「ふんふん~♪」
鼻歌混じりで秋奈町の商店街を歩く私。 原稿の気分転換で買い物に来たわけなのだが、今日の私はいつもと違うのだ!
胸にはたっぷりパットを詰め、フリフリたっぷりの黒ゴシックな服。 たまーに着たくなるゴスロリファッションだ。 しかも一人という開放感! 監視役も金魚の糞もいないだけでこれだけ精神的に楽なんて!
「あぁ、なんて平和なの!」
ありがとう神様! 私とても幸せです!
「あらよっと!」
唐突に突風が巻き起こる。 急な事で私の頭の理解が追いつかなかった。 いや、思考は停止していた。
「可愛いパンツだな、ねーちゃん!」
イタチのような姿の動物はそんな台詞を言うと、風のように去っていった。
そう、今の突風でスカートが捲り上がる事でスカートの中身を曝け出す事になったのだ。 そして、その原因を作ったのはおそらくさっきの奴だろう。
「――いい度胸ね。」
私の楽しみに水を差した罪――その命で償わせてやるわ!
―前回のあらすじ―
3人で行った遊園地、楽しかった観覧車、んなわけあるかい! 何よあの遊園地は!! 化け物しかいないじゃない!
おまけに観覧車からのバンジージャンプで、あわやゲロインになりかけるという悲劇。 最後にはファーストキスまで奪われてほんと踏んだり蹴ったりよ。 ――もう涙が出そう。
そして今回の件、まじで許さんぞイタチ野郎!
「イタチみたいな妖怪ですか?」
「うん、そんでもって風起こせるやつ。」
「うーん、おそらくは”
「そいつの情報を教えて! 事細かくね!」
奴をぶちのめすためには、まずは情報収集だ。 同じ妖怪である菊梨なら何か知っているかと思ったけどビンゴのようだった。
「そうですね、かまいたちは旋風に乗って現れては、気まぐれで人を傷つける妖怪です。 基本的に痛みは無くて、すぐに傷も治っちゃうんですけどね。」
「あれ、スカート捲りする妖怪じゃないの?」
「なんですそれ?」
「うーん。」
逆に謎は深まってしまった。 もしかして違う妖怪って落ちとか?
「もしかしてご主人様、かまいたちを見たんですか?」
「似てるだけで違うのかも?」
「今ではかなり数が減ってると聞きます、保護しないと!」
「保護って、天然記念物か何かなの……」
もしかして、攻撃したらまずい的な法令が妖怪の中であるのかしら。 もしそうだとしたら面倒な事になるな。
「それよりもご主人様!」
「な、なにさ?」
「傷が無いか確認するので脱いで下さい。」
「いや、大丈夫だから!」
「なら
「やめてー!」
こうして、かまいたち(仮)の捕獲作戦が開始するのであった。 あの、目的変わっちゃってるんですが……
――
―
「前に見た時はこの辺だったんだけどな。」
私と菊梨は秋奈町の商店街エリア、青井デパートの前に来ていた。確かあのかまいたち(仮)と遭遇したのはこの辺りだったはずだ。
しかし、犯人が同じ場所に都合よく現れるなんてうまい話はドラマだけ――
「ひゃっほぉ!」
「いたー!」
都合のいい展開キター!
「菊梨いくわよ!」
「はい、ご主人様!」
絶対に逃がさないからね! 捕まえて生皮剥いでやるわ!
私と菊梨は全速力で走りだす。 当然、性能差で私は置いていかれるわけだが、こっちには地の理がある!
「菊梨! 目の前の路地を左に曲がって先回りするのよ! 私はこのまま、かまいたちを追うわ!」
「わかりました!」
菊梨は大きく踏み込んで、まるでゲームのように綺麗な90度カーブを決める。 さっすが妖怪、人間離れしたパワーを見せつけてくれる!
私はかまいたちの追跡を続行する。 幸い、距離が離される程の速度差はない。 かと言って追いつけるわけでもないが。
「待ちなさいよ! とっちめてやるんだから!」
「待てと言って待つ馬鹿はいねぇよっと!」
「そんなの知ってる――わよ!」
たまたま足元に転がっていた小石を拾って思いっきり投げつける。 頭で効果がない事は知っているのだが、流石にむかついたのでついやってしまった。
「いってぇ!」
「あ、当たった。」
新事実、妖怪に物理攻撃は有効。 幽霊と違って実体があるからとか? それでも見える人にしか見えないし、どういう原理なんだろ。
「それはですねぇ――っ!」
上空より襲来、狐です! 親方! 空から狐娘が!! お前、回り込むって言って屋根を飛び回ってきやがりましたね!
