ユキアンのネタ倉庫   作:ユキアン

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Knight's & Magic & Carrier 1

 

 

 

親方達が新たな一歩を踏み出そうとして、ふと頭の片隅に引っかかったことを思い出した。

 

「そう言えば、あいつの研究にも使えるんじゃねぇのか?」

 

「あいつ?」

 

「ああ、そう言えば強度不足と出力不足で悩んでたはずですよね」

 

「皆さん、あいつとは一体誰ですか?」

 

僕の疑問に親方が答えてくれた。

 

「腕はたぶんオレより上なんだが、研究がな、理解できないんだよ。陸の上をどうやって船が走るんだよ」

 

「陸の上を、船。まさか、いえ、可能性は低くても。その人の研究はどんなものなんですか?」

 

「陸の上を走る船で、中に幻晶騎士を整備可能な空間を用意して、魔導兵装で武装して最低限の自衛と援護をさせるんだって言ってたか」

 

親方の話を聞いて可能性が高まった。幻晶騎士の常識をかなぐり捨てて始めてたどり着く領域。幻晶騎士を艦載機として、それの中核となる空母。僕と同じ転生してきた人の可能性があります。

 

 

 

 

 

 

やはり強度が足りない。だが、これ以上強度を下げれば艦体を支えきれない。武装も取り外し輸送だけを目的としたにも関わらず、これだけの巨体の内部はスカッスカで搭載できるカルダトアは3機に予備パーツが1機分。話にならない。やはり、この世界では駄目なのか。

 

設計図を破り捨てようとして、破り捨てることが出来ずに巻いて部屋の片隅に投げた所でようやくそれに気付いた。

 

「誰だ、貴様は?」

 

いつのまにか銀髪の小柄な女、いや、男か?が、廃棄した設計図を見ていた。

 

「すごい。ギャロップにダブデ、こっちはG1ベース、それにフリーデン。それをこんなにも細かくこちらに合わせて設計するなんて」

 

設計図には名称は記していない。未完の物に栄光あるオリジナルを名乗らせる訳にはいかないからだ。それにも関わらず、こいつは間違いなくオリジナルの名で呼んだ。つまりこいつは!?

 

「ギャロップ級の積載量を増やすためにはどうする!!」

 

「後ろに荷台を牽引すればいいでしょう」

 

「ああ、そうか。同胞なのだな」

 

「はい、先輩。僕はエルネスティ・エチェヴァルリアです。前世はプログラマーをやってました。今の目標は僕だけのロボットを手にすることです」

 

「なるほどな。オレはトルティドネス・グラエンド。前世はしがない建築家だ。まあ、食うためにやってただけだ。オレの夢はな、大空母艦隊を作り上げることだ。この世界、正確に言えばこの国だがな、地図で見ると広大だ」

 

この国の地図を広げる。中々に広大だ。見かけ上はな。

 

「そうですね」

 

「だがな、これは領土としてみただけだ。実際の生存領域、それを段階的に分けるとこうなる」

 

地図の上に紐と駒で区切っていく。

 

「駒が街で色によって規模が変わる。赤い紐で括った部分が決闘級が生息する場所、白い紐が決闘級未満が生息する場所、青い紐が日本で熊なんかに合う確率で魔獣が現れる人類の生息圏内、完全に安全な部分はそれ以外だ」

 

「これは、点と線だけ。完全に安全な場所は全て穀倉地帯で有名な場所だ」

 

「これが現実なんだよ。理由は色々あるが大きな点は幻晶騎士の欠点がモロに出ていると見て良い」

 

「欠点ですか?」

 

「長距離の移動には歩行で移動するしかない点。随伴の整備士は簡易整備しか出来ない点。運用面では、出撃中は中途半端な補給しか行えない点。仮拠点が襲われる可能性から戦力を割かなければならない点。これらを一挙に解決できるのが陸上戦艦という答えだ。最初は武装は無くても良いかもしれんがな」

 

「なるほど。アニメなんかでも戦争物なら必ずと言っていいほど母艦は登場していますね。実際に運用する面では必須と言ってもいいですね」

 

「そうだろう!!それを周りの奴らは理解しやがらねえ!!人類の生存権を広げ、完全に安全な地域を増やし、一般市民が平和に暮らせる世界を作り上げる。それこそが騎士の本懐のはず!!」

 

「確かにその通りです!!ですが、この設計図を見ると」

 

「言いたいことは分かるよ。何もかもが不足している。一番最新の設計がこいつだ」

 

一番新しいものを見せてみたのだが、やはり渋い顔をされる。

 

「これだけ大きいのに、この積載量は……」

 

「だから困ってるんだよ。小型だと、むしろ馬車の数を増やしたほうが良い試算が出た。だから逆に大型化させたがこの体たらくだ。泣けてくるぜ」

 

「そんな先輩に朗報です!!」

 

「朗報?」

 

エルネスティから伝えられる新技術である綱型結晶筋肉はまさに目からウロコだった。

 

「そうか。そういう使い方があったか!!ということは、似たような発想で蓄電池タイプの結晶筋肉も作れるはずだ!!そうすればこんな20連結型エンジンなんて作らなくても済むかもしれない!!」

 

「20連結ですか!?」

 

「母艦は絶対に魔力切れを起こしてはならないからな。魔力は多めに保持していたい。あと、強引ではあるが母艦から補給に戻った幻晶騎士に魔力を分け与える構想もある。これはすでに実験済みでロスがあるが問題ない。予算の都合で発生しているロスだからな」

 

「その前に連結なんて可能なんですか!?」

 

「あん?ダーヴィドの野郎、オレの作品を見せてないのか?」

 

「先輩の作品ですか?」

 

「2機を強引にケーブルで繋いで魔力を全部吸い上げて発射する魔導兵装だよ。分かりやすく言えば、メガ・バズーカランチャーだ」

 

「なんというロマン砲!!ちなみに感想は?」

 

「宇宙か拠点防衛用でしか運用できないな。いずれは母艦の艦首にもっとデカイのを乗せたい」

 

二人して熱く握手を交わす。やはり分かってくれたか。戦艦にはやはり艦首砲だよな。

 

「それでですね、先輩にも僕の新しく作る幻晶騎士を手伝って欲しいんです」

 

「いいだろう。だが、いずれ予算やら資材が整った時、オレの母艦作りにも協力してもらうことが条件だ。まだまだ大量に試作品を作らないといけないからな」

 

「もちろんです。ロボットが最高の環境で戦えるようにするのも重要な事だと思っています!!」

 

「それでこそロボオタクだ!!オレはどっちかって言うとメカオタクだからな。タンクだろうとファイターだろうとなんでも来いだ。その前にメカ知識のすり合わせをやっておこうぜ。朝まで徹夜コースだ!!」

 

「朝どころかそのまま夜まで行きましょう、先輩!!」

 

