ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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教えて、よーこ先生!


「はーい、皆さんこんにちは! 今回もばしばし皆さんの質問に答えていきますね!」

「今回のお題はこれです!」


~染野 艷千香って何者なの?~


「う~ん、中々際どい所突いてきましたね。 私(わたくし)も詳しくはないので――カモン助手!」

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん。」

「とても棒読みですが……まぁいいでしょう。 ではお願いしますね。」

「私が調べたデータによると――彼女は元八咫烏所属の退魔士。 元々退魔士としての家系だったが、近年は血の薄まりによる能力低下でついに廃業したらしい。」

「では、染野 艷千香の力はとても弱いという事ですか?」

「彼女が八咫烏を辞めたのは私が生まれる前、資料も抹消されて記録は辿れない。 ただ、染野の血筋は特殊な術を行使していたらしい。」

「全く、一番大事な箇所を調べられてないじゃないですか!」

「――意図的に消されてたのかもね。」

「では、あとは本人を問い質すしかありませんね。」

「拷問なら任せて。」

「こらこら、そういう物騒な物は仕舞って下さいな……では今回はここまで、皆さんあでぃおす!」

「またね。」


第三十二話 染野 艷千香の誘い 前編

「あぁ、天照様を岩戸から連れ戻すにはどうしたよいのだ!」

 

「私(わたくし)にお任せ下さい! 必ずや天照様を連れ戻し、世界に太陽を取り戻してみせます!」

 

 

 ――今日も学祭に向けての練習が行われていた。 皆、演劇は初めてだと言っていたのだが――こうやって観客側になって眺めていると、なかなかの名演技なのではないかと感じる。 逆に、主役である私が素人すぎて浮いてしまうのではという不安が頭をよぎる程だ。

 

 

「皆すごいね。」

 

 

 横に座っていた留美子が口を開く。 その声はか細く、意識しないと聞き逃してしまう程だった。

 

 

「ほんとね。 私、主役やる自信ないわぁ~」

 

「……あまてるちゃんなら大丈夫。」

 

 

 元々欠席予定だった留美子に役はない。 そもそも、本人にその気がないようだった。 彼女が戻ってきた事を知った先輩達も誘ったのだが、留美子は頑なに演劇への参加を断った。

 

 

「留美子も出てくれれば安心なんだけどなぁ?」

 

「ごめん、無理。」

 

「なんでそこまで断るのよ。」

 

 

 この問いも何度目だろうか? 決まって彼女の反応は――首を横に振るだけなのだ。 そして、その理由も答えてはくれない。

 

 

「どうでしたかご主人様!?」

 

「うん、凄い演技だったよ。」

 

 

 タイミング悪く、菊梨が体育館の壇上から飛び降りてこちらに駆け寄ってきた。 こちらの悩みなんて知らずに無邪気な笑顔を私に向けている。

 留美子はパイプ椅子から立ち上がると、一人体育館の出口へと歩み出した。

 

 

「あれ、留美子どこいくの?」

 

「弟子の稽古がある。」

 

「夕飯までには帰ってくるのよ!」

 

「――わかった。」

 

 

 なんというか、戻って来た留美子は昔の留美子に戻ってしまった感じだ。 私とは一定の距離を保ち、ただ忠実に任務を全うしていたあの頃の留美子に……

 

 

―前回のあらすじ―

 来るべき日に向けて私は行動を開始した。 最善の未来へ到達するための鍵――羽川秋子を懐柔する事に成功。 彼女の信頼を勝ち取り、私は彼女の師匠となった。 彼女を強くする事で、必ずあまてるちゃんにとってプラスとなるはずだ。

 問題は、私が知った未来とあまてるちゃんが見た未来とでは大きな差があるという事だ。 正確には、私の方がより正確に更に先を知ってしまったという事か。

 だからこそ急がなければならない――残り時間にあまり猶予はない。

 

 

 

 

 

「菊梨の気配も妖力も感じない……っと。」

 

 

 前後左右、上空よし! 妖力、霊力反応よーし!

 何故こんな挙動不審な状態で道を歩いているのか――これには深い理由がある。

 

 

”絶対にダメです!”

