ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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第五十一話 内に秘めた思いの引き金

 私はお茶を静かに啜りながら、目の前に座る留美子と瓜二つの少女を見つめていた。

 細かい仕草や言動、どれをとっても私のよく知る姿と同じで、まるで留美子が帰ってきたかのような錯覚に陥る。しかし、目の前にいるのは留美子模した機械人形(オートマタ)、彼女本人ではないのだ。

 

 

「はい師匠、お茶です」

 

「私には必要ない」

 

「折角入れて来たんだから、そんな事言わずに!」

 

 

 あの後、私達は一度腰を据えて話をするために羽川邸へとやってきた。ここならば強力な神域(かむかい)の中で邪魔される事も盗聴される危険性も無い。何よりも、留美自身がこの場所を指定してきた。この事に意味があるのか、それとも──

 

 

「──しょうがないから飲んであげる」

 

「やったね!」

 

 

 秋子は満面の笑みを浮かべると、留美の身体にぎゅっと抱きついた。抱きつかれた本人は何事も無かったかのようにすまし顔のままである。

 菊梨は相変わらず留美を警戒しているのか、私でもきついくらいの妖力を放出し続けている。つまりそれは、いつでも三尾状態へと変身出来る事を意味している。

 そんな菊梨を制し、留美に向き直る。ここには遊びに来たわけじゃない、彼女と交渉するために来たのだ。

 

 

「──そろそろ、本題に入ってもいいかな?」

 

「もちろん」

 

「じゃあまず、貴女を私達が信用出来る証を立ててもらうわよ」

 

「いいわ、私の知る限り全ての情報を教えてあげる」

 

 

 留美は躊躇する様子もなく、淡々と語り始める。

 

 

「貴女達が必要な情報、それは晴明に関する事よね?」

 

「その通りよ」

 

 

 彼女はあえて"マスター"ではなく、"晴明"と呼んだ。果たして、その事に意味があるのだろうか? 

 

 

「記憶を取り戻したのなら、奴の目的は知ってるはず」

 

「神を生み出すとかいう頭おかしい研究でしょ? で、その実験体の一人が私と」

 

「その通り、そしてその実験の結果二人の成功体が生み出された。それが貴女と榛名優希。互いに神の血筋を意図的に継承されたデザイナーベイビー」

 

「つまり腹違いの兄弟みたいなもの?」

 

「そんな生易しいものじゃない。橘家の存在は知ってる?」

 

 

 橘家というワードに、菊梨の表情が一気に変わった。放出された妖気に混ざり、明らかな殺気が部屋中に立ち込める。当然、この場にいる全員の空気が凍りつく。

 

 

「知らないけど?」

 

「大西と橘は言わば表と裏、同一の存在でありながら橘を秘匿するために大西が存在している。つまり、貴女と優希は本当に兄弟と呼べる存在」

 

「そんなの初耳なんだけど、菊梨は何か知ってる?」

 

「──橘家は安倍家と同じく神の血筋を受け継ぐ一族。私達大西家は、橘家を神域(かむかい)へ隔離しお守りする義務がある。ご主人様が知らないのは大西家にいた事が無いせいですね」

 

「まぁ、研究所生まれだからね」

 

「そこに目をつけた晴明は、橘の血筋を手に入れるためにある事件を起こした。それが、帝京歴772年の大西家惨殺事件」

 

「……」

 

「表向きは退魔師の家系である大西家を復讐のために妖怪が襲った事になっている、しかし真相は晴明による虐殺だった。邪魔な一族を皆殺しにし、貴女の母親である大西恵と橘家当主である橘瑠璃を確保した」

 

「待って下さいまし!? それは間違いないのですか!」

 

「そう、間違いなく貴女の知っている"橘瑠璃"、現存する二人の九尾の内の一人」

 

 

 九尾……? 橘瑠璃って人間じゃないの? 

