ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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教えて、よーこ先生!

「皆さんこんこんわ! 今回の教えて、よーこ先生のお時間です!」

「さて、今回のお題はこれです!」


~安倍(あべの)保名(やすな)ってだぁれ?~


「前回のお題の続きですね! 安倍保名が前回のお話に出て来た救世主様なのですよ!」

「泥沼化し、共倒れしそうな両都の間に立って和平を進めた人物なのです。 彼は京都の人間だったのですが、ある日彼の元に天からの使者が現れたのです。」

「使者は争いを止めさせるよう保名に天命を下しました。 使者を連れた保名は彼女の存在を両都に伝え、天命を告げたのでした。」

「こうしてきっかけが出来たおかげで和平が無事結ばれたのでした、めでたしめでたし。」

「使者がどうなったか気になる? ではそれは次週のお楽しみとしましょうか!」

「では皆さん、あでぃおす!」


第七話 燃えよロボ魂(こん)、その闘志を燃やせ!

―前回のあらすじ―

 坂本雪は 最強の武器 霊剣を手に入れた まる ってカッコよくあらすじを語りたかったのだけど、残念ながら現実は霊剣ならぬ霊ハリセンを発現しただけであったのだった。 確かに使い勝手はいいのだが、元々の修行の目的と反しちゃってるよね? まぁ私にはそんな事関係ねぇとばかりに有効活用させてもらいますけどね!

 まぁ問題は、これで菊梨がМっ気を発揮しないか心配なとこね。

 

 

 

 

 

 描く、描く、描く、描く――

 

 

「葵様の紅茶はいつも美味しゅうございますね。」

 

「あらあら、ありがとうございます菊梨さん。」

 

 

 描く、描く、描く、描く――

 

 

「私は、お菓子だけでいい。」

 

「留美子さんは食べ過ぎですよ。 レディならもっと優雅にお淑やかにです。」

 

「戦場での栄養補給は、迅速にが鉄則。」

 

 

 ――バキン! 手元でペンが折れる音がした。

 

 

「あんた達、人が作品書いてる横でお茶会なんてしてるんじゃないよ!!」

 

「あまてるちゃんが怒った。」

 

「まぁまぁ、ご主人様落ち着いて。」

 

 

 絶対におかしい。 このサークル”さぶかる”で実動員は他にいないのか!

 

 

「そもそも、お前が作業をすっぽかし続けたツケが回ってきただけだろう?」

 

「羽間先輩よ、お前もか。」

 

 

 我らがリーダーも仲良くお茶会に混ざっていた。

 

 

「そもそも他にもやる事があるでしょうが! ペン入れやらベタやら!」

 

「それなら大丈夫だ、留美子がやっている。」

 

 

 そんな早く出来るわけが――ちょっと何してるのこの子!

 留美子の行動をよく観察すると、口にお菓子を頬張りながら全ての作業を高速でこなしているのが見えた。 人間を越えた技を見て、コイツをアシスタントとして確保しておこうと心に決めた。

 

 

「だからって私だけこんな……」

 

「雪、君の仕事はなんだ?」

 

 

 羽間先輩が眼鏡をかけ直す、それと同時に眼鏡が逆反射で光る。

 

 

「はい! 同人誌の原稿を完成させる事であります!」

 

「よろしい、ならば作業を続けたまえ。」

 

「サー、イエッサー!」

 

 

 圧倒的は威圧感! これがあれか、選ばれし君臨者のみが使えるというカリスマスキルなのか! 並の人間ならこの威圧感で気絶してしまうレベルであろう。 私は耐えられるが!

 私は机に向き直り作業に戻る。 せめて一口くらい私にも分けてくれてもバチは当たらないだろうに。

 

 

「はい、ご主人様あ~ん(はーと)」

 

「あ~ん、上手い!(某お菓子のCM風BGM)」

 

「抜け駆けはダメ、私もやる。」

 

「いや待って、そんなに食べられないから。」

 

 

 大量のお菓子を私の口に押し込もうとしてくる留美子。 気持ちは嬉しいが私の口はそれ程大きくは開かない、口裂け女じゃないんですよ。 というか原稿の上にお菓子をボロボロと落とすんじゃありません!

