ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

38 / 87
教えて、よーこ先生!


「はーい皆さんこんにちは! 皆大好き、教えて、よーこ先生のお時間ですよ!」

「助手のルーミーです。」

「今回も、ビシッ! っとみんなの質問に答えていきますよ! ではでは行きましょう!」


~墜落事故って何が起きたの?~


「さてさて、前回のお話ですね! 私(わたくし)も分かる範囲でお答えします!」

「11代目天皇、安部玄徳を乗せた旅客機が墜落、乗組員含め全員が死亡した悲惨な事故。」

「しかも事故原因は不明で、死体すら残っていなかったそうですよ。」

「だから墜落場所の忌影山に慰霊碑が建てられた。」

「まぁ、皆さんも予想はついてるでしょうが――悪いのは全て安倍晴明です!」

「晴明シスベシ。」

「悪は必ず滅びるのです!」

「今回はここまで、次回はこのコーナーはお休みです。」

「ではでは、第四章でまたお会いしましょう! では、皆さんあでぃおす!」

「――さよなら。」


第三十五話 嵐を呼ぶぜ、波乱の学祭!

「うんまい!」

 

 

 私は出店で買ったたこ焼きを次々と口の中へと頬張っていく。

 

 

「そこまでがっつかなくても、おっしゃって頂ければ(わたくし)がお作りしましたのに。」

 

「分かってないわねぇ! こういうのは出店で食べるチープな感じがいいのよ!」

 

「そ、そうなのですか……」

 

「菊梨もまだまだ分かってないわね!」

 

 

 劇の開演はお昼からのため、私と菊梨は構内の露店を回っていた。

 当然、田舎育ちの私にとって出店は切っても切り離せない存在だ。

 

 

「祭り荒らしの実力を見せてあげるわよ!」

 

「それ、具体的に何するんです?」

 

「当然、食いまくり、景品を取りまくるのだ!!」

 

「――ですよね。」

 

 

 さて、次の狙いはっと……

 私は射的屋に滑り込み、店員の人にお金を渡す。 構内の出店で射的なんて用意した奴は間違いなく――頭がおかいしと断言できる。

 

 

「この重さ――昔を思い出すぜ。」

 

「何、元傭兵みたいな雰囲気を醸し出してるんですか。」

 

「まぁ見ていたまえ……」

 

 

 狙いは正面、巨大クマのぬいぐるみの眉間だ!

 しっかりと照準を合わせ、左手には即コルク装填出来るように指に挟んでおく。

 

 

「ファイヤ!」

 

 

 目にも止まらぬ速さの三点射――コルクは狙い通りぬいぐるみへと直撃する。 その衝撃でぬいぐるみは大きく揺れ、そのまま地面に落ちた。

 

 

「任務――完了。」

 

「なんだい、やるじゃないか嬢ちゃん。」

 

 

 この聞き覚えのある声――まさか雌ゴリラ!?

 

 

「ご主人様、今失礼な事考えてません?」

 

「ないないない! お久しぶりです、エレーナさんにマリーちゃんも!」

 

「最近店に顔出さないから心配していたぞ。」

 

「色々忙しくて。 これでも学生ですし?」

 

「まぁ、本業を頑張っているならそれでいい!」

 

 

 いやまぁ、久々に見たけどどえらい筋肉ですな。 どこまで鍛えれば女性でもこんな肉体になれるんですかねぇ?

 

 

「でも、今日はどうして?」

 

「店員は娘みたいなもんだからね! 様子を見に来たってわけさ。」

 

「成程、じゃあ、優希のあの惨劇を見ていって下さいよ。」

 

 

 私が指差した先を全員の視線が集中する。 そこに書かれた看板はメイド喫茶と大きく書いてあった。

 

 

「なんだい、普段の仕事と変わらないじゃないか。」

 

「それだけならいいですけどね、また竜也さんが暴れてて仕事にならないそうで。」

 

 

 少し離れた場所にいるはずが、ここまで竜也さんの声が聞こえてくる。

 

”優希の撮影は有料でーす!”

 

”握手は別料金! 支払いは俺まで!!”

 

 

 なんであの人は商売をしているのだろうか――困った優希の顔が目に浮かぶ。

 

 

「ありゃぁ、アタシよりぼったくりだな。」

 

「世の中こんなもんですよ、店長さん。」

 

「さてと、そろそろ時間ですよご主人様。」

 

「――ほんとだ! じゃあ私達はそろそろ演劇の時間なので見てってくださいね!」

 

 

 ついにこの日が来たのだ! あとはやれる事をやるだけだ!

