ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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教えて、よーこ先生!


「はーい皆さん、よーこ先生ですよ~! 今回も、先生と楽しくお勉強しましょうね!」

「今回のお題はこれですよ!」


~羽川一族って何者なの?~


「はーい、first lineのメインヒロイン、羽川翔子ちゃんについてのお話になりますね。」

「そもそも羽川家は、秋奈町に孤児院を経営しているのです。 実は翔子ちゃんって孤児なのですよ。」

「なので翔子ちゃんが妖怪を見る事が出来る力があるのは謎なんですねぇ。 もしかしたら、両親のどちらかが退魔士の血が流れていたのかもしれませんね。」

「どうやらご主人様のおばちゃんである、坂本 妙さんとも交流があったようですね。 今の家を建築する際に、神域を組み込む事を依頼していたようです。 うーん、謎が謎を呼びますね。」

「娘の秋子ちゃんにもその力はばっちり受け継がれてるようですが……彼女の強さって明らかにそれだけじゃないですよね?」

「では今回はここまで、皆さんあでぃおす!」


第三十一話 留美子のスカウト奮闘記

「ちょっと、あの坊や――やられちゃったみたいよ。」

 

「……」

 

「ちょっと、聞いてるの玄徳?」

 

「予定通りだ。」

 

 

 そう言うと、玄徳は大封印の光に背を向けて歩いて行く。

 

 

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 

 

 薫も慌てて後を追うが、玄徳がその歩幅を緩める事はなかった。 その間、罵倒を浴びせ続けるが玄徳は顔色一つ変えなかった。

 

 

「全てお告げの通りか……」

 

 

 彼が唯一紡いだ言葉は、自身に言い聞かせるような小さな呟きだった。

 

 

―前回のあらすじ―

 ついに、菊梨の怒りが限界を超えた……! その姿は、正にスーパー菊梨と呼ぶべき圧倒的な存在感であった! 彼女の圧倒的なパワー! それこそ妖怪が持つ絶対的な破壊の力! そう、彼女こそ――破壊の女神なのだ!

 その力の前には、真の力を解放した酒呑も赤子同然! しかしっ! 止めを刺す前にまさかの時間切れに!? そこは主人公である私が、なんとかするという王道展開によって戦いに幕が閉じるのであった。

 ご主人様、なんか(わたくし)の説明がおかしくありませんか……?

 

 

 

 

 

 私は今、とある場所へとやって来ていた。 そこは以前に、あまてるちゃんと共にやって来た羽川 翔子の家である。

 何故私がここにいるのか、それを今から語ろうと思う。 あまてるちゃんの家を抜け出してから今日までの物語を……

 

 

「……」

 

 

 呼び鈴を押して数十秒、全く人が出てくる気配がない。 私はもう一度呼び鈴を押してみるが、やはり反応がなかった。

 しかし引き下がるわけにもいかないので、私は呼び鈴を連打する作戦へと変更した。

 

 

「うっさいわボケっ!」

 

「やっと出て来た。」

 

 

 玄関から飛び出してきたのは羽川 翔子の娘、秋子だ。 彼女こそが私の目的である。

 

 

「アンタ、その右腕どうしたわけ?」

 

「妖怪にやられた。」

 

「――妖怪と戦ってるって本気(マジ)で言ってたのか。 で、何用でここに来たわけ? 正直、お母さんが疲れて寝てるから帰って欲しいんだけど。」

 

「前にも言った、貴女を勧誘しに来た。」

 

 

 大きな音を立てて玄関の扉が閉じられた――今日はダメそうなので明日にしよう。

 

 

「アンタ、また来たわけ?」

 

「まずは話を聞いて。」

 

 

 次の日、再び私は羽川家を訪れていた。 秋子は相変わらず私を警戒している様子だが、これは彼女にしか頼めない事なのだ。

 

 

「話は聞いてもいいけど、それにイエスと答える確率は0に近いから。」

 

「それでもいい。」

 

