帝京歴748年、Sランク認定となった鬼童丸は討伐された。民間人含む戦死者1840名、内退魔師31名に国家認定退魔師の称号が授与された。しかし、生存した退魔師は坂本妙ただ一人だった。
正樹を失った妙は、人形のようになってしまった。誰と会話する事もせず、食事もとらず虚ろに空を眺めるだけ。彼を失ったあの日、彼女の生きる意味も共に消失してしまっていた。
大西恵はそんな彼女を引き取り、京都で療養させるも――その状態は一向に好転しなかった。
そして、帝京歴749年の1月――
「――立て」
恵は無造作に妙の腕を掴むと縁側へと力任せに投げ飛ばした。しかしそれでも、妙は眉一つ動かさない。
ドスドスと足音を立てながら妙を近づき、今度は縁側から稽古場のある庭へと投げ捨てる。
「……」
「もう終わらせよう、お前のそんな姿は見たくなかった」
恵は何も無い虚空から"紅桜"を抜き放つ。彼女の生み出した実態ある霊剣、この獲物を使うという事は彼女にとって特別な意味を孕んでいた。
それでも尚、妙が動く気配はなかった。空っぽの瞳で、ただ空を眺めるだけ。その先に見るのは――
「そうやってお前は…… いい加減――我を見ろ!」
無意識に恵は叫んでいた。いつか自身と並ぶ猛者となる。どんな相手よりも心躍る戦いが出来る唯一の相手――そう期待していた。自身と同じ混ざり者で、いつか訪れる地獄に抗って、それでも必死に生きていけると……
「我が心惹かれたのは、そんなお前ではない!!」
「……」
「頼む! 我のためにもう一度帰ってきてくれ!」
叫びながら左手を妙へと差し出す。妙の視線が虚から現へと揺れ動く。
"大丈夫、世界の全てが君を否定したって、僕だけはずっと君の味方だから。何があってもずっと一緒だから……"
いつかの彼と重なる。世界で唯一、坂本妙に手を差し伸べたモノ。彼女を諦めという泥からすくい上げた腕。
"さぁ、いこう!"
でも彼は、あたしが愛してしまった彼は――もうどこにもいない。
"君は、生きてくれ"
生きてどうなる? 一人ぼっちでどうする?
『ちがう、あたしは、まだ、ひとりじゃ――』
必死に暗闇の中で手を伸ばす。遠い先に針ほどの小さな光が見える。きっと、そこにさえ届けば――
「――妙!」
小さな光は輝きを増し、全ての暗闇を照らし出す。伸ばした手の先に、誰かの温もりを感じた。
「やっと我が見えたか……?」
「めぐみ……?」
そうか、あの光は彼女だったんだ。ずっとあたしだけを見つめる、まばゆい太陽。
「――お帰り」
「うん、ただいま」
掴んだ手を支えに妙は立ち上がり、右手の刀を見て恵に不敵な笑みを見せる。
「やる気満々じゃないか」
「待たせるお前が悪い」
「じゃあ……」
「666戦目を……」
『はじめよう!』
互いの得物を構え、二人は楽しそうに笑った。
「ほら――受け取れ」
恵が見慣れたグローブを投げてよこす。あの日の戦闘でボロボロになったはずだが、ある程度補修されてあった。きっと、彼女がやってくれたのだろう。
「ありがとう」
「負けの言い訳にされても困るからな」
「まだ、負けるなんて決まってないけど?」
軽口の合間にも飛び交う殺気、それは稽古なんて生易しいモノじゃない。まさしく、あたし達はこれから死合うのだ。自分の全てを懸けて相手を殺る。だというのに――お互い笑みが溢れる。歪かもしれないけど、あたし達は確かに絆で繋がっている。その絆があたしをこちら側に呼び戻してくれた。
「まずは小手調べだ――"絶刀"」
――冗談じゃない、小手調べが奥義なんて馬鹿がどこにいる。大西流壱式奥義"絶刀"、あたしがあの日やられた技だ……
「でも――あたしもあの日とは違う!」
拳に全力の霊力を集中させて迫りくる斬撃を引き裂く。所詮は実体の無い霊力の斬撃、一点突破すれば止められない事はない!
