ふぉっくすらいふ!   作:空野 流星

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ふぉっくすらいふ 特別編 ~京の都と誕生せし三人目の九尾~
ふぉっくすらいふ 特別編 <序>


-帝京歴786年3月16日-

 

「FCS応答無し、機体制御沈黙――完全に死んだな」

 

 コックピット内の非常用レバーを引き、デウス・エクス・マキナの頭部装甲を内蔵爆薬で吹き飛ばす。男はヘルメットを脱ぎ捨て、つい先程まで戦場であった場所を見渡した。

 隔壁や床は凹み、オイルや血痕が辺り一面を濡らしている。デウス・エクス・マキナは両足が潰れ、両腕も霊弾砲の使いすぎで大きく破損していた。おそらく修復は不可能――しかし、何も問題はない。機械など、また作ればいいだけの話なのだから。

 

「ティアマトのデータを応用した改良を加えていなければ、この血溜まりに沈んでいたのは私だったかもしれないな――彩音、状況は?」

"反乱の鎮圧は完了、こちらの被害は想定値の1.5倍となります"

「想定内――とは言えないな。神楽……」

 

 この戦いで大事な手駒である神楽を失ってしまった。私の想定では彼女を失う事は無かった筈だ。しかし――

 

「神の頭脳は死守した、彼女の死という事実はいくらでも曲げられる」

 

 そうだ、このバークライトシステムさえ掌握してしまえば、私は完全なる神として君臨できる。全ての事象を操る本物の神にだ。そうすれば、私達の長年の夢が叶うのだ。

 

「――晴明様!」

「神楽か!」

 

 私はデウス・エクス・マキナのコックピットから飛び降り、聞き慣れた声がする方へと駆け寄る。次第に輪郭がはっきりしてくる彼女の姿は、体中から血を流し立っているのもやっとな程衰弱していた。

 自分でも不思議な程、彼女が生きていた事に喜びを感じていた。先程までの自分の思考とは真逆の感情へ疑問を持ちながら。

 

「かぐ――」

 

 だからこそ、見抜けなかったのかもしれない。彼女の秘めたる思いを――

 

「彩音、コード666発動!」

"指定コード認証、最終計画Godsの始動を承認します"

 

 痛みは無い、何も感じない、声も出せなければ腕を振り上げる事も抵抗も出来ない。私の知らない言の葉を彩音と神楽が紡いている。

 

「晴明様、我々は敗れたのです。こことは違う平行世界で私達が敗れた時、全ての事象は書き換えられます。この世界の勝利も無かった事となるのです」

"ダークマターへのアクセス完了、記憶領域の読み取り...100%、当システムへ取り込み後BOCへ全移植します。

転移カウントは移植タイムへと同期"

「でも、これで終わりではありません! 相手が勝つまで続けると言うならば、今度は私達が勝つまで挑み続ければ良いのです!」

 

 意識も徐々に薄れ、掠れた視界では今彼女がどんな顔をしているのかも分からない。ただ一つ分かっているのは、私の命は今彼女に握られているという事実だけだ。

 

「やり直しが奴らだけの専売特許では無いと思い知らせてあげましょう!」

"カウント残り5...4...3..."

「愛しています――晴明様」

 

 彼女は握りしめた心の臓を私の体から引き千切り、愛おしそうに口づけすると、口内へと丸呑みにした。

 

"カウント残り2...1...Gods計画始動"

 

 それは神さえも見通す事が出来なかった出来事、世界の根底を揺るがす大事件であった。

 

-帝京歴786年9月-

 

 ガイア2大都市の一つ、帝都。多くの若者は、この地を目指す。時代の最先端、あらゆる技術、娯楽が集う場所。田舎娘の私には、その全てが眩しくて……

 でも、夢を叶えるためにはこの大都会に進出するのが近道であるわけで。実際、慣れぬ地でテンションが上がっているのも確かで。ただただ、この平穏が続いてくれたら嬉しいなぁと思うわけです。

 しかし、現実は甘くないわけで――私が望もうと望むまいと、トラブルはやってくるのだ。

 突然嫁にやってきた大妖怪や、京都から派遣された凄腕霊能者、私の周りには次々とトラブルの元が集ってくる。それもこれも――きっと生まれながらの運命なのだろう。

 それでも私は、今日を懸命に生きている……

 

「ご主人様ぁぁぁ!!!! 当たりました! 大当たりでございます!!」

「一体何が当たったって――」

 

 カランカランというベルと音が商店街に響き渡る。

 

「特賞、京都温泉旅行ですよご主人様!! ペアチケットなんですって!!」

「まじか! まじでか!? となると――くぅーっ! コミマ開けのお休みタイムじゃないか!」

 

 そう、この時の私は浮かれていたんだ。眼の前にいるトラブルメイカーが一緒だと、間違いなく事件に巻き込まれるであろうに……

 

「そう、その結果がこれってわけよ」

「ご主人様、誰と話しておられるんです?」

「気にしないで、ただの独り言だから……」

 

 京都旅行の筈が、何故か森の中を彷徨う結果に――何がどうすればこんな事になるのやら。

 

「なんでいっつも――こうなるのよぉぉぉぉおおお!!!」

 

 

 

 

 

ふぉっくすらいふ 特別編 ~京の都と誕生せし三人目の九尾~

 

 

 

 

 

OP『Never Ending Story』

作詞:空野流星

歌:雪&菊梨&留美子

 

let's go! ここから始まる物語。

さぁ、私達だけの冒険を始めましょう。

 

出会いは突然だったね。(押しかけ女房!)

