ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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第三十話 発動、大封印!

「それが父を討ち取った力か!」

 

「この姿の時は――少々荒っぽいぞ!」

 

 

 菊梨は大きく踏み出し、酒呑へと向かっていく――

 

 今、二つの強大な力がぶつかり合う……

 

 

―前回のあらすじ―

 三妖の一人である酒呑の襲撃を受けた私と菊梨。 以前のように防戦一方の展開になると思いきや、菊梨が酒呑を圧倒するのであった。

 しかし、急に力を増した酒呑――それに対抗するために妖狐としての力を解放した菊梨。 圧倒的な力を持つ妖怪同士の戦いが、今始まろうとしていた!

 

 

 

 

 

 一気に酒呑との距離を詰めた菊梨は、相手の腹部目掛けて左の拳を繰り出す。

 

 

「ふむ――無駄に硬いな。」

 

「無駄ぁぁぁ!」

 

 

 腹部に拳を叩き込まれた酒呑は、まるで効いていないかのような顔をしている。 そのまま菊梨の腕を掴み、ぶんぶんと2、3度振り回してから地面に叩きつけた。

 

 

「菊梨っ!」

 

「――全く、乱暴な奴だな。」

 

 

 破片を払いながら何も無かったように菊梨が立ち上がる。 しかし、掴まれていた左腕はあらぬ方向に折れ曲がってる。

 

 

「その腕大丈夫なの!?」

 

「あぁこれか?」

 

 

 ぶらぶらと笑顔で折れた腕を振り回すが、本人は全く痛みを感じていない様子だった。 こう言ってしまうとアレだが、正直まともだとは思えない。

 

 

「ほい――っと。」

 

 

 さも当然のように折れた腕を再生する。 調子を確認するように、握ったり開いたりを繰り返す。

 

 

「流石に素手で戦うのは無理だな。 久々にアレを使うか……」

 

 

 菊梨の右手に妖力が集まっていくのを感じる――私はその現象をよく知っている。 そう、私がいつも使うアレと同じ物だ。

 危険性を感じ取った酒呑は、慌てて菊梨に向かって拳を振り下ろす……

 

 

「丁度いい機会だ。 ご主人、よく見ているがいい――霊剣の使い方をな。」

 

「グガァァァ!!」

 

 

 菊梨が軽く右手を振ると、それと同時に酒呑の拳が停止した。 私にはその原因が見えている……その理由を酒呑は身を以て知る事になる。

 飛び散る血飛沫と何か大きな物が落ちる落下音――それは酒呑の左腕である。

 

 

「これで先程の返礼はしたぞ。」

 

 

 菊梨の右手に握られていたのは刀だった。 私や留美子のように光の剣などではない、実体のある刀なのだ。 それを霊剣と呼んでいいのか私には正直分からない……

 

 

「研ぎ澄まされた力によって形成された霊剣は実体の武具となる。 私の霊剣――狐影丸(こえいまる)はあらゆる妖怪を断つ事が出来る。」

 

「すごい……」

 

「マダダァ!」

 

 

 それでも尚、酒呑は闘志を失わずに菊梨に向かっていく。 しかし、その力は思っていた以上の差であり、最早酒呑に勝ち目はなかった……

 

 

「――哀れだな。」

 

 

 私にはただ酒呑が菊梨の横を素通りしていったようにしか見えなかった――その太刀筋が早すぎて見切れないのだ。

 刹那――手足を失った酒呑が地べたに転がっていた。

 

 

「はっきり言おう、お前は父親より弱かったぞ。」

 

「クソォォォォ!!」

 

 

 鬼が吠える。 自らの弱さを、嘆きを、全てを内包した慟哭。 敵とはいえ、その姿はあまりにも哀れであった。 全く歯が立たず、玩具のように扱われ芋虫のように地べたを這わされているのだ。

 

 

「これで終いに――」

 

 

 ――その瞬間だった。 今にも振り下ろされそうになったいった狐影丸が光の粒子となって霧散したのだ。 それと同時に菊梨の姿がいつもと同じ姿に戻る。

 

 

「菊梨の姿が元に戻ってる?」

 

「そんな、まだ時間切れになるはずが……」

 

 

 いや、普段と同じというには語弊がある。 正確には、普段の姿なのだが極端にその妖力が落ちているのだ。

 

 

「菊梨離れて!」

 

「……っ!?」

 

 

 これを好機と見た酒呑は、物凄い勢いで飛び掛かって菊梨の首筋に噛みついた。

 

 

「こいつ、まだ動けるの!」

 

 