「トールでいい」

 

「それなら僕もエルで」

 

いや〜、この世界に生まれて初めてまともなロボ談義ができる。こんなに嬉しいことは他にないぜ。エルと夜通し知識をすり合わせると不思議な事にオレの方が年上にも関わらず、後に死んでいるようで悔しがっていた。オレも新作のスパロボが出る直前で死んだことが心残りだったんだが。

 

それからこれからの機体の制作についての話し合いが行われる。

 

「背面武装と火器管制の方はそっちに全振りするぞ。綱型に関してはダーヴィドに任せればいい。他に詰め込んでおきたいものはあるか?」

 

「出来ればスラスターも組み込みたいのです」

 

「それは保留にしておけ。絶対燃費が酷いことになる。それ位なら足を弄ってキャタピラを積んだほうがマシだ」

 

「キャタピラですか?ローラーではなく?」

 

「一度ローラーダッシュを試してみたんだが、草が絡まってかなり危険だった。ローラーのスパイクが甘いせいなんだが、技術的に無理があるみたいでな。機体に仕込める程度の大きさは無理だ」

 

「なるほど。既に試されていましたか」

 

「ああ。だが、スラスターはいずれ絶対に組み込みたい。魔法術式を回してくれ。こっちでも研究してみる」

 

「分かりました。後で書き起こしておきます」

 

「とりあえずオレは蓄電池タイプの結晶筋肉を作らせる。それの形状によってはFAプランで行こうと思う。設計はこっちで行おう」

 

「FAプランですか。確かにスラスターが搭載できるならそれもありですが」

 

「正確には外付けのブースターパックと言ったほうが正しいだろうな。肩腰足回りに取り付ける形だろう」

 

「やはり話が合う人との設計はすぐに済みますね」

 

「だろうな。よし、とりあえずは区切りがついたな」

 

「そうですね。ああ、朝日かな?」

 

「え〜っと、確か向こうは西だから夕日だな」

 

つまりは半日強の時間を話し続けていたのだな。水だけは大量に部屋に置いてあるから乾きには耐えられた。空腹もごまかせた。だが、落ち着くと腹が盛大に鳴り響く。

 

「腹が減ったな。飯を食いに行くか。どうだエル、奢ってやるぞ」

 

「いえ、今日は帰ります。そう言えば無断外泊してしまいましたね」

 

「まあ、なんかあればオレも一緒に怒られてやるよ。オレが原因だしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トール、何をしているのですか?」

 

「エルか?テレスターレの方でのオレの仕事は終わったからな。オレの研究の方をやっているんだよ」

 

スクラップになっているパーツから使えそうなものをリストアップしていく。まあ、使える部分はテレスターレの方に回されているが、オレが作るのは幻晶騎士ではないからな。

 

「とりあえずは戦車を作るか。キャタピラ周りの技術をあげないとな」

 

「ホバータイプが作れればいいんですが」

 

「燃費が悪すぎるな。魔力転換炉が2基余ってるな。連結実験も行うか。借りるぞ」

 

「あとでデータをバックしてくれるならいいですよ」

 

「当然だな。おっ、魔導兵装も余ってるじゃねえか。新造するのが面倒だからこいつも貰いっと」

 

色々とパーツを回収して次々と搭載し、途中で最初のプランと別の形が浮かび上がり、悪ノリをしてしまった結果

 

「あの、トール。戦車を作っていたはずでは?」

 

「上半身がまるまる余ってたからな。ガンタンク、異界に立つ」

 

オレ達の目の前にオリジナルとの差異はあるものの、ガンタンクと呼べるものが鎮座している。両肩に180mmの代わりに標準装備のカルバリンを装備し、両腕は備え付けのポップミサイルの代わりに新造した低威力で連射が可能なスナイドルが備え付けられている事以外は見た目は完全にガンタンクだ。中身は完全に別物だけどな。

 

「さてと、とりあえず試乗だな」

 

「あっ、ずるいですよトール、自分だけ!!」

 

「残念だったなエル、こいつ二人乗りなんだ」

 

「……他に乗る人は?」

 

「いないから手伝え。運転はオレがするから火器管制は任せた」

 

そう言ってやるとエルは満面の笑顔を見せる。オレも似たような顔をしているだろう。二人して操縦席に乗り込みベルトで身体を固定する。

 

「随分とレバーが多いですね」

 

「まあな。魔導演算機は人形を動かすことに特化しているからな。ガンタンクを動かすプログラムがないから大量のレバーで操作する羽目になった。出来るだけ重機みたいに使えるようにしてあるからエルは何となく分かるだろう?右側で右キャタピラ、左側で左キャタピラ、正面にその他もろもろ、フットペダルでガンタンクの底に仕込んだマギスラスタジェットでちょっとだけ飛べる」

 

「あっ、ずるい!!僕だってテレスターレにつもうとして諦めたのに」

 

「タンク型のお陰で体を支える肉体強化のスクリプトを減らせたおかげで搭載できたんだよ。側面にも一応搭載して倒れても起き上がれるようにしてある。あと、レバーが多いのはチェンゲのゲッターみたいで好きなんだよな。とりあえず法撃はあとで、走破性の確認からだ」

 

計器類を最終確認してからガンタンクをゆっくりと走らせる。このためにテレスターレに地面を掘り返させたり、水をまいてぬかるみを作らせたり、掘り返した土で山を作らせた。そしてそれらをガンタンクは容易に走破する。ただし、コックピットは酷い揺れに襲われてだが。

 

「サスペンションの強化がいるな」

 

「酷い揺れですものね」

 

オレ達は問題ないが、他のものは乗せられないだろう。

 

「法撃に入る。停止射撃からだ」

 

「了解。では主砲から試しましょう」

 

「シートの後ろにスコープがある。それで調整しろ」

 

「……届かないです」

 

「すまん。オレのサイズで作ってたからな。ちょっと待てよ」

 

ベルトを外してエルのシートの後ろからスコープを引っ張り出す。

 

「まんまガンダムですね」

 

「分かりやすくていいだろう?地味に照準の補正がめんどくさかったけどな!!あと、こいつ」

 

エルが標的に照準を合わせようとするとあの独特の音がコックピット内に鳴り響く。

 

「トール、照準が二重円で、しかも左右から中央に寄っていくんですけど」

 

「その認識機能を作るのに苦労した。ロックオン機能と効果音を合わせるとスナイドルの新造より苦労した」

 

「やりたい気持は良くわかります。ただ、受け入れられないでしょうね」

 

「テレスターレの照準でさえ受け入れにくそうだったからな。まあ、こいつはお遊びだ。遊びだからこそ本気になれだ。とりあえず撃ってくれ。右のレバーで右側、左のレバーで左側の砲身制御だ。上のトリガーでカルバリン、下のトリガーでスナイドルだ」

