ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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教えて、よーこ先生!


「はーい皆さん、よーこ先生ですよ~! 今回も、先生と楽しくお勉強しましょうね!」

「今回のお題はこれですよ!」


~大久保財閥ってどれくらい凄いの?~


「はい、いい質問ですね~ 大久保財閥は総資産8000兆円の超々大企業であり、裏でガイアを動かしていると言っても過言ではない程の存在です!」

「その社長の娘が皆さんご存知、大久保 葵さんなのです! 恐ろしい人が知り合いにいたものです……」

「さぶかるの活動費や、他にも色々な出費が出来る理由はここだったという事ですね。」

「では今回はここまで、みなさんあでぃおす!」



第二十七話 悪霊退散! 除霊スプレーの効果はいかに!?

「やっと見つけましたわ、雪ちゃん。」

 

 

 大学の構内のベンチで菊梨と二人でお昼を食べていた。 なぜこんな場所でと思うかもしれないが、常にベタベタくっついてあーんをしてくる菊梨がいる状態で人目の多い場所にいられるわけがないのだ。

 そんな私達の前に大久保先輩が現れた――しかもタイミング悪くおかずを頬張っている瞬間に。

 

 

「んぐっ……! ゲホッゴヘッ!」

 

「申し訳ありません、お邪魔してしまったようですね。」

 

「だ、大丈夫です……! 何か用事ですか、大久保先輩?」

 

 

 吹き出しそうになったタコさんウインナーをなんとか飲み込む。 羽間先輩ならまだしも、大久保先輩が用事だなんて珍しい事もあるものだ。

 

 

「実はですね、お二方にしか頼めない事がありますの。 本当は留美子ちゃんにもお願いしたかったのですが、最近お休みされてるようですし。」

 

「私達にって事は……妖怪や霊絡みの話って事ね。」

 

「その通りですわ!」

 

 

 大正解、といわんばかり笑顔を見せる大久保先輩。 しかし、そうなると報酬の方も期待出来るのではないか? なんと言っても大久保財閥のご令嬢であるのだから!

 

 

「それで、どんな仕事なの?」

 

「お話が早くて助かりますわ。 で、その内容は――」

 

「――え、なによそれ!」

 

 

 彼女が持ってきた仕事の話とは、スプレーで除霊するという奇抜なものであった……

 

 

―前回のあらすじ―

 三妖の一人からの襲撃、留美子の偽物ロボット、そして怪しさを通り越して完全真っ黒な安倍晴明! どうやら奴は今まで実験対象として観察してたようだ……私をモルモット扱いとは絶対に許せん!

 奴の顔面に思いっきり正義の鉄拳を食らわせた時はスカっとしたわ! しかし、あの男が三妖と繋がっていたなんて、ますます危険な相手だ。 そんな人間が国のトップなんて、誰一人気づいてないんだろうな……

 ともかく! 私は自分の身を守るためにも奴のよくわかんない計画をぶっ飛ばしてやる!

 

 

 

 

 

「ごーすとばすたーず!」

 

「ご主人様、そのくだり前にもやりませんでした?」

 

「うん、やった記憶がある。」

 

 

 私と菊梨は大久保先輩の頼み事をこなす為、とある会社の前にやって来たのだ。 しかも、夜の22時という時間に……

 

 

「やっぱりここ、エイカーテクノゲームスよね……大久保財閥の傘下だったのね。」

 

「ご主人様がよく買ってるゲームの会社の一つですね!」

 

「よく知って……アンタ、もしかして勝手に私のゲームで遊んでるでしょ!」

 

(わたくし)だって、ご主人様を知るための勉強を欠かしていないのですよ?」

 

「無駄に下の方にセーブしてあったのはそれか……」

 

 

 別に遊んだらダメというわけでは無いが、せめて一言何か言って欲しいわけで……見られてやましい物が無いのは胸を張って言えるが!