「やるではないか」
「当然っ!」
ここで止まるわけがない。あたしは斬撃後の隙を突いて相手の懐へと踏み込む。ここはあたしの距離、刀には振りな間合いだ。そのまま顎を狙い右拳を振りかぶる。
「ぬるい!」
恵は空いた左手の手刀で私の右拳を受け止める。当然、形成した霊剣によって彼女の左手は貫かれる。彼女はそんな事どうでもいいと言わんばかりに嗤うと、思いっきり頭突きを繰り出した。
「んがっ!?」
「狙うなら心臓を狙いに来い――馬鹿者が!」
軽い脳震盪で景色がぐらつく。しかし、こんな事で止まるわけにはいかない。次の技がくる――
「弐式奥義――"神威(かむい)"」
自身の霊力を分散させ分身との連携攻撃を行う神威、彼女の有り余る力なればこそ可能な奥義。分身一体ですら並の退魔師以上の力を持っているだろう。そう、並の退魔師程度だ。
左右の攻撃を屈んで避け、霊剣で腹部から引き裂き両断する。正面の分身はサマーソルトキックで体制を崩して今度は確実に心臓を貫く。真上からの襲撃には左拳と霊剣を"撃ち出して"視界を潰した後に首を掻っ切る。
「ほう、お前の霊剣はそういう使い方も出来るのだな」
「他にもあるわ――よっ!」
不意の回し蹴りを紙一重で躱す恵。次の瞬間。彼女の表情は焦りに変わり無理矢理上体を反らせた。
「ちっ、避けられたか」
「――策士めが」
足の裏に形成した霊剣を、彼女はぎりぎりで避けたのだ。誰にも見せたことの無い不意打ちを、感と殺気だけで――
「ふふっ、ふふふ……」
「あはははっ……」
自然に漏れる互いの笑い声。誰もが彼女達に恐れを抱くだろう、これが化け物同士の戦いなのだと。しかし、彼女達は孤独なのだ。誰にも理解されない地平で、それでも戦い続ける。きっと、分かり合えるのは同類だけ。
「こんな時間が――永遠に続けばいいのに」
「だが、どんな物語にも終わりはある」
互いの得物がぶつかり合い火花を散らす。身を裂き裂かれ、それでも戦う事を辞めようとはしない。それは見る者によっては美しいのかもしれない。美しさと破滅が共存する二人だけの世界。しかし――
「人の命も、歴史も、思いも――いつか終わる」
「なればこそ、我らの戦いにも決着を」
恵は構えを変えて霞の構えをとる。あたしは逆に大勢を低くして、獣のような四つん這いになる。おそらく、次の一撃で決着がつくだろう。それは互いに分かっていた。
「参式奥義"桜牙天――"」
「――"画竜点睛"っ!」
あたしは、一瞬の隙を逃さなかった。奥義を放つ一瞬だけ恵の身体がよろめいたのだ。
自身の身体を大きく回転させ、身体そのものを武器とするあたしだけの奥義。恵はもろにその身で受け、枯れ葉のように宙に舞う。その首を左手で掴んで地面に叩きつけ、右拳の実体化した霊剣を首筋へと突きつけた。
「666戦……665敗……1勝っ!」
「――何故?」
「……」
「何故、最後の技を止めた?」
確かに恵は、最後に何かをしようとしていた。しかし、その技は放たれる事無く、あたしの隠し玉によって勝敗は決した。仮にあの技が放たれていたら、結果は違っていたかもしれない。
「お前の勝ちで不服か?」
「お情けで勝たせてもらっても嬉しくない」
「いいや、お前の勝ちだ」
話は平行線、彼女は理由を話そうとしなかった。それは自身のプライドか、それとも別な理由なのか……
「本気でやり合うってのは嘘だったの?」
「我は本気だった。"今"出せる全てで戦った」
「……」
"今"出せる全て、とても含みのある言い方だ。大西恵という女は、決して誰にも弱みを見せない孤高の存在だ。どんな物事も全て一人で解決してきた。S級認定された伍尾の狐も一人で討伐し、自身の両親も自ら殺したらしい。友と呼べる者はおらず、ひとりぼっちで生きてきた。
そんな彼女が、あえてそのような言葉を使ったのだ。それは彼女の、遠回しなSOSなのではないか?
