ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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第七十二話 私こそが神だ!

 目の前にそびえ立つ真っ赤な扉が、大きな音を立てて開いていく。まるで地獄からの唸り声のような音を響かせ、大きな深淵の口を開く。

 覚悟は出来ていた――この闇の先には諸悪の根源が待ち構えている、私や世界の運命を捻じ曲げて神になろうとする男が……

 ――照明が点灯して漆黒の闇に光が灯される。研究棟の最奥、どこかの競技場かと思える程の空間がそこには広がっていた。あちこちに黒い棺のような箱がそびえ立ち、静かな機械音を立てている。

 

「――ようこそ、神の頭脳へ。予定外の客も混ざっているが歓迎するよ」

「晴明!!」

 

 大広間の中央に晴明の立体映像が浮かび上がる。何度見ても腹が立つ笑みを浮かべ、奴は私達を歓迎していた。警備の少なさから、元々私達をこの場所へとおびき寄せる算段だったのだろう。

 

「凄いものだろう? この部屋一面にある機械は全て"バークライト石"と呼ばれるオーパーツだ。我々の技術では到底及ばない遥か彼方の技術で作られている。君達は何故、こんな物が存在していると思う?」

「そんなの興味無いわ! あんたのオナニーコレクションでしょ!」

「はぁ――これだから低能なガキは嫌いなのだ。我々人類――いや、全ての生命はこんな機械に支配されているのだよ」

「そんな事あるわけ――」

「君なら分かるだろ――優希? 一部分だけとはいえ、君はこのバークライトシステムと繋がっている」

 

 優希は俯き黙っている、まるで奴の言葉を肯定するかのように……

 

「本当に愚かなものだ――何よりも自由だと思っていた我々は機械(マシーン)の奴隷だったのだからな。しかし、人がこの機械を掌握すれば誰でも神になれるという真実でもある」

「つまり、この機械を使って念願の神になろうってわけね!」

「Exactly!」

 

 晴明の立体映像が消え、ぽっかり開いた中央の空洞が姿を現す。そこから何かが駆動音を響かせてせり上がってくる。

 

「もう貴様達など必要ない、私はついに神の肉体を手に入れた。故に、失敗作である君達をここで処分してあげよう」

 

 姿を表す鋼鉄の巨人――10m程だろうか? 漆黒の鎧を身に纏い、赤い瞳でこちらを見据えていた。

 

「私は既に人にあらず――機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)、そう名乗ろう」

 

 機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)は右手を私達に向けて嗤う。

 

「――まずいっ!?」

 

 咄嗟に飛び出した玉耀さんは私達二人の前に仁王立ち、両手を掲げて見えない壁を展開する。それと同時に機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)の掌が赤く発光し、真っ赤な光がこちらへ真っ直ぐと飛来する。

 ――赤いビームと見えない壁が追突し、部屋全体を激しく明滅させる。

 

「はぁ、はぁ…… 八咫鏡の力を使ってギリギリか」

「ほう、今の攻撃を受け止めるか。面白い――神の雷を何度止められるか実験してみよう」

「二人共、あのデカブツを破壊するぞ。おそらく中に晴明がいる!」

「分かりました!」

「――あぁ!」

 

 私と優希は力を開放して互いの得物を握る。それぞれ左右に散開し、私は敵の左側から斬りかかる。優希は逆側から魔銃の引き金を引いて、玉耀さんは中央から炎の術を放つ。

 

「――どんなに知恵を使おうが神の前では無意味だ」

 

 機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)は少し状態を反らして弾丸を避け、私の刀を握るとそのまま地面へと投げつける。玉耀さんの放った術は何かに弾かれるように機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)の前で消滅した。

 

「今のは――神域(かむかい)!?」

「――いったぁぃじゃないのぉ!!」

 

 そのまま地面を蹴り勢いよく間合いを詰める――しかし、見えない壁が邪魔をして機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)に近づけなかった。

 

「バリアなんて使いやがって、ロボットなら己の装甲で勝負しなさいよ!」

「いや、絶対そういう問題じゃないぞ?」

「――神の雷がまた来るぞ!」

 

 今度は両手を左右に掲げ、再び掌に赤い光が収束する。晴明が先程言っていた神の雷を再び使うつもりなのだろう。私達は距離をとって攻撃を回避する事に集中する――刹那、同じように赤い光が真っ直ぐこちらへと飛来する。

 

「――このレーザーついてくる!?」

「くっ、二人共もう一度僕の後ろに――」

 

 もう一度神の雷を止めようと玉耀さんがバリアを展開するが、まるでそれを知っていたかのように赤いレーザーがカーブして玉耀さんへと向かっていく。

 再び激突する光と壁、しかし今度は2つ分の出力が勝って見えない壁が砕け散る。咄嗟に身体を反らせて避けようとするが、玉耀さんの一部は赤い光に飲み込まれていく。

 

「ふむ、やはり二本分の出力には耐えられませんでしたか」

「あがっ…… 傷が、ふさがらない……」

 

 ――玉耀さんの左肩から先は完全に消失していた。妖怪である彼にとって、腕が吹っ飛ぶくらいなんて事は無いはずなのだが――腕が再生するどころか、傷すら塞がらず大量に出血したままになっていた。

 

「貴女の妻を実験体に使って作った最高の霊銃ですからね、どんな妖怪も傷の再生を行う事が出来ません。ただし、難点があるとすれば――」

 

 機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)の両腕から薬莢のようなものが排出される。地面に転がった薬莢から"何か"が顔を覗かせていた。