 菊梨は必死に引き剥がそうとするが、体に力が入らないらしく抵抗らしい抵抗を出来ずにいた。

 私は慌てて両手に霊剣(はりせん)を形成し、思いっきり酒呑の頭へと叩き込む。

 

 

「そんなボロボロでまだやろうってわけ?」

 

 

 菊梨から多少妖力を吸収したおかげか、酒呑はパワーアップする前の姿までは再生していた。 あの形態でも私に勝ち目は無いが、ボロボロの状態ならまだ勝機はあるかもしれない。

 

 

「ご主人様下がって、私がなんとか……」

 

「大丈夫、菊梨は休んでて!」

 

 

 彼女にこれ以上無理はさせられない! もう立つ事さえままならない状態の菊梨を戦わせるなんてありえない!

 とは言うものの、どうやって倒せばいいのか見当もつかない。 こんな時――

 

 

「呼んだ?」

 

 

 ――2発の銃声が響く。 間違いない、これは霊銃(レイガン)だ!

 

 

「留美子!」

 

「ごめん、遅くなった。」

 

 

 巫女装束を纏い颯爽と現れた留美子は、手にし勾玉を砕いて簡易的な神域(かむかい)を形成する。 その中に閉じ込められた酒呑は身動きが取れなくなる。

 

 

「これで時間は稼げる。」

 

「留美子、今までどこに行ってたのよ!」

 

「その質問に答える前に、あまてるちゃんにはやって貰いたい事がある。」

 

「やって貰いたい事って……何さ?」

 

「――大封印。」

 

 

 その言葉を聞いて菊梨の顔が青ざめる。

 

 

「留美子ちゃん、それを使う意味を分かっているのですか?」

 

「勿論。 でも、現状を打破するには必要不可欠。」

 

「待って!? その大封印って何がどうなるわけ?」

 

「あの鬼を封印するための術。 今はそれしかない。」

 

 

 菊梨は何かを察したように留美子を一瞥すると、それ以上はもう何も言わなかった。

 訳の分からない私は、その作戦を否定する答えを持ち合わせてはおらず、黙って留美子に従うしかなかった。

 

 

「手を……」

 

「うん。」

 

 

 私は差し出された留美子の手を強く握る。 久々に触れた彼女は、とても暖かかった……

 

 

「その術は――やめろ!?」

 

 

 酒呑は必死に抵抗するが、簡易神域の中でもがくだけで脱出する事は出来ない。

 

 

「目を瞑って、六芒星の陣をイメージして。」

 

「わかった……」

 

「イメージ出来たら、力をあの鬼の足元に収束させる。」

 

 

 手のひらを伝って留美子から私に何かが流れ込んでくる。 それはとても暖かな光のようなもので、流れ込んだ私の身体を満たしていく。

 

 

「怖がらないで、私を受け入れて。」

 

「留美子……」

 

 

 大丈夫、怖くなんてないよ。 だって私は――ずっと貴女を信じているのだから。

 

 

「僕は、もう二度と封印なんてされたくないんだぁぁぁぁ!!」

 

『大封印!』

 

 

 収束させた力を一気に解き放つ……イメージした六芒星の陣が酒呑の足元に現れて、その身体を少しずつ飲み込んでいく。

 

 

「いやだ、いやだぁぁ!!」

 

「未来永劫、後悔しながら過ごしなさい!」

 

「助けて、助けてよ父さん!?」

 

 

 やがて酒呑の身体は、完全に飲み込まれて消滅した――

 

 

「勝った……の?」

 

「うん、あまてるちゃんの勝ちだよ。」

 

「あは、あはは……」

 

 

 一気に力が抜けて、私はその場にペタリと座り込んでしまった。 今更死への恐怖が全身を駆け巡り、涙が瞳から溢れ出た。

 そんな私をなだめるように、留美子は優しく私の身体を抱いて背中を擦ってくれた。

 

 

「心配かけて……ごめん。」

 

「本当にその通りよ……ばか留美子。」

 

「あまてるちゃん、ごめんなさい……」

 

 

 少女達が抱き合う中、空に輝く星が一つ――その輝きを失った。

 

 

―天国のおばちゃん、今日も私は元気です―




―次回予告―

「これでやっと3人揃ったわね!」

「ご迷惑お掛けしました。」

「よし、罰として我が家で毎日皿洗いをする事!」

「そのくらいは朝飯前。 罰じゃなくてもいくらでもやる。」

「あれ、これもしかして罰になってない?」

「次回は、しばらく出番の無かった私がメインの話。」

「次回、第三十一話 留美子のスカウト奮闘記」

「次回もお楽しみに。」

「スカウトって……貴女何やってたわけ?」

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