ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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第六十五話 それでも前に進むだけ

 僕達妖怪が生きていくには、この世界は余りにも理不尽だった。

 昔と違い人が営みの中心となった今では、妖怪という存在は人間にとって害虫とも呼べるべき存在へと落ちていた。

 人間達は八咫烏という組織を使い、妖怪狩りを始めた。奴らは見たことも無い道具を使い、簡単に妖怪達を抹殺していったのだ。

 奴らは山彦である僕に言った、生き残りたければ主の命に従えと、そうすれば妖怪の身であっても人間達のように平和に暮らしていけると。

 そう、あの男の命令に従っていれば……

 

「成り立てが――調子に乗るなぁ!」

 

 部下を殺され激情した相手はそのまま大きくこちらへ踏み込んできた。手にしたアサルトライフルを投げ捨て、懐から柄のような物を取り出す。それは不思議な光を纏って半透明な刃を形成する。

 僕は躊躇なく左手に握る魔銃の引き金を引き、その半透明な刃へと打ち込む。こちらの首を切ろうと振られた刃はその衝撃で少し上と反れ、前髪の前を掠めていく。

 

「何故だ! さっきまでお前はただの人間だったはずだ! それが何故――そんな動きが出来るんだ!」

「……」

「このっ、化け物!」

 

 そう、さっきまで僕は普通の人間だった。とてつもない身体能力があるわけでも、卓越した技術があるわけでもない。ただ、どこにでもいる人間だった。

 でも、この身体に流れる血は普通ではない。全てはあの晴明が意図して作り上げた肉体、何かを成し遂げるために用意された器。その力を、もしも使うことが出来たなら――

 横薙ぎ、袈裟斬り、次は左からフェイントの回し蹴りが来る……

 

「どうしてっ!」

「――全て"視える"からだ」

 

 そう、僕には全てが視えている。それは達人が成し得る見切りではなく、未来予知とも言えるべきモノ。今の僕には――敵の全てが視えている!

 次は左上へ一発、即座に右方向へと二発発砲。一発目は敵の刃を食い止め、二、三発目は跳弾させ死角から相手の左足を狙う。

 

「ちっ!」

 

 敵はその攻撃を察知し、足への負荷を無視して大きく身体を捻る。二発の弾丸は相手の左足を掠めて飛んでいくが、それも既に分かっていた。飛んでくる方角に合わせて更に四発目を発射、三発目の銃弾に当てて敵の右腹部へと直撃させる。直後、銃弾に込められた何かが発動して腹部が小さな爆発を起こす。

 

「がはっ……!」

「まだだ、まだ遅い!」

 

 もっと、奴に付け入る隙なんて与えないくらい――もっと圧倒的に! 生きている事すら後悔させる程の絶望を!

 右手に握った店長の銃を掲げて祈る――きっと、今の僕ならなんだって出来る筈だから。

 

「このっ……」

 

 敵は空いている左手で拳銃を取り出しこちらに照準を向けて発砲する。吐き出されたのは銃弾では無く光の弾丸、それはこちらに真っ直ぐと――未来が視える。つまり、奴の戦意は未だ健在である事を意味する。

 手にした銃が形を変え、左手の魔銃と同じ形へと変化する。

 

「行こう、店長、みんな……」

 

 これは、みんなと一緒に掴む復讐(しょうり)だ。

 その道筋に必要な弾丸は4発だ……!

 

「しねぇっ! 化け物がぁ!」

「死ぬのは――お前だ!」

 

 重なる発砲音、さっき見た通り敵の撃ち出した光の弾丸は、真っ直ぐこちらに向かってくる。こちらが撃ち出した四発は綺麗に整列し、飛来する光の弾丸へと向かっていく。

 ――着弾、こちらの弾丸はその光へとぶつかり溶けて消滅していく。しかし、少しずつその軌道はずらされていく。最後の一発は光の弾丸を掠め、そのまま真っ直ぐ敵の脳天へと突き進む。当然、相手にはその弾丸は見えている。

 

「こんなものに――当たるわけないだろ!」

「……」

 

 敵の弾丸は僕の頬を掠め店のカウンター大きく穿つ。掠めた頬からは一筋の血が流れていく。一方の相手はこちらの弾丸を避けようと首を少しだけ左に捻った。

 

「言っただろ、皆殺しだって」

 

 直後――銃弾は炸裂した。いや、その表現はおかしい。正確には、"大きな火球が生み出された"と言うべきか。まるで僕の意思に反応するかのように、銃弾を中心にその現象が起こったのだ。

 

「は――」

 

 あとは惨めなものだった。悲鳴すら上げられず、奴はそのまま火球に飲まれて消えていった。まるで最初から何も存在しなかったかのように、跡形一つ残さずに。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 今までの分全てを上乗せしたかのような疲労感が全身を襲う。そのまま両手の武器を地面へ落として膝を付く。

 

「――予想以上だ」

「誰だ……!」

 

 声の聞こえた方角に武器を構えようとするが、意思に反して身体は指一本動かす事は出来なかった。辛うじて首だけを上げて相手の顔を確認すると、そこには昨日出会った玉耀が立っていた。

 

「一人で、本当に全員倒してしまうとは。時間稼ぎはしてくれると思っていたが……」

 

 彼は目の前に立つと膝を付いて互いの視線を合わせた。その瞳は哀れみでも怒りでもない、ただ純粋な労いの感情。それと折り重なった葛藤……

 

「――よくやったな」

「ぁ……」

 

 そのまま、僕の身体を優しく抱きしめる。それは今まで感じたことのない――まるで親に抱かれるような安心感を感じた。

 親に抱かれるって、こんなに安心出来る事だったんだ。不快感一つ無く、永遠にこうしていたくなるほどに……

 

「今はこうする事しか出来ないが、いつかお前には……」

 

 何か言葉を紡ごうとしていたが、もう既に意識を保つ気力は残ってはいなかった。

 

―――

 

――

 

 

「――終わったのね」

「あぁ、この子がな」

「想像以上に恐ろしい子」

 

 現場に到着した留美子が見たのは、恐ろしいほどに破壊された秋名町商店街であった。

 

「こうなったら計画を早めるしかない――それは相手も同じ」

「もう一つの器を狙ってくると?」

「間違いない、だから私は今から神域の内部に向かう。貴方は他のメンバーを集めてB地点で待機、物資の準備はもう出来てる」

「その後は?」

「――明日の朝に決行する。各地への命令伝達は完了した」

「……」

「後は、任せる……」

 

 私の生命はとっくの前に終わっている。今ここにあるのは、あまてるちゃんを守るためだけに使うと誓った。きっと、それは今この瞬間のために存在していたのだと。

 

「貴方の子、借りていく」

「――"今"は違う」

「本来の運命、曲げられた真実――それでも、思いは変わらない」

「その通りだな……」

「それでも、前に進むだけ」

 

 待っていてあまてるちゃん――今、私が行くから。

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