 

 

「お待たせしましたお二方、どうぞ中に。」

 

 

 いかにも高そうな黒色の車から降りて来た大久保先輩は、いつもと変わりのない笑顔を見せる。 手にはトランクを持ち、恐らくはテスト用の例の物が入っているのだろう。

 私達は案内されるままビルの中へと足を踏み入れる。

 

 

「お昼にもお伝えしましたけれど、新作を開発中に事故が多発しているのですわ。」

 

「それが霊の仕業かもしれないって話よね?」

 

「その通りです。 新作がホラーゲームという事もあり尚更その可能性が高いわけです。」

 

 

 ホラーゲームを作る時はお祓いもすると聞いた事があったけど、本当に霊が集まりやすいんだなぁ……

 実際、さっきから無害な浮遊霊があちこちに徘徊している。 恐らくは、”何か”に引っ張られて来てしまったのだろう。

 

 

「更には、スタッフが一人が事故で亡くなっていましてね……恐怖で欠勤する者まで現れているのですわ。」

 

「――確かに状況は深刻そうね。」

 

 

 会議室のような場所に案内され、私達はパイプ椅子に腰かけた。 大久保先輩は机の上に先程のトランクを置き、解錠してその中身を解放する。

 

 

「こ、これがその……」

 

「なんだか、お部屋の匂いを綺麗にするスプレーに似てますね。」

 

「これぞ我が社の新製品! 悪霊退散、霊コナーズですわ!」

 

「うわぁ、なんて安直なネーミング……」

 

 

 確かに見た目はお部屋の消臭剤のようなスプレーだ。 本当にこんな物に効果があるのだろうか?

 

 

「退魔士監修の元、除霊のための霊力を液体に浸透させる事によって簡易的な霊を退治する事が出来る! 正に夢のような商品なのですわ!」

 

「でもそれ、視えないとスプレーかけられないよね?」

 

「大丈夫です! 家全体にスプレーする事により、簡易的な結界を作る事が出来るのですわ!」

 

「わー、すごいな~(棒)」

 

 

 毎日、本物の神域(けっかい)に守られている私からすれば、本当にただの気休めにしか使えそうもないスプレーだ。 しかし、一般家庭程度ならそれなりの効果は期待出来るのだろうか?

 

 

「確かに、これでしたら簡易的な除霊は可能ですね。 肩が重いとか、空気が重いと思った時に使えば効果はあるはずです。」

 

「菊梨、それプラシーボ効果ってのと変わらないぞ。」

 

「兎も角です! お二人にはこのスプレーの効き目を確かめて欲しいのです!」

 

 

 私は悪霊退散、霊コナーズ――もとい、除霊スプレーを受け取り、ノズル部分を拡散モードにする。

 試しに机の下で蹲っている浮遊霊に軽く吹きかけてみる。

 

 

”ぴっぎゃぁぁぁ!!”

 

 

 浮遊霊は変な叫び声を上げながら、窓を貫通して何処かへ飛び立っていった。

 

 

「おぉ、本当に効くんだ。 大久保財閥の化学力は世界一ぃぃ! みたいな感じね。」

 

「ご主人様! こっちも効果ありです!」

 

「よし、この調子でどんどん行くわよ!」

 

 

―――

 

――

 

 

 

 私達はビルの中を駆けまわり、次から次へと霊達を駆逐していった。 霊達には悪いが、こっちも仕事なのだ!

 

 

「よーし、小物はこんなものかな。」

 

「……ご主人様も、やっぱり気づいていたのですね。」

 

「もちろんよ、この浮遊霊を引き寄せた邪気がある事くらいお見通しよ。」

 

 

 本来、浮遊霊はここまで一か所に留まったりはしないのだ。 こうなるには要因があって、例えば――強い悪霊に引っ張られている、とか。

 

 

「ご主人様も立派になって……菊梨は嬉しゅうございます。」

 

「いや、泣くほど喜ばなくても……」

 

「よよよ……」

 

 

 泣いている菊梨はひとまず放置し、元凶を絶つためには大久保先輩の協力が必要だ。

 

 

「大久保先輩、開発室の方を暫く人払いしてもらって大丈夫ですか?」

 

「勿論ですわ――至急手配します。」

 

 