「つまり、それがあんたの精一杯って事……」
「そう、我の力はもう限界だ。これが我々のような混ざりモノの末路」
霊力と妖力、その2つが体内に存在するあたし達のような存在――それはメリットでありデメリットでもある。きっと、彼女の身体は……
「しかし、お前にはそうなって欲しくない。それが我の願いだ」
そう言って恵は、衿から一通の手紙を取り出した。
「この中には、ウタイの総指揮権をお前に譲渡する証明書と、とある退魔師への紹介状が入っている。
彼女ならば、なるべく霊力を使わずに戦う術をお前に教えてくれるだろう」
「どうして――私を?」
「それはお前が――我にとって障害唯一の好敵手(りかいしゃ)だったからだ」
うっすらと涙を浮かべ笑う顔は、同性であるあたしでも目を奪われる美しさだった。きっと、世界中探し回ってもこんな顔を見せるのはあたしだけだろう。そういう意味でも、あたしにとって彼女は好敵手(りかいしゃ)だった。
あたしは形成した霊剣を消し、封筒を持つ右手を両の手でしっかりと握りしめる。
「――分かった。あたしが貴女の分も戦う。戦って戦って、生き抜いてみせる」
「それでこそ――我の好いたお前だ」
そうだ、あたしは多くの命を背負って――生きていく。
こうしてあたしは紹介状の人物に会うため、青森へ帰省する事を決めた。でもその前に、一度寄りたい場所があった。
「……」
それは懐かしい――あの珈琲が飲みたかったからだ。
「――いらっしゃい。なんとなく、会える気がしてた」
「ひさしぶり――操」
「注文は?」
「いつもの珈琲」
「――はいよ」
懐かしいカウンター席に座り店内を見渡す。学生時代と何も変わらない風景がそこにはあった。3人であれこれ笑いあった、あの頃と何一つ……
「はい、おまちどう」
「ありがとう」
一口目で口の中に広がる程よい甘みと苦味、あたしが昔散々文句を言って調整された味だ。彼は未だにこの味を覚えていてくれたのだろう。
「正樹の葬式にこなかったけど、どこにいたんだ?」
「――ちょっと京都で療養してた」
「あんなとんでもねぇ事の後だもんな、そりゃあ仕方ねぇ」
「……」
「……」
しばしの沈黙、ただ黙々と珈琲を流し込み続ける。思い出を飲み干して、次へと引きずらないために。
「――お前、ほんとに変わったな」
「え……?」
「昔のお前は、心に壁作っててさ――誰も近づけないようにしてただろ? 何考えてるかわからないやつに、誰も怖くて近づかない。そんな中で、あいつだけは唯一お前に近づいた」
「……」
「実は正樹もそうだったんだよ。いつも一人でさ、俺以外に友達もいないし。嘘つき呼ばわりする奴らなんか知らないってさ」
「正樹が……?」
「そう、だからお前達って――似た者同士だったんだ」
「……」
「そして今のお前は、俺に助けを求めてきた正樹にそっくりだ。わかるんだよ――お前の心が泣いているのが」
「――そんな事ない!」
「もう、あの頃のお前とは違う。何も感じない考えない、人形みたいなお前とは違う。正樹の死を嘆き、それを乗り越えて前に進もうとしてる。でもさ――孤独に戦うってのは辛いだろ?」
そう言って、操は注文していないピザをカウンターに置いた。それは、いつかどこかであたしが食べたいと言っていたような肉々しいピザだった。そしてそこにはチーズで書かれた文字――"ア・イ・シ・テ・ル"
「俺ってほんと卑怯なんだわ。あの日親友に遠慮して諦めた女に今告白してる。正樹が見たらなんて言うかなぁ……」
「――と思う」
「え……?」
「笑うと、思う…… 僕の親友って、本当に不器用だなって」
「――ぷっ、ははっ! そいつは傑作だ! 妖怪バカにそんな事言われた日には腹抱えて笑うしかねぇだろ!」
「ふふっ……」
「――答えはすぐじゃなくていい、俺はいつまでも待ってるからさ」