 

 

「いいですわねぇ。」

 

「葵、お前もやって欲しいのか?」

 

「鏡花ちゃんになら是非やって欲しいですわね。」

 

 

 ダメだこのサークル、早くなんとかしないと。

 

 

「ちーっす。」

 

 

 その時、救世主が現れた。

 

 

「――すまん、ごゆっくり~!」

 

「戻ってこいやぁ!」

 

 

―――

 

――

 

 

 

「で、ロボコンサークルの御大将がなんでこの場所へ?」

 

 

 逃げ出した男は留美子によって連れ戻された。 そりゃあ相手が男だろうと留美子の前では赤子の手を捻るよりも簡単な事である。 男はロボコンサークルの万丈、3年だという所までは自白させたのである。

 

 

「実は、君に用があった来たんだよ、坂本雪君。」

 

「なんで私なんかに、どこから来た情報よ。」

 

「僕達は君の灰色の脳細胞を欲しているのだ。」

 

 

 何コイツ、電子パーツの弄りすぎで脳味噌まで解けちゃった類の奴か? 変に絡まれる前にここから追い出した方がいいのでは。

 

 

「留美子、コイツ捨ててきていいわよ。」

 

「任務了解。」

 

 

 留美子は軽々と片手で男を持ち上げる。 その姿はまさにメスゴリラという言葉お似合いの光景だ。

 

 

「待ってくれ、君の能力を貸して欲しいんだ! 僕達のロボコンサークル存続のために!」

 

「素人が役立つわけないでしょ、あんたのサークルがどうなろうと私には関係ないですし。」

 

「違う! 組み立てじゃなくて操縦士をお願いしたいんだ!」

 

 

 操縦士だと……?

 

 

「待って留美子。」

 

「ん。」

 

 

 廊下に投げ放つ一歩手前で停止する。 まさにギリギリのタイミングというやつだ。 この男、確かに私に操縦士をやらせると言ったな。

 

 

「僕は知っているんだ、高校生時代に君がロボコンの全国大会に出ているのを!」

 

「何故その事を知っている!」

 

 

 そう、確かに私は高校時代に1度だけ大会に出ている。 それも正規のメンバーではなく、ピンチヒッターとしてだ。

 あの時は大会1週間前に操縦士が大怪我をし、何故かロボ好きな私に任されたという意味不明な珍事件に巻き込まれた形だ。 まぁ、準決勝で負けたんだけどね。

 

 

「それは決勝の相手が僕だったからだ。」

 

「なん、だと……」

 

 

 うわぁ、全く覚えてないや…… ごめんね万丈君! ぶっちゃけロボット動かす楽しさでいっぱいだったから周りとか見てなかったわけです、はい。

 

 

「だからこそ頼んでいるだ、君ならば戦えると。」

 

「ふっ、これも運命だと言いたいわけね。 いいでしょう、私が力を貸してあげましょう!」

 

 

 っていうのは口実で、ちょっと気分転換したいだけなんだけどね!

 

 

「雪、同人誌の完成は間に合うんだろうな?」

 

「もちろんですよ先輩! 少し練習して本番戦ってくるだけなんで!」

 

「それならまぁ、よしとしよう。 葵、当日の売り子の衣装作成を進めるぞ。」

 

「はーい、菊梨さんと留美子さんは借りますね。」

 

「煮るなり焼くなり好きに使って下さい!」

 

 

 というか、今回はあの二人に売り子をやらせるのか。 ――会場で問題起こさなきゃいいけど。

 そんな心配事は頭から消去し、私は万丈の後を追った。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「嘘でしょ。」

 

 

 寂れたロボコンサークルの部屋で、私はとんでもないものを見てしまった。 名前こそ知ってはいたが、まさか実物を見る事になろうとは。

 

 

「貧乏神。」

 

「おや、お嬢ちゃん。 わしが見えるのかい?」

 

「ばっちりとね。 本物を見たのは初めてだから正直驚いてるけど。」

 

 

 貧乏神といえば、取り付いて人を貧乏にする事で有名だが、もしかしてここに住み着いているのだろうか?

