ユキアンのネタ倉庫   作:ユキアン

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オーバーロード 狼牙 2

「ヴァイト様、朝になりました」

 

聞きなれない声に一瞬で意識が覚醒し、声の主を組み伏せる。

 

「ルプスレギナ?」

 

あり得ない相手を見て、周囲を窺う。ああ、そうか。リアルでもユグドラシルでもないんだったか。

 

「あ、あの、ヴァイト様」

 

「ああ、すまn「初めては優しくが良いッス」……リアルでの癖だ。すまんな」

 

いきなりベッドに押し倒されればそういう風に思っても仕方ないな。とは言え緊急事態に無防備になるつもりはない。ルプスレギナの手を引っ張りベッドから起こして指示を出す。

 

「シクスス、朝食の用意を、人化の指輪の実験が終わるまでは食事は基本的にここに運んでくれ。問題がなければ食堂を使うようにする。ああ、料理長に食材の種類を多く、だが品数は少なく、味付けは多彩に、量は一般メイドと同じぐらいで頼むと伝えてくれ」

 

「畏まりました」

 

シクススが部屋から出ていってからルプスレギナに注意しておく。

 

「リアルでは寝て、そのまま目覚められなくなることは多い。特に前線に近いとな。だから不用意に近づくな。それと今のような緊急事態に隙きだらけになる抱くなんて危険なことをするつもりはない」

 

「それはつまり、その、緊急事態じゃなければ」

 

「報奨としてもありえるし、気まぐれもありえる。他の者にも伝えてやれ。期待しているぞ、ルプスレギナ。ナザリックでの同族はお前だけだからな」

 

親指と中指と薬指を合わせて人差し指と小指を立たせて影絵で犬と呼ばれる手の形でルプスレギナの額を軽くだが突く。ルプスレギナが顔を赤くしているが、それを望んだのはルプスレギナなのだからセクハラにはなっていないよな?

 

日課である体操をして人間態と人狼態での差異をすり合わせる間に朝食が用意される。色とりどりのサラダに賽の目に切った複数種類の肉をモザイク状に並べたサイコロステーキに色々な干し果物を混ぜて焼かれたパン、複雑な香りから様々な野菜やガラなどから作られたであろうスープ。それらを豪華な食器に綺麗に盛り付けられた状態でテーブルに並べられる。カトラリーは人狼であるオレに合わせたのかオリハルコンの物が用意されていた。

 

「ふっ、リアルなら絶対に口にすることは不可能だったろうな」

 

席に付き、半分を人狼態で、残りを人間態で味わう。やはり姿によって味の感じ方も違うようだ。そしてすっぱい、つまり酸味は合わないようだ。人狼態ではそれが顕著だった。だが、不快ではあるがそれも楽しみである。

 

「料理長に酸味のキツイ物は避けるのと美味かったと伝えておいてくれ」

 

朝食を終えてから部屋についているバスルームのシャワーで汗を流す。これもリアルでは考えられない贅沢だ。まともに使える水など手に入っても500mlが限界だからな。それをお湯にするだけの燃料を考えるとぞっとする。

 

その後、アイテムボックスからPvP用でリアル軍隊のような神話級装備を取り出して着替え、お守り兼サブウェポンのリアルでも使っていたグロックの魔力弾を放つタイプを腰のホルスターに収める。タクティカルベストにはスクロールを詰め込んであり、取り出さずとも好きな体の部位から放てるようになっている。それに加えて課金で装備できる指輪の限界数である10を超えるための重課金アイテムである指輪を追加で5個つけることが出来るチェーンを首にかけて服の中にしまい込む。

 

「モモンガさんの執務室に行く。二人共下がっていいぞ。必要になれば改めて呼ぶ」

 

「「畏まりました」」

 

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使用してモモンガさんの部屋に転移する。

 

「おはようございます、モモンガさん」

 

「おはようございます、ヴァイトさん。それってPvP用の装備でしたよね。久しぶりに見ましたよ」

 

「ファンタジー感をぶち壊しにするんで好きじゃないんですけどね。何が起こるかわからないのならPK用装備のままだと咄嗟に反応できないかもしれませんから。所であれから分かったことはありますか?」

 

「そうですね。微妙にユグドラシルのシステムが残っている部分が幾つか」

 

「興味深いですね。例えば?」

 

「私だと職業レベルの問題で剣なんかは持つことは出来ても、振ろうとすると手から滑り落ちてしまうんですよ。おそらくは防具なんかも意味を成さないかと」

 

「まあ、そこは良いと思いますよ。ユグドラシルの感覚のままで戦えば良いんですから。むしろ逆に出来なくなったことは?」

 

「今の所は確認されていません。ああ、一つ問題が。やはりユグドラシル金貨の補充が難しいようです。警戒に出ていたセバスがゴブリンを狩ったのですが、死体が残っただけです。私も一匹狩って見たのですが、結果は同じです」

 

「となると、エクスチェンジボックスしか補充の宛がありませんね」

 

初期の頃だけお世話になるエクスチェンジボックスというのがある。アイテムを突っ込むと金貨になるというのだが、ユグドラシルの店舗では買い取りが存在しないのでドロップか、他のプレイヤーとの売買か、エクスチェンジボックスでしかユグドラシル金貨を得る方法はない。

 

だが、エクスチェンジボックスの変換率はレベル15ぐらいまではお世話になるかもしれない程度なのだ。ドロップアイテムは次の段階の武器の素材に、エクスチェンジボックスに突っ込むぐらいなら覚えたての範囲魔法で格下の雑魚を纏めて薙ぎ払う方が手っ取り早くなってくるのだ。

 

「変換率の調査が入りますね。手が足りないですね。使うだけならともかく返還率の調査になるとデミウルゴスに任せたいところですが」

 