 

 

―前回のあらすじ―

 演劇の気分転換のため、忌影山へとピクニックに向かった私達。 しかし、それは羽間先輩の陰謀で――目的はただの勉強会だった!

 それが蓋を開けてみれば羽間先輩の過去語りが始まって、何故か私は怪しい記憶に翻弄されてしまう! というかこれ、本当に私の記憶なの? どうしてあの晴明が一緒にいたわけよ!?

 どんなに考えても答えは出ないし、真実は本人を問い質すしかなさそうね……

 

 

 

 

 

 さあ、幕が上がる時が来た!

 私は大きく深呼吸して息を整える。 人の視線を浴びるのなんてコスプレする時に体験してるではないか。 怯える事も、緊張する事もなく、いつも通りにスイッチを切り替えるだけでいい。

 

 

「この物語は、人間が生まれるずっとずっと前――神話の時代の出来事でございます。」

 

 

 スポットライトに照らされた留美子が台本を読み上げる。 会場は静まり返り、皆が注目していた。

 

 

「神々は宇宙を作り、星を作り――そして、大陸をお造りなられました。

 次に神々が始めたのは、生命の創造です。」

 

 

 ――潮騒が会場に響き渡る。 それに合わせて、留美子を照らすスポットライトが徐々に光を弱めていく。

 

 

「これは、そんな神々の苦悩の時代の物語です――」

 

 

 スポットライトが消え、ゆっくりと幕が上がっていく。 ステージに立つのは私一人――覚悟はいつでも出来ている! さぁ、見てなさいよ!

 完全に幕が上がりきるのに合わせて、一斉に私へとスポットライトが当てられる。 当然、それに合わせて観客の視線も一気に集中するわけだが。

 

 

「妾の名は天照大御神(あまてらすおおみかみ)、この高天原で一番偉い神様じゃ!」

 

 

 なるべく偉そうな感じで天照を演じる。 若干やりすぎくらいがきっと丁度いい、そんな気がする。

 私は3歩程前に踏み出すと、両手を掲げて大声で天照を演じる。

 

 

「妾は太陽の神! 妾無くして生命の発展はありえぬ!」

 

「天照様!」

 

「おぉ、それ程までに血相を変えてどうしたのじゃ?」

 

 

 大久保先輩が私の前で跪いて頭を垂れる。 そういう立場という設定だから仕方ないのだが――少々快感を覚える自分もいる。

 

 

「それが、また佐之男命(すさのをのみこと)様お暴れに!」

 

「またか――田んぼの(あぜ)の破壊等やらかしたばかりだろうに!」

 

「今度は馬の皮を逆剥(さかは)ぎにしたと……」

 

「あやつはいつもいつも、この姉に後始末させおって!」

 

 

 床をドン、と一度大きく足踏みして、私は舞台の脇へと歩いていく。

 

 

「天照様!?」

 

「妾はもう知らん! 後は勝手にするがよい!」

 

 

 舞台の照明とスポットライトが消え、脇にいる留美子に再びスポットライトが当たる。

 

 

「こうして、佐之男命の行為に怒った天照は天岩戸(あまのいわと)と呼ばれる洞窟にお隠れになりました。

 ――太陽の神様がお隠れになると世の中は真っ暗になり、他の神々は頭を抱える事となります。」

 

 

 その間に舞台は大忙しだ。 今の内にセットを変え、登場人物達が待機する。 台詞が終わる前に配置完了をさせなければならないのだ。

 再び舞台が照らし出される。 そこには羽間先輩と大久保先輩が待機している。

 

 

「どうしましょう思金神(おもいかね)様。 世界は闇に覆われ、このままでは全ての生命は死に絶えてしまうでしょう。」

 

「ふむ、僕の計算によれば――半年も立たずに作物は枯れてしまうだろう。」

 

 

 羽間先輩は眼鏡を右手中指で押し上げてドヤ顔を決める。 なかなか決まってるよ思金神様!