 

「了解。撃ちますよ」

 

エルがカルバリンのトリガーを引き、標的に命中する。

 

「続けて撃ち尽くすまで連射」

 

次々とカルバリンが発射され、魔力がどんどん減っていく。それでもテレスターレやカルダトアとは比べ物にならない数を放つ。魔力切れになった所でスイッチを操作する。

 

「キャタピラ用から半分射撃用に回すから、それでスナイドルを試してくれ」

 

停止射撃中にチャージが済み、満タンの魔力を射撃用の綱型筋肉結晶に半分回す。

 

「完全に分けてるんですか?」

 

「共有だと調子に乗ってバカスカ打って動けなくなったらタンクはただ狩られるだけの存在だぞ。余裕があるとは言え、移動が優先だ。よし、充填完了だ。スナイドルでの射撃を頼む」

 

「了解です」

 

再びエルがトリガーを引き、両腕からカルバリンの炎よりも小さな炎が断続的に次々と打ち出される。1分で30発ってところか。魔力の消費量は、だいぶ燃費が良いな。停止状態でキャタピラの方を完全に補給に回せばほぼ無制限に撃ち放題か。

 

「門数を増やして弾幕を張ったほうが良さそうだな」

 

「流石に2門は少なすぎですね。威力の方も高くないですし」

 

「そうだな。次、移動射撃だ。最初は標的に向かって左方向に軸をずらす」

 

「右側への射撃ですね」

 

「そういうこと」

 

ブレーキを外して右側を一速から順に三速まであげ、左側はニ速にして向きを変えて、30度ほど曲がった所で右側を二速に落とす。

 

「それじゃあ、カルバリンから始めますね」

 

「どんどん撃て。こっちも少しずつ速度を上げる」

 

標的から一定の距離で円を書くようにガンタンクを走らせながら射撃を続けさせ、速度も上げていく。滑って転倒しそうになる度に側面のマギスラスタジェットを吹かせて体勢を立て直しながら魔力切れを起こすまで続ける。

 

「流石に全力だと魔力転換炉を二基積んでも一時間ほどが限界か」

 

「それと、直射しか出来ないのも痛いですね。ガンタンクはやっぱり曲射ができないと」

 

「リロード機構がよく分からないんだよな。それと実弾を積むスペースもないし。魔法の射程を考えると現実的じゃないんだよな。まあ、母艦には搭載したいな」

 

「母艦ならある程度のスペースがありますもんね」

 

話している間にたまった魔力を全てキャタピラに回して整備場へと移動させ、一番奥のスペースへ駐機させる。ウィンカーとバックの時に音が鳴るようにもしてあってエルが大爆笑していた。ガンタンクから降りると、エドガーやディー達、騎操士が唖然としていた。

 

「どうした、鳩がカルバリンを食らったような顔をして」

 

「カルバリンを食らったら鳩など跡形もないわ!!」

 

ちょっとしたジョークなのにエドガーが本気で怒鳴り声を上げる。

 

「ほら、エドガー落ち着いて。トールも巫山戯るのは止めてくれ」

 

「へいへい。それで何を唖然としてるんだ?これからガンタンクの調整をしないといけないんだが」

 

「何処を調整するつもりだい?」

 

「両腕の魔導兵装を増やして、照準の調整、キャタピラ周りの消耗具合なんかの確認、その他もろもろだな。何かあるのか?」

 

「あ〜、色々聞きたいことがあるんだけど、構わないかな?」

 

「構わんぞ。エル、ダーヴィド、スマンが各部の確認を頼んでいいか?」

 

「いや、オレたちも気になってんだが」

 

「お前らもかよ。じゃあ、会議室に行くぞ」

 

全員を引き連れて整備場の一角に区切られている空間に移動する。オレ以外が席についた所で質問を聞き始める。

 

「はい。それじゃあ、一個ずつな。ディーから」

 

「あ〜、色々あるんだが、アレだ、いや、どう言えば、ああもう、とりあえず、なんであんなに魔導兵装を撃てるんだい?」

 

「転換炉を二基積んでるから。はい、次。へルヴィ」

 

「何処まで速く走れるのかしら?航続距離も合わせて」

 

「全速力は何も装備していないテレスターレより少し遅いぐらいだな。魔導兵装を使わないんだったら半永久的だな。まあ、キャタピラがやられる可能性が高いから正確な数字はこの後の整備次第だな。環境にもよるし。まあ、半日程度なら走り続けられるだろうよ」

 

その言葉に何人かが胡乱な目になるが、オレの最終目的は空母だからな。簡易メンテだけで数ヶ月は稼働できないと話にならない。

 

「はい、次、ダーヴィドか」

 

「その、だな。これがお前の研究、作りたいものなのか?」

 

「そんなわけがあるか!!こいつはただの実験機&ネタてんこ盛りの機体だ!!」

 

真面目にやってたらウィンカーなんて付けるかよ!!他は付けるだろうけど。

 

「先に言っておくが、なんでそんなのがって言った奴、殴り飛ばすからな。馬鹿でもわかるように説明すると、今回作ったガンタンクの下半身部分!!」

 

黒板に書きなぐるように超大雑把な母艦を描く。

 

「これを縦にも横にも大きく作る!!上半身があった部分に整備場を添えつける!!で、現場まで走る!!狙われたら面倒だから迎撃用の魔導兵装を付ける!!」

 

欲を言えば他にも色々ある。だが、これが最低条件だ。いつかは作りたい。変形機構とか変形機構とか変形機構とか。あと、空も飛ばしたい。

 

「なんでそんなもn」

 

宣言通りディーの顔面に拳を叩き込む。

 

「これによって、幻晶騎士の行動範囲、及び展開速度が向上し、決闘級が住み着いている森への派遣、討伐が容易になり人類の生息圏内が広がる。はい、質問は?」

 

「つまり、あれか?数を揃えて砦が移動すると思えば良いのか?」

 

「砦なんて限定的な使い方しかできないものと同じように考えるな!!全く別物だろうが!!数を揃えるっていうのは正しいが」

 

「う〜ん、想像がつかん」

 

「もう少し想像を働かせろ。特に騎操士共!!そんなんで初見の魔獣相手に生き残れるのか!!見た目だけで判断して想像力に欠けた結果、機体毎オシャカ。覚えは?」

 

陸皇相手に生き残った奴らが顔を伏せる。

 

「想像力の欠如。これほど恐ろしいことはない。オレだって綱型筋肉結晶を考えつかなかった。だが、欠点だけはすぐに思い至った。燃費の悪さ、それの対応策の板型筋肉結晶。分からないで終わらせるな。意見を出し合え、利点を、欠点を!!そして試行錯誤せよ!!その結果は既に目の前にある」

 

テレスターレはエルが基本的な設計を行っているがバージョンで表すなら0.3.16。試行錯誤の結果、それだけの改修を行ってきているのだ。

 

