「はーい皆さん、よーこ先生ですよ~! 今回も、先生と楽しくお勉強しましょうね!」
「今回のお題はこれですよ!」
~式神伝ってどんなの?~
「はい、今回本編で登場するゲームの事前説明ですね!
一応本編でも触れていますが、式神伝は、元々帝京歴770年にKONDAIから発売されたTCG(トレーディングカードゲーム)です! これが敷島 秋美先生のプロデビュー作品ですね。」
「帝京歴775年にアーケード版が登場して、一気に広まった感じですね。 帝京歴782年にAR版のロケテがあったらしいのですが、結局はVR版が採用となってアップデートされたそうですよ。 何か問題でもあったのでしょうかねぇ。」
「ゲームのルールとしては、相手のHPを0にすれば勝利! 実にシンプルですが……アクションゲームが得意でも、カードが得意なだけでも勝てないのです!」
「上手く立ち回りながら、魔源(マナ)ゲージを使ってカードを駆使する必要があるのですよ。 なかなか難しそうですねぇ……」
「ではでは、残りは本編でご堪能下さい! みなさん、あでぃおす!」
「今年は演劇をやるって本気なんですか!?」
「勿論本気だ。 去年同様、コピー誌の作成も並行してやってもらうがな。」
「確実に死屍累々な状況になるのは見えてるでしょう……」
いつものように”黒猫”に集まっていた私達は、今年の学祭をどうするかの話し合いをしていた。
――そこで出て来た話が、まさかの演劇だったのだ。
「変化というものは大事だと思わないか? マンネリこそ悪! 常に新しい事に挑戦してこそ人は前に進む事が出来るのだ。」
「――大久保先輩は賛成なんですか?」
「私は衣装作りで楽しめるので賛成ですわ。」
「あぁ、やっぱりそうなるわけね……」
やはりこうなるわけだ……こうなったら、相棒を引き入れて2:2の状態に持ち込むしかない!
「
「なんだと……?」
流石菊梨! 私が合図しなくても合わせてくれるなんて――流石良妻狐!
「愛らしいご主人様を大衆の前に晒すなんて、
「理由はそこかい!?」
「当たり前でしょう!! あ、でも主役なご主人様も見てみたい気も……」
「あぁ、それなんだが……」
羽間先輩は自らのトートーバッグから古びた本を一冊取り出した。
「なんですか、その古本。」
「留美子からの預かり物でな、この物語で是非劇をやって欲しいとお願いされたのだ。」
「えっ……それいつの話ですか!」
「お、落ち着け……3日程前の話だ。 暫く大学に出れないからお願いしたいと言ってな。」
「そっか、元気にしてるなら……」
夏のコミマでの事件で怪我を負い、私の家で養生していたのだが……唐突に置手紙だけ残して失踪してしまった。 それ以降大学にも顔を出さないし、電話も繋がらずメールも返事が返ってこない……
この前現れたのは偽物だったし、ずっと心配していたのだが……先輩と接触したのなら元気なのだろう。
「――留美子と会っていないのか?」
「あぁ、気にしないで下さい! 最近忙しそうだったから心配で!」
「そうか……というわけで、彼女からのお願いで演劇という話になったわけだ。
それともう一つお願いがあってな、雪に主役を演じて欲しいそうだ。」
「わ、私に!?」
「いいですね、
まてまて、どうしてそんな流れになってるの!? 絶対おかしいでしょ!
「さて、多数決で1:4になったわけだ。」
「この圧倒的な戦力差……勝てるわけがない!」
「やはり、平和的に解決というわけにはいかないようだな……」
羽間先輩は椅子から立ち上がると、私を指差して高らかに宣言をした……
「雪、演劇を賭けて私と
「はぁ~!?」
―前回のあらすじ―
大久保先輩からのお仕事で、新製品のテストに駆り出された私と菊梨だったが……そこで遭遇したのはなんとゲーム開発者の霊だった!
彼を成仏されるため、とあるシステムを新作ゲームに搭載する事によって会社での霊障は無事収める事が出来たのであった。
しかしあの開発者、どうやってあそこまで自然な胸揺れを生み出す事が出来たのか……そこだけは未だに謎である!
