「ふむ、悪くない茶じゃ。 お嬢さん、お替りをおくれ。」
『誰だこの爺さん!?』
そのお爺さんは、まるで最初からそこにいたかのように正座しながらお茶を飲んでいたのだ。
しかし注目するのはそこではない、その異様な頭部の形状だ。 人間とは思えない異常に伸びた後頭部、それはとある妖怪に酷似していた。
「どうぞ、お茶のお替りですよ。」
「すまないなお嬢さん。」
「もしかして、ぬらりひょん……?」
妖怪ぬらりひょん。 勝手に人の家に入り、茶や煙草を自分の家のようにふるまう。 少々風変りな迷惑妖怪だ。
だからこそ、ここに現れた意味も理由も特にないのだろう――そういう妖怪なわけだし。
「いかにも。 ここの婆さんとは飲み仲間でな、亡くなってからもつい来てしまうんじゃよ。」
「そうだったんだ……」
ぬらりひょんが口にしたのは意外な言葉だった。 まさかあのおばちゃんが妖怪と仲良くしていたなんて。
私の記憶にあるおばちゃんは、必要以上に妖怪は退治しないものの、自分から歩み寄るような人ではなかった。
「おおそうじゃ、お主が雪ちゃんじゃろ?」
「そ、そうだけど?」
「生前に預かった手紙があってな、お主に会う事があったら渡してくれと頼まれていた。」
そう言うと、懐から茶封筒を取り出して私に手渡してきた。 状態的にそこまで古い物ではなさそうだが……
「おばちゃんからの手紙って、一体なんだろ。」
私は慎重に中から1通の手紙を取り出す。 一呼吸置いてから、私はその手紙を読み始める。
「拝啓、お元気ですか? 私は間違いなく元気ではありませんね。 この手紙を友であるぬらりひょんに託した時点で死期を察しているからです――」
” 貴女が今この手紙を読んでいるという事は、何かしらの目的――自身の記憶や過去について調べるために帰省したのでしょう。
貴女が望む情報全てを確かに私は知っています。 しかし、それを伝えるために試練を受けて頂きます。
見事、三つの試練を乗り越えて鍵を手に入れなさい。 そうすれば、真実の扉は開かれます。”
「三つの試練……?」
「それを乗り越えれば、ご主人様の記憶が分かるのですね。」
手紙はそれで終わっており、肝心の試練の内容は書かれていなかった。 一体この情報だけで、何をどうすればいいのやら。
「あぁ、マジで何から始めればいいのよ……」
その時、私のスマホが唐突に震え出す。 私は上着のポケットからスマホを取り出して画面を確認する――そこには羽間先輩の名前が表示されていた。
私は通話ボタンを押してスマホを耳に当てた。
「はいもしもし、坂本ですけど。」
「雪ちゃん、急に連絡してごめんなさいね。」
何故か聞こえてきたのは大久保先輩の声だった。
「どうしましたか?」
「今、鏡花ちゃんと一緒に駅のホームにいるのですが、道案内をお願いしたくて。」
「えっと――それはどういう意味で?」
「今二人で陸奥町のホームにいるんです。」
「成程ね――ってぇえええ!!」
どうやら、もう一波乱起こりそうです。
―前回のあらすじ―
カラオケに向かう途中、我々は恐ろしい者と接触してしまった。お分かりいただけただろうか? 車の窓から見える恐ろしい老婆の形相が…… 一体どのような思いでこの世を去ったら、あのような形相になるのだろうか。 それとも、自身を見つけて欲しいという自己アピールだとでも、言うのだろうか……?
という前置きはこれくらいにして――山神さんと無事に和解、二度とターボばあさんは現れる事はありませんでしたとさ!
さてさて、ぬらりひょんの登場で動き出した物語――何が起こるのやら!? ご期待下さい!
「わざわざ迎えて来てもらってすまないな。」
「二人共ありがとね。」
電話での話通り、駅で2人の先輩が待っていた。
「ふむ、その後ろの子は?」
「坂本 愛子っす! 雪姉ぇがいつもお世話になってるっす!」
「あらあら、可愛いわね……食べちゃいたいわ。」
大久保先輩のただならぬ気配を察知した愛子は私の背後に隠れてしまった。
そこに気づくとは、我が妹ながら鋭いではないか。 こやつは可愛い生き物にロックオンしたら、着せ替え人形として遊び倒す危険人物なのだから。
「おいおい葵、あまり怖がらせるなよ。」
「あら、怖がらせるつまりはありませんわよ?」
「はぁ……それで、先輩達はどうして青森まで来たんです?」
私の質問を聞くと、羽間先輩は頭を抱えてうなだれた。 逆に大久保先輩は待ってましたとばかりに目を輝かせてこちらを見ている。
「実はですね、私が鏡花ちゃんにお願いしましたの。 一緒に初日の出が見たいと!」
「私は正直乗り気ではなかったんだが、葵がどうしてもと聞かなくてね。」
「まぁ、確かに恐山からならよく見えますよね。」
「そういうわけですので、丁度帰省なさってる雪ちゃんにお願いすればいいかなと。」
完全に行き当たりばったりじゃないですか、やだもう!!