「想像せよ!!そして創造せよ!!それがオレ達技術屋の使命だ!!そこに趣味が入ろうが全く構わん!!エルを見ろ。僕の考えた最強の幻晶騎士を作りたい。パワーが足りないからと綱型筋肉結晶を考え出した。持ち換えるのが面倒だから背面武装を考え出した。その内、空を飛ばすと断言してやる!!それどころか転換炉は複数使うだろうし、変形とか合体とかさせるぞ。オレもさせるがな!!」

 

忘れがちだがマクロスは変形と合体を行っている。TV版では強襲揚陸艦ダイダロスと攻撃空母プロメテウスを両舷にドッキングさせているし、劇場版ではアームド級宇宙空母を両舷にドッキングさせている。その後、フォールドシステムの消失に伴う主反応炉と主砲のエネルギーラインの再構築にトランスフォーメーション、更に副産物のピンポイントバリアとダイダロスアタックの習得など、後のマクロス級の運用方法をほぼ確立した武勲艦だ。

 

「常識など捨ててしまえ!!良識は捨てるな!!そして時代の魁となれ!!テレスターレは第2世代型幻晶騎士としての魁である!!テレスターレの後ろに何千、何万もの幻晶騎士が追いかけることになる!!そのことに誇りを持て!!オレ達は今、歴史の1ページを綴っているのだ!!1ページで満足するな!!今この時こそが時代を先に進める転換期だ!!変人や狂人の名は全てオレとエルが引き受けてやる。本気で馬鹿をやれ!!」

 

 

 

 

 

 

テレスターレの開発が一段落し、整備班は開店休業中の中、オレは新型ガンタンクの制作を始めていた。これまでの動作試験により一人乗りでも操作が容易になるように演算機を修正し、レバーの数などを減らし、車高を低くする。転換炉も一基に変更する。武装も減らすことになり、代わりに装甲を厚めに取る。

 

「どう見ても陸戦強襲型ガンタンクだな」

 

更に戦車に近い形になったガンタンクを組み立てながら溜息が出る。今日は切り上げて帰ろうかと思ったが、生憎の雨で面倒くさくなって会議室の椅子を並べて簡易ベッド代わりに眠る。

 

いきなり地面に叩きつけられて目が覚める。犯人はダーヴィドのようだ。よし、戦争だな。

 

「とっとと、目を覚ませ!!騎士団が来てる!!」

 

「あん?騎士団?」

 

会議室から出てみれば整備場にテレスターレに関わりのある者が集められていた。殆どが集まった所で外套を羽織った騎士が前に出る。

 

「学生諸君、私は朱兎騎士団所属の騎士だ。ディクスコード公爵より命を受けて此処にいる。閣下は新型の幻晶騎士について興味を持っておられ、実際に動いている姿を見たいとの仰せだ。そこで君達には速やかに新型機をカザドシュ砦まで輸送して貰いたい。機体の整備のために必要な十分な人数を同行して、だ」

 

こんな土砂降り雨の中で新型機の輸送?とりあえず聞いておくか。

 

「質問よろしいだろうか?」

 

先頭に出て騎士に聞いてみると目配せで許可が出される。

 

「新型機は全機運び出すということで間違いないだろうか?」

 

「そうだ」

 

「輸送に関する護衛はどうする?」

 

「我々朱兎騎士団のカルダトア10機が付く」

 

「新型機以外の実験機が1機あるんだがどうすればいい?」

 

「……念のために運んでもらう。それの開発者と設計者もだ」

 

「出来るだけ急いで?」

 

「そうだ」

 

「了解した。テレスターレとガンタンクの準備をしろ!!補修材と予備パーツも全部だ。補修材なんかはガンタンクで牽引する。このまま雨天時の運用試験にしてしまえ。補修材はちゃんとシートで覆っておけよ」

 

指示を出せばすぐに整備班が動き出す。困惑もあるだろうが、それはいつものことにまでなっているのが整備班たちだ。オレはオレでガンタンクの点検を行う。確認が終わった所で外部スピーカーを入れる。

 

「ガンタンクを出す。道を開けろ」

 

ガンタンクをハンガーから離れさせると、朱兎騎士団の騎士たちが驚いている。それらを無視してガンタンクを外に出して待機する。そこで腹が減っているのに気が付き、シートの後ろにサバイバルキットを積んでいたのを思い出してそこから保存食を取りだして口に入れる。

 

「まずいな」

 

腹には貯まるが味が酷い保存食のおかげで目が完全に覚めた。保存食に関しても開発しようかな。準備が出来たところでエルが乗り込んで出発する。

 

道中が暇なのでガンタンクを運転しながらエルと開発状況なんかを話し合う。

 

「そうそう、ミサイルはともかく爆雷というかランチャーは開発できたっぽいぜ」

 

「本当ですか?」

 

「本当だって。ダイ大の魔弾銃を参考に爆裂系の魔法を詰めた筒を飛ばすだけだけどな。命中率と不発率はお察しだけどな」

 

「誤爆は大丈夫なんですか?」

 

「誤爆を恐れて信管を鈍くしすぎたのが原因だ。ちょっとずつトライ・アンド・エラーで最適解を出す作業だな」

 

そんな話をしていると空気が変わったことに気がついた。朱兎騎士団のカルダトアの足並みが少しずれて緊張感が漂う。

 

「エル、火器の準備だ。魔獣だな」

 

「了解です」

 

カルダトアは立ち止まっての迎撃を選んだようだ。ガンタンクを止めて外に飛び出し、荷台との連結を外してからコックピットに戻る。

 

「敵は見えるか」

 

「見えません。音からすると徐々に近づいているはずなのですが」

 

見えないが、音は近づいてくる。つまりは

 

「地下だ!!」

 

オレが叫ぶと同時に地中から10匹のワームの決闘級魔獣が現れる。

 

「エル、魔力をそっちに回す!!」

 

「「フルバーストだ!!」です!!」

 

カルバリンとスナイドルが連射され、ワーム型の魔獣を次々と葬っていく。そんな中、突如として機体が落下を始め、視界に刃のようなものが下から上がってくる。

 

「まずい!!」

 

底面のマギスラスタジェットを全開にして飛び上がり、真下から現れた超大型のワームの口内から抜け出した所で側面のマギスラスタジェットを吹かせて逃げ出す。

 

「くそったれ!!魔力の残量は!?」

 

「2割を切ってます!!」

 

「逃げに徹するぞ!!」

 

転換炉に魔力を補充させながら残っている魔力を振り絞ってバック走で距離を離す。

 

「マギスラスタジェットの燃費、もうちょっとどうにかならないのか!?」

 

「ガンタンクや幻晶騎士を飛ばしたりしようとするとこれで限界です!!軽くなれば別ですが」

 