「……いや、もう一人だけ任せられそうなNPCが居るんです」

 

「本当ですか?」

 

「その、オレが作ったNPCなんですけど、その、なんといいますか」

 

「ペロロンチーノみたいに趣味満載だと?特に見た覚えはないんだけど」

 

「宝物殿の領域守護者として配置してるんです。設定上デミウルゴスやアルベドに匹敵する知能と物凄く特殊な能力を与えてあるんです。ただ、ええ、まあ、そのね」

 

「僕の考えたかっこいいNPCを作ってしまったけど、よくよく考えると恥ずかしいと?」

 

「作った当時は格好いいと思ってたんですけど、今だと動くんですよ!!」

 

「あ〜、なるほど、分からなくもない。さて、スペリオンは宝物殿に仕舞ってあるんだったかなぁ」

 

「ちょっ、待ってくださいよ!?」

 

「冗談だ。とは言え、オレのPvP用の武器と弾丸は実際の所宝物殿に仕舞い込んでいるからな。いつかモモンガさんの居ない時に会うかもしれない。後に残しておくと、落ち着いて会うことになるからキツイことになると思うよ」

 

「う〜〜ん、でもな〜〜、アレと会うのかぁ〜」

 

「そこまで会いたくないのか?」

 

「絶対に笑ったりしないで下さいよ」

 

「約束するよ」

 

「それじゃあ、行きましょうか。ああ、毒ガスが充満してますから毒対策をお願いしますね」

 

「ガスマスクがあるから大丈夫だ」

 

「完全にリアルの兵隊ですね。それじゃあ行きましょうか」

 

モモンガさんと共に宝物殿に転移する。扉の前に立ち、押して見ても鍵がかかっているのか開かない。パスワードを唱えるんだったっけ。

 

「ええっと、パスワードは、なんだったか」

 

「かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう」

 

オレがパスワードを唱えると扉が勝手に開いていく。

 

「よく覚えていましたね」

 

「何かの小説のパクリだったはずだから覚えてるよ」

 

本当はリアルの職業柄覚えていただけのことだ。開いた扉の先へと進み、見覚えのない通路を見つける。

 

「モモンガさん、あそこは?」

 

オレが尋ねると言いづらそうに、それでもはっきりと答えてくれた。

 

「あそこは、霊廟です」

 

「霊廟?」

 

「引退していったメンバーのアヴァターラに装備を着せて安置してあるんです。いつ、帰って来ても良いように」

 

「そうだったのか」

 

モモンガさんも心の何処かでは帰ってこないと思っていたのだろう。だから霊廟と名付けている。それを見ないふりをして。もう霊廟にアヴァターラが増えることはないとモモンガさんに伝えるには時間がかかるだろうな。

 

「それにしても、ここに配置していたはずなのに何処にいったのか」

 

モモンガさんが首をひねっていると霊廟の方から足音が聞こえてきた。ついリアルの癖でグロックを抜いて構えてしまい、頭を掻いて誤魔化しながら降ろす。その降ろした腕も足音の正体が分かった時点で再び上がる。今度は安全装置まで解除する。足音の正体は、居るはずのない人物、タブラさんの姿をした何かだったからだ。

 

タブラさんはギャップ萌えだが、オレのこの格好に関しては世界観が違いすぎてギャップではないと言い争いになるからだ。それが平然とやってきた時点で偽物だ。

 

「止めよ、パンドラズ・アクター」

 

モモンガさんがそういうと、タブラさんの姿が崩れる。なるほど、ドッペルゲンガーだったのか。安心して安全装置を元に戻そうとして、すかさず発砲してしまう。衝撃で後ろに倒れて起き上がらないドッペルゲンガーを放っておいて安全装置をかけてホルスターに収める。

 

「ちょっ、ヴァイトさん!?いきなりどうしたんですか」

 

「すみません、モモンガさん。見慣れた大っ嫌いなネオナチの制服につい体が勝手に」

 

「えっ、見慣れた?どういうことですか?」

 

「ネオナチが占拠したアーコロジーにある支社の社員を助けるためにネオナチとは何回もやりあったんですよ。練度が低いくせに狂信者ばかりで手を焼かされて、数も多いけど服装は絶対にその制服で階級が高いやつはコートを羽織ったり、勲章が多かったり、特殊部隊がガスマスクを付けてるぐらいだ。判別がしやすくて楽ではあった」

 

社長に拾われた最初の仕事が最大の山場だったな。正規軍より働いた自身があるぞ。ネオナチに負けた正規軍から武器弾薬をかっぱらって徹底的に叩いたからな。

 

「効いていないのだろう、パンドラズ・アクター。この程度の武器がNPCに効くわけ無いだろう」

 

「いえいえ、的確に急所に、心臓付近に3発、両肺に2発ずつ、眉間に1発叩き込まれれば多少なりとも痛いとは感じます。流石は至高の御方であります」

 

オーバーアクションで立ち上がるパンドラズ・アクターを見て余計にネオナチに見える。

 

「パンドラズ・アクター、オレの前で、その格好で、オーバーアクションは止めろ。つい癖で引き金を引きそうになる」

 

「畏まりました、ヴァイト様。所で本日はどういったご用件でしょうか」

 

「それに関しては私から答えよう、パンドラズ・アクターよ。ナザリックは現在緊急事態に陥っている。詳しくは後ほどアルベドに尋ねよ。お前に対処してもらいたいのはユグドラシル金貨の調達とナザリックを運営する上で財政面での補佐だ。世界の理が大きく変化し、現在確認できているユグドラシル金貨の調達方法がエクスチェンジボックスのみだ。他の方法を探すのと同時に効率の良い変換物の調査も行え」

 