 

 

「もしかして、ここのサークルの成績が悪いのって貴方の仕業じゃないわよね?」

 

「どうかのう、ふぇっふぇっ。」

 

 

 間違いない、コイツが原因だ。 問題はどうやって貧乏神を追い出すかだが、菊梨も留美子も置いてきているし、私が対処しなければならない。 そうだ、こんな時こそおばちゃんから教わった知識を掘り起こすんだ。

 

 

「雪君、ぼーっと突っ立ってどうしたんだ?」

 

「ちょっと黙ってて。」

 

「す、すまない。」

 

 

 なんだったっけな…… 過去の記憶の引き出しを片っ端から開けまくる。 色々なおばちゃんとの思い出が溢れてくるが、目的の貧乏神の情報が見つからない。

 

 

(あれ、なんだっけこれ)

 

 

 何故かもやがかかったみたいに思い出せない記憶。 雪山を一人で歩いて、こんな事あったっけ? あれは確か――

 

 

「あぁもう違う!」

 

 

 背後で万丈が震えているが今は関係ない。 私が欲しいのは貧乏神の弱点だ。

 

 

「ぬう、お嬢ちゃんちと熱いのう……」

 

 

 そうだ、貧乏神は確か熱に弱いんだった。 とは言ってもここで火を焚くなんて事は出来ないし――そうだ!

 

 

「万丈!」

 

「はいぃ!」

 

「マシンを出しなさい! 練習始めるわよ!」

 

 

 取り出してきたのは白い段ボールで作られたフォークリフトのようなロボットだ。

 

 

「へぇ、強化段ボールを使ってるのね。 このフォークリフトみたいなアームで風船を割るわけね。」

 

「さすがですお嬢、全くその通りでございます。」

 

 

 なんだか万丈のキャラが変わってしまっている気がしたが、今は気にしないでおこうか。

 

 

「さあ目覚めなさいアメイジングZ! 今日から私があなたとご主人様よ!」

 

 

 とりあえず適当な名前をつけて電源をONにする。 ロボットにはこういう熱いシチュエーションが大事なのだ。 作戦名は、闘志燃やして貧乏神を追い出せ作戦だ!

 

 

「私が出るからには目指すは優勝よ!」

 

 

―――

 

――

 

 

 

そして、1週間が経った。

 

 

「あんた、なかなかしぶといわね。」

 

「ふぉっふぉっふぉ。」

 

 

 この一週間、練習に明け暮れたが貧乏神が出ていく事はなかった。 あえて二人には相談せず、自分一人でどうにかしようと思ったが浅はかだったのだろうか。

 いや、むしろ本番はここからだ! この会場について来たのが運のつきだ! ノコノコと万丈の背中に乗ってついて来たのがお前の敗因だ!

 

 

「お嬢、マシンに問題が!」

 

「ちょっと! 昨日しっかりメンテしたんじゃないの?」

 

 

 多分貧乏神の仕業だ。 不幸を呼び寄せて私達の優勝を阻もうとしているのだ。

 

 

「急いで修理するのよ、もうすぐ試合が始まるわ。」

 

 

 私は負けない、貧乏神の呪いに打ち勝ってみせる!