 

 

「そうなっては非常にまずい。 しかし、天照様も意固地なお方だ――普通に説得したのでは絶対に天岩戸から出てくる事はないでしょう。 そこで――」

 

(わたくし)の出番ですわ!」

 

 

 そう、このタイミングで盛大に高台から舞台に着地する。 そのアグレッシブな動きに観客から声が上がる。 そりゃそうよ、だって人間じゃないんだから……あれくらいの動きは余裕なわけで。

 

 

天鈿女命(あめのうずめのみこと)様!」

 

「待っていたよ、うずめ。」

 

「あまてるちゃんの事なら(わたくし)に全てお任せを! 必ず引きずり出してみせますわ!」

 

「よし、では皆で宴の準備をするのだ!」

 

 

 再び幕がゆっくりと下がり、明かりが消される。 そして始まるセットの大移動……

 

 

「思金神の作戦はこうです。 天岩戸の前でどんちゃん騒ぎを行い、気になって覗いて来た時を狙ってうずめに確保させるというものです。 非常に原始的ですが、これが一番確実だと彼は確信していたのです。」

 

 

 舞台裏の移動中、菊梨が急に足を止めた。

 

 

「どうしたの?」

 

「――ご主人様、気づきませんか?」

 

「ん――これって、そうだよね?」

 

 

 その辺の雑魚妖怪とは比べ物にならない妖力。 恐らくは三妖の最後の生き残りだろう。

 

 

「こんな時に、ほんと空気読んで欲しいんだけど。」

 

「でも、動く気配はなさそうですね。」

 

「その方が好都合、演劇が終わってからぼこってやるわよ!」

 

 

「――こうして計画は実行され、天岩戸の前で宴が行われた。 皆、飲めや歌えやでバカ騒ぎを始めたのです。」

 

 

 留美子に当たったスポットライトが消え、今度は舞台に立っている菊梨へと当たる。

 

 

「はぁい皆さん! 今日はサービスですよ?」

 

 

 その衣装は踊り子というだけあって、かなり露出の高いものだった。 彼女が舞う度に白いシルクの布生地が流れ、そのたわわに実った果実が大きく跳ねる。

 その一つ一つの動作が、欲情を煽る動きだ。 実際、会場の男子連中の目がやばいのは遠目からでも分かる。

 

 

「ほーら、あまてるちゃ~ん。 早く出てこないと、(わたくし)が殿方の毒牙にかかってしまいますわよ?」

 

「――外では何をやっているのじゃ? やけに騒がしいが……」

 

「ほ~らほ~ら!」

 

 

 腰をくねらせ胸を揺らせば、汗が会場へと飛び散る。

 

 

「ちょっと! うずめの奴何してるわけ!?」

 

 

 さて、そろそろラストシーンだ。 あとは菊梨が鏡で私を――

 

 

「ついに耐えかねた天照は、扉を少しだけ開いて外を覗いてしまったのです。」

 

 

 ――菊梨はこの瞬間を狙っていた。 最後のナレーションが終わると同時に動く事を予想していたのだ。 留美子は必ずあの妖怪を倒しに行くと。

 

 

「留美子ちゃん、最後の告白――頑張りなさい。」

 

「――えっ?」

 

 

 菊梨は会場の暗さを利用して、自分の衣装を留美子へを着せて、代わりに留美子の私服を自分に纏った。

 

 

「後悔が無いようにやりなさい? 貴女の本音を――ね?」

 

「……」

 

 

 それは、同じ者を好いた者達にしか分からないのかもしれない。 それでも確かに、留美子へとそれは伝わっていたのだ。

 彼女は覚悟を決めたように、舞台へと上がった。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「ごめんなさい、お待たせさせてしまったみたいで。」

 

「――狐の方が来たのか。 てっきり猿女の娘が来ると思ったぞ。」

 

 

 菊梨を待ち受けていたのは、あの大男だった。 三妖唯一の生き残りであり、彼らの中で一番の異色の存在。

 

 

「貴方こそ、何故自分を殺した男に協力するんです――安倍玄徳さん?」

 

 

 一瞬、玄徳と呼ばれた男の瞳の奥が輝いて見えたが、すぐに陰ってしまった。

 

 

「この身は無理矢理目覚めさせられたモノ、自らの意思で行動する事は出来んよ。」

 

「まぁ、そうでしょうね……」

 

 

 菊梨は一瞬悲しそうな表情を浮かべるが、すぐに彼を睨む事で誤魔化した。

 

 

「それを言うならお前こそ、何故そこまで奴のデザイナーベイビーを守ろうとする?」

 