「なるほど。長期的、短期的に見て有用な物を調査しましょう」

 

「ああ、それからだがパンドラズ・アクター。デミウルゴスの下にも向かってくれ。空いている時間に少し頼みたいことがある。デミウルゴスが今は担当しているが、後々はお前に引き継いでもらいたい。それからハルジオンと各種弾丸を2マグずつ、それと狼牙を持ってきてくれ。宝物殿にあるはずなんだが」

 

「畏まりました、ヴァイト様。すぐにお持ち致しますので少々お待ち下さい」

 

パンドラズ・アクターが敬礼をするのに合わせて、またグロックに手が伸びる。

 

「これも止めておいた方がよろしいようですね」

 

「そうだな。絶対にドイツ式の敬礼は止めろ。今度からはハルジオンの弾丸が飛ぶ可能性があるからな」

 

一礼をして武器庫に移動するパンドラズ・アクターを見送り傍にあった応接用のソファーに体を預ける。

 

「中々相性が悪いNPCですね」

 

「すみません、ヴァイトさん」

 

「モモンガさんが謝るようなことじゃありませんよ。これはオレの方に非があるんですから。それで、パンドラズ・アクターの詳細な能力は?」

 

「ギルメン全員の姿に変身できて、ステータスは8割、スキルは全て使用可能。ああ、超位魔法もです。ただ、ステータスが下がっているのであまり使わせる気もありません」

 

「なるほど。それならエクスチェンジボックスも使える訳か。まさか、オレの奥の手も使えるの?」

 

「奥の手ですか?どんな物です?」

 

「たっちさんをPvPで仕留めた特殊な装備とコンボ。並大抵のプレイヤーだと絶対に成功しない上に初手じゃないと使うことも出来ないような大技」

 

「そんなのがあるんですか!?」

 

「内緒にしといてね。たっちさんと装備の作成を手伝ってくれたウルベルトさんしか知らないはずだから」

 

 

 

 

 

 

 

ヴァイト様が転移されたのでヴァイト様の部屋からプレアデスに与えられた部屋へと戻る。プレアデス全員に対して与えられた部屋には長女であるユリ姉がいた。

 

「あらルプー、ヴァイト様は?」

 

「モモンガ様の所に行くから必要になったら改めて呼ぶって。それよりもユリ姉、大変ッスよ!!」

 

「また何か粗相でもしたの?」

 

「ヴァイト様が抱いてくれるって」

 

「……疲れているのね。ゆっくり休みなさいルプー」

 

「あ〜っ、信じてないッスね。ヴァイト様から通達って程でもないけど知らせておけって言われたのに」

 

「ヴァイト様の命令なのね」

 

「命令って程ではないけど、全く伝えない訳にはいかないっしょ?今は非常事態ッスけど、そうじゃなければ報奨か気まぐれで抱くかもって。それから寝ている時は近づくなとも言われたッス」

 

ベッドに引きずり倒されたことと気安く接されたことは黙っておく。伝えるべきことは伝えたのだから問題ない。口吻もされたし、そういうことで同族だから期待しているということは子供を求められていることで間違いないはず。一人勝ちはほぼ確定しているが、邪魔はされたくない。

 

「そう言えば昨日と言うか、深夜の捜索の報奨ってどうなってるッス?」

 

「ああ、ルプーはまだ貰ってなかったわね。今は司書の1人が整理を始めているわ。来歴を見れるマジックアイテムもその司書が管理しているから言えば貸し出してもらえるわ。それと受け取るのは一つだけよ」

 

「分かってるッスよ。それじゃあ、ちょっと行ってくるッス」

 

私室から大量のアイテムが無造作に放り込んであった部屋へと入る。司書のエルダーリッチからモノクルを借りてある程度分類、武器か防具かアクセサリーかその他に分けられている中から武器の下に向かう。

 

ヴァイト様が新たに装備していた防具や武器の中で明らかにランクが劣っていたものが一つだけあった。つまり、お守りのような物だろうと思う。そしてここに放り込まれているアイテムと同じぐらいのランクである以上、同じ物が、運が良ければヴァイト様が置いた物があると思い探してみれば、それは簡単に見つかった。

 

腰に巻くホルスターは流石に見当たらないが、ヴァイト様が付けていたのは中位程度の魔物の革で作られた物だった筈。使用を許される物か確認してから一般メイドに作ってもらえばいいだろう。

 

無用の長物ではなく一応の実用品でもある。後付でスナイパーがLv.1だが設定されているので銃も一応装備することが出来る。一度も使ったことがないので練習する必要がありそうだ。姉妹の中で使えそうなのはシズだろうから練習に付き合ってもらおう。そう思いながらモノクルを返して部屋をあとにする。

 

 

 

 

 

 

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)をモモンガさんと二人で使いながら報告にあった街や村を見て回る。無論、防御魔法や妨害魔法、感覚強化なども用いて建物の中も確認できるようにしてある。傍には護衛と世話係としてセバスとユリが控えている。

 

「二昔前の携帯端末の地図と同じ使い方か。おっ、街発見。ナザリックから一番近いのが都市と呼べるのがここか。意外と近いな。文明は、中世末期と言ったところか。ふむふむ、武器は、鉄製がほとんど、たまに金や銀。銃は無し、城壁に大砲無し、バリスタはあり。ほぅ、ポーションが青色なのか。貨幣は黄銅版、銅貨、銀貨、金貨が主流ね。ポーション高いな。あの反応は麻薬の売人か」

 

「ヴァイトさん、早すぎです」

 