合計7秒程度で2割弱も持っていかれるとか洒落にならん。テレスターレの3倍の魔力貯蓄量を持つガンタンクの2割弱だぞ。テレスターレなら半分は使う計算になる。

 

「おい、エル!!馬車が狙われてるぞ!!」

 

「くっ、スナイドルを使いますよ!!」

 

エルが左腕の三連スナイドルでワーム共を牽制する。

 

「もうちょっと板型を積むべきだったな」

 

「積載スペースなんて残ってないでしょう」

 

「背中にランドセルを背負えば良いだけだろうが、ってしまった!?テレスターレにも背負わせればよかった!!」

 

「ああ!!盲点でした!!腰とかにもポーチみたいに付ければ」

 

「やはり実践に出てこそ分かる欠点もあるな」

 

「全くですね」

 

十分に距離を離した所で停止して援護射撃を続けながら魔力を貯め続ける。

 

「テレスターレが集合している?トール」

 

「大体読めた。少し急ぐ」

 

エルもスナイドルでの援護を止めて魔力を貯め始める。照準はオレ達を飲み込もうとした巨大なワームにつけている。集合しているテレスターレ5機の横にガンタンクを並べる。そしてエドガーの合図と共に再びフルバーストを放つ。そして瀕死になった巨大ワームを朱兎騎士団のカルダトアがとどめを刺す。

 

 

 

 

 

 

安全が確認できた所でダーヴィドに被害を確認する

 

「被害はどんな感じだ?」

 

「なんとか死人はいねえな。一番ひどいのでも骨折ってところだ。その代わり、馬車がやられた。さすがに木工は専門じゃねえから修理はきついな。材料もねえしな」

 

「仕方ない。幸い補修材の荷台が多少空いてるからそこに乗れ。朱兎騎士団の足をやられたカルダトアも載せるから多少狭いが、馬も馬車も全部のせても問題ないだろう」

 

「戻るって選択肢は?大分参っちまってる奴らが多いんだが」

 

「諦めろ。砦のほうが近いし、魔獣被害なんて珍しくもないことだ。就職先で襲われることなんてザラだ。そんなものより中年のおっさんにケツを狙われる方が怖いわ」

 

「ひでぇ良いざまだな」

 

「オレの故郷は決闘級に襲われて滅んでる。その後、非合法の売春宿の親父にケツを狙われた」

 

「……冗談だよな?」

 

「冗談だったら良かったな。親父の知り合いの騎操士に引き取られなかったらやばかった」

 

「すまん」

 

「昔の話だ。あまり言いふらすな」

 

「お前の、母艦戦術構想は、その時の経験か?」

 

「いいや。そうだな、オレとエルの違いは過去だけだな。あいつは、不幸がなかったオレ。エルが不幸だったらオレ。その程度の違いだろう。だからあいつといるのは楽しいんだよ。根っこが同じだから」

 

妬みや嫉妬があるかと言えばある。それで危害を加えようと思ったり、不幸になればいいとは思わない。見た目は可愛い幼馴染がいて羨ましいとは思うけどな。まあ、本人のほうが可愛い見た目というのがアレだが。幼馴染の性格もアレだが。ごめん、やっぱ羨ましくないわ。

 

そんな無駄な考えをしている間に積み込みが終わったらしいので行軍を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、テレスターレの整備を優先させろ!!特に背面武装を念入りにな!!ガンタンクはスナイドルだけで構わん!!キャタピラ周りは損耗度だけチェックしておいてくれ」

 

整備班に指示を出してから、格納庫に来ると同時に飛び去っていったエルを探しに行こうとする。それを騎士の一人に止められた。

 

「すまないが公爵様がお会いになりたいそうです。あの、ガンタンクでしたか?その設計者を連れて参れとの事です」

 

「承知しました。ですが、テレスターレの設計者の方は?」

 

「そちらも別の騎士が探してご案内します」

 

「分かりました。資料の方を持ってきておりますので少しお待ち下さい」

 

ガンタンクのコックピットに入れておいた設計書とマニュアルを持ち出して騎士の案内で執務室に通される。そこにはオレ達を読んだ張本人であるディクスコード公爵が待っていた。しばらく待っているとエルも資料を持って現れる。

 

ディクスコード公爵が新型機の説明を求めてきたのでエルがテレスターレの新技術の説明を行い、オレが所々で補強していく。それが終われば今度はオレのガンタンクだ。

 

「私が作り上げたガンタンクは、私の研究の実験機であり、真新しい技術はテレスターレと変わりません。最大の特徴は人の形を離れ、馬車を大型化し武装したと考えてもらうのが一番ご理解が得られやすいと思われます。最大の特徴である人の形から離れたことにより、肉体強化へと回す魔力を大幅に削減することに成功。それによって運用可能な時間が大幅に上がりました。また、魔力転換炉を2基搭載、連結することによって」

 

「待て!?馬車を大型化させて武装させたというのはまだ理解できる。だが、魔力転換炉を2基、それも連結させておいて真新しい技術ではないだと!?」

 

「はい。私、2年前に幻晶騎士2機を連結させて放つ魔導兵装を作ってますし、レポートも学園に提出したのですが。計算上、陸皇にも真っ向からダメージを与えれる出力を得ることが出来ました。今は運用面の悪さから倉庫で埃をかぶっていますが」

 

その言葉に公爵が頭を抱える。復帰するまでしばらく待ち、説明に戻る。

 

「連結することにより、カルダトアよりも魔導兵装を気軽に使用することが出来ます。むしろ、格闘戦を排除し、弾幕を張ることに重点を置き、両腕そのものが魔導兵装となっております。こちらは新たに開発した低威力・速射機能に特化したものでスナイドルと名付けました。こちらを片腕に3門、計6門装備することによって低威力をカバーしています。また、今までの幻晶騎士とは大きく変化しているために幻晶騎士とは別のカテゴリーとして戦車と仮に付けています。欠点といたしましては操縦系統が今までに無いものでしたので複雑化しており、現在は操縦系統と火器管制を分けて二人乗りで運用しています。それに加え、魔力転換炉を2基使用していますのでコストの方がテレスターレ以上となっております。そのため、新たに操縦系統の簡易化と魔力転換炉1基での運用に適した武装に変更した物を組み立て中です」

 

「……もう2機目を作っていると?」

 

「ほぼ完成しています。組み立ても8割済んでいますし、パーツも全て製造済みですから。操縦の簡易化もまっすぐ走ったり曲がったりするだけなら1分もかからずに覚えられます」

 

そう言えば公爵がため息を付きながら頭を抱え、側にいた執事が紅茶をカップに入れ直して公爵に差し出す。それを受け取った公爵が一気に飲み干して、再びの溜息。

 

