ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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第四十一話 恐怖、コトリバコの呪い!

―前回のあらすじ―

 ぬらりひょんから受け取ったおばちゃんの手紙、そこに書かれていたのは私に三つの試練を課すという内容だった。 しかし、試練の詳細は書かれておらず、ヒントを求めて合流した二人の先輩と共に家の蔵を掃除する事になった。

 そこで私達は、とんでもないモノに遭遇する事になったのだ……

 

 

 

 

 

「よくこの手紙を見つける事が出来た。 これより試練をお前に課そう……

 ここにあるのは”コトリバコ”と呼ばれる呪具、しかも最上級のハッカイと呼ばれる物だ。

 見事これを浄化してみせよ……」

 

「マジで冗談レベルの話じゃないじゃん。」

 

 

 愛子どころか菊梨ですら顔が青ざめいた。

 

 

「コトリバコ……」

 

「よく知らないけど、危険な物だっていうのは分かる。」

 

 

 皆が箱に注目する中、大久保先輩が突然フラついて倒れそうになる。 タイミング良く羽間先輩がキャッチして床に激突する事は回避する。

 

 

「少々当てられすぎたようだ。 彼女は私が部屋に連れて行くよ。」

 

「――はい、お願いします。」

 

 

 羽間先輩は大久保先輩をお姫様抱っこで抱えると、蔵の出口に向かって歩き出した。 その立ち姿はまるで慣れているかのような貫禄があった。

 

 

「……」

 

「雪姉ぇ、流石にコトリバコをこのままにしておくのはヤバイ。」

 

「それなんだけどさ、コトリバコって何なの?」

 

「あぁ、やっぱりそこからなんだ……」

 

 

 愛子は予想通りとばかりに頭を抱えながらそう答える。 一呼吸置くと、自身で確かめるかのように説明を始める。

 

 

「子取り箱はかなりヤバ目の呪具なんだ。 しかも使い方は至ってシンプル、呪いたい相手に贈物として送り付けるだけ。 これで相手の一族を根絶やしに出来る便利アイテムってやつ。」

 

「何その頭おかしいチートアイテム。」

 

「ちなみに材料は子供の体の一部、しかもこれハッカイって事は8人の子供を犠牲にしてる。」

 

「――絶対に中身見たくないわ。 で、対抗策はないわけ?」

 

「知らない……」

 

 

 さて、どれだけ危険な代物かは理解出来たけど――問題はどう対処するかだよねぇ。

 とりあえずの対処方法を思い浮かべ、そのまま口にする。

 

 

「プランA どこかの湖に沈めるかどこかに埋める。」

 

「無理無理、周囲に数百年呪いをまき散らすような代物だし。」

 

「プランB 菊梨のパワーでぶち壊す。」

 

「破壊自体は可能ですが、それと同時に呪いが拡散してしまいますね。」

 

「ブランC わからん!!」

 

 

 一瞬で場の空気が凍ったのを肌で感じた。

 いやぁ、今日も冷えますな……

 

 

「――こういうのは神域に封じ込めるのがセオリーじゃん。」

 

「ご主人様ももう少し学習なさってください。」

 

「なんでこんなに責められなきゃないのよ! 私が普通の学生だって忘れてません!?」

 

 

 しかし二人からの返答はない。 あるのは冷ややかな視線だけである。

 どう考えても私の方が正論言ってると思うんだけどなぁ……

 

 

「兎に角! 神域の形成をするための準備っしょ!」

 

「幸い、退魔士のお家でしたら必要な物は簡単に集まりそうですね。」

 

「あの~私は何をすればいいでしょうか?」

 

「ご主人様はお留守番です。」

 

「そうですかい……」

 

 

 ある程度予想通りの展開になりつつあるが、私は平静を装って二人に手を振って見送った。

 逆に考えるんだ、このままサボれると。

 

 

「さてさて、暫く付き合ってあげますよコトリバコさん。」

 

 

―――

 

――

 

 

 

「なんだい、私の仕事がそんなに気になるのかい?」

 

「違う、どうしてそんな面倒な事をしてるのか疑問なだけ。」

 

 

 ――これはまた懐かしい場面だ。 どうやら待ち疲れた私は眠ってしまったらしい。今目の前に広がるのは、私が体験した出来事――つまりは過去のお話だ。

 確かこれは、おばちゃんが依頼品を浄化しようとした時だったか?

 

 

「私ならその呪ごと消滅させる。」

 

「まぁ確かにその方が簡単ね。 でも、供養してやるって思いも大事なんだよ。」

 

「呪いをかけた側をもか? それは自業自得だ。」

 

「でもね、そうなってしまう理由っていうのは必ず存在するものなのさ。」

 

「――よく分からない。」

 

「大丈夫、これから少しづつ学んでいけばいい。 そうすれば理解出来るようになる。」

 

 

 そう言って若い頃のおばちゃんは小さな手鏡を取り出した。 それを陣の中央に置き、その上に水晶を重ねて置く。

 

 

「ふむ……」

 

「長年大事に扱った代物には強い霊力が蓄積される。 それを利用して強力な神域を形成するの。」

 

「その中で浄化するわけか。」

 

「その通り、これが私の仕事だよ。」

 

「……」

 

 

 そっか、私って昔は何も知らなかったんだなぁ~

 

”ナゼシラナイ?”

