住宅街を奥へ、奥へと進む。
行く手を塞ぐ獣は片っ端から狩ってゆく。
キマイラとの戦いで分かったのだが、狩った獣は大小問わず復活しない。また獣たちにはテリトリーがあるようで、外から流れ込んでくることもないようだ。
獣を狩り終わった後の静けさは心地よく、故に獣の遠吠えがうるさくて堪らない。ひたすら声のする方へ向かい、静かになるまで狩り倒した。
そうしているうちに随分と奥まで来た。
どういう訳か、家屋の幾つかが倒壊している。ただ壊れた、あるいは崩れたのではなく、獣によって壊されたのだろう。
進むにつれて瓦礫は多くなり、まともな家屋は少なくなっていく。
「……あれは?」
先程までの光景が嘘のように家屋が立ち並ぶ区画、その手前に。
「ア…ぐッ……がアッ……」
頭を片手でおさえながらフラフラと歩くグリモワールの姿があった。
「ねぇ、あなた……」
「グっ……あ……アるマス……」
ゆらりとこちらを向く彼女は酷く顔色が悪かった。
「グリモワールよね、大丈夫?」
彼女を介抱すべく近寄る。だが、
「に……ゲ……ナ……」
「え……?」
先ほどまで冷たかった空気が異常なまでに熱を持ち始め、グリモワールの姿が陽炎のようにユラユラ揺れ始める。
「ア……グ……ガァァァアアア!」
少女の喉から発せられたとは思えない咆哮と同時に炎の壁が視界を遮る。熱波が押し寄せ、思わず顔を腕でかばう。
「―――ァァ……」
やがて炎が収まるとそこにグリモワールの姿はない。
代わりに、というにはあまりに巨大なドラゴンがこちらを見下ろしていた。
「グォォォオオオオ!」
巨竜の咆哮は空気を大きく揺らし、窓ガラスが吹き飛ぶ。
足元には先ほどまで建物だったものが潰れており、尾を一振りすると周囲に瓦礫の山ができた。
「―――なに、あれ」
これまでの獣とは明らかに違う。大きさも、威圧感も。
こいつ相手にどう戦えば―――
「……考えてても始まらないわね」
地を蹴り、まず足に斬りかかる。だが硬い鱗は刃を通さない。
すぐさま飛び退く。動きはゆっくりとしているが、蹴飛ばされたらひとたまりもない。
どうやらこちらから攻撃が届く範囲で攻撃が通りそうな箇所はないようだ。
「ォォォオオオ」
「っ!やばっ!」
ドラゴンが首をもたげた。すぐさまドラゴンの側面に回り込む。
「オオオオォォォォ」
予想通り、ドラゴンの口から炎が吐き出される。炎は周囲の建物を焼き尽くす。
「はぁ……どうするのよこれ」
ここから攻撃が通らないなら上の方、背中や首に攻撃が通るか試すしかない。
「こんな時に、空を飛べれば……」
……実に馬鹿げた考えだ。羽がついている訳でもないし。
飛べないならば跳ぶまで。ドラゴンの死角、崩れた建物に登る。ドラゴンはこちらを見失っているのか、ギラギラと周囲を見回している。
「――はぁぁあっ!」
思いっきり跳躍し、ドラゴンの背中に剣を突き立てる。
元々攻撃が通りやすかったのか、或いは跳躍のエネルギーのおかげか、剣はドラゴンに突き刺さる。
「ガアアア!」
だがドラゴンが黙っているはずもなく、こちらを振り落とそうと尾で攻撃してくる。すぐさま剣を引き抜き首の方へ、尾の届かないところまで逃げる。
そして首の根元あたりにもう一度剣を突き立てる。
「ゴガァァア!」
やはり弱点らしく、苦しそうに身悶えている。
「これなら――っ!?」
いける、と思った直後。ドラゴンの体表が急激に熱くなる。
考えるより先に走り出す。
「グォォォオオオオ!」
背中から飛び降りると同時にドラゴンを炎が包み込む。あのまま背中にいたら燃やされていた。
炎を纏ったドラゴンは今一度こちらを視界に捉える。
「どうしろってのよ……これ」
既に周囲の建物はあらかた崩壊し潰れており、足場として利用できそうにない、飛び乗ろうにもあの炎の中に突っ込めばタタでは済まない。
勝ち誇ったように再び首をもたげる。数秒後にはブレスが襲い来るだろう。
「――!」
気づけば私は、思いっきり地面を蹴ってドラゴンに向かって跳躍していた。
ドラゴンの喉元は炎に覆われておらず、また鱗にも覆われていない。無防備に晒されたそこに向かって、無謀にも。
当然、届かない。重力に逆らえずに落ちるだけ。それでも。
「届けぇぇぇ!」
ふわり、と背中を押されるような感覚と共に、それまで重力に従っていた体が再びドラゴンの方へと進み始める。そのまま二度、三度と加速し、喉元に剣を思い切り突き立てた。
「グォァァァァァァァァ」
熱い血が吹き出し、ブレスが体内で暴発する。体表の炎が鎮まり、やがてその巨体が地面に倒れた。
「はぁ……やった……やったわ……」
すっかり静かになった元住宅街。座り込み、巨竜の亡骸を見つめる。グリモワールがこのドラゴンになったのだろうか……?確か彼女に獣刻されていたのは『ニーズヘッグ』だ。だとすると私は彼女を――?
そんなことを考えていると、ふと、チリンチリンと小さな鐘の音が聞こえてきた。その音の方を見ると、不自然に残っている一つの建物があった。周囲の建物が崩壊しているにも関わらず、そこだけ何もなかったかのように佇んでいた。
建物に入ってみると、テーブルと椅子、タンス、それからベッドがあるだけの粗末な場所だった。ベッドには誰か入っているのか、布団が盛り上がっている。そちらに近づくとすぐに気づいた。
「―――カシウスっ!」
そのベッドの上で瞼を閉じていたのは、カシウスだった。こちらの声に反応する様子がないあたり、深い眠りの中のようだ。
「よかった……無事で」
カシウスの手を握る。温かい。久しぶりに感じるそれに思わず涙が溢れる。手を握ったまま、目を閉じると、チリンチリン、と鐘の音が大きくなる。一瞬体が浮かぶ感覚。
目を開くと、洋館の庭にいた。花畑で眠るカシウスは綺麗で、どこか儚げで。守ってあげなくちゃ、と思う。
カシウスを寝室に運ぶ。相変わらずそこは静かで、外の音が一切聞こえなかった。
「ねぇ……カシウス」
話しかけても反応はない。文字通り眠り姫だ。
この状況が何なのかは未だに分からない。どうにかする手段も分からない。でも。
「……私、頑張るから。こんなおかしな状況、どうにかしてみせるから」
気のせいか、彼女が少し笑ったような気がした。
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【怒り燃える巨竜】
ニーズヘッグを討伐した証
【南区】
南区の攻略を終えた証
【眠り姫】
カシウスを洋館に連れ帰った証