「はい、これを装着してね。」
私は店長の田辺さんからヘッドマウントディスプレイを受け取った。 それをゆっくりと装着し、器具の電源をオンにする。
何故、どうしてこんな事になってしまったのか……私には分かりません。 もし、貴方がこれを読んでいるのなら真実を……なんてふざけた事を考えている場合ではなかった。
私に与えられた最後のチャンス、演劇を拒否したいなら私に勝てという羽間先輩の言葉だ。
今から私達がやろうとしているのは、”式神伝”と呼ばれる対戦アクションゲームだ。
式神伝は、元々帝京歴770年にKONDAIから発売された
今から3年前の大型アップデートでVR対応となり、更にはスマホ版との連動で集客に大成功している。
もちろん、大久保財閥の傘下なので(以下略
「羽間先輩、私初心者なんで手加減してくださいね。」
「バカ者! 勝負に初心者も熟練者も関係あるか!」
だめだ、この人本気で潰しに来てるぞ……しかも私の編成は、基本的に見た目で選んだ趣味丸出しの組み合わせでそこまで強いわけじゃない。
映し出されている風景が、黒猫から森の中へと変化する。 森林ステージは白虎族にステータスボーナスが入るんだっけか……
「出でよ、我が式神達!」
「式神、降神!」
まずは自分が操作する3体の式神を召喚する。 彼らはHPを共有し、戦闘中好きなタイミングで入れ替わる事が出来るのだ。
「青竜・
「玄武・
――互いに3体の式神が姿を現す。
嵐春と陽炎はディフェンダー、浪花はソーサラーに分類される式神だ。 式神の種類は、アタッカー、ディフェンダー、ソーサラー、ヒーラーの4種類に分かれており、それぞれ得意不得意が決まっている。
アタッカーはディフェンダーに弱く、ディフェンダーはソーサラーに弱い、そしてソーサラーはアタッカーに弱いという三すくみだ。 ヒーラーは特殊で、弱点は無いが攻撃に乏しい性質を持っているが、唯一HPを回復する手段を持っているのだ。
ちなみに、氷冬がヒーラー、灯火がアタッカー、清花がソーサラーだ。
「青竜対玄武の戦いというわけか!」
「羽間先輩、どうしてディフェンダーを2体積んできてるんです?」
「それすら分からないとは……これは私の勝ちで決まりだな。」
セオリーなら、3体の式神の種類は別々にするのだが……何か意図があるという事なのだろう。 正直、私には知らない事が多すぎる。
「とりあえず……やるしかないか!」
『決闘開始!』
――開始宣言と共に動き出したのは、羽間先輩の嵐春だった。
「私は武具カード、ホーリーランスを嵐春に装備させる!」
嵐春は槍を構え、青いポニーテールを揺らしながらこちらに飛び掛かって来た。 しかし、それくらいは私も予測の範囲内だ。
「なら私は――術カード、ブリザードを発動! 相手にダメージを与えて、一定時間攻撃力ダウン状態にする!」
相手が間合いに入る前に即座に術カードを発動する。 更にソーサラーである清花の攻撃は、弱点扱いとなりダメージは1.5倍だ!
「だから甘いのだ――武具カードに
術カード、ペネトレートを発動! これは相手にダメージを与えて術カードを一度だけ無効にする!」
「ちょっと、そんなのありなわけ!」
私は慌てて相手の攻撃をガードさせるが、予想以上のダメージを受けてしまう。 ディフェンダーからの攻撃に耐性を持っているのに何故……
「このペネトレートはな、有利不利攻撃を無視したダメージを与える事が出来るのだ!」
「せこすぎなんですけど!?」
そのまま畳み込むように槍での連撃を繰り返してくる。 ダメージは少ないといえ、ガードし続けても私が勝てる見込みはない。
しかし、こっちにもメリットはある……ダメージを連続で食らうと
「キャラチェンジ氷冬! からの――術カード、誘惑の瞳を発動!」
「何ッ、動けないだと!?」
槍を振るっていた嵐春の動きがピタリと止まる。 誘惑の瞳は、女性キャラ、又は氷冬のみが発動出来る術で、一定時間相手の動きを止める事が出来るのだ!
「そして、キャラチェンジ清花! 術カード、氷の息吹を発動! 相手を凍結状態にし、一定時間防御ダウンとガード不可状態にする!」
全ての条件は揃った! このままフルコンボを受けてもらうっ!
