、私の夢なのだよ! 」

 

「……もういいよ。」

 

「そして私こそが正統なる安倍となる! 唯一の神に!!」

 

「もう、しゃべるな……」

 

 

 ――薬指に嵌めた指が軋んでいる。 想定以上の負荷がかかって悲鳴を上げているのだろう。 でも私は……

 

 

「私の息子が神の器となる……君はもう不要なんですよ!」

 

「このキチガイなナル野郎がぁ!!」

 

 

 溢れ出る霊力が、私の座っていた椅子を破壊して吹き飛ばす。 私はそのまま渾身の右ストレートを奴の顔面に叩き込んだ。

 

 

「ぐぶっ……!」

 

 

 晴明は面白いように回転しながら壁に激突する。 まるでアニメのワンシーンを見ているかのようだ。

 

 

「なんでもお前の思い通りになると思うなよ! 留美子は返してもらうからね!」

 

「……」

 

 

 留美子は私を止めようと霊銃(レイガン)を構えようとする――

 

 

「貴女もいい加減目を覚ましなさいよ!!」

 

 

 両手に霊力を集中……ここで見せるぜ新技を!

 

 

「――ダブルハリセンアタック!」

 

 

 両手に霊剣(ハリセン)を形成、思いっきり留美子の頭に振り下ろす――

 

 

「ええっ……!?」

 

 

 留美子の頭が――割れてしまった! まるでプラモの兜割りのように綺麗に真っ二つだ!

 

 

「何よこれ――機械じゃない!」

 

 

 割れた頭からは血も噴出さなければ、脳が飛び散ったりもしない。 代わりに飛び散ったのは部品だった。

 

 

「さ、流石に想定外だったよ。 まさか力を隠していたとは……」

 

「まだ殴られ足りないわけ? 次はこの霊剣(ハリセン)でも受けてみる?」

 

「いいや、遠慮しておこう。」

 

 

 ――足元から響く爆音。 床を突き破り、あの大男が現れたのだ。

 

 

「迎えが貴方とはね――祖父上。」

 

「……ユクゾ」

 

「ちょっ、待ちなさいよ!!」

 

「君の観察にはもう少し時間が必要のようだ……また会おう坂本 雪。」

 

 

 晴明に祖父と呼ばれた大男は、そのまま横の壁に穴を開け、緊急用の通路を滑り落ちて行った。

 

 

「何なのよ、もうわけわかんない……」

 

 

 全身から一気に力が抜けるのが分かる。 どうやらフルパワーを出せるのはかなり短い時間のようだ。 もう立っている事すらきつい……

 

 

「良かった、菊梨から貰った指輪……壊れてない。」

 

 

 だいぶ無茶をしたから、ヒビの一つでも入っていないかと心配だったが……傷一つ無さそうだ。 私は安堵してその場に座り込む。

 

 

「色々ありすぎてわけわかんないよ……」

 

 

 留美子の偽物、安部一族の事、晴明の実験体である私……

 

 

「今分かるのは……晴明は三妖と繋がってる事ね。」

 

 

 ならば、夏コミマをめちゃくちゃにしようとした罪は許せない。 父親の事とか、留美子の事とか、色々関わっている最悪な奴だけど……

 

 

「シンプルに、むかつくからぶっ飛ばす……」

 

 

 そう、決めた――

 

 

―天国のおばちゃん、今日も私は元気です―




―次回予告―

「あぁもういい加減私の頭がパンクするわぁ!」

「ご、ご主人様落ち着いて……」

「もうわけわかんねぇから地球に隕石落としちゃう! 核の冬にしちゃうもん!!」

「どうやらご主人様の思考は、メビウスの輪から抜け出せなくなっているみたいですね。」

「ママ? というか私のお母さんの話出てこなさすぎじゃない? なんでお父さんの話ばっかなのよ!?」

「それはアレですね、後々掘り下げられるというフラグかもしれません。」

「ソウナノカ~」

「コホン! 次回、第二十七話 悪霊退散! 除霊スプレーの効果はいかに!?」

「次回は先輩二人が活躍するよ~!」

「皆さんお楽しみに!」

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