家屋が並ぶ住宅街。普通であれば家族の団らんで温かな光がもれるであろうその路地には、醜い獣が跋扈していた。
「はぁあっ!」
「グルルァ!」
襲いかかってくる獣を片っ端から斬っていく。
あれから随分と獣を狩った。始めこそ獣と血の臭いにえづいたが、もう慣れてしまった。
ここまでに幾つか分かったことがある。
ひとつ、ここはトレイセーマに似た場所であるということ。建物の造りがあの国のものと同じだ。
ひとつ、どれだけ時間が経過しても夜が明ける様子がないということ。度々休憩しながら進んできたが、星の位置も月の高さも変わっていない。
そして、少なくとも私が通ったところにはマトモな人は残っていないということ。ただ獣だけがここを支配していた。
「はぁ……はぁ……この辺は、終わりかしら」
いつの間にか静かになった路地の脇に座り込む。
カシウスは見つからない。ここがどこかも分からない。
とにかく前へ前へと進んできたが、あてがある訳でもない。
ただ、ただ―――
「……うるさい」
奥から聞こえるあの獣の唸り吠える声が、酷く、酷く。
身体が震えだし、早く狩りを再開しろと責め立てる。
再び立ち上がり、僅かな静けさを後にした。
(……なにか、忘れてる気がする)
道なりに進むと広場に出た。
中央に噴水があり、それを囲むようにベンチやらプランターやらが並べられている。
どういう訳か、そこには先ほどまでのような獣はいなかった。
その代わりに。
「グルル……」
山羊の胴。獅子の頭。尾は蛇。獣を継ぎ接ぎしたそれが立ち塞がっていた。
(キマイラ……?)
キメラとも呼ばれるそれは、こちらを睨み付け唸る。
こちらも剣を構え、睨み合うこと数秒。
「――っ!」
先手必勝、キマイラに斬りかかる。だが蹄は軽やかに地面を蹴り、刃は宙を斬る。
二度、三度、剣を振るうがことごとく避けられてしまう。
「なによ、何で当たらな――」
突如、熱波が押し寄せてきた。反射的に体をひねるが、揺らぐ赤い炎は左腕に触れる。
「あっつ……!」
炎を吐いたその口がニヤリと歪む。キマイラはこちらが怯んだその一瞬で間合いを詰めてきた。そして。
「ゥルルルァァ!」
「かはっ……」
鳩尾に鋭く蹴りが食い込んだ。膝から崩れ落ち、痛みに悶える。
「おえっ、げほっ……がっ!」
容赦なく背中を思い切り踏みつけられ、地面に伏す。内臓が破れたのか、喉の奥から鉄の味が逆流してくる。
「ガルルルル……」
「あ……ああ……」
獅子が牙を剥き、こちらに顔を近づけてくる。
嫌、嫌、い……
ぐちゃり。
「―――――」
文字通り、喉が潰れる。呼吸なんて出来ない。悲鳴すらあげられない。
苦しい。ひどい。なんで。なんで。なんで。
獣の荒い息遣いと咀嚼音が妙に脳裏に焼き付いた。
庭の花畑で目が覚める。まるで先ほどまでの出来事が夢であったかのように。
「ふ……ふふ……ふふふふ……」
ゆらりと立ち上がり、鞘から剣を抜く。
「どうせ死んでも無駄なんでしょ……」
誰に語りかけるでもなく。
「ええ……それなら……」
しかし、確固たる決意を持って。
「殺してやるわ。何度死んだって」
「―――はぁ……はぁ……」
「ゥウ……クルルル……」
獅子の首筋に剣を突き刺すと、キマイラはぐったり動かなくなった。
疲れた。どさりとその場に座り込む。
動きを読めるようになるまでに体感3時間。死んだ回数は覚えていない。そこからはひたすらに攻撃を避け、弾き、隙を作って斬りつけた。
一つの読み間違いが死に繋がる。きっとこの先もそうなのだろう。
鉄と獣の臭いを吸い込み、吐き出す。刺さったままだった剣を引き抜き、血を振り払う。
奥からは、まだ獣の遠吠えが聞こえてくる。
「……行こう」
そうしてまた、私は獣狩りに繰り出す。
この悪夢から本当に目覚めるために。
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【合成獣】
キマイラを討伐した証
【YOU HUNTED】
はじめて大型の獣を討伐した証