氷の刃で敵を引っ張り、そのまま相手を空中に打ち上げて――切り刻む! 動けないうえに防御ダウン状態という悪魔のコンボである!
「よし、これで1/3まではHPを削れた!」
「ビギナーズラックでいいカードを引けたようだな……しかし、これで終わりにさせてもらう!」
「そう簡単に……」
「キャラチェンジ陽炎! 武具カード、魔槍ゲイボルグを装備させ――宝具カード、
――専用の宝具カードで属性変更!? そのために同じディフェンダーで編成していたのだ!
「勿論知っているだろうな、宝具カードの共通効果を?」
「全ての
「その通り! しかも相性効果で1.5倍のダメージだ!」
まずい、清花の防御力では即死してしまうレベルだ!
「キャラクターチェンジ氷冬! 更に術カード、乙女の祈りを発動! 自身の防御力をアップし、HPを回復する! このカードはヒーラーにしか扱う事は出来ない。」
「生意気な抵抗だな雪っ!?」
二本の槍の攻撃に、氷冬の身体が宙を舞う……自身のHPを確認すると、あと数ミリという所でぎりぎり踏ん張っていた。
「彼女――勝ったね。」
二人の戦いを観戦していた青年が、そう口走る。
「おや、慶介君来てたんだね。」
「たまに顔を出さないと、店長も寂しがるでしょ」
「生意気な事を言うようになったねぇ。」
店長はニヤリと笑うと、青年も笑い返した。
「さあ、決着がつくよ。」
このタイミングで、アレが引ければ……
式神伝のカードドローは、一定時間毎に手札5枚になるよう自動で行われる。 今私の手札は4枚、引ける確率はかなり低い……
「私は――カードを信じる!」
「さあ、止めだ! 術カード、ゼクスシュツルムを発動!」
「……無駄よ!」
「何っ!?」
「宝具カード、受け継がれし力を発動!! このカードは編成に氷冬と清花がいる場合のみ使用可能! この決闘中の間、清花にチェンジ出来なくなる代わりに氷冬を強化し、ヒーラー特性を持ったソーサラーとして扱う!!」
そう、私が唯一持っている宝具カードで、この場を逆転出来る最後の希望だ!
「初心者がなんで宝具カードなんて持っている!? ランク的に入手方法は……」
「そう、私はこのカードを手に入れるためにリセマラしていたのよ!!」
「な、なんという執念!!」
「さあ、これで止めよ!!」
宝具カードの攻撃は絶対回避不可能であり、ガードでダメージを防ぐ事も出来ない。 更にはソーサラーが付加されて相性ダメージボーナスで1.5倍になる!
陽炎は氷冬の魔法を受け、派手に吹き飛んでいく。 いくつもの木々を倒しながら吹き飛んでいき、やがてぐったりと地面に横たわった。
”勝利!”
ディスプレイには、そう大きく文字が表示されていた。
―――
――
―
「いやぁ、なんとかなるもんね!」
「初心者に負けるとは……不覚。」
「流石に私を舐めすぎでしょ! これでもやる時はやるんです!」
「まさか宝具カードまで持っているとは思っていなくてな……それでも勝ちは勝ちだ、選択権は君に委ねるよ。」
――実は私の気持ちは決まっていた。 別にこんな勝負をする必要は無かったけど、これはこれで面白かったからいいかなとは思う。
だから私は、高らかにこう宣言する……
「演劇――やろっか!」
―天国のおばちゃん、今日も私は元気です―
「ねぇねぇ慶介、ちょっと血が騒いだんじゃない?」
「うるさいな、僕だって一人のプレイヤーなんだぞ。」
先程の青年――慶介はコスプレの少女と並んで町を歩いていた。
「昔は慶介も弱っちかったもんね!」
「燐、お前はいつも一言多いぞ!」
「そんなに気にしないでよ~」
「全く、いつも調子がいいなお前は……」
青年は思う、いつか彼女と戦う日が来るのではと……
「今から楽しみだ。」
青年は少女と共に歩いていく――いつか運命が交わる日を信じて。
―次回予告―
「さあ、時は来た……僕が待ち望んだこの戦い!」
「やはり、貴方は……」
「来いよ狐もどき!」
「この姿の時は――少々荒っぽいぞ!」
「次回、第二十九話 最凶の鬼、鬼神 酒呑の恐怖!」
「今、二つの強大な力がぶつかり合う……」