 

 

 たまたま綺羅 廻の展覧会の招待券が当選したのだが、菊梨に行く事を反対されてしまったのだ。

 彼女の絵を先日のコミマで初めて知ったのだが、すっかり彼女の画風に魅了されてしまった。 なんというか、彼女の絵からはとても生を感じるのだ。 それこそ、まるで絵が今にも動き出しそうなくらいにだ。 まぁ、何故女性の裸の絵ばかりなのかという疑問もあるわけだが。

 

 

「そんなわけで、菊梨の追跡を逃れて会場までやってきた雪ちゃんなのでした。」

 

 

 特に誰かに話しかけたわけではないのであしからず。 こういうのは――そう、ノリってやつよ!

 

 目の前に聳え立っているのはゾンビゲーにでも出てきそうな洋館だった。 どうやら自分の家で展覧会を開催しているらしく、それだけでお金持ちだと匂わせてくる。

 私は冬用のコートを整えて銀の格子門の前へと近づく。

 

 

「……招待状は?」

 

「どうぞ。」

 

 

 ローブを深く被った不愛想な門番に招待券を渡すと、門番は無言のまま格子門を開いた。 レンガの導くままに進んで行くと、ファンタジー映画に出てきそうな大きな門が私の前に立ちはだかった。

 

 

「ようこそおいで下さいました、貴女様が一番最初のお客様でございます。」

 

 

 少女の声が響くと同時に、ゆっくりと大きな門が開かれていく――広がる景色はまるでお城の舞踏会会場だ。 エントランスに立つのは一人の少女、私はその姿に見覚えがあった。

 

 

「貴女は確かコミマで!?」

 

「いらっしゃいお姉ちゃん。 私が綺羅 廻よ。」

 

「うそっ、貴女が?」

 

 

 滅多に顔を出さないとは聞いていたが、確か年齢は28歳だったはずだ。 目の前にいる少女はどう見ても小学生くらいにしか見えない!

 

 

「みーんなお姉ちゃんと同じ反応をするのよね。 こんな小娘じゃ誰も大人は相手にしてくれない。」

 

「それで年齢を偽って活動しているわけね……」

 

「そういう社会だってお姉ちゃんも分かってるでしょ?」

 

 

 そう言うと廻は私の夏コミ本を見せつけてきた。

 

 

「それって私の新作!?」

 

「興味があったから読ませてもらったのよ。 まだまだ発展途上だけど――私は好きね。」

 

「本当ですか!?」

 

 

 やはりプロの人に褒められるというのはとても嬉しい。 先任者からの支援があればデビューもしやすいだろうし、このまま彼女と仲良くなれば私の未来も……!

 

 

「さてと、一番最初のお客様だもの――丁重にご案内しなきゃね。」

 

「宜しくお願いします!」

 

 

 案内係のメイドさんに先導されながら洋館の中を進んで行く。 彼女の作品である絵が、廊下や食堂等のあらゆる場所に飾られている。 なんというか、展覧会というよりはお家訪問になっているような気がする。

 

 

「あら、不思議そうな顔をしてるのね?」

 

「なんというか、展覧会っぽくないなぁって。」

 

「常識に囚われない、というのが私の信条なの。 作品というのは日常生活に溶け込んでこそだと私は思うのよ!」

 

 

 鼻高々に語る少女、なんだかそのギャップに可愛いなと思ってしまう。 しかし、日常生活に溶け込むと言っても……私のような一般市民にとってはこの屋敷自体非日常にカテゴライズされてしまうわけだが。

 

 

「ここがお嬢様のアトリエにございます。」

 

「ここも広いなぁ~」

 

 

 広い部屋にはキャンパス等の画材が置かれ、恐らくは被写体が立つであろう、ちょっとした台座まで用意してあった。

 

 

「折角だから、サービスでお姉ちゃんを描いてあげようか?」

 

「是非お願いします!」

 

 

 断る理由なんてなかった。 私は二つ返事で了承すると、廻はニコリと妖艶な笑みを浮かべた。

 

 

「薫、私は作業に入るから掃除は任せたわよ。」

 

「――わかりました。」

 

 

 メイドさんは私のコートを受け取ると、ごゆっくりと言って部屋を出て行った。

 

 

「えっと……やっぱり服って脱がなきゃですか?」

 

「分かってるじゃない、私はヌードしか描かないのよ。」

 

 

 あぁやっぱり、予想はしていたけどこうなるのね。 まぁ同性だし気にする事もないか……

 私は特に意識する事もなく、衣服を脱ぎ去って用意されている籠の中に入れた。

 

 

「じゃあ――始めましょうか。」

 

 

 ――廻は舌なめずりをして筆を構えた。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「たっだいまぁ!」

 

「――ご主人様?」

 

 

 私を出迎えた菊梨は鬼の形相になっていた。 彼女がここまで怒るのは滅多な事でもない限りありえない。 何をそこまで警戒する必要があったのだろうか?