 

 

 多数の問題が発生しながらも、私達はなんとか勝ち上がり決勝へと辿り着いた。 その代償として、アメイジングZは行動不能に近い状態となってしまった。

 

 

「お嬢もういいです、僕達頑張りましたよ!」

 

「――最初に言ったでしょ? 狙いは優勝だって。」

 

「でも、こんな状態じゃ!」

 

「分かってないわね、ロボ物は追い詰められてからが本番なのよ。」

 

 

 相手チームも配置につく。 何故か全身金ぴかの意味不明仕様だ。 明らかに目立ちたがり屋の製作者が作ったであろう見た目である。

 

 

「お嬢、見た目は金色のカニみたいなやつですが、かなりの速度で移動してくるので気を付けて下さい。」

 

「任せなさい、アメイジングZ起動!」

 

 

 怪しい駆動音を立てながらアメイジングZを配置に移動させる。

 

 

「では決勝戦――開始!」

 

 

 スピードで勝てないのなら、相手の足を先に潰す!

 私はアメイジングZを相手のマシーンに体当たりさせる。 相手のあの足取りの軽さならば耐久力は低いはずだ、その点強化段ボールを使用してあるアメイジングZは、見た目以上の硬度とスピードを持っている。 押し負けるわけがない!

 

 

「甘いぞ帝都大学! 我々のゴールデンシザー号も同じ強化段ボール製だ!」

 

「お嬢! パワーが出ません!」

 

「まだよ、アメイジングZのパワーはこんなもんじゃないわ。」

 

 

 ありもしない特訓映像を夢想しながら操作スティックに力を入れる。 そう、熱くなれば負けないっていうスーパーロボット理論だ!

 右アームだけを下げて相手のホイールに差し込む。 そして一気に――持ち上げる!

 

 

「おおっと! アメイジングZがゴールデンシザー号を持ち上げたぞ!」

 

「なにぃぃ!」

 

「最後に勝つのは正義なのよ!」

 

 

 その瞬間、右アーム用のシャフトが折れた。 普通では絶対にありあえない現象だが、間違いなく貧乏神の仕業だ。 このタイミングで邪魔しやがって!

 

 

「左アームもこれ以上持ちません!」

 

「だったらぁ!」

 

 

 わざと左アームに負荷をかける。 こんな時のために秘密兵器を用意してたのよ!

 私は操作コントローラーの下側の蓋を開けて隠されたスイッチを露わにさせる。

 

 

「これぞ秘密兵器――”ロケットパーンチ!”」

 

 

 仕込んでおいたバネの力で左アームが勢いよく発射される。 その時の反動で2台のマシーンはひっくり返って行動不能となった。

 発射されたアームは真っすぐにバルーンに飛んでいき――

 

 

『いっけぇぇぇぇ!』

 

 

 私と万丈の声が重なった。 それと同時に、バルーンの破裂音と会場の歓声も重なったのだ。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「それで、貧乏神はどうなったんです?」

 

「会場の熱気にやられて逃げて行ったわよ。」

 

「なるほど、そうやって追い出したんですね。」

 

「うむ、ロボコンサークルも継続出来る事になったしね。」

 

 

 私は完成した原稿を綺麗にまとめて封筒の中へと仕舞い込んだ。

 

 

「こっちも完成っと、明日先輩に渡さないとね。」

 

「お疲れ様でしたご主人様。」

 

 

 私が椅子に深くもたれると、気を利かして菊梨が肩を揉み始めた。 あぁ極楽じゃぁ……

 

 

「まぁ、いい思い出にはなったかな。」

 

 

 私は棚に飾られた優勝トロフィーを見て微笑んだ。

 

 

―田舎のおばちゃん、今日も私は元気です―




―次回予告―

「いやぁ今回はほんと疲れたわぁ」

「というか、ヒロインである私(わたくし)達が出ないっておかしくありません!?」

「抗議、しないと。」

「熱い話にあんた達が不要でしょうが!」

「さすが少年の心を持つご主人様、言う事が違いますね。」

「うるさい!(ハリセンアタック)」

「あ~ん♪」

「次回は、あまてるちゃんの、おばちゃんが登場。」

「もしかして、私(わたくし)のピンチです!?」

「第八話 使者来訪 にファイナルフュージョン承認!」

「これが、勝利の鍵だ。」

「それって、私が入ってた箱では。」

「皆さんお楽しみに!」

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