「はーい皆さん、よーこ先生ですよ~! 今回も、先生と楽しくお勉強しましょうね!」
「今回のお題はこれですよ!」
~留美子ちゃんはどこにいるの?~
「う~ん、これは答えられる範囲で答えさせて頂きますね。 正直、私(わたくし)にも詳しくは分からないのです。」
「一応、夏のコミマ事件の後は私達と一緒に家で療養生活を送っていました。 ただ、ある日突然置手紙を残して消えてしまったのです。」
「心配ないから探さないでとの内容だったのですが、裏で色々と動いているようですね。」
「ご主人様の話ですと、そっくりなロボットまで出てきて何やら面倒事に巻き込まれていそうですね……彼女が無事戻るように皆さまも祈っていて下さい!」
「では今回はここまで、皆さんあでぃおす!」
弱肉強食、それはこの世の摂理だ。 弱い者は淘汰され、強い物が生き残る……だから父親が死んだのも仕方ないと思っていた。
父親はかつて酒呑童子として世界中にその名をうたわれた大妖怪であった。 自らの欲を満たすだけに戦い、あらゆる敵を討ち滅ぼしてきた。 僕はそんな父親に憧れ、いつか超える壁として見据えていたのだ。
しかし、父は殺されたのだ! あの二匹の狐もどきの手で!
「僕がこの手で倒すつもりだった……それを,あの二匹が横取りしたんだ。」
「ほぅ、小僧もなかなか大変だったのね。」
「だが、今日でそれも終わる……一匹足りないが、あの狐もどきを倒して僕が最強の妖怪として君臨する!」
「分かってると思うけど――」
「あぁ、例の女は君の物だよ。」
「分かってるなら、あとは好きにしなさいな。」
あぁ、もうすぐだ……この手で奴を――
「ふふっ……あーっはっはっは!」
―前回のあらすじ―
学祭での演劇を賭けて、私と羽間先輩の激しい戦いが繰り広げられた。 しかし! 勝利をもぎ取ったのはこの私、坂本 雪である! 初心者だからって舐めるからこうなるのよ!
まぁ、私が勝利したわけだけど――演劇はやる事に決定した。 ちょっとドキドキだけど、なんとか主役を演じきってみせる!
「天岩戸神話ねぇ……私、神話って詳しくないんだけど菊梨は知ってる?」
「
留美子の持ち込んだ脚本は、
「それでもいいから教えて。」
「えっとですね……確か、
このままではまずいと、その神様をなんとか外に出させようと頑張るお話でしたかね。」
「なんか……現代社会に通じるものがあるわね。」
「あぁ成程……留美子ちゃんがこのお話を選んだ理由が分かったかもしれません。」
「どういう事?」
「このお話に
それに
「ご主人様聞いてます?」
「ごめんごめん、ちゃんと聞いてるよ。 ありがとね菊梨。」
マイナス思考になっちゃだめだ。 きっとこの演劇には留美子のメッセージがあるはずなんだ。 私と会えない状況で唯一伝えられる方法だと信じて……
「――一緒に晩御飯の買い出しに行きます?」
「そうね……私、ハンバーグが食べたいなぁ!」
「では卵も乗せちゃいましょうか!」
これ以上菊梨に心配もかけたくないしね。 私だけが急いでも仕方が無い。
私は外に出かける身支度を整えて玄関に向かう。 最近は暑さもだいぶ落ち着いて来た。
「なんだか、こうやって出かけるのって久しぶりじゃない?」
「そうですねぇ、最近は色々な行事で忙しかったですし。 私も用事があって学校に行かなかった事も多々ありましたからね。」
「また三人で、こうやって楽しくしたいね。」
「いつかまた、その日は来ますよ。」
頭では分かっていても、どうして自分で地雷を踏みに行ってしまう。 ほんと、自分でも嫌になる……
「ねぇ……菊梨はいなくなったりしないよね。」
「当然ですよ! なんと言ってもご主人様の妻なのですからね!」