 

 昔から奔放で、今と変わらないような性格だと――

 

”オマエハ、ナゼカワッタ?”

 

 

「――変われるだろうか?」

 

「大丈夫だよ、雪……」

 

 

”オマエハ、カワッタノデハナク、ワスレタダケダ”

 

 

――

 

 

 

「いっつぅ……」

 

 

 後頭部がズキズキと痛む……まるで思いっきり殴られたかのような痛さだ。

 痛みの部分を手で触れてみるが、特に外傷は見つからない。 そうなると内部からの痛みという事になるが……

 

 

「昔の夢なんて見たせいか、それともこのコトリバコが傍にあるせいか。」

 

 

 まぁ圧倒的に後者であろう。 こんな危険な呪具の目の前でうたた寝かますような大物は、間違いなくこの世に私一人であろうと自負できる。 普通なら自殺行為レベルである。

 私はゆっくりと立ち上がって周囲を見渡すが、菊梨と愛子が戻って来たような気配は感じない。 瞳を閉じて意識を集中させると、家の方から強大な妖力とそこそこの霊力を感じ取れた。 どうやらまだ中で探し物をしているらしい。

 

 

「長年大事に扱った代物には強い霊力が蓄積される……か。」

 

 

 ――それはちょっとした気まぐれだ。 ただ、夢に見た事を少し試してみたいなぁという小さな好奇心である。

 

 

「私にとってはコレかな。」

 

 

 髪留めのゴムに指をかけ、一気に引っ張って取り外す。 それと同時に、縛られていた長い髪が解放される。

 私はそのゴムをコトリバコの上に置いて目を瞑る。

 

 

「陣とか全く分からないけど、まぁなんとかなるでしょ。」

 

 

 左腕をコトリバコに掲げて意識を集中させる。 それと同時にチリチリとした嫌な感覚が周囲にまとわりついている事に気づいた。

 

 

「大丈夫、酷い事はしないから。 貴方達を解放したいだけ。」

 

 

 それは語り掛けるように、もしくは自分に言い聞かせるようにつぶやく。

 この子達に罪はない。 無理矢理呪具の材料にされてしまった可哀想な子供達なのだ――出来るなら私の力で解放してあげたい。

 

”イマノ、オマエニデキルノカ?”

 

 ――再び後頭部への痛み。 ソレが言葉だと徐々に認識してくる。

 

 

”チカラをフルエバ、モウモドレヌゾ?”

 

「戻れない……? 今更そんな事いわれてもねぇ!」

 

 

 左手の薬指が熱い……まるで熱を持ったかのように菊梨の指輪から確かな熱さを感じる。

 その熱は形を成し、まるで私を抱きしめるように広がっていく。

 

 

「私はね! やるって決めたらやる女なのよ!」

 

”知ってるよ”

 

 

 最後に聞こえたのは、どこか懐かしいような声だった。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「――おはようございました。」

 

「何か言い訳する事はございますか?」

 

「ありませぇぇん!!」

 

 

 私が目を覚ましたのは、その日の夜中であった。 どうやら儀式の最中に気を失ってしまったようで、菊梨に部屋まで運ばれたらしい。

 

 

「全く! 勝手に一人で浄化作業を始めるなんて予想外です!」

 

「でも失敗しちゃったら意味無いでしょ。」

 

「何をおっしゃいますやら、(わたくし)達が蔵へ戻った時には神域の形成は出来ておりましたよ。」

 

「うそ、まじで?」

 

「わざわざ嘘をつく理由はございませんが?」

 

「いえい! やったね!」

 

 

 いやぁ、今回は雪さん大活躍だったのではないでしょうか!? なんと言っても一人で一つ目の難題をクリアしちゃったんですよ?

 

 

「ご主人様、何か調子に乗ってません?」

 

「ナンノコトヤラ!」

 

「課題はあと二つあるのですから、調子に乗るのは全てクリアしてからにして下さいまし!」

 

「ご、ごめんって!」

 

 

 少しくらい褒めてくれてもいいのに……

 

 

「こほん! しかし、ご主人様の成長を感じたのは間違いありませんし――流石は(わたくし)のご主人様です。」

 

「でしょー!」

 

「というわけで――本日は邪魔もいませんし、しっぽりねっとりと巡りめく官能の世界に二人っきりで!」

 

「――おやすみ。」

 

「あぁん、ご主人様のいけず……」

 

 

 そういえば、あの声は一体誰だったのだろうか……




―次回予告―

「一人で試練クリアとか凄いでしょ!?」

「流石雪姉ぇ! 私達の出来ない事を平然とやってのける! そこに痺れる憧れるぅ!」

「良いぞ! もっと褒め称えるがいい!」

「調子に乗って、次の試練で何かあっても私(わたくし)は知りませんよ。」

「嫌ねぇ菊梨ちゃん、そんな事言わずにさ~」

「でしたら今夜、夜伽のお相手を……」

「あ、そういうのは無しで。」

「なんでですか!」

「これ、健全作品なんだぜ?」

「……」

「さ、さてと! 次回、第四十二話 その竹刀で怨念を断て!」

「妖怪ファイト! レディ~ゴー!」

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