 大久保先輩はシルバーのスマートフォンを取り出すと、何かしらの指示を伝え始める。 それは1分をせずに終わり、私達はすぐに開発室の中に案内された。

 

 

「一応、パソコンの方には触れないで下さいね。」

 

「わ、分かってるわよ! 物凄い興味はあるけど……」

 

 

 目の前には新作ゲームのデータがある、見らずにはいられないっ――というのが本音だが、今は我慢して仕事に集中する事にする。

 

 

「いたわね……妄執の塊みたいなやつ!」

 

 

 目を赤く光らせ、こちらを見やる黒い人型の何か……生前に強い思いを残して死んだ怨霊で間違いない。

 

 

 

”ォォオ!!”

 

 

「これでも――食らえ!」

 

 

 シュッっとひと吹き、さよなら悪霊でお部屋快適――とはならなかった。

 全く効果が無かったわけではないが、霊は健在である。 具体的には、霊が纏っていた真っ黒い妄執が吹き飛んだのだ。

 何故か霊は目を輝かせてこちらを見ている……まるで生まれ変わった自分を見てくれと言わんばかりだ。

 

 

「どうしてこうなった。」

 

「さ、さぁ……」

 

 

 私達二人の顔を見て、大久保先輩は首を傾げる事しか出来ていない。 それはそうだ、こんな綺麗な霊がいても先輩には見えないのだから。

 

 

”ありがとう! ありがとう! まるで生まれ変わったような晴れやかな気持ちです!”

 

「いや、生まれ変わったというか……死んでるんですけど。」

 

”どうしてもやり残したことがあり、ずっとこの会社に縛られていたのです……

 しかし、今はこんなにも身体が軽い!”

 

 

 霊は元気に開発室の中を飛び回る。

 いやぁ、この状況を先輩に見せてあげる術があったら欲しいわ……

 

 

”そうだ、私が視えるのでしたら最後の願いを聞いてくれませんか……?”

 

「……最後の願い?」

 

”はい、実は……”

 

 

―――

 

――

 

 

 

「ご主人様ぁ~、例の物が届きましたよ!」

 

「――マジで!」

 

 

 除霊スプレーテスターから数日が立った。 私は報酬として少しばかりの恩賞と、新作ゲームのテスト版を受けとる事になった。

 私は意気揚々とソフトを受け取ると、自分の部屋に駆け込んでPCのディスクトレイにセットする。

 

 

「神よ、貴方の職人技を見せてもらいます!」

 

 

 この新作ゲームは、主人公の女の子を操作し襲ってくる霊をかいくぐって謎を解くホラーゲームらしい。 霊を退治するには、私達が前回使用した除霊スプレーを使うという設定らしい。 なんとも職業根性逞しい事だが、私の目的は違う……そう、死しても完成させたかったシステムを確認するためだ!

 

 

「キャラを高速でターンさせて……ぉぉ!」

 

 

 主人公の胸が揺れる! ターンする度に揺れる! 揺れるっ揺れるぞ!

 

 

「これがY(やわらか)O(おっぱい)M(モーション)か……」

 

「ご主人様鼻血が……」

 

「我が人生に、一遍の悔いなし……」

 

 

 これがあの霊が思い残して成仏出来なかった理由。 私は彼から最後のピースを受け取ってこのYOMを完成させたのだ……

 

 

「ご主人様! 天に召すのはまだ早いですよ!」

 

 

―天国のおばちゃん、今日も私は元気です―




―次回予告―

「除霊スプレーの力恐るべし!」

「大久保財閥の化学力は世界一ぃぃ!」

「本当にあそこまでの効果があったのは驚きです。」

「私もびっくりよ、ただの気休め程度だと思ってたのに。」

「退魔士監修とおっしゃっていましたが、一体どこの一族が……」

「さてね、どうせ金に目のくらんだろくでもないとこでしょ。」

「それを言ったらご主人様も……」

「あー! あー! 聞こえませーん!」

「次回、第二十八話 宿命の決闘!雪VS鏡花!」

「え、先輩と決闘するの!?」

「デュエルスタンバイ!」

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