「新型機と、その戦車だったか?それらについて質問する前に伝えておくことがある。陛下より許しを得、此度の新型機の評定、そして今後の運用について、その全権を私が任されることとなった。新型機に関するその全てを一時的に私が管理する。それは情報についても然りだ。これらは、私から陛下へとお伝えすることになる」

 

ふむ、全権の掌握か。かわいそうに。その年であまり興味のないことを覚えなければならないなんて。

 

「なるほど。では、後ほど資料の全てをまとめてきます。とりあえず紙を2000、いえ、3000ほどご用意しておいてください。2週間ほどで書き上げますので。エル、そっちは?」

 

「僕はある程度まとめてありますから。まあ、追加で500枚ほど書いて4000ページと言うところでしょう。よかった、陛下へ同じものを用意する必要はないですね。あとはよろしくお願いします」

 

二人で同時に頭を下げる。さあてと、頑張らないとな。おっと、その前に。

 

「ペーパープランが軽いものから重いものまで8つほどあるのですが、そちらは?」

 

「僕の方も重いものから物凄く重いものまで3つほどペーパープランが」

 

とうとう公爵が倒れてしまった。

 

「貴族というのは大変なんだな。倒れるまで酷使されるなんて」

 

「そうですね。閣下には御静養なされるようにお伝え下さい」

 

「では、我々は資料をまとめる必要がありますのでこれで失礼致します」

 

資料をまとめるついでに強襲型のマニュアルも作ってこっちに送らせよう。

 

 

 

 

 

 

「これを陛下の元へと持っていくというのかね?それにこちらは、本当に可能だと?」

 

「そのための実験機がガンタンクです。力尽くの説明を致しますと、移動工房です。それ以外の用途は色々とありますが、頭の固い者達にはそれぐらいにしか理解できない代物です」

 

端的に馬鹿には使いこなせないと言っておく。

 

「例えば?」

 

「一例ではありますが、運用面でなら移動できる拠点です。積載するものは別に幻晶騎士である必要もありません。新たな地の開拓に必要な道具や人員を運んでもいいし、ある程度の村などが出来るまで駐在させてもいいし、装甲を厚くすれば砦の代わりに使っても良いでしょう。いざとなれば逃げ出すことも可能なのですから。設計面からで言えば積載スペースを大幅に削り、その分板型を敷き詰めることにより魔導兵装を大量に積む、あるいは以前にもご説明させていただいた巨砲を積むなど、この母艦単体での戦闘を視野に入れた物などです。また、国内での輸送任務用に調整した物など、用途は幻晶騎士よりも広くなると思われます。更に言えば単艦で使用せずに複数の艦を用意すればさらに運用の幅は広がるでしょう。欠点としましては、魔力転換炉を大量に、最低でも14基は積む必要があり、こちらに関しては強引な力技を使う必要があると思われます」

 

「ほう、どんな力技かね」

 

「今お見せしている設計図の艦であればカルダトアを20機積載した上で整備施設、予備パーツが4機分です。こちらで説明させていただきます。最低14基という数は艦の自重を支えた上で魔力の消費と供給が釣り合った状態で出してあります。そして任務でこの艦とカルダトア20機で目的地まで向かいます。その際、移動に1日かかったとします。通常、幻晶騎士の魔力とは魔力転換炉に多少プールされているもの以外は結晶筋肉に貯蔵されています。また、自重を支えるために魔力転換炉の火が落とされることはありません。ここまではよろしいでしょうか?」

 

「うむ、多少移動にかかっている時間が短いと思うが、場所にもよるだろうからな。それで?」

 

「では、続けます。魔力転換炉は大まかに分けて、駆動状態、休眠状態で稼働しています。休眠状態でも自重を支えるために必要な分を除いても魔力を多く精製し、貯蔵できないために垂れ流しています。この垂れ流しの濃度が高いと危険ではないかということで休眠状態というのは作り出されています。つまり、休眠状態と駆動状態では魔力転換炉にかける摩耗は同じです。ですので、積載している幻晶騎士を駆動状態にさせたままパイプでラインを繋ぎ、余剰魔力を艦に流して貯蔵します。幻晶騎士自体が戦闘には耐えられなくても母艦に戻れば修理を受けながら戦闘に貢献することは可能です。また、緊急時には逆に艦から幻晶騎士に流して補給も可能です。この連結技術により魔力転換炉の数を減らすことは可能です」

 

ソレスタルビーイングのプトレマイオスを参考に考案したこのシステムは魔力転換炉に最適なシステムだ。

 

「馬鹿な、出来るわけが「出来る!!」っ!?」

 

「試しもせずに過去に存在しないというだけで頭から否定するから100年周期でしか新型を開発できないんだよ!!公爵はこの母艦構想を試したのか!!試していないはずだ。調べに調べたからな。技術力不足から凍結されたり破却されたものは一切なかった!!開発するのは幻晶騎士に関してのみ!!錬金術で馬車関係を作ったこともない!!馬の代わりに馬車を牽くという発想はあるのに一度も考えられたことがない!!だからオレはスクラップからガンタンクを組み上げた!!二基連結型戦略級魔導兵装も作った!!そして過去にそんなものはなかったという感想が付けられただけだ!!結果から目をそらすな!!国王から全権を預かったのなら感情を捨て、目の前にある結果を正しく見ろ!!」

 

そこまで言い切ったところで砦が揺れる。部屋にいた全員の目つきが一瞬で戦闘向けの物に変わる。公爵に目をやれば顎で部屋の隅にいろと言われたので大人しくしておく。次々と入ってくる伝令でおおよその自体は把握できた。スパイにテレスターレ全機とガンタンクとカルダトア数機を奪われたようだ。

 

「ちっ、鍵でも付けておけばよかったな」

 

「ええ、すっかり見過ごしていました。何処の仕業だと思います?」

 

「山脈の西の何処かだろうな。平穏と暮らしているからこそ、幻晶騎士の技術が発展せずに、しかし領土野心がある。そんなバカ共だろうな。こっちも変に平和ボケしてたのが原因だな。まさか魔獣の防波堤であるウチの国に破壊工作を仕掛けてくるとはな。エゥーゴにマークⅡを奪われたような状況だ」

 

「ならばガブスレイやバイアランを量産するまでです」

 

「その前に全部奪還するか破壊するかしないとな。ところで、こんなところに指向性の閃光弾があるんだが」

 

「ならばやることは1つですね。こんなカーニバルを眺めるだけなんてゴメンですから」

 

二人でそっと部屋から抜け出して現場へと駆ける。少し離れた位置から観察する。

 

「テレスターレの数が少ない。既に逃げたのがいるのか。それにパワーに振り回されている感じがするな」

 

「ガンタンクは、完全に固定砲台ですね。しかも、工房の壁に引っかかってます」

 

「チャンスだな。工房の裏から回ってガンタンクを奪取する」

 

