ユキアンのネタ倉庫   作:ユキアン

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オーバーロード 狼牙 3

 

オレの私室にパンドラズ・アクターが指輪の解析結果と実験のレポート持ってきて報告を行ってくれている。

 

「つまりファイターの上限が15から25まで上がり、それにつられて全体の上限110まであがり、15以下の場合は効果がない。そして量産は不可能というわけだな」

 

「その通りです。材質から製法、全てが未知というよりも既存の物に当てはまらないというのが正しいでしょう。こう、世界の理を捻じ曲げてとでも言えばいいでしょうか」

 

「なるほどな。他には確認されていないし、ニグンから引き出した情報にも類似のものはなかった。よくぞ調べて上げてくれたパンドラズ・アクター、指輪は宝物殿に保管しておくように。使い道はモモンガさんと決めることになるだろう。モモンガさんはファイターを取っていないし、オレも1しか取っていないからな。使い道は別に探すしかないな」

 

「畏まりました。一つだけ宜しいでしょうか」

 

「どうした?」

 

「こちらの指輪の名前ですが、どうしましょうか?」

 

「そうだな。可能性の指輪とでも名付けておこう。モモンガさんにも確認をとってくれ。たぶん、問題はないと思うが、問題があるようなら伝言を頼む」

 

「分かりました。それでは下がらせていただきます」

 

「ああ、さが、いや、パンドラズ・アクター、デミウルゴスと共にナザリック周辺の素材で作成可能なレベルのアイテムの一覧を作っておいてくれ。優先順位は低くて良い」

 

「弾丸を最優先にされますか?」

 

「そうだな、消耗品を優先、弾丸、スクロール、ポーション、その他の順だ。いや、待てよ、物理法則も調べなければならないのか。シズに各種弾丸の弾道がユグドラシルと変化しているかどうかを確認させる。シズにはこちらから伝えておく」

 

「承知致しました」

 

「以上だ。何かあれば伝言を飛ばす。次は、デミウルゴスだったか、ディクリメント」

 

「はい。予定では5分後です」

 

「そうか。コーヒーを入れてくれ。濃いのを頼む」

 

ディクリメントに入れて貰ったコーヒーの香りを楽しみ、お茶請けのクッキーで糖分を補給する。合成甘味料とは違う、自然な甘みが口に広がる。デミウルゴスが来るまでしばしの休憩をとる。人化の指輪の報告だろうが、自信満々だったから満足できる結果なのだろう。

 

ノック音が聞こえ、ディクリメントが誰なのかを確認してから相手を告げてくる。予定通りデミウルゴスだったので通すように伝える。面倒ではあるが、これがメイドの仕事でそれを取り上げるのは彼女たちの存在の否定にまで一気に飛躍されてしまう。初日に装備を切り替えた時もシクススはその場では言い出せなかっただけで物凄く思いつめていたようだ。

 

「おまたせしましたヴァイト様。人化の指輪の実験が全て終了しました」

 

「まずは結論から聞こう」

 

「はい、複数種類のアンデッドで調べましたが、全てのアンデッドで人間種と変わらない五感を得ることが確認されました。個体差によって刺激に強い物や弱い者なども確認されましたが、逸脱することはありませんでした。また、代謝や睡眠欲、性欲、性行為、繁殖も可能であることが判明しております」

 

「おお、それは僥倖だ」

 

「ただ、欠点と致しましてステータスが半減するようなのです」

 

「ふむ、それは若干問題だな。オレも人間態を100とするなら人狼態は120ぐらいの差はあるが、半減か。まあ、ナザリックに居る限りは問題ないな。パンドラズ・アクターに人化の指輪の改良をさせろ。ステータスの減少率を軽くするようにな。ナザリックの共有資材、それからオレの個人資材を使うことを許可する。あと、明日の朝食は階層守護者たちも食堂に集めろ。モモンガさんも一緒に、食事を楽しもう」

 

「はっ、畏まりました」

 

「次はパンドラズ・アクターと共にナザリック周辺の素材で作成可能なレベルのアイテムの一覧を作っておいてくれ。優先度はそれほど高くはない」

 

「弾丸、スクロール、ポーションの順で宜しいでしょうか?」

 

「ああ、それで構わない。弾丸はすぐにでも量産してシズに回して欲しい。物理法則がユグドラシルと変わらないかの調査が必要だからな。弾丸は特に繊細だからな」

 

「お任せを、すぐに取り掛かります」

 

「任せたぞ。おっと、朝食会のことだが、モモンガさんには私から伝えるがそれ以外にはデミウルゴスから伝えてくれ。ああ、アルベドはこの後呼び出す予定だからオレの方から伝えておく」

 

「畏まりました。他に何かございますか?」

 

「う〜む、ああ、料理長に伝えてくれ。明日の朝食だが、私はいつもどおりに、モモンガさんの分は多少量を減らして用意しろ。昼食と夕食は朝食の反応に合わせてメニューを組み立てるように。直接の反応を見るために料理長にも給仕として同席するように。各階層守護者たちも希望のメニューを出すと良い。それから、オレたちのメニューを見てナザリックの支配者に相応しくないと、見窄らしいと思うかも知れん。だが、リアルとは比べようのないほど豪華なメニューだということを理解して欲しい。おっと、そう言えばリアルでの食生活を知らなかったな」