「慣れですよ。おっ、モンスターと戦って、えっ、嘘だろ」

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)に映し出されている先では一匹のオーガに従えられた8匹のゴブリンに襲われた3人の人間が敗走している所だった。胸元には鉄のプレートが掲げられており、冒険者らしき者達が色々な金属のプレートを身に着けているのを確認している。それらの中で鉄だと下から2番目、見習い程度の腕前だと思われる3人に唖然とする。よく見ればもう一人戦士系がいたのだろうが、ゴブリンに食われていた。

 

「モモンガさん、確かこの組み合わせってチュートリアルの最後のボス戦ですよね」

 

「そうですね。単独で推奨レベルが8だったはずですけど。奇襲で戦士職が即死したとしても立て直すのは問題ないはずなんですが」

 

「大分弱いんでしょうか?呪文詠唱者もさっきのパーティーには見当たらないですし。もうちょっと調査が必要ですね」

 

「地域によって強さが変わってくるのでしょうか?とりあえず、ナザリック周辺に脅威は確認されませんね。さすがにあの森の中を一々調べるのは面倒ですし、アウラに調査させましょう。マーレには大きな仕事を任せているのに、アウラに任せられる大きな仕事が欲しかったところなんですよ」

 

「そうしましょう。ただ、基本的には調査だけにしておきましょう。使い道は色々ありますから」

 

「使い道?あっ、まさか冒険者になるつもりですか!?」

 

モモンガさんが立ち上がるのに釣られてモモンガさんの遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)の視点がずれ、気になるものが映る。

 

「モモンガさん、ストップ」

 

視点が高すぎて対象が小さいが、これは、襲われてるな。賊かなと思い、拡大してもらえば兵士の格好をした者達が村人を襲っているようだった。それを見ても、殺し方が下手だなとしか思えなかった。

 

「モモンガさん、どう感じます?」

 

「なんというか、映画を見ている感じというか、あまり感情が動かないですね。リアルならかわいそうぐらいは感じていたはずなのに」

 

「やっぱりですか。オレも兵士の手際が悪いとしか思えないんですよ。種族に引っ張られてますね」

 

「そうですね。それにしても、どうしましょう?」

 

これが野党の類が襲っているのなら躊躇いなく介入していたが、兵士ということは国を相手取る必要がある。まだこの世界の戦力がどの程度のものなのか分かっていない以上、敵にはしたくない。だが、貴重な情報源を得ることも出来る。正直に言えばどちらでも良い。国自体を敵に回さなければいいだけだからな。なら神様に任せるのも手だな。ユグドラシル金貨を1枚取り出してセバスに投げ渡す。

 

「セバス、表が出れば助けに行く。裏が出れば介入しない。お前がやれ」

 

「私がですか?」

 

「そうだ。オレもモモンガさんもどちらでも良いと思っている。だが、お前とユリは助けに行きたそうだ。だからチャンスをやる」

 

「ですが」

 

「オレ達二人は表を出すのを期待している。楽しませれば褒美にちょっとした褒美を与える。普通のことだ、セバス」

 

「では、失礼致します」

 

セバスが右手で金貨を弾き、左手の甲で受けて右手で押さえる。セバスの身体能力なら好きな面を出すことは可能だ。最も、そんな小細工は必要ない。両面表の特製金貨を投げ渡したんだからな。セバスも弾いた時点で気付いている。もう少し皆にも自分というものを出してもらいたい。あまり溜め込みすぎると色々なものが歪む。

 

「表にございます」

 

「では行くとするか。セバス、ユリ、供をしろ。モモンガさんはどうします?」

 

「私はこんな姿ですからね。ここからサポートしますよ」

 

「そうですか。とりあえず、村人に友好的な関係を築く形に持っていきます」

 

モモンガさんと打ち合わせをしながらPvP用の装備からPK用の装備に変更する。ピッチリとした全身タイツに全身を覆うマントとシンプルなPK用の装備が、一瞬で先ほど覗いた冒険者の1人の格好に切り替わる。

 

これはオレが課金してデータクリスタルを追加して搭載した能力で、見たことのある装備に外見だけをコピーすることが出来る能力だ。他にも姿を切り替える装備はあるが、ステータスが大幅に劣化してしまうので神話級に課金して能力を追加したのだ。最も、課金を行なっても他のギルメンの神話級装備に劣るためにPvP用の神話級装備と奥の手の神話級装備を所有する羽目になっている。

 

「近くまでゲートをお願いします。セバス、先行しろ。ユリは一応護衛に付け」

 

「「畏まりました」」

 

モモンガさんがゲートを開くと同時にセバスが飛び込み、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)の中では姉妹らしき少女に斬りかかる兵士を殴り殺していた。

 

「では行こうかユリ」

 

ユリを引き連れてゲートを潜り抜ける。自然の香りに咽そうになるのを我慢し、自然に振る舞う。

 

「セバス、兵士の強さはどれぐらいだった」

 

「はっ、おそらくですが、5前後かと」

 

兵士のレベルが5?

 

「セバス、ユリを連れて村を襲っている兵士を殲滅しろ。隊長と副長は生きたまま捕まえろ」

 

「それではヴァイト様の護衛が」

 

「Lv.5がどうやってオレを倒すっていうんだ、ユリ?モモンガさんも見てくれているんだ。手が足りなければ応援も送られてくるさ。助けれるだけ助けてきなさい」

 

「「ありがとうございます」」

 

村の方へと二人が走って向かうのを見送り、兵士に襲われていた姉妹に向き直る。姉の方が斬られたのか、背中からかなりの出血を負っているが、アドレナリンで痛みを感じていないのだろう。必至に妹を抱きしめて庇おうとしている。そんな二人に近づいてしゃがみ込む。とりあえず魔法の実験体になってもらおう。

 

「今治してやる。軽傷治癒(ライト・ヒーリング)

 