肉体強化で工房の裏まで走り、窓から突入しガンタンクの側にまで近づく。

 

「ピンを抜いて5秒後に閃光が走る。それからコックピットの中にいるスパイを殴り飛ばすぞ」

 

「了解です」

 

閃光弾のピンを抜き、ガンタンクの顔面に向かって投げつけて伏せる。ガンタンクの中から悲鳴が聞こえるのと同時に起き上がり、オレがコックピットを強引に開け、エルが中で目を押さえている男を殴り飛ばして気絶させる。エルに計器類のチェックを頼んで男をガンタンクから首から落ちるように放り投げる。明らかに首がおかしい方向に曲がったのを確認してからガンタンクに乗り込む。

 

「どんな感じだ?」

 

「魔力が少ないです。それに壁にぶつけて左の2番のスナイドルが故障です。それ以外は問題ありません」

 

「よし、ならばガンタンクの恐ろしさを奴らに思い知らせてやる。騎士団の連中にも見せていないガンタンクの全速力を見せてやる!!」

 

まずはバックして壁から離れる。助走距離も含めてそこそこ下がった所で拡声器のスイッチを入れる。

 

「こちら、トルティドネス・グラエンドとエルネスティ・エチェヴァルリアだ。ガンタンクは奪還した。これよりテレスターレを撃破する!!」

 

同時にギアをフルスロットルにしてガンタンクを戦場の真っ只中に突っ込ませる。その速度はカルダトアの踏み込みを超えテレスターレ並である。そのまま正面にいたテレスターレのコックピットにカルバリンが直撃し、倒れ込む。幻晶騎士の精密機器の中で最も安価な部品であるコックピットを撃ち抜き、出来る限り復元しやすい形で無力化させる。

 

「ひと〜つ」

 

ようやく動き始めたテレスターレが至近にまで迫っていたガンタンクを横っ飛びで右に回避するが、右キャタピラを反転全開させて旋回し、背中にカルバリンを押し付け撃ち抜く。

 

「ふた〜つ」

 

そのままテレスターレを盾にしながら両腕のスナイドルをテレスターレの向こう側にいる奪われたカルダトアに向けて連射する。全身の装甲が少しずつ削られて、偶然にも両股関節に命中して仰向けに倒れ込む。

 

「み〜っつ」

 

恐慌状態に陥りかけているスパイ共にとどめを刺すために盾にしていたテレスターレを旋回で振り払い、最後のテレスターレに向かって突撃する。慌てて背面武装をこちらに向けてくるがタイミングがまるわかりなんだよ!!

 

底面のマギスラスタジェットを吹かせて背面武装のカルバリンを避けて飛び上がり、そのまま踏み潰して破壊する。残っているのはカルダトアが3機だ。こっちはガス欠のガンタンクにカルダトアが5機、さらに上位機であるハイマウォートだ。これ以上はオレたちが手を出すまでもない。

 

「無茶をしますね。絶対マギスラスタジェットが破損してますよ」

 

「どうせ修理するんだ。今更だろう。追撃も厳しいだろうしな」

 

撃破したテレスターレは3機、奪われたのは5機だから2機足りない。とっくに追撃圏外だろう。正確な方向と魔力さえあれば追いつけるだろうが、両方ともないからな。踏み潰したテレスターレが動き出そうとしているのでテレスターレの上を往復して念入りに破壊しておく。完全に壊れた所でそのままバックして門の前にまで移動する。そのままスパイ共のカルダトアが破壊するのを観戦する。

 

「そこだ!!ああ、振り方がなってないって」

 

「ああ、駄目です。それはフェイントで、もう!!」

 

「ハイマウォートに正面からなんて、言わんこっちゃない」

 

どうせ負けるのが分かっているが、ここまでスパイ共が弱いとは思ってもみなかった。折角エルと二人で応援してたのに、あっという間に全機が破壊されてしまった。そして、ハイマウォートがこちらにやってきて駐機体勢を取ったので外に出てくるのだろう。こちらもコックピットから外に出る。

 

「団長のモルテン・フレドホルムだ。これから奪取された新型機の追撃に移る。出来れば協力してもらいたいのだが」

 

「万全の状態なら逃げた方向が分かれば確実に追いつけますが、難しいでしょう。諦めて更に強力な新型機の開発をするほうが早いでしょう」

 

「あれ以上の新型機だと!?」

 

「カルダトアをベースにするだけで2割は強くなるでしょうし、調整でもう1割ぐらいは普通に強くなるでしょうね。そこからハイマウォートみたいにカスタムタイプを作れば十分でしょう。それに慣れてきたら更に機能を追加した機体を、このガンタンクみたいに完全に別種の物だってペーパープランは存在してますからね」

 

「ならば何故作らない」

 

「予算の都合上としか言いようがないですね。学生ですから」

 

予算があればなぁ。殆どを魔力転換炉につぎ込んじゃうだろうけど傑作機を作るんだが。

 

「そうか。では、我々は、なんだアレは?」

 

団長が何かを見つけたのか遠くを見ている。オレたちもガンタンクの頭に登ってみると、強襲型ガンタンクが荷台を牽いて走ってくる。おかしいな、予定ではまだ時間がかかると思っていたのだが。それに幻晶騎士を護衛に付けずにここまでやってくるなんて、一体何事だ?

 

「お〜い、テレスターレに襲われたんだがこっちも襲われてるみたいだし、一体どうなってやがる!!」

 

側までやってきた強襲型の荷台からダーヴィドが叫んできたことで自体を把握した。

 

「ダーヴィド、何を持ってきた!!」

 

「はっ?ガンタンクの資材と、頼まれてた資料とかお前さんの試作品だが。あと、エルネスティのモートルビートで、そうだ!!ガキ共がテレスターレを追って行きやがったんだ!!エドガーとディーの野郎も戦ってる!!」

 

「無茶をする!!強襲型を借りるぞ!!こっちの方は整備しといてくれ、エルも行くんだろう」

 

「当然です!!」

 

「モルテン団長、一機なら速度を落とさずに乗せて運べます!!」

 

「私が向かおう!!」

 

ガンタンクの作成の時から手伝ってもらっていた整備班の生徒からコックピットを譲ってもらい反転する。

 

「ダーヴィド、道なりで合ってるな?」

 

「そうだ!!多少パーツが散乱しているはずだ!!」

 

「モルテン団長、結構粗めに飛ばします!!舌を噛まないように注意してくださいね!!」

 

ハイマウォートが強襲型の上に馬に乗るようにまたがり、エルがモートルビートに乗り込んで主砲のカルバリンに腕を引っ掛けて固定するのを確認した所で全力で走らせる。ガンタンクを超える速度で強襲型が走る。あいつは自分が扱える程度でしか速度を出していなかったのか魔力は十分貯蔵されている。戦闘を考えずに追いつくことを優先する。そんな中、今回の一件に関しての考察を行う。