「あら、野暮な事をお聞きになるのですね!」

 

「デザイナーベイビーが完成すれば全ての理は書き換えられ、奴は神となる。 それはお前を知っているだろう?」

 

「えぇ、知っていますとも。」

 

「では何故だ? 同族への憐みか?」

 

「はぁ……これだから殿方は嫌なのです。」

 

 

 菊梨の周囲を強大な妖力が渦巻き始める。 あまりの力に、玄徳は身動き一つする事は出来ない。

 

 

「答えは簡単、かつシンプルなものです!」

 

 

 菊梨が狐影丸を天に掲げると、周りの風景が変質する。 いや、風景を書き換えているわけではない、これは彼女が結界を形成しているのだ。 彼女にとっての世界を――

 

 

「それは――私がご主人を愛しているからだ!」

 

 

 チリンっと澄んだ鈴の音が響き渡る。 辺りは山々が連なり、無限のように連なる朱色の鳥居。 その鳥居の一つに彼女は佇んでいた。

 

 

「三尾状態(モード)、俗に言う100%中の100%というやつだ。」

 

「――美しいな。」

 

 

 それは正に神に仕える者の佇まい。 装束を纏い、鶴の刺繍を施した千早を纏い、耳付近には赤いリボンと小さな神楽鈴があしらってあった。

 狐影丸の鍔にも神楽鈴が取付られ、それは戦う者の佇まいというよりは、神に舞を捧げる演者だ。

 

 

「毎度毎度、変身の度に服を破ってはご主人に申し訳ないのでな。 大久保の協力で昔の衣装を再現してみたのだ。」

 

「まさに、伝説の通りだな。 最強の退魔士――大西 菊梨よ。」

 

「案ずるな、苦痛も無いままあの世に還してやる。」

 

 

 再び、神楽鈴が澄んだ音色を響かせた。 その音が鳴り止んだ頃には、玄徳という存在は天へと還った後であった。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「あまてるちゃん!」

 

「えっ!? る――」

 

 

 ちょっと待った、なんで留美子がうずめの衣装で登場してるわけ!? こんなの台本にないじゃない!

 留美子――うずめは天岩戸の中へと転がり込んできた。 タイミングを読んだように、スポットライトは私達二人を照らし出す。

 

 

「聞いて、あまてるちゃん。」

 

 

 留美子は私の両手をしっかりと握り、こちらを真っすぐと見つめてくる。

 

 

「あまてるちゃんがここから出たくないなら――それでもいいよ。 私はあまてるちゃんの願いは何でも叶えてあげたい。 世界が滅べって思うならこのまま二人で最後を迎えてもいい。」

 

「えっ、何を言って……?」

 

「むしろその方がいい! あまてるちゃんを私だけのものにしたいの!」

 

 

 まった! このシーンってこんな展開じゃないでしょ? なんで急にアドリブなんて入れてくるわけ!

 

 

「そ、それは――どういう意味じゃ?」

 

「だから――私はあまてるちゃんと結婚したいの。 独占したいのよ!」

 

「ちょっ!?」

 

 

 会場からも歓声が上がる。 これは完全に一部の性癖の人を狙ってやってますよね? 君達~ここは落ち着こうよ!

 

 

「あまてるちゃんの答えを聞くまで、私は何でも言うよ! 私はあまてるちゃんが好き! 世界中で誰よりも愛してるの!」

 

「えっ……え?」

 

「愛してる愛してる愛してる~!!」

 

 

 覚悟を決めろ私――ここは言い切るしかない。 ここで逃げたら末代までの恥だ。

 

 

「妾も――愛しているぞ!」

 

「あまてるちゃん愛してる!!」

 

「妾もだぁ!」

 

 

 あぁ、これってこんなエンディングだったっけかな……?

 でもこれが、留美子の答えなんだよね?

 

 

―天国のおばちゃん、今日も私は元気です―




―次回予告―

「どうでしたか私(わたくし)の新衣装! 興奮しすぎてここにまで掲載しちゃいました!」

「はいはい分かりましたよ……」

「私とあまてるちゃんの近くに来ないで。」

「待って、どうしてこんな事になってるんです?」

「自分で譲っておいてそれはないよねぇ?」

「うん、ないね。」

「私(わたくし)だってご主人様を愛しているのですよ!?」

「――分かってる。」

「次回 第三十六話 猿女 留美子の消失」

「これが、最期だから……」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。