八咫烏
-帝京歴759年-
「いいか、お前はその中に隠れているんだ」
「お父さん!!」
燃える燃える、歴史を紐解く秘密が父と共に燃えていく。全身が焼けるように痛む。失った右腕が痛み続ける。また大事な何かを失う事に心が痛む。
「父さんと母さんの復讐を為せるのはお前だけだ。いいか、必ず玄徳を殺すんだ。俺達家族を壊したあの男を――」
"こっちから声がするぞ!"
「いいな、お前だけでも生き残って、そして俺達の悲願を! うぉぉぉぉおお!!」
男性は銃を構えて今にも蹴破られようとする扉に突撃していく。5歳程度の幼子は、何も理解出来ずに泣き叫ぶ事しか出来なかった。
ただ父の名を呼び、無様に泣き叫ぶだけ……
そして、帝京歴774年
「晴明様が亡くなられ、早15年の月日が流れました。本日帝都では、大規模な鎮魂祭が予定されております。都民の方々はなるべくご参加――」
スクランブル交差点の中、この真夏に似合わない真っ黒なスーツを来て歩く男がいる。男はモニターのニュースに目を向けて、不気味に口角を釣り上げる。
巨大なモニターに向けて、ガンメタルカラーの義手の指で銃を象る。
「Bang!」
―――
――
―
「それでさ、久美子がね、こーんな顔で怒ってるのよ!」
「あははっ!! 似てる似てる!」
私の名前は日向、どこにでもいる高校生だ。今日は午前授業だったため、親友の霧子と共に渋谷へと遊びに来ていた。二人でアイスクリームを食べながら、仲良くバカ話に花を咲かせている。
「でもさ、担任のぶっちーったらすっごい困ってて、マジうけるって感じ!」
「私あの担任苦手なんだよね」
「わかるぅ、キモイもん!」
「流石に言いすぎだって!」
「だってだって――キャッ!」
霧子の背中が通りかけたスーツの男性にぶつかる。男はピギャッという悲鳴を上げながら、思った以上に吹き飛び、遊歩道を転がっていく。
「大丈夫ですか!!」
私は慌てて男性に駆け寄って肩を貸す。この真夏日に全身真っ黒なスーツを着て、サングラスとつばの広い帽子を被っていた。そしてヒヤリとした無機質な感触――彼の右腕が義手だという事に気づいた。
「大丈夫だよお嬢さん」
表情は読み取れないが、声からして然程怒っているような感じでは無かった。声音から結構若い人と推測出来るが、何かの自己で片腕を失ったのだろうか?
「――気になるかい?」
「えっ……? いや、その――」
「コイツはね僕の自信作で表面には特殊な加工がされていて、どんな衝撃でも傷つかづ凹まずなんなら鈍器としても成立してしまう程高度を有し――」
「ご主人様!!」
「おぉ、やっと買えたか彩音」
異常な程の男の早口を遮ったのは、渋谷で大人気のソフトクリームを2つ持った小さなメイドさんだった。耳と尻尾をみるに、どうやら狐の妖怪であるようだ。
「はい! ご主人様の分も買ってきましたよ!」
「good job! ではお嬢さん、僕達はこれで失礼するよ」
「は、はい……」
「――それと、最近は物騒だから夜遊びは程々にね」
去り際、男はそう耳打ちして去っていった。
「いったた――日向、さっきの男の人は?」
「いっちゃった……」
「あっそ、ならいいか!」
「ほんと霧子って適当だよね」
「世の中、なんとかなるなるってね!」
「――その性格が羨ましいわ」
「さてと、それじゃあそろそろ向かいますか」
そう言って霧子は私の手を引いて駆け出す。
「本当に行くの?」
「当たり前でしょ? そのために来たんだからさ!!」
ぶっちゃけ、今は来なきゃ良かったって思ってる、廃墟なんて何があるか分からないのに。
「霧子~? どこ行ったの~?」
人間と妖怪がてを取り合う世界を作るって天照様はおっしゃっていたけれど、その方針に賛成する妖怪が全てではない。
「霧子……?」
私はあまりにも、平和ボケしすぎていたのかもしれない……
「霧――」
「やぁだ、レディの食事を覗かないでよね」
廃墟ではぐれた霧子を探し回った私が遭遇したのは、蜘蛛のような姿で人間を貪る霧子の姿だった。
「ぁ……ひっ……」