いつからだろう、こんなに弱くなんてしまったのは。
いつからだろう、こんなに誰かに寄り添ってしまったのは。
いつからだろう、こんなに一人が寂しいと感じるようになったのは。
「――操」
「なんだ?」
でも、それは決して悪い事じゃない。誰かと寄り添って歩くことは弱者だからじゃない。誰かを護る意思もまた、あたし自身の力になると知っているから。だから、この日の答えを後悔なんてしてない。一つ一つの選択が、あたしの人生だから。
「あたしと一緒に、地獄を歩く覚悟は出来てる?」
「――あぁ、とっくに出来てるさ」
帝京歴749年、坂本妙が田辺操と再婚。750年に第一子を出産。
その後、青森での修行を終えてあたしは帝都支部の司令となった。元総司令だった大西恵は安倍溝秋との結婚を期に現役を引退する。あの一匹狼が結婚なんて予想外ではあったが、彼女がこれ以上自身の命を削らずに済む事に安堵していた。
あたしも二人目の子供を授かり、妖怪絡みの事件も落ち着いていて順風満帆な人生を謳歌していた。このまま平和が続けばいい、そう思っていた……
-帝京歴766年-
「おんぎゃぁぁぁああ!」
「元気な女子でございます」
「――そうか」
生まれたばかりの我が子を抱き締め、恵は妖しく嗤う。
「お前の名は雪だ。我が呪われた血を引きし者よ」
赤子を抱いたまま恵は右手を掲げ、自身の霊剣である紅桜を形成する。慌てた側近達が彼女を止めようとするが、うねる霊気がかまいたちのように他の者を吹き飛ばした。
「よいか、お前は我らの希望だ。混ざりモノの未来だ。我と妙の子にして、世界を救う救世主だ」
「だぁぁ?」
赤子は何も理解できず、ただ母を見て首をかしげる。
「どんな過酷な運命であろうとお前なら乗り越えられる。我はそう信じて全てを託そう」
"さらばだ、我が好敵手(りかいしゃ)よ。娘はお前に託した……"
恵は、手にした紅桜の刃を自らの赤子へと突き立てた。
帝京歴768年、夫をガンで亡くしてもあたしは立ち止まらなかった。もう止まる事は許されなかった。背負う命があたしにのしかかろうと、受けた分まであたしは生きなければならなかった。託された希望を、託された思いを、ともに歩むためと……
-帝京歴772年-
「いいが? わが、今日からおめのおかさんだ」
「おか……さん……?」
大西家惨殺事件が発生、唯一生き残った大西雪が坂本妙の養子となる。
あたしは一人じゃない、こんなにも共に歩む仲間がいるんだ。だからあたしは戦える、進んでいける。
-帝京歴786年-
「このばばぁ、どうして倒れないのよ!」
「このひど、だけは、死んでも、わださね!」
坂本雪によって倒された神楽が脱獄、鬼童丸が封じられた黒水晶を奪うべく青森の狐狼神社を襲撃。危険を察知した坂本妙によって黒水晶は守られる。
しかし、その負傷によって坂本妙は重症――戦線復帰は不可能と判断。
そして、現代――
-帝京歴787年-
――長い夢を見ていた。嬉しいことも辛いことも沢山あった、そんな長い夢。これは夢の続き? それとも現実? 目覚めた先は夢か現か、ふわふわとした感覚に包まれて、それはとても幸せなキモチ。
「おばちゃん!」
「おかさん!」
誰かが目の前で叫んでいる。何をそんなに騒がしいのか、あたしにはさっぱり分からない。
「一時的に意識が戻りましたが、果たして――」
「医者ならなんとかしなさいよ!」
あたしは何してたんだっけ? 何をしなきゃいけないんだっけ? あたしは――
脳裏に浮かぶ大事な人達の顔、皆笑顔であたしを見ている。
そうだ、あたし、生きなくちゃ。生きて、もっと前に進まなきゃ。
「おばちゃん頑張って、もうすぐおばちゃんの大事な人が来てくれるから!」
だいじなひと? だいじなひとならみんないるよ? あたしとずっといっしょにいるよ……?