「仕方ないな、中入りなさいよ。」

 

 

 やっと家の中へと通される。 何故強硬手段で潜入しないのかというと、この家には強力な神域が張られており、私でもそれを突破するのは不可能だからだ。

 そして恐らく、この神域を作ったのは、あまてるちゃんのおばちゃん――坂本 妙であるだろうと予想している。 なんというか、製作者の癖のようなものが現れているのだ。 それに、翔子と妙が接点があった事も調べがついている。

 

 

「じゃ、聞かせてもらおっか。 勧誘話ってやつを。」

 

「長くなるよ。」

 

 

 座布団に正座で座り、私は大きく深呼吸をした。

 

 

「まず最初に言うけど、この勧誘は組織へのじゃない。 私個人からのお願い。」

 

「へぇ、そうなんだ。」

 

「そもそも、私は組織を裏切ろうとしてるからね。」

 

 

 秋子は盛大にオレンジジュースを噴出した。 思いっきり私の顔に吹きかけられたので、テーブルに置いてあったおしぼりで顔をふき取った。

 

 

「いや、それテーブル雑巾……って流石に今のは冗談だよね?」

 

「もちろん本気。」

 

「そういうのって外部に漏らしていいわけ? ほら、私が情報漏らしたりなんて事考えないの?」

 

「それは絶対にない。 信じてるから。」

 

 

 秋子は呆れたと言わんばかりに頭を抱えたが、私は気にせず言葉を続ける。

 

 

「直球で言う、私の仲間になって欲しい。」

 

「ぷっ……ただの女子高生を仲間に? それで組織に反抗して戦うっていうの? ――流石に笑えない。」

 

「貴女は自分の潜在能力を理解してない。 鍛え方次第では私よりも強くなれる。」

 

「ふーん、じゃあアンタが私を鍛えてくれるわけか。」

 

「勿論。 ただしそれは仲間になるって条件を飲んだ場合。」

 

「……もう少し考えさせて。」

 

 

 その日はこれで引き下がった。

 それ以降、私は毎日羽川家に足を運んだ。 雨の日も風の日も、彼女が首を縦に振るまで何度も何度も……

 周りからは無駄な行為に見えるかもしれない。 それでも、私の希望は彼女にしか無いのだ。 私があまてるちゃんを通して視てしまった未来、それを変えるためには彼女の力が絶対に必要なのだ。

 

 

「アンタもしつこいわね、どうしてそこまでするわけ?」

 

「助けたい人がいるから。」

 

「――恋人とか?」

 

「もっと大事で、愛おしい人……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 ――沈黙が場を支配する。 その静寂は、時間が止まってしまったかのように錯覚させる程だった。

 

 

「あぁ、もう! 分かったわよ!」

 

 

 ついに彼女が折れた。 私の根気勝ちというべきか? 流石に2週間もぶっ続けに来られては諦めるしかなかっただろうが。

 

 

「交渉成立。」

 

「どこが交渉なのさ! アンタしつこすぎるのよ!」

 

「これも交渉術の一種。」

 

「怖いわぁ……」

 

 

 それからはひたすら彼女に稽古を付け続けた。 私の見立て通り、彼女は驚くべき速度でその才能を開花させた。 組織のデータベースにも載っていなかったその力の強さ、切り札とするにはベストな存在である。 あとは……

 

 

―――

 

――

 

 

 

「よしっ、私の勝ち!」

 

「――完敗。」

 

 

 ついに私は彼女に敗北した。 模擬戦とはいえ私も本気でやっていた。 それ程彼女の成長は恐ろしいのだ。

 

 

「どうよ師匠? これなら組織の奴らも返り討ちに出来るね!」

 

「油断は禁物、組織には私より強い退魔士はいっぱいいる。」

 

「分かってるって! 一緒なら絶対勝てる!」

 

「……そうね。」

 

 

 彼女の仕上げはなんとか間に合った。 後は……

 

 

「今日はここまで。 続きはまた明日で。」

 