第1位階魔法である軽傷治癒を姉にかけてやる。それだけで傷が完全に治ってしまう。本当にレベルがゴミなのだとこれではっきりとしてしまった。中傷治癒(ミドル・キュア・ウーンズ)なんかを使ったら腕すら生えてきそうだ。服の破損も修復(リペア)を使って応急処置を施してやる。

 

「オレはヴァイトという。偶々村が襲われるのを見て助けに来た。何か分かることはあるか?」

 

そこまで尋ねた所で言葉が通じているのが不安になった。

 

「あの、いきなり襲われて何が何だか分からないんです。ただ、お父さんがバハルス帝国だって」

 

「そうか。賊という感じではなかったのだな」

 

「たぶん」

 

「正直だな。兵士を相手にすると国を敵に回すかもしれないからと見捨てられると考えなかったのか」

 

「……あっ」

 

「正直は美徳だが、時と場合による。だが、今回はそれでいい。元から助ける気だったのを嘘をつかれては萎える」

 

ルプスレギナにしたように犬の形で額を軽く突いてから頭を撫でてやる。

 

「さてと、そろそろセバス達が終わらせているはずだ。村に戻ろう」

 

話しながらも警戒しているのだが、問題はないようだ。

 

「お願いです、先に急いで村へ行って下さい!!他にも怪我をした人がいるはずです!!助けてください!!」

 

「それは構わないが、森が少し騒がしい。ここにおいて置くと不味いかもしれないから、ちょっとだけ我慢してくれよっと」

 

二人を抱き上げて村へ向かって走る。う〜む、リアルと違ってパワーには補正が入ってるけど、技術にはユグドラシルの時よりも補正はかかってないな。ワーウルフになったことで差が出てるからか?

 

Lv.100のワーウルフの力と敏捷によって少女を二人抱えようとも2分と経たずに村へと辿り着く。二人を降ろしてセバスに近づく。

 

「セバス、怪我人は!!」

 

「はっ、こちらに」

 

セバスに案内され一箇所に固められている怪我人の下に向かう。誰もが危険な状態だ。四肢が足りない者もいる。実験体になってもらおう。

 

集団(マス)中傷治癒(ミドル・キュア・ウーンズ)

 

うおっ、本当に腕が生えてきた。結構グロいぞ。それでもすぐに異変に気づいた怪我人達が起き上がり、不思議そうにして家族達と泣きながら抱きしめあっている。それを少し離れた位置でセバスとユリと眺める。

 

喜ばしいところのはずなんだが、あまり共感出来ないのは種族の違いなんだろうな。いや、違うな。コミュニティの違いだな。ナザリックの誰かが殺されれば怒りもするし、悲しくもなるのは本能的に分かる。

 

しばらくすると村長と思われる初老の男性が近づいてきた。

 

「本当になんとお礼を言っていいやら。私はこのカルネ村で村長を務めております」

 

「気にする必要はない。こちらにも少し思惑があってな。我々はナインズ・オウン・ゴールの者なのだが、聞き覚えは?」

 

「いえ、初めて聞きます」

 

「そうか。ユグドラシル、ヘルヘイム、ナザリック、アインズ・ウール・ゴウン、どれかに聞き覚えは?」

 

「いいえ、初めて聞きます」

 

「聞いてのとおりだ、セバス。大分遠くまで飛ばされたらしいぞ」

 

「そのようでございますね。些か厄介なことになりました」

 

「すまんが村長、こちらからの要求は2つだ。1つはこのあたりの常識を教えてもらいたい。もう1つは空いている家を少しの間貸して欲しい」

 

「それは構いませんが、住まわれるのでしょうか?」

 

「ああ、違う。捕虜から情報を絞れるだけ絞る。死体も残さずにな。あまり見ていて気持ちのいいものでもないからな」

 

貴重な情報源だからたっぷり絞ってやらないとな。

 

「そういうことでしたら離れがありますのでそちらへ」

 

「ありがとう。セバス、運べ」

 

「畏まりました」

 

隊長と思われる小太りの男とその副官の男をセバスが引きずり、村の外れにある小屋へと運び入れる。オレもそれに続き、扉を閉める。

 

さて、逆探知などをされては困るからな。頭を叩き潰してから真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)で復活させる。

 

「セバス、こいつは隊長だったのだよな?」

 

「はい、間違いなく。命令を出していた所を確認しております」

 

真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)で灰になったのだが、ユグドラシルとは異なるからだろうか?」

 

「いえ、おそらくは本当にLv.1だったのかと。コネだけで上に付いていたのかと」

 

「迂闊に蘇生もできないとは。まあいい、上がお飾りならこの副官がほとんどの情報を知っているはずだ。モモンガさんに連絡を取ってナザリックに運ぶぞ」

 

モモンガさんに伝言でシャルティアを迎えに寄越してもらう。すぐにやってきたシャルティアに副官を預けて、セバスを残して小屋から出る。村人の護衛に残しておいたユリと村長のお宅へと招かれ、この世界の一般常識を得ることになる。

 

この世界の人間の強さやモンスターの強さが微妙ではあるが、ある程度の一般常識は知ることが出来た。これとシャドウデーモン達の情報などで補間すれば最低限の変装、縛りプレイで冒険者として遊べる程度の情報は得られた。

 

そのまま細かい部分を聴き込んでいると慌ただしく走ってくる気配を捉える。何か問題が起こったようだな。

 

「村長大変だ!!騎馬が10位迫ってきてる!!」

 

またか。JRPGのチュートリアルかよ。もう少し自由度を高くしてくれ。

 

「はぁ、乗りかかった船だ。それも何とかしてやるよ。村長、村人を一箇所に集めろ。防御魔法をかけるから。ユリ、セバスを呼んできてくれ」

 

ユリと駆け込んできた村人がまた出ていくのを見送る。

 