 

「数発撃つだけで弾丸のエネルギーを使い果たしてしまう事ですね」

「ぁ……ぁぁ……」

 

 その顔は優希の見知った顔だったらしく、身体を震わせその場で硬直している。

 

「霊能者を素材にしなければいけないので効率が悪いのですよ。まぁ、留美シリーズの生産技術を応用すれば量産もいつかは可能ですが」

「よくも――よくも竜也を!」

「何を怒るのですか? 所詮は消耗品、いくらでも代えがきくものではないですか。世の中には人など腐るほどいるのですから、新たな恋人を作ればいいだけですよ。まぁ、貴方にそんな未来はありませんが」

 

 このままではまずい……! 玉耀さんは処置不可能な怪我、優希は頭に血が登った状態――このままでは確実に各個撃破されて終わりだ。

 私は一気に前へ出て、二人の両手を掴んで一気に後方へと下がる。その最中に左手に通常の霊剣を形成して機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)に向けて投擲する。

 

「このままじゃ埒が明かないわ! あのバリアをどうにかしなきゃ攻撃も出来ない!」

「――一つだけ方法がある。さっきの攻撃の際にバリアを発生している装置の位置は把握した。一時的に敵のバリアを消してくれれば僕がその装置を破壊する」

「玉耀さん……!」

「――僕がやる。僕の魔銃ならなんとか出来る筈だ。問題は相手がバークライトシステムを使ってこちらの攻撃を予測してくる事だ」

 

 ――そうだ、奴の攻撃予測は未来予知と呼べる程の領域だ。それを超えるためにはあのシステムの予測範囲を超えるような行動をするしかない。しかし、そんな方法は……

 

「雪、今から君の魂にアクセスして前世の戦闘データを呼び起こす。これなら敵に予測される事はない筈だ」

「ちょっ、アクセスとか前世とか急に何言ってるわけ!?」

「説明している時間は――」

 

 ――再び襲ってくる神の雷、私は左後ろに避けて二人は左右前方へと移動して回避する。

 

「雪っ!!」

「ええい、どうにでもなれ!」

 

 優希がこちらに向けて魔銃の一丁を投げてよこす。その意図を理解し、手にした狐影丸を優希に向けて投げつける。

 

「よし――行くぞ!」

 

 右手で狐影丸を構え、左手で魔銃を握る優希。私も受け取った魔銃を構えて機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)に狙いをつける。今まで銃なんて一度も使った事がない――後にも先にも留理子と共に引き金を引いたあの時だけだ。

 ――でも、何故だろう? 銃ではないにしろ、何かこう――似たような……

 

「あっ……」

 

 思った以上に私の狙いは正確だった。頭部に装備されたバルカン砲から優希に放たれた弾丸を正確に全て撃ち落としていた。

 

「そんな小手先の技で――」

「その貴様の驕りが――」

 

 数発の弾丸を撃ち出すが、バリアを貫通してもその内部で回避されてしまう。しかしそれは優希にとっても同じであり、弾丸同士を追突させて一度バリアの外へと逃がす。そのルートに先回りして逃した弾丸を雪の霊剣で弾いてもう一度機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)への攻撃へと転じる。

 

「――自身の破滅を招く! それがお前の未来だ!」

「ありえん、私が――私こそが神だ! 敗北などありえる筈がない!」

 

 弾いた弾丸は機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)の右腕関節部で爆発を起こし、撃ち出そうとしていた神の雷の照準が上に大きくズレる。優希は手にした霊剣を思いっきり振り下ろして、人が通るだけの小さな隙間を作る。

 

「今だっ!!」

 

 優希は手にした霊剣を私に向かって投げてよこす。私はそれをしっかりとキャッチして、腰に差した鞘に一度戻す。

 

「――またせたな」

「このっ――死に損ないめが!」

 

 バリアの中へと入り込んだ玉耀さんの腹部を、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)の左腕の爪が貫く。しかし、その状況でも玉耀さんは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「確かに……捉えたぞ」

「貴様っ!」

「雪! 思いっきりぶちこめ!!」

 

 閃光と共にバリア内部で大きな爆発が起きる。きっと、全てを賭して玉耀さんが機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)のバリアを破壊してくれたのだ。黒煙の中で小さなスパークを起こしながらも、それでも尚機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)はこちらへと攻撃しようと左腕を掲げて神の雷を発射しようとしていた。

 

「……」

 

 静かに目を閉じて全神経を集中させる。いつか見た映像が、脳内を駆け巡っていく……

 

"この技は妖怪を殺す技です。ご主人様が使う日が訪れないのを祈っています"

 

 たった一つだけ、もしものために教えてもらった技――確実に相手を殺すための"奥義"。それは私の流儀とは反するものではあるが、それでも今は斬らねばならない相手が目の前にいる。

 

「菊梨、留美子――私やるわ」

 

 大西に伝わる奥義の一つ、"殺す"技に特化してきたシンプルかつ圧倒的な破壊の力……

 

「この――万年引きこもりの童貞野郎ぅ! ここでぇ――くたばれぇ!!」

 

 柄を握り返し、目を見開いた瞬間――神速のごとく抜刀する。それは爪秋の使った"真空波"と似てはいるが、威力もスピードも比較にならないものであった。

 

「大西流奥義――"絶刀"」

 

 機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)の左腕は神の雷を発射することなく、横一文字に切り裂かれ――その衝撃はそのまま本体をも両断する。ただの鉄屑となって床に崩れ落ちたソレは、最早神とも呼べない塵となっていた。

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