「ダイジョウブよ、日向は親友だからユックリ美味しく食べてあげる!」
ジリジリと距離を詰めてくる化け物、私は尻もちをついてその場から動けずにいた。
「誰か――誰か助けて!」
限界まで声を張り上げて助けを求める。誰も来ないのは分かっている、こんな廃墟に人なんているわけがないのだらか。きっと私は、目の前にいる化け物に食い殺される事だろう。手足を噛みちぎられ、羽虫のように哀れに――
「だから、帰った方がいいと言っただろう?」
突然降り注ぐ声と風圧、目の前に迫っていた化け物は廃墟の奥へと吹き飛ばされていた。そして、私の目の前には、先程の黒スーツの男が立っていた。
「ぁ……」
「やぁ、また会ったね」
男はサングラスを投げ捨て、スーツの上着と帽子を脱いでワイシャツ姿になる。それと同時にホルスターに収められた拳銃、ガンメタルカラーの右腕の義手と、同じ色の背中の四角い箱のようなものが露わになる。
視界が黒で覆われ、羽のようなものが辺りを舞い散る。それはまるで黒い翼の天使が舞い降りたかのようだった。
「義手に漆黒の翼――マサカ、貴様は!」
「黒き魂(たま)を刈り取るは、我ら八咫烏なり!」
金色に輝くヒューズのようなものを右腕の義手へと差し込むと、まるで血管に行き渡るように黄色い筋が義手全体を走っていく。
男は左手でホルスターから拳銃を抜き、化け物に銃口を向けた。
「さぁ、狩りの時間だ」
"ねぇ、知ってる? あの噂話し"
"それって、お金さえ払えばどんな仕事でもこなしてくれる退魔師の事でしょ?"
"そうそう、本当に存在するらしいよ!"
"じゃあさ、どうやって依頼するの?"
"秋奈町のゲームセンター横の細路地を真っ直ぐ進んで右、左の突き当りに鉄製の扉があるの。そこを3回ノックしてから合言葉を言うの"
"その、合言葉って?"
『黒き魂(たま)を狩るは何者ぞ』
合言葉で扉は開かれ、黒スーツの男と同じ黒スーツの女烏天狗、そしてメイド服に身を包んだ子狐が来客を迎え入れる。
「ようこそ、本日はどのようなご依頼でしょうか?」
~完~
-ちょっとしたあとがき-
こちらの八咫烏は、もしも晴明が子供の頃に死んでいたらという前提で繰り広げられる物語です。本編では759年に彩音と出会って窮地を脱しましたが、この物語では流れが変わっています。
玄徳は晴明のおじいちゃんというポジションに変更となり、天照という傀儡を使って妖怪殲滅を企てています。晴明母は天照出産後に自殺(天照が晴明父との子ではなく、玄徳によって孕まされた事実に耐えきれなくなった)、父は玄徳の計略で晴明と共に殺害されています。まぁ、生きていて晴明ではなく晴明(せいめい)と名乗っているわけですが。その道中で本編と同じように神楽と仲間になり、子狐である彩音を拾って現在に至るというわけです。
本編と同じように彼の霊力は微弱であり、この作品では遺跡の技術を応用した技術を使って戦うわけです。彼が手にしている霊銃や霊剣も、遺跡の技術を解析して作られたものです。基本的にスペックは本編と同じものですね。
特筆すべきは特製の義手と背中のバックパックです。神楽や彩音に生成してもらった霊気のヒューズ――霊マガジンを装填する事によって霊気を帯びた戦いをする事が出来ます。背中のバックパック――可翔翼壱式は霊気で黒い翼を形成して空を飛ぶことが出来る優れもの!
義手に関しては玄徳によって暗殺武術を叩き込まれており、それを使った攻撃に特化されています。特に手の平から放出される霊気のエネルギー波"Gottes Herrschaft"はSランク妖怪すら消し炭にする破壊力です。
ちなみに本編でも使っている神楽の義翼は可翔翼弐式という名称になります。霊気の翼ではなく実体なのは、自分が烏天狗であるという事を誇示したいためである。
今回はおまけという導入を公開しましたが、特に続きを書く予定はございません。ですので、もし書きたいという奇特な方は是非私の方までご一報下さい。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!