 

 

「ご、ごめん。 結局行ってきちゃった。」

 

「知っています、ずっと見張ってましたので。」

 

 

 上手く巻いたと思ったんだけどなぁ、やっぱり菊梨の方が上手だったか。 そこはやはり経験の差ってやつなのだろうか?

 

 

「でもでも! 何も無かったでしょ!? 菊梨が心配しすぎなんだって!」

 

「……そうですね。 確かにご主人様が裸になっただけで何もありませんでしたね。」

 

「菊梨さーん? 顔が引きつってますよ?」

 

「浮気は甲斐性と言いますが……ご主人様には少しきついお仕置きが必要ですね。」

 

 

 あぁ、これはやばい……俗に言う人を殺しそうな笑顔ってやつだ。 しかも物理的に殺されるやつだよこれ。

 反転――私は自分の部屋へと駆け出す。

 

 

「お待ちなさい!」

 

「待てと言われて待つ馬鹿はいません!!」

 

 

 私は自分の部屋に滑り込むと、覚えたての神域を扉の前に展開する。 菊梨が何かを叫びながら扉を叩き続けるがそれは無駄な行為だと言わざるおえない。

 

 

「――待ってた。」

 

「ちょっ、なんで留美子が私の部屋にいるのよ?」

 

 

 電気を点いてない私の部屋から感じる留美子の気配――目を凝らして確認する前に私はベッドへと押し倒されていた。

 

 

「……留美子?」

 

「他の女にあまてるちゃんの肌を晒すなんて許せない。」

 

 

 やばい、留美子は留美子で別なスイッチが入っているようだ。 この場合は殺られるではなく――犯られる方である。

 

 

「とりあえず、落ち着いて話を……」

 

「消毒しなきゃ、あの女の匂い全部私が塗りつぶす。」

 

 

 留美子は慣れた手つきで私の衣服を剥ぎ取っていく……やはり何度経験してもこの感覚は慣れない。

 

 

「渡さない、誰にも……私だけのあまてるちゃん!」

 

「いやぁぁぁ!」

 

 

―――

 

――

 

 

 

「なんて凄い霊力……! 筆を動かす度に絶頂しちゃうわぁ!」

 

 

 少女は無心に筆を振るっていた。 しかし、それは芸術でもあり――淫靡な行為でもあった。

 ――少女は確かに発情していたのだ。 頬を赤らめ、熱い吐息を吐き、左手は自らの秘部をかき回す。 それでも尚、筆を動かす事をやめてはいなかった。

 

 

「そうよ! 私はずっと貴女のような逸材を探していたの!」

 

 

 少女の足元は透明な液体が水たまりを作り、アトリエ中に淫らな香りを充満させている。

 そんな彼女が描くのは一人の女性だった。 手足を蜘蛛の糸に囚われ、その瞳には涙を浮かべている。

 

 

「最高よお姉ちゃん! 他の使い捨てとは違う、貴女はずっと私のお気に入りとして飼ってあげる。」

 

 

 囚われているのは女性は――坂本 雪であった。

 

 

「うふふ……あははははははは!!!」

 

 

 彼女は大声で笑いながら大きくのけ反り――もう一度絶頂した。

 

 

―to be continued―




―次回予告―

「囚われたご主人様、果たして彼女の運命はいかに!?」

「あまてるちゃんを助けるのは私。」

「いいえ、私(わたくし)に決まっています!」

「私。」

「私(わたくし)です!」

「この二人、協力って考えはないわけ? というわけで次回! 第三十三話 染野 艷千香の誘い 後編」

「秋子、出しゃばらないで。」

「そうですよ!」

「こういうとこでは息が合うわけね……じゃあ次回もお楽しみに!」

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