上空より現れた菊梨は、綺麗にかまいたちに手刀を決めた。 そのまま気絶したかまいたちを抱きかかえる。 ――なんとも鮮やかな手際だ。
「ご主人様が無意識に霊力を込めたせいですね。 おかげで隙が出来たので楽に捕獲できました。」
「私が、霊力を?」
「あれ、狙ったやったわけじゃないんですか?」
「まったく、むかついたから投げつけてやっただけ。」
「――なんと恐ろしい。」
私が霊力をねぇ、ここに来て新たな力に目覚めるってやつですか? 覚醒しちゃって妖怪と戦うバトル物にシフトでもしちゃうんですかね!
などとふざけた思考は置いといて――さてと、コイツをどうしようかした。
目の前には菊梨の抱きかかえたかまいたちがいる。 煮て食おうか、焼いて食おうか。
「ダメですよご主人様、かまいたちは要保護って言ったじゃないですか。」
「なら私のこの恨みはどこに吐き出せばいいのよ。」
「な、なんなら、この菊梨に鞭を打ってくれてもよいのですよ///」
ダメだコイツ、早くなんとかしないと。 というかソッチ系がお好みでしたか……
私は頭を抱えながら深いため息をついた。
―――
――
―
「ね、許してあげましょうよ。」
「……」
「オイラ達は悪戯が生き甲斐なんです! どうかご容赦を!」
かまいたちは私に向かって土下座を繰り返している。 菊梨も許すように横から諭してくる。 私は目を瞑り腕を組みながらソファに鎮座していた。
話を聞く限り、かまいたちは悪戯が仕事であり生き甲斐であるそうだ。 大昔に調子に乗り過ぎたせいで、多くの陰陽師に狩られて個体数が減ったらしく、今は怪我をさせないような悪戯へとシフトしたらしい。
その導き出した答えがスカート捲りというのもどうかと思うが。
「――よし!」
私はカッと目を見開く。 菊梨もかまいたちも息を呑み、視線が私へと集中する。
「判決を言い渡す。」
『ゴクリ。』
「被告人、かまいたちの飛び助は懲役1年執行猶予2年とする!」
「つまり、どういう事です? しかも勝手に名前つけてますけど。」
「これから2年の間スカート捲りをやらなきゃ許してあげるって言ってるの。」
これでもかなり譲歩した方だ。 本来ならば生皮剥いでetc――な目に合わせたいとこなんだけどね!
「でもオイラ、悪戯するなって言われても無理だぞ?」
「だ・か・ら! 他に考えなさいよ! 禿おじさんのかつらを飛ばすとかさ!」
あ、もしかして今まずい事言った? もしかして実行したりなんてことはしませんよね?
恐る恐る、飛び助の様子を伺う――あぁ、なんか面白そうって顔してますね、これは実行しちゃうパターンですね。
「それ、面白そうだしオイラやるよ! もう二度とスカート捲りはやらないから!」
「あはは、ブチ殺されないようにするのよ……」
「じゃあまたな! 白パンのねーちゃん!」
プチン――!
「コラァ戻ってこいやぁ! 生きたまま皮剥いでやろうかぁ!」
しかし飛び助は、窓から飛び立った後で、私に追いかける術はなかった。
―田舎のおばちゃん、今日も私は元気です―
「ご主人様のため、少し霊力のコントロールを教えた方が良さそうですね。」
―次回予告―
「ご主人様は身を守るための修行は必要です!」
「そう菊梨に言われ、私の激しい修行が始まるのであった。」
「そう、まず身を清めるために禊です! なので衣服をお脱ぎ下さいませ!」
「ねぇ待って! 自分で脱げるから、こら脱がすなぁ! ァァーー!」
「据え膳食わねば女の恥ですね///」
「床の上の修行なんかしたくないわぁ! そもそも次回はこんな話なわけ!?」
「第六話 ついに覚醒! これが私の霊剣だ!」
「やっぱりバトル物展開になるのこれ!」
「多分そんな事はないと思いますよご主人様。」
「だといいだけどね……」
「では皆さんまた次回!」
「伊達にあの世は見てねぇぜ!」