貴女が運んでくるのは、いつも厄介事だけ!

でもね、貴女への思いは全部ホントの気持ち、真っ直ぐな愛。

この気持ち受け止めてくれるなら、どんな事でも出来ちゃう!

 

let's go! 咲き誇る愛の花。(look me!)

非常識なこの世界を今、ぶち壊せ!

摩訶不思議な出会いが私達を待っているから。

一緒ならば何でも出来るから。

さぁ、私達だけの冒険を始めましょう。

Never Ending Story!

 

 

 

 

 

「司令、目標二人の生体反応をキャッチしました」

「映像でも確認、間違いなく目標です」

 

 司令と呼ばれた女性は勢いよく椅子から立ち上がると、被った帽子位置を調整してから右腕を掲げる。

 

「作戦開始!」

 

 命令を受けた少女はただ頷き、霊銃の安全装置を外して駆けていった。

 時を同じくして、雪と菊梨は相も変わらず森の中を彷徨い続けていた。

 

「いつになったら古き良き京都が見えてくるわけ?」

 

 最初は快適な電車旅だった。駅弁を食べながら風景を楽しみ、座席に背を預けぐっすりと眠った事までは。何故か、目覚めた先はこの森の中であり、どうしてこうなったかという真実は闇の中だ。菊梨も私と同じで、眠っていた間の事は知らないらしい。

 

「人間の匂いが濃くなってきているので、方向は間違って無いと思うのですが……」

「まるで犬みたいな――って狐もそんなに変わらないか」

「失礼な! 私(わたくし)は霊験あらたかなお狐様ですよ!! その辺に寝っ転がってる犬畜生と同じにしないで下さいまし!!」

「でも、あてにならなきゃ犬畜生以下じゃない?」

「――泣きますよ?」

「どうぞどうぞ、その間休んでおくから」

「おに! あくま! でもすきぃ!」

 

 いつもと変わらないやり取りを交わしつつ、周囲へと意識を向ける。去年の冬に稽古をつけられて以来、私もだいぶマシな退魔師と呼べる存在になれた。ある程度集中さえすれば、気配を察知する事だって出来る。

 

「――最悪なパターンだわ。人はおらずとも妖怪は健在ってわけか」

「京都って妖怪との条約を結んでいたはずですけれど、これは私(わたくし)達がよく知る方の妖怪のようですね」

「トップが捕まったってのに、邪神教の残党ちゃんはしつこいわね」

 

 私と菊梨は背中を合わせて互いの死角をカバーする。久々とはいえ、身体は戦い方を覚えているようだ。"紅桜"を抜こうとした瞬間、上空から予想外の発砲音が森の中に木霊する。それは、私がよく知る人物が愛用する武器だ。

 

「留美子!」

 

 いつもの戦闘スタイル――巫女装束を纏った留美子が、枝を足場に飛び回りながら数発の弾丸で敵を仕留め、私達の側へ綺麗に着地する。

 

「久しぶり、あまてるちゃん。迎えにきたよ」

「このまま京都に辿り着けないと思ったよ。留美子ありがとう、どっかのバカ狐とは比較にならないわ!」

「そんな事言ってる場合ではないですよご主人様! 先程よりも敵の数が増えてきています!」

「――大丈夫」

 

 留美子はそう言うと、自分の足元を強く踏みつけた。その瞬間、地面の一部がせり上がって武器コンテナのような物が出現した。

 

「ちょっ、えっ……?」

「ここは京都、対妖怪用の要塞。どこで何があろうとベストに戦える街」

 

 武器コンテナからアサルトライフルを取り出して構え、迫り来る敵へと銃口を構える。

 

「ようこそ、京都へ」

 

 その言葉と共に引き金を引いた。

 

―――

 

――

 

 

「ねぇ菊梨」

「なんでしょうか、ご主人様?」

「私が知ってる京都と違う」

「――同意見です」

 

 共に三色団子を頬張り茶を啜りながら、自分達が知る本来の街並みを眺める。そこには先程までとはうって変わって一般的なイメージの京都の街並みが広がっている。人と妖怪が行き交う帝都では見ない景色、これが本来の京都の筈だ。

 

「はぁ……」

「先程の返答はどうします……?」

「決まってはいるんだけど、どうも現実味が無いっていうか」

「世界の命運なんて言われましても、はいそうですかなんて返事は出来ませんよね」

 

『貴女の身体に刻まれた遺伝子が、世界を救うのかもしれないのよ?』

 