 

 

「奴は最強の妖怪である九尾への対抗策を持っている。その力を手に入れるためだったらどんな事にでも手を出す。実際、当時身重だった橘瑠璃は弱体化してはいたが、手を抜いてはいなかった。しかし結果は、彼女は惨敗し晴明の手に堕ちた」

 

「なんのためにそんな……」

 

「彼女の(はら)で神の子を生み出させるため──そのために、彼女のお腹の子を殺したの。奴は何の罪悪感も無く実行出来る男だから」

 

 

 元からまともじゃないとは思っていたが、まさかここまでだったなんて……

 菊梨は驚きの表情で固まり。秋子は俯いて表情が読み取れない。唯一私だけが、無表情のまま留美の顔を見つめていた。

 

 

「でも、榛名優希は覚醒の兆候を見せていない。だからこそ晴明は貴女に注目しているの」

 

「それで私を生け捕りってわけか……」

 

「でも、羽間鏡花は違う。アイツは復讐のために貴女を殺そうとしている。だから私は貴女を守らなければならない」

 

「──命令だから?」

 

「違う、私自身の意思」

 

 

 その言葉を発した留美は、とても機械人形(オートマタ)とは思えなかった。機械だと言うなら、何故自分の判断で行動しているのだろうか? 

 

 

「貴女は、本当に留美子じゃないの?」

 

「違う、留美子はもう死んだ。この世界のどこにもいない。それは一番貴女がよく知っているはず」

 

「──言われなくても分かってる」

 

「私から話せる事はこれで全て、他に質問は?」

 

 

 私含め皆が静かに頷くと、留美は立ち上がった。

 

 

「心配ならいつでも後ろから斬ってくれて構わない」

 

「そんな心配してないわ」

 

 

 たとえ偽りの関係だとしても、今この瞬間一緒に肩を並べられるだけでも……

 そう考えながら私は留美を見つめたが、返ってきたのは何も映さない虚ろな視線だけだった。

 

 

 ──―

 

 ──

 

 ―

 

 

 遊園地のゲートを潜ると、目の前には大きな城が聳え立っていた。大久保財閥で建築中の新テーマパーク、ここが羽間先輩の指定してきた場所だった。

 先頭には留美が立ち、私と菊梨がその後ろを付いていく形だ。

 

 

「あの女の事だから、確実に罠を仕掛けてるはず。注意してついて来て」

 

「でも羽間先輩が大久保先輩を人質にするなんて……」

 

 

 二人の関係が親密な事は知っていた。最初の頃は仲の良い親友ぐらいにしか見ていなかったが、留美子や菊梨との出会いが影響して私にもやっと理解出来た──あれは友情ではなく愛情なのだと。

 だからこそ、わざわざ人質にする意味も分からない。もしそれが真実だとしたら、羽間先輩は利用するためだけに大久保先輩に近づいた事になる。

 本当にそうだとしたら、私は絶対に羽間先輩を許せない。人の好意を踏みにじるなんて……! 

 

 

「アイツはそういう女、貴女を殺すためならなんだってする」

 

「なら、今までの先輩は全部嘘だったって事?」

 

「その通り、ずっとこの機会を狙っていたのよ」

 

 

 大きな城の中に入った私達を出迎えたのは、鏡が張り巡らされた迷路だった。どうやらここを突破しなければ、奥へと進めない構造になっているようだ。

 

 

「菊梨、この鏡壊して進めないかな?」

 

(わたくし)もそう考えたのですが、この鏡は少々厄介ですね」

 

「厄介?」

 

「どうやら神域(かむかい)の亜種、同じ原理で生み出した物のようです」

 

「──ここまで大それた仕掛けをしてくるとは、余程邪魔をしたいらしい」

 

 

 そう言うのが早いか、留美は霊剣を抜き放ち構えていた。私が状況を理解出来ずにきょとんとしていると、菊梨は私を庇うように前へと躍り出た。

 

 

「ご主人様、どうやらここで私達を潰すつもりのようですよ」

 

「──え?」

 

 

 あちこちから湧き出る無数の妖気──その影達は怪しい瞳で私達を見据えていた。




―次回予告―


「襲いかかる無数の影達、圧倒的戦力差で徐々に追い詰められる私達だったが、そこに一人の救世主が現れるのであった」

「満を持して登場の羽川秋子だよ、後は私に任せておいて!」

「いや、流石にそれは無理でしょ?」

「言ったわね、ついに回ってきた出番を見せつけてやるんだから!」

「次回、第五十二話 終わりなき悲しみの連鎖」

「隠れヒロインの力、見せてあげる!」
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