だからおきあがらなくちゃ、だって、やくそく、したんだから――
"君は、生きてくれ"
やくそく、したんだ、いきるって、ひとりじゃないから、たたかえるって
"君は、生きてくれ"
あたしの手を握りそう語る彼は、微かに手のひらに熱を与えた。
「ごめん、遅くなった」
正樹が重なり、恵が重なり、操が重なり、その先に見えるのは――
「母さん、俺だよ――和樹だよ」
愛しい自分の息子だった。
あたしは、決して良い母親ではなかった。ウタイという特殊な仕事で、子育ては当然出来なかった。いつも操に任せっきりで、子供達はそんなあたしを母親とは思ってくれなかった。娘は操の死後あたしとまともに話そうとはしなかったし、息子もほぼ連絡をくれなかった。
これが平和の代償、子供達をこの世界に引き込まないためのあたしが出来る精一杯だった。
「母さん、俺だよ――和樹だよ」
だから、息子がこの場にやってきた事が不思議だった。恨まれはしても、こうやって心配される価値なんて――あたしには無い。
むしろ、この世界へ巻き込んでしまった事を謝りたい。子供達だけは、何も知らずに生きて欲しかったから……
「俺、どうしても母さんに伝えたい事があったんだ」
ふわふわとした感覚が、返事をしようとする意思を阻害する。自分の身体なのにそうではない違和感、指先ひとつでさえ動かす事は叶わない。
「俺さ――帝都支部の司令になる事になったんだ。そう、母さんの後釜さ」
「――」
「母さんは俺達に普通の生活を送って欲しくて遠ざけたんだろうけどさ、そんなの水臭いだろ。
別に母さん一人で頑張る事なんてなかったんだよ」
「――」
「知っちまったからにはさ、俺だってやれる事をやりたい。母さんが一生懸命、俺達家族との時間をなげうってまで守ってくれた平和ってやつをさ――これからは俺達が守っていきたいんだ」
あぁ、あたしは――
「だからさ――」
またあたしは、ひとりで突っ走っていたのか。誰にも頼らず、一人孤独な戦いを続けていたんだ。あの時の正樹や恵のように、また一人で……
なのに、またあたしは手を差し伸べてもらってる。足りないモノを補う温もり、あたしはこの熱をよく知っている。
「だからさ、もう一人で頑張らなくてもいい。もう、いいんだよ……」
「ぁ……」
どうして、あたしはいつも、気づくのが遅いんだろ……
正樹、恵、操――本当にあたしって、バカだよね……
「だから安心してくれ! 俺に全部委ねてくれ! 母さんが背負ってきたもの全部!」
これは夢、あたしが夢見た未来、永遠に訪れない和解の未来――あたしの願望。
「これからの未来は俺達に任せて、母さんはもうゆっくり休んでもいいんだ」
ありえないと思っていた、あってはならないと自ら否定してきた、その願いが今目の前にある。
「母さん、俺を産んでくれて――ありがとう!」
"あたしの方こそ――ありがとう。生まれて来てくれて、出会えて、本当にありがとう"
最期の言葉は、思いは、きっと届いているから。だから行こう、また皆と一緒に。
『妙!』
声がした方を振り向くと、よく見知った顔が――そこにあった。
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