「うん、またね師匠!」

 

 

 待ってて、あまてるちゃん――必ず私が運命を変えてみせるから。

 私は拳を握りしめて自分に誓った。 少し怖いけれど、あまてるちゃんのためならなんでもすると決めたから……

 

 そして今、私はあまてるちゃんと共に大妖怪である鬼神 酒呑の封印に成功したのだ。 例えそれが大きな代償を支払うものだったとしても……後悔なんて微塵もない。 今はただ、あまてるちゃんの温もりを感じていたい。

 

 私の顔を見てあまてるちゃんが心配そうに語りかけてくる。 私はいつものように、なんでもないと言って顔を赤らめながら首を横に振る。 こんなさりげないやり取りが、私の決心を鈍らせようとしてくる。

 しかし、この感情に流されてはいけない。 本当に彼女を愛しているならば、私は心を鬼にして耐えなければならないのだ。 決心が鈍らないように、心を凍らせて――

 

 

「おかえり、留美子。」

 

 

 それでも彼女は優しくて、抑えていた感情が溢れ出てくる。 私の心の氷を溶かして、優しく包み込んでくるのだ。

 でも、それではダメなのだ! それでは同じ結末を迎えてしまう――最悪の未来に繋がってしまう!

 

 

「あまてるちゃん……」

 

「ほんと、心配ばっかりかけるんだから!」

 

「――ごめんなさい。」

 

 

 でも、でもっ……!

 感情が体内で渦巻き、頭の中がぐるぐると回っている。 答えは分かっているのに、彼女の全てが私を惑わしてくる。 決心を揺らがせる……

 

 

「さあ、帰ってご飯にしよ?」

 

「……」

 

 

 私は――頷いてしまった。 また、彼女の優しさに甘えてしまった。 まだもう少しならと、そんな甘えが判断を鈍らせてしまった。

 

 どうせ、迎える結末は同じだというのに……

 

 

「ごめんね、あまてるちゃん。」

 

「いい加減謝り過ぎ。 私はいつもの留美子でいてくれる方が好きよ。」

 

「――わかった。」

 

 

 星空の下、三人で仲良く手を繋いで歩く帰り道。 こんな当たり前の日常を、私達はずっと求めていたのかもしれない。

 それは私の叶わない願い、望んではいけない未来。 でも今は、少しの間でいいから――この幸せを噛みしめていたかった。

 

 遠くない未来に訪れる、その日まで……

 

 

―――

 

――

 

 

 

「あの鬼小僧、ほ~んと使えないわね。 もっと役に立つかと思ってたのに。」

 

 

 一人の少女は、キャンパスと対面しながらそんな事を口走った。 表情は明らかに不機嫌であり、まるで玩具を壊してしまって機嫌を損ねたかのようだった。

 

 

「もういいわ、私自ら彼女をご招待する事にするわ――薫っ! しっかり準備しておくのよ!」

 

「お望みのままに、主様。」

 

「うふふ、楽しみだなぁ~ 雪お姉ちゃんはどんな表情を私に見せてくれるのかしら。」

 

 

 そう言って彼女は筆を置いた――そこには、苦悶の表情を浮かべた女性が描かれていた。

 

 

「あ、”抜け殻”は好きにしていいわよ薫。 その娘あんまり美味しくなかったわ。」

 

 

 ――少女がアトリエを後にすると、部屋には女性の断末魔が響いていた。




―次回予告―

「あら、読者の皆様ごきげんよう。 私は染野 艷千香と申します。 次なる物語では、皆様を私のアトリエをご招待しましょう。」

「貴女、コミマの時の幼女じゃない!」

「お久しぶりね。 会いたかったわ雪お姉ちゃん。」

「――なんで私の名前を知ってるわけ?」

「勿論、お姉ちゃんも私のアトリエにご招待するよ。 最高のおもてなしをしてあげる。」

「次回、第三十二話 染野 艷千香の誘い。」

「なんだろう、嫌な予感しかしない……」

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