 

まず、国内にスパイが他にもいるのは確定だ。幻晶騎士も持ち込まれているはずだ。最初のカルダトア2機を大きな損傷を与えずに奪っているのだから奇襲用の機体なのだろう。エーテルの吸気口から一息に貫かれれば、損傷少なく騎操士を殺せる。

 

新型機の情報は、学園の教師と生徒からだろうな。草と呼ばれる現地に長年居着いて新たに来るスパイたちを容易に受け入れやすくするタイプの仕事をこなすスパイだ。公爵に報告する必要があるな。

 

テレスターレは最悪奪われても良い。新技術の設計図を西側にばら撒けば優位性はなくなる。決めるのは王だがな。設計図はガンガン引かないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、テレスターレは5機中1機を奪われ、中破が2機、大破を通り越して破棄が2機という結果に終わった。奪われた1機は呪餌によっておびき寄せられた魔獣を盾に逃走した。呪餌の使用によって他国の介入であることが確定した。今後のことを告げられるために王城まで関係者全員が集められた。

 

先行試作量産機ですらないテレスターレの先行量産機の開発は国機研に丸投げしようとするので拳骨で止めた。

 

「何をするんですか、トール!!」

 

「面倒な調整だからって全部を投げるんじゃない!!」

 

その言葉に大臣や公爵達が首を縦に振っているが、学園の皆はまた何かをやらかすつもりだろうと見てくる。正解だ。

 

「研究資料はバックしてもらわないとタダ働きだろうが!!」

 

「そうでした」

 

「「「違うだろ!!」」」

 

大臣や公爵達からツッコミが入るが、それを待っていた。

 

「なるほど。立場や爵位を持たない学生はタダ働きで成果を全部出せと。なるほどなるほど。そんなのが大臣職や公爵についてるとはこの国の未来も暗いですね。ちょっと亡命の準備でも始めたほうが良いかもしれんぞ、エル」

 

「まっ、待て!!なぜそうなる!?」

 

公爵が慌てて答えるが、まんまと術中にハマったな。

 

「学園の予算で作成した新技術を積みに積みまくった機体を提出しているのにその後の報告(研究資料)を貰い受ける権利ぐらいあるでしょう。不具合が出ている場合は一から再設計するほうが早い場合もあるのですから。それを否定されては今後もタダ働きをさせられる可能性が高いということ。幻晶騎士開発の歴史に名を残しても不思議ではないのにこの仕打ち。亡命を考えてもおかしくはないと思いますけど?」

 

「だから話が飛躍しすぎだ。別に成果を取り上げることもせぬし、正当な報酬もちゃんと支払う」

 

「よっしゃ、言質を取った!!陛下より新型機に関する全権を預かっている公爵閣下が正当な報酬を支払うってな!!」

 

オレが笑いを上げる中、陛下は苦笑いを浮かべ、他の者は困惑している。

 

「してやられたな。理由の分からぬ者も多いだろう。こいつがやったことを簡単に説明するなら報酬の二重取りだ」

 

さすが陛下だ、よく分かっていらっしゃる。

 

「恐れながら陛下、それはどういうことでしょうか?」

 

「分からぬか。まあ、正確に言えば経費を着服するつもりだったのだろうな」

 

ここまで説明されてまだ理解できていないようだな。

 

「わしなら新型機テレスターレ7機とガンタンクとその改良型、それらの対価としてカルダトアを20機回す。年季の入った初期型だがな。それとは別に資材を5機分程度、魔力転換炉はやれんが、それぐらいは回す。学園に配備されていた分を全て召し上げることになるのだからな。今後の開発状況を考えても恩を売っておいて損はない。そうであろう、クヌート」

 

「はい。私が考えていたのもそれぐらいです」

 

「正当な報酬だな」

 

「はい」

 

「で、経費は何処にいった?」

 

「はい?」

 

「国機研なら年間で先に予算が降りている。それをやりくりして新型機を開発したとして報酬を得る。これなら問題はなかった。だが、今回は民間からだ。これまで手弁当でやってきていた。その分の経費を支払う必要が発生する。これは我が国の法で定められている。こいつはその念押しをしていたのだよ。先の報酬を得た後でこっそりと申請を出して魔力転換炉を10基、資材を9機分を分捕る。研究資料は囮だ」

 

「いえいえ、そちらも貰えるなら貰いますよ。その分、最適化の予算を他に回せますから」

 

「なら報酬をその分減らせ、あっ!?」

 

「技術を持って亡命だな。言質を取られていなければもう少し抑えることは出来ただろうな。まあ、わしはそれでも構わんと思っているがな。この二人に予算と資材を十分に預けた場合、何をやらかすのか見てみたい。トルティドネス、上げられた資料の中に陸皇相手にでも有効な魔導兵装を作り上げたとあったな」

 

「はっ、有効射程内であれば問題ありません。取り回しは最悪ですが」

 

「一撃で葬ることは?」

 

「更に取り回しが悪くなり砦に固定する形ならば問題なく」

 

「もう一つの案、そのバリエーションとして作れるな?」

 

「無論、仕上げてみせます。万能型で」

 

その言葉に陛下は首を縦に振る。

 

「エルネスティ、約束は忘れてはおらんな?」

 

「もちろんです。最高の幻晶騎士を仕上げてみせます」

 

エルはテレスターレで土台は作り上げている。オレもガンタンクで土台を作り上げている。資材と時間、そして王命の三種の神器が揃ったならば問題ない。

 

「今回の事件は新型機が狙われた。だが、次は開発者であるお前たちが狙われるかもしれん。それを守るために騎士団を新たに創設する。お前たちの考えを実現する鍛冶師と、それを守る騎士たち。お前たちに必要なのはそれで揃うはずだ。新たな騎士団には名が必要だな。お前たちの髪から銀、わしからは凰の名を送ろう」

 

騎士団と鍛冶師は今までと同じ、拠点も今までと同じ。だが権限と予算は跳ね上がった。ここからだ。ここから、ようやくオレの目的が果たせる。前世の子供の頃に憧れた最強の戦闘母艦。それの再現は不可能だとしてもあの戦闘母艦のように歴史に何度も名を残せる艦を作り上げる。それがどんな形でもいい。一番最初に憧れた艦に似ていなくてもいい。何度傷つこうとも、人々のために道を切り開き続けれるなら、それでいい。

 

「銀凰騎士団の最初の任は国機研の鼻を明かしてやれだ」

 

「「仰せのままに、人事を尽くしことにあたりましょう」」

 

 

 

 




タイトルを回収しきれなかった。

次に見たい奴

  • ドラゴン★エクスプローラー
  • ダンまち 兎大魔導士
  • ゴブスレ 大魔導士
  • ネギま ダークネス
  • 龍の子
  • 遊戯王 諸行無常

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