この後いいように使われるのは目に見えていた。 しかし、こちらとてただの暇人というわけではないのだ。 これから三つの課題の正体を調べなければならないという、非常に大事な使命があるのだから。
「私だって暇なわけじゃ――」
「じゃあ、雪姉ぇの家に案内しちゃえば? 部屋余ってるっしょ?」
どうしてそういういらない情報を出すかなこの子は!? 私が忙しい事だって分かってるでしょ!
私は思いっきり抗議したい衝動に駆られたが、先輩二人の前でそんな事を言い出すわけにもいかず、言葉を飲み込むしかなかった。
しかし、ここでひとつ妙案が浮かんだ。 どうせ家に連れて行くなら大掃除をやらせてしまえばいいのではないかと。
「――先輩達も泊まる宿なんて決めてませんよね? 我が家なら部屋も開いてますしどうぞ来てください。」
「それは助かるな、ありがとう。」
「雪ちゃんの家――楽しみですわね。」
「ただ、大掃除がまだ終わってないんで手伝ってくれると嬉しいなぁ~って。」
「それくらいならお安い御用だ。」
よっし、交渉成功! これで家の作業を放置出来る!
「ではでは、先輩二名様ご案内~」
「あぁ、宜しく頼むよ。」
―――
――
―
「ここは――地獄だ。」
埃にまみれた暗黒空間――まぁただの蔵なんだけど、私達はこの魔界の掃除をやっていた。 とは言いつつ、私は掃除よりも調べものをしている状態だが。
「古臭い書物ばっかりで、怪しいのはないわね。」
「ご主人様、こういうものは動かした形跡がある場所を探すものですよ?」
「成程、おばちゃんがヒントを残したなら動かした形跡があるってわけね。」
闇雲に探すよりもその方が効率がいいのは間違いない。 私は蔵を全体的に見て回るが、特に違和感のある場所は見当たらない。
ふと、棚に置いてある箱に目がいった。
「あれ、この箱ってどこかで見た事あるなぁ……」
確かこれは割と最近――
”こんにちわ、コンコン急便です。”
「そうだ、これって菊梨が入ってた箱に似てるんだ。」
菊梨が入っていた箱に比べ、少々古ぼけてはいるが確かに同じ箱だった。 しかし、菊梨のとは違って掘ってある字はしっかりと読み取る事が出来る。
「ご主人様、何か見つかりましたか?」
「大西 雪……?」
「それは……」
「ねぇ菊梨、この箱って菊梨の箱に似てないかな?」
「そうですか? 昔はこんな感じの箱いっぱいありましたけどね。」
「う~ん、私と同じ名前――何か意味があるのかな。」
大西、どこかで聞いた事があるような苗字だけど――どこだったかな?
頭の片隅で引っかかってはいるのだが、どうしても出てこない。 しかし、そうなると自身と関係あるのではという考えに至る。
「とりあえずこの箱は確保しておこうか。」
「――そうですね。」
「雪姉ぇ! マジヤバなのが出て来た!!」
蔵の奥から愛子の声が聞こえてくる。 確か愛子は先輩達と一緒に掃除要員として動いていたはずだが……
私と菊梨は慌てて蔵の奥へと進む。 三人は奇妙にも、何かの木箱を囲むように立っていた。
「どうしたの愛子?」
「これはマジヤバい、冗談抜きで。」
そう言って木箱を指差した。 四方15センチ程の正方形の古びた木箱がそこにはあった。 なんというか、独特の禍々しい気を放っている感じがする。
よく観察すると、箱の上に茶封筒が置いてある。
「もしかしてこれって――」
私は茶封筒を手に取って中身を確認する――中には予想通り手紙が1通入っていた。
私はすぐに手紙を開いて文章を読み始めた。
「よくこの手紙を見つける事が出来た。 これより試練をお前に課そう……
ここにあるのは”コトリバコ”と呼ばれる呪具、しかも最上級のハッカイと呼ばれる物だ。
見事これを浄化してみせよ……」
「マジで冗談レベルの話じゃないじゃん。」
愛子どころか菊梨ですら顔が青ざめいた。
「コトリバコ……」
遂に、第一の試練が始まったのだ。
――続く!
―次回予告―
「三つの試練編、ついに始まりましたね!」
「一体どんな試練が待っているのやら……」
「最初からいきなりクライマックスですけどね!」
「コトリバコってそんなヤバイの?」
「そうですね、一族根絶やしにしちゃうヤバいやつです。」
「ガチのやつじゃん……」
「これをどうにかするのはかなり骨が折れますよ。」
「はぁ、頭痛くなってきた。」
「次回、第四十一話 恐怖、コトリバコの呪い!」
「見てくれなきゃ呪っちゃうゾ!」