 ウタイ本部司令である安倍天照は私にそう言った。近年現れるようになった悪霊の原因を根絶するには、私の遺伝子がどうしても必要らしい。

 そもそも悪霊が何故生まれるのか――それは、徐々に変化してきた内器官が関係している。安倍天照の研究結果によると、その器官が私達が扱う霊力と強く関係しており、妖怪にも妖力を生成する同じものが備わっている。近年では、この器官で霊力と妖力の両方が生成されるようになってきたのだという。その結果、妖怪と人間のハーフと同じように両極の力がぶつかり合って体調を崩す者も多くなっており、そのまま死した者達が悪霊化する可能性が高いのだそうだ。

 それを抑えるために私の遺伝子が必要で、研究の協力を申し出てきたのだ。

 

「まぁ、旅行が終わるまでに決めればいいでしょ」

 

 残りの団子を口に頬張り、席を勢いよく立つ。

 

「ごちそうさま!」

 

 カウンターにお代を置いて菊梨の手を引きながら店から飛び出す。あれこれ難しく悩むのは苦手だし、今は二人での時間を楽しみたい。

 

「ご主人様、どこに行きましょうか?」

「そうねぇ、確か人工ビーチがあるって聞いたしそこに行ってみようか!」

「はい!」

 

 私だって一人の人間だもの――別にいいよね?

 

―――

 

――

 

 

「ナンデー! 臨時休業とかナンデー!!」

 

 不幸というものは続くらしい。遭難からの臨時休業――神は死んだ! どんな不幸な星の元に生まれてきたんだ私は! こんな事が許されてたまるか!

 

「ご、ご主人様……その、別の場所にでも――」

「菊梨!」

「はいっ!」

「――強行突破だ!」

「え……?」

「私達を誰も止める事は出来ないのだ! この柵を越えて突撃だぁ!!」

 

 助走をつけて大きくジャンプし、緑色の交差フェンスを飛び越える。菊梨は呆れた顔をするも、後に続いて交差フェンスを飛び越える。そのまま一緒に砂浜を海へ向けて駆け抜ける。

 

「うぇみだぁぁああああ!! いっやほぉぉーーー!!!」

 

 そうさ、私は運命に打ち勝ったのだ。神がどんな妨害工作を図ろうと、前に進もうとする私を阻む事なんて出来はしないのだ。その証拠に、今私は目的の人工ビーチへと辿り着いた。私の勝ちだ!

 

「綺麗な景色ですねぇ~」

「ほんとねぇ……」

 

 人工とは思えない広さの水面が目の前に広がっている。陽の光が反射してキラキラと輝いている。いつのまにか、私達は互いの手を握りながらその景色を眺めていた。

 

「私、天照様の提案を受けようと思う」

「はい」

「だから、菊梨も一緒にいてくれる……?」

「今更ですね――当然お供しますよ。いつまでも、どこまでも……」

「ありがとう……」

「ご主人様……」

 

 徐々に互いの顔が近づき、その先に備えて菊梨はゆっくりと瞼を閉じる。私もそれに合わせてゆっくりと唇を近づけ――

「え……?」

 

 視界の端に映る影、あれは人影ではないのか? 見間違いかどうかの確認のために一度菊梨から顔を話して眼を凝らす。

「ご主人様……?」

「――人が倒れてる」

 

 菊梨の身体を離し、砂浜に倒れている人影へと駆け寄る。白髮のマッシュツーブロックの青年が眠るように横たわっている。

 

「大丈夫ですか!」

 

 軽く身体を揺さぶると、瞼が軽く痙攣する。死んでいるわけではない事を知り安堵の息を漏らす。

 

「ご主人様、その方は?」

「わからない、どうしてこんな砂浜に……」

 

 青年はその瞼をゆっくりと開くと、真っ赤な瞳で私を見つめるとただ一言だけ言葉を口にした。

 

「僕は――誰だ?」

 

 それは遠い昔の約束、僕と君の物語。永遠に続くと信じていた道筋は、儚げに掻き消えた。永遠なんて存在しない、全てはただの願いというだけで、それが叶う者は一握りである。

 

「僕は――誰だ?」

 

 僕は空っぽだった。記憶という中身が流れ出た虚、何者でもない人の形をしただけの存在。こんな僕はどこにも行けないし、どこに行く必要もない。

 しかし、何故だろう。そんな空っぽの器にたった一欠片だけ輝くモノがある。吹いただけで掻き消えてしまいそうなか弱い光、何かを訴えるその光は僕に何を伝えようというのだろうか?

 

「君、大丈夫?」

「……」

「怪我とかしてない? 名前は?」

 

 何故か、自分を心配する眼の前の女性に妙な既知感を感じた。それが失った過去と関係するのかは分からない。ただ、僕自身の光が彼女と共に歩めと叫んでいるかのようにも聞こえた。

 

「わからない」

「もしかして、記憶が……」

「――君が、呼び名を決めてくれ」

 

 女性は腕を組んで数刻悩むと、満足げな笑みでその名を口にした。

 

「今日から君は"海人(かいと)"よ」

 

 それが、空っぽな僕の始まりだった。

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