平安の時代。お月見といえば祭事で、仲秋に行われるものだった。
あれから果てしない時を過ごしたが、ざっと1000年は過ぎただろうか?
冷たい空気が体を冷やす中で、二人夜道を歩いて行く。何故こんな寒い日にお月見をやるようになったのだ?と問う。
『何でなんでしょうね…?そうだ。きっと月が綺麗にみえるからですよ。憐哀さんも思いませんか?』
空を見上げてみる。月灯りが顔を照らす。心から綺麗だと思った。
そういえば、何故だろう?
さっきから、この身を蝕む焦燥感と怒りがない。
『着きました。ここです!私はここから見る月が大好きで…独り占めしたくて、誰にも教えた事がありません。でも憐哀さんには教えたいと思った。初めて人をつれてきました。憐哀さんも気に入ってくれるといいんですけど…。』
そこは湖で、手入れは行き届いていた。誰が手入れをしているのかは明白だ。
私は刹那的なものには全く興味がない。
人間のその一瞬の生で、この景色を残して何の意味がある?
その一瞬に何の意味があるのだ?
永遠であるならば、その一瞬は一瞬ではなくなる。
この景色も私が覚えている事で永遠になる。
間違いではないはずだ。
「……やっと着いたか!遅い。遠い。服も靴もが汚れてしまった!責任をとれ!……だが…そうだな…悪くない景色だ…」
二人なら?私だけじゃない。お前が私と永遠にこの景色を覚えていけたら?それはとても意味があることだ。
湖に写る月を見る。
『良かった…。…さっそく準備しますね!その間湖の周りの景色を見てみて下さい!見る場所によって色々変わるんですよ!』
一人で見ろと?不敬である。
「お前は私を一人にするつもりか?」
『それじゃあ…。一緒にお月さまのお供え物を、飾る準備をしませんか?』
私に一緒に雑用をしろだと?断る。と、いいたいが特別だ。気分がいい。少しだけならこの私が!手伝ってやろう。
「いいだろう…。特別に手伝ってやる。感謝するんだな!」
「…少し寒そうだな?…お前の側に行ってやる。」
『ありがとうございます。じゃあお団子を山にしましょう!』
月に御供えか…この世に神も仏もいない。
『このお団子アカザどのが作るの手伝ってくれたんです。手先が器用でびっくりしました!あまりにも手際がいいので料理も手伝ってもらっちゃいました。』
一緒に料理だと?こいつに近づくなど、何をしている!アカザ!アカザ!アカザァ!
『アカザ殿と仲良くなれたのも、憐哀さんが心配して私の護衛に寄越してくれたからですね。』
全くその通りだ!さすが分かっている。
…アカザァ…次はない!
『他にも色々憐哀さんには助けられてばかりだなぁ…。』
『…憐哀さん。』
何だ?飾りつけは終わったぞ。完璧な配置といえよう。
『ずっと渡そうと思ってました。でも渡す勇気がなくて…。』
贈り物か?いい心がけだ…。貰ってやろう。
『これ…憐哀さんに似合うと思って…。感謝の証です!女の人に贈り物ってしたことがないので、迷惑だったらすみません!良かったら受け取って下さい!』
こいつは私に口紅を渡す意味を、わかっているのか?
…いいんだな?返事などいらん。
証を刻み着けてやろう。
唇に唇を合わせてやった。