「村長、すまないが相手の確認を手伝ってもらう。ヤバければユリに守らせる」

 

村人が集会所に逃げ込んだ後に防御魔法を持続性を重視してかけておく。下級で十分だと思うが、一応中級の物をかけておく。MPは十分に余っているので問題ない。

 

向かってくる先頭の騎士は今の所、この世界で見る最高レベルの騎士だ。30ちょい、40はないな。それでも真面目に20時間ほどプレイしたユグドラシルプレイヤーに劣るレベルだ。その騎士が私達の前で停まり、名乗りあげる。ユグドラシルの衰退期はカンストまでがチュートリアルの世紀末だからな。

 

「私はリ・エスティーぜ王国の戦士長ガゼフ・ストロノーフだ!!王命により、帝国の襲撃から民を守るために村々を回っている」

 

視線で隣りにいる村長に確認する。

 

「噂通りのお姿です。おそらく本人で間違いないかと」

 

「分かった。オレはナインズ・オウン・ゴールのヴァイトだ。偶然に立ち寄ったこの村を襲っていた兵士共を排除した。隣りにいる村長が証人だ」

 

「ナインズ・オウン・ゴール?」

 

「故郷の言葉で『9人のバカ野郎ども』と言う意味だ。貴族とその従者でありながら偽名で冒険者まがいのことをしている9人組だ。我々は転移魔法の実験事故でこの付近に飛ばされ、成り行きで帝国の兵と交戦することになった。何か問題はあるか」

 

「いや、問題はないだろう。ここには帝国の兵士はやってきていない。不幸なことに森からモンスターが襲いかかってきた。そうだな、村長」

 

「はっ、はい。そのとおりです。怪我人はこちらの方々が救ってくれました」

 

「そうだったか、ヴァイト殿、ありがとうございます」

 

「こっちも情報が知りたかったから礼を言われるほどじゃないさ。出来ればでいいのだが、このあたりの常識を教えてもらえないだろうか?」

 

「構わないと言いたいのだが、少し待って、いや、正直に話そう。帝国の狙いはおそらくは私なのだ」

 

「ストロノーフ殿が?」

 

「おそらくだが。だが、襲われた他の村が普通の兵士の略奪とは異なる動きを見せているのだ。私の性格を読んだ動きがある」

 

「性格を読んだ?」

 

「襲われた村は極少数の生き残りがいる。それも多少の怪我をして、放置しておけば命はないような生き残りが」

 

「殺すよりも重症を負わせることで敵の勢いを落とす戦術があるが、それをやられたか。どれだけ削られている」

 

「……7割」

 

「7割!?正気か、ストロノーフ殿」

 

今この場には14人しか居ない。そもそも総数50人というのも少ない。普通はその倍の100はいるはずだ。

 

「ストロノーフ殿、分かっているのか?身内にも敵がいるような状態だぞ」

 

「分かっている。だが、私は剣を振ることしかできん男だ」

 

「やっぱり何も分かっていないな。知ろうともしなかったか。未来を予知してやろう。お前はこのあと、死ぬ。ここにいる部下諸共だ。その後、ここには居ない部下は隊を解散され、バラバラになる。そこで不満を漏らし、身内にいる敵に難癖をつけられて処分される。王の子飼いであるということは王の発言力の低下にもつながる。分かるか、お前1人の命じゃないんだよ」

 

「そうだとしても、私には何もできん。私はただ陛下の剣であろうとした。あろうとしてきた」

 

「ちっ、味方が、守ってくれる上位者が居ないか。ストロノーフ殿、すぐに村を離れろ。そろそろ襲ってくるぞ。ここにいれば村が巻き込まれる。できるだけ離れろ。こっちは、村は何とかしてやるよ」

 

「忝ない。私に渡せるものは、こんなものしかないが、受け取って欲しい」

 

ストロノーフが指輪を外して差し出してくる。上位道具鑑定を持っていないから詳細が分からないが、戦士系の強化だな。

 

「これは?」

 

「知り合いから貰ったのだが、戦士の限界を突破させてくれる貴重な指輪らしい」

 

レベルキャップ開放だと!?表情には出さずに貰い受ける。詳細はパンドラズ・アクターに調べさせなければ。

 

「良いのか?」

 

「ああ。私では付けていても外しても変わらんからな」

 

「では、ありがたく頂いておこう」

 

指輪をポケットに入れると見せかけてアイテムボックスに放り込んでおく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上位天使(アークエンジェル・フレイム)か。第3位階魔法で精鋭か。リーダーらしき奴が第4位階魔法を使っているが、それ以外は見るところはなし。むしろストロノーフのスキルらしき動きの方が重要になってくるだろうがな」

 

遠くではストロノーフが30人ほどのマジックキャスターに襲われ、部下は全て死に絶えた。残っているストロノーフも限界が近づいている。まあ、よく頑張ったほうだと思う。プレイヤースキルでは中々の物だと思う。だが、それだけだ。

 

ストロノーフが討ち取られ、死体を持ち帰ろうとしている。蘇生をさせないためだろう。さて、どう動く。森の中から馬を引き連れて戻り、カルネ村へと進路をとった。バカ野郎どもが。

 

騎馬の集団の前に姿を晒し、手榴弾を投げる。爆発に馬が驚き、次々と落馬していく。

 

「貴様、何者だ!!」

 

リーダー格の男が誰何してくる。答える必要はないのだが、名乗ってやる。

 

「ストロノーフに雇われた冒険者だよ。村を襲うつもりのようだから、仕事をしにきただけだ。かかってこいよ、ケツに殻をつけたまんまのひよっこ共。カラーひよこにしてやるよ」

 

「ふん、たかが1人で何が出来るというか。我々の手にかかればガゼフ・ストロノーフすらこの通りだ」

 