「ふふっ、そうだったね。」
――悪寒が走ったのは一瞬だった。
「ご主人様下がって!」
「えっ?」
それと同時に私は菊梨に突き飛ばされた。 追い打ちのように吹き荒れた突風が私の身体を塀まで吹き飛ばした。
「見つけたぞ狐もどき!」
「貴方はコミマの時の鬼!?」
鬼の拳を受け、菊梨の足元のコンクリートが沈む。 敵の力がどれだけ強大かを物語っている。
「鬼……」
「まさか、ご主人様を狙って来たのですか!?」
「残念ながら不正解だよ。 まぁ、僕の目的を達したら主の元に連れて帰るけどね!」
再び目に見えぬ速度で拳を振り下ろす。 菊梨は当然のようにその拳の雨を受け流す……それも、私の方に被害がいかないように向きを調整しながらだ。
「そうはさせません! 前回のようにはいきませんよ!」
「そうでないと困るんだよ!」
鬼は回し蹴りを放つが、菊梨はその足を踏み台にして軽くジャンプし、相手の頭を蹴飛ばす。 この攻撃には鬼も反応出来ずに地面を情けなく転げ回る。
「単調な攻撃です。まだまだ青いですよ。」
「くそっ、調子に乗るな!」
鬼は立ち上がり何度も拳を繰り出す――菊梨はまるで子供の相手をするかのように片手でその拳を受け止め始めた。
「何故だ!? 以前はこれほどまで差は無かったはずだ!」
「あの時はご主人様を守りながらでしたからね。 貴方一人に集中出来るなら――」
「――ぐはっ!」
菊梨の右拳が相手の溝内に決まる……鬼は
「大人しく帰りなさい。 そうすれば命までは取りません。」
「僕は……僕はっ!」
勝敗は決定的だった。 あの鬼相手にこの圧倒的までな力の差……改めて菊梨が凄い妖怪だと実感する。 今日ほど味方で良かったと思った日はない。
「菊梨、何か様子がおかしい!」
「僕は酒呑だ! 父、酒呑童子を越える……鬼神酒呑なんだぁぁぁ!!」
「酒呑童子……!?」
私にも分かる、鬼の妖力がどんどん膨れ上がっているのを。 それに合わせて姿も禍々しいものへと変化していく。 美少年の顔は鬼らしい醜悪な顔に、身長は3メートル程まで伸び、手足には鋭い爪を備えていた。 それは正に、鬼と呼ぶべき姿だった。
「ふふっ、そうだ……これが僕本来の力だ!」
「まさか……酒呑童子の子供だったとは。」
「菊梨、知ってるの?」
「
鬼は笑っていた。 それは歓喜の笑顔か、それともこれから行われる宴への期待か……どちらにしろ、私達には非常に危険な状況だ。
「さあ、時は来た……僕が待ち望んだこの戦い!」
「やはり、貴方は……」
「来いよ狐もどき!」
「ご主人様、こうなった以上は
「どういう事よ!?」
「この姿になると、
菊梨の妖力が高まっていく――それは今まで感じた事が無い程強大で、恐ろしくもある力だ。
尾が3本に分かれ、瞳は青く光り輝く。 着物の裾は邪魔にならないように膝上まで破かれた。
「それが父を討ち取った力か!」
「この姿の時は――少々荒っぽいぞ!」
菊梨は大きく踏み出し、酒呑へと向かっていく――
今、二つの強大な力がぶつかり合う……
―to be continued―
―次回予告―
「鬼と妖狐、二大妖怪対決の火蓋が切って落とされた! 果たして死闘の果てにどちらが勝利を掴むのか!?」
「私達人間には踏み込めない領域。」
「ほんとよね……って留美子!?」
「あまてるちゃん、大事なお願いがあるの。」
「久々に出てきて急に何よ!?」
「私と、結婚して。」
「ちょっ、次回予告でなんて事言い出すのよ!」
「冗談。」
「そそそ、そうよね! 冗談だよねぇ!?」
「次回、第三十話 発動、大封印!」
「次回もお楽しみに!」
「お願いしたいのは別の事。」