 

「はい。以前一度だけチューブなるものを食しているとお聞きしたことはありますが、何かの隠語でしょうか?」

 

「うむ、コストの問題で基本的にはチューブやパック食と呼ばれるものが基本だ。まあ、それにもランクがあったのだが、モモンガさんはその中でも低位の物ばかりを食していた。私は中の下位の物だ。それらは人工的に生み出されたもので、生きていくのに必要な最低限の栄養が含まれているだけのゼリーだ。ただし、消毒液のような匂いと味がするがな。ランクが上がると多少匂いと味が薄くなる」

 

「まさかそのような!?至高の存在であるモモンガ様とヴァイト様が」

 

「いや、至高の41人の殆どが似たような物だ。それだけリアルの汚染は酷いのだ。天然の食材、養殖しか存在しないのだが、それの低品質、なんとか食える程度の物が神話級の装備と交換でおかしくないのがリアルなのだ。当然、装備が優先されるために食事は生きるために行う、そう、呼吸のようなものだったのだ」

 

「なんと過酷な」

 

「水は基本的に毒しか存在しない。それをなんとか浄化して消毒をしすぎて、むしろ消毒液なのでは?と思うものが普通に使える水だ。それを誤魔化すためのコーヒーと言う名の泥水製造粉だけは安価に手に入った。そんな環境に居たせいか、味覚に異常が出ているかもしれないのだ。それを確認している最中だ。モモンガさんも同様の事態に陥っているはずだ。オレ自身も酸味が苦手になっていた。まあ、普段は感じることがなかったから敏感になっているだけだと思うがな。慣れでどうにかなる範囲だろう」

 

「では、その調査のために敢えて相応しくないものを?」

 

「デミウルゴス、それは少し違う。たとえ話だが、お前のレベルが10でその他の自分のステータスを確認することが出来ない状態だとしよう。今の目的はレベル上げで周辺には平均レベル10のモンスターがPOPする平原、平均レベル30のモンスターがPOPする森、平均レベル50がPOPする山がある。期限は特に設けていないが、重症を負った時点で失敗だとする。さて、お前ならどうする?」

 

「なるほど、そういうことでしたか」

 

「理解したようだな。それにだ、何らかの手段で大幅にレベルが上げられたとしよう。だからといっていきなり段階飛ばしで狩場を変えるわけにもいかない。もしかしたら貴重なアイテムが手に入るかもしれないしな。それにだ、ナザリックの者達には余裕がないな」

 

「余裕ですか?」

 

「そうだ。余裕だ。お前達は何事も完璧にこなそうと策を練り、全力を尽くしている。それが悪いこととは言わない。だが、余裕、遊びだな。仕事をこなすのは当然だ。だが、何事にも摩擦と呼ばれるものは存在する。イレギュラーな事象はいくらでもある。引き金を引いたその瞬間に地震が起こり弾道がずれる。相手が想定以上の馬鹿で予定が狂う。そんな時、精密な計画であればあるほど脆く崩れ去る。それを防ぐのが遊びだ」

 

「それは予備プランなどとは異なるのでしょうか?」

 

「ああ、異なる。とあるターゲットを狙撃で殺すとしよう。その場合、デミウルゴスの計画では特定のポイントから特定の日時に特定の銃を使い特定の人物が狙撃する。そういう計画を立てるだろう」

 

「当然です」

 

「では、予備プランは」

 

「はい、同時に他のポイントにも狙撃兵を伏せさせます」

 

「それだ、それが不味いのだ。例えばターゲットが急病で特定のポイントに現れなかったらどうする」

 

「待ち続けます」

 

「駄目だな。狙撃というのは駆け引きなのだよ、デミウルゴス。時間と場所を決め、それを外したのなら即時撤退。これが出来ない狙撃手は三流だ。狙撃手ってのは正体も知られずに素早く正確に事をなして素早く立ち去る。狙撃の難易度から正体を知られてこそ超一流というものだ。最も、オレにとっては狙撃は手段の1つでしかない。最終的に殺すということが出来ればそれで良いんだ。狙撃でなくても毒殺でも良い。爆弾を送りつけてやっても良い。人混みの中ですれ違いざまに首を狩っても良い。相手に合わせて殺せばいい」

 

「ですがそれでは狙撃で殺すことにはならないのでは?」

 

「そこだ、デミウルゴス。そこが認識の相違なのだ。ただ単にオレは狙撃でなら遊びながらでもターゲットを殺せる。だが、極端ではあるがシャルティアがそれを出来ると思うか?」

 

「いえ、そもそもシャルティアは銃を使えません」

 

「その通りだ。この件で重要なのはターゲットにこちらを認識させずに殺すということなのだ。その手段としてオレは狙撃を選んだ。それだけで狙撃自体に深い意味はないのだ。デミウルゴス、お前は深く考えすぎているのだ。少し肩の力を抜け。ナザリックのために働けるのが嬉しいのは分かる。だが、仕事は楽しく行った方が良いのだ。嫌々行うよりもな」

 

「至高の御方から承った