ストロノーフの死体を晒して脅しをかけてくるが脅しにもならんな。

 

「はるか格下の死体を見せられてもな。それじゃあ、とりあえずこれをどうにかしてみろよ。第10位階天使召喚(サモン・エンジェル・10th)智天使(ケルビム)

 

黄昏をかき消す程の眩い光と共にレベル90の天使が召喚される。智天使(ケルビム)の特徴は他に呼び出せる天使よりも使えるバフ・デバフの数が圧倒的に多く、状態異常を引き起こす魔法も多く使えるため、ユグドラシルでは嫌がらせ役としてよく使っていた。

 

ストロノーフを襲っていた集団は智天使(ケルビム)を見ただけで戦意が折れてしまう。軟弱者と言いたいがレベルが20程度じゃ仕方ない。許しを請い始めた集団に睡眠と麻痺の状態異常をかけさせる。倒れていく集団をモモンガさんに頼んでナザリックに収容してもらう。尋問と拷問は帰還してから行うので拘束以外何もするなと伝えてある。プロなら状況によってはすぐに自決出来るように仕掛けを用意しているはずだ。蘇生魔法がある以上、蘇生不能にする方法もあるかもしれない。先にそれを調査してから情報を引き出す必要がある。

 

ストロノーフはどうするか。カルネ村を守るのに貰った指輪は世界級アイテムとも言える物だ。お釣り代わりに蘇生してやるか。第5位階魔法の死者復活(レイズデッド)では不義理だな。真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)でもいいんだが、レベルダウンがほぼないから第7位階魔法蘇生(リザレクション)で良いだろう。

 

「うん?引っかかるだと?ええい、とっとと復活しろ!!」

 

強引に魔力を流して蘇生(リザレクション)を発動させる。ゆっくりと目を開くストロノーフを見て声を掛ける。

 

「気分はどうだ?」

 

「わたしは、なにが、こえが」

 

「デスペナ、復活魔法の影響だろう。しばらくは安静にするんだな」

 

「むらは、ぶかたちは」

 

「村は無事だ。部下たちは残念だが。ストロノーフ殿には秘蔵のスクロールの復活魔法を使わせてもらった。生きて情報を持ち帰れ。復活魔法のことは秘密にな。重症を負って治療したが後遺症でしばらくは力が出ないとでも言って鍛え直せ。どうもきな臭い。バハルス帝国だと思えば止めに来たのはスレイン法国。どれだけの裏があるんだろうな。カルネ村までは送ってやる。今は眠れ」

 

睡眠(スリープ)で眠らせて担ぎ上げる。カルネ村の空き家にストロノーフを置いて村長に知らせておく。セバスにスクロールを幾つか持たせて、暫くの間カルネ村に守護するように伝えてユリと共にナザリックに帰還する。

 

「おかえりなさい、ヴァイトさん」

 

「ただいま戻りました、モモンガさん。声は聞いてましたか?」

 

「いいえ。どうかしたんですか?」

 

「ええ、いくつかね。まず、ガゼフ・ストロノーフ、最後に蘇生させたあの騎士から貰った指輪なんですけど、どうも戦士系のレベルキャップを開放する指輪らしいです」

 

「なっ!?世界級か、それ以上のアイテムじゃないですか!?そんなアイテムがあるなんて」

 

「早急にパンドラズ・アクターに指輪の調査をさせましょう。それから各地にやっているシャドウデーモン達に類似するアイテムがないのかも調べさせましょう。これが世界級よりも希少なアイテムなら問題ないですが、普通の市販品、聖遺物級なら問題です。現地人ならいざいらず、我々のようなプレイヤーがこれを複数所持していれば」

 

「ナザリックが落とされる可能性も出てきますね。ナザリックの隠蔽と共に最優先させましょう」

 

「頼みます。それから現地勢は精々が30に届かない程度、下級の1つとその上位職のカンストが限界といったところでしょう。ただ、武技というスキルのような物も存在しています。瞬間的に5位は高くなるみたいです」

 

「そちらも優先度は高いですね。迂闊に動いたのは不味かったかな」

 

「動いたからこそ分かった事実です。それより、アウラを戻しましょう。召喚できるシャドウデーモンやエイトエッジアサシンはともかく、アウラを危険であるのに調査になんて回せません」

 

「そうですね、すぐに戻しましょう。それから緊急会議も開きましょう。階層守護者たちに今の情報を共有しなければ。セバスは大丈夫ですか?」

 

「セバスにはそこそこのスクロールをもたせてあります。最悪、逃げ切ることぐらいは出来るはずですし、村人と有効的な関係を築いているセバスを問答無用で襲いかかることはまずないでしょう。異形種なら別ですが」

 

「なら、ひとまずは安心といったところですか。それにしてもレベルキャップの開放に瞬間的な強化か。ここには未知が多いですね。ちょっと不謹慎ですが、それを楽しく思っている自分が居ます」

 

「オレもですよ。まあ、本当に異形種になって、こんなことをするはめになるとは思ってませんでしたけど」

 

「そうですね。さて、そろそろ動きましょうか。どこに集めます?」

 

「円卓の間で良いでしょう。パンドラズ・アクターの紹介も必要でしょうし、レベルキャップ開放の指輪に関してはパンドラズ・アクターに専任して貰う形にしましょう。量産や魔術師系のレベルキャップを開放させたりも出来るのかなど、色々調べてもらいたいですし」

 

「……あまり周りには見せたくなかったですが、安全とは比べようもないですね。分かりました。パンドラも呼びましょう」

 

すぐに伝言で守護者たちを円卓の間に集め、報告会を始める。パンドラズ・アクターの紹介から始まり、現状の報告を行わせる。問題は発生していないようで一安心する。

 

「最後は、オレとセバスとユリで集めてきた情報だ。まずはこのアイテム」

 

アイテムボックスからストロノーフから貰った指輪を取り出す。

 

「とある騎士から報酬としてもらったものだが、戦士の限界を突破させてくれる指輪らしい。本人は効果がないと言っていたが、おそらくはレベルキャップの開放だ」

 

守護者たちが驚いているが、それを手を上げて鎮める。

 

「ユグドラシルには存在しなかったこのアイテムがこの世界でどれだけ存在しているのかわからない。これが1つやワールドアイテムのように200とかそこらならまだいい。だが、聖遺物級ほどならば早急に対処する必要がある。デミウルゴス、シャドウデーモン達に最優先で調べさせろ。パンドラズ・アクター、この指輪はお前に預ける。調べ上げ、量産や改変、つまりは魔法職などのレベルキャップの開放が可能かを調べ上げよ」

 

「「はっ!!」」

 

「次にこの世界では精鋭と呼ばれる者でもレベルが30に届かない程度ということがわかった。第3位階魔法が使えれば一流だそうだ。よって危険は少ないと思っていたのだが、武技というスキルのようなものがあると判明した。これが問題で瞬間的だがレベルが5ぐらいは跳ね上がると思ってほしい。重ねがけによっては倍ぐらいまでは届くのかもしれない。優先度は先程の指輪よりは落ちるが、こちらも調べる必要がある。アルベド、現在作成している地図はどれ位が完成している」

 

「ナザリック周辺200kmは完成しております」

 

「では、一時中断し武技を扱う、消えても問題にならないようなサンプルを確保せよ。数は多い方が良いが、あまり多すぎて疑惑を持たれてはならない。どうもこの世界の冒険者はネックレスのプレートで階級が異なるようだ。おそらくだが、金か白金がちょうどいいはずだ。街の外に出て居るのを拉致せよ」

 

「マジックキャスターはどうされますか?」

 

「一応、この世界にしかない魔法があるかもしれない。それにマジックキャスター専用の武技なんかもあるかもしれないな。そちらも集めろ。足はできるだけ広げて各地から集めるんだ。時間はかかっても良い。ナザリックが周辺に知られる方が問題だからな」

 

「畏まりました」

 

「ナザリック内の警戒態勢は通常に引き下げ、その分を指輪の捜査に振り分ける。普通に手に入る物の場合、直ぐ様複数個を入手する必要がある。その後はレベリングになるだろう。シャルティア、コキュートス、自動POPのモンスターを集めておくように。塵も積もれば山となる。我らに寿命は存在しない。その利点を存分に活用するのだ」

 

「「はっ!!」」

 

「マーレは引き続き、ナザリックの隠蔽作業に努めよ。アウラはトブの大森林の調査を一時中断し、マーレの護衛に回れ。万が一があっては困る」

 

「「畏まりました」」

 

「他になにか報告などはあるか?」

 

「では、私からよろしいでしょうか?」

 

「許可する、デミウルゴス」

 

「はい、先程送られてきたスレイン法国のリーダーと思われる者の持ち物の中からユグドラシル産と思われるアイテムが発見されました」

 

「それは本当か、デミウルゴス」

 

「はい。ただ、疑問に思うこともありまして報告が遅れてしまいました」

 

「構わない。それで、どういったアイテムでどういう疑問なのだ?」

 

「はい、魔封じの水晶なのですが、中に込められている魔法が、そのなんと申しますか、おそらくですが第7位階魔法なのです」

 

「魔封じの水晶に第7位階魔法?」

 

スクロールは製作技術が必要な上に第8位階魔法以上を込めるために必要な質のスクロールの素材が割に合わないので、第8位階魔法以上を込めるのが魔封じの水晶が一般的だった。それなのに第7位階魔法。ガチャか?

 

「モモンガさん、ガチャでしょうか?」

 

「おそらくな。デミウルゴス、おそらくだがそれはユグドラシル産で間違いない。ユグドラシルではガチャと呼ばれるくじ引きのようなものでハズレに値するアイテムだったはずだ。まあ、純粋な戦士職には有用だったはずだがな。だが、これでプレイヤーが現在も存在している、もしくは過去に居たことが証明された。これは非常に重要なことだ。スレイン法国が鍵を握っているのも確定だな」

 

「すぐに調査を致しましょうか?」

 

モモンガさんがこちらに視線を向けるが首を横に振る。どう考えてもキャパシティオーバーだ。デミウルゴスかアルベドかパンドラズ・アクターが空かなければ処理しきれない。

 

「いや、保留にしておこう。今は割り振っている仕事を最優先するとしよう。捕らえたスレイン法国の者達から情報を引き出すのは」

 

「その件だが、パンドラズ・アクター。お前の変身能力でタブラさんに変身した場合、ブレインイーターとしての能力はどの程度だ」

 

「8割程度ですが、特別情報収集官のニューロニスト嬢よりは上かと」

 

「では、パンドラズ・アクター、ニューロニストの順に脳を喰らい、その後に恐怖公のもとで徹底的に情報を絞り出して比較せよ。そのために、オレが直々に真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)を使用する。貴重な情報源だからな、ロストさせる訳にはいかない」

 

「確かにそうだな。任せても構わないですか?」

 

「もちろんです」

 

「ではそのように動け。ああ、第7位階魔法が込められている水晶は念のために保管しておくように。貴重なユグドラシル産のアイテムだからな。他には何かあるか?ないようならば解散せよ」

 

さて、とっととお仕事を終わらせよう。

 

 

次に見たい奴

  • ドラゴン★エクスプローラー
  • ダンまち 兎大魔導士
  • ゴブスレ 大魔導士
  • ネギま ダークネス
  • 龍の子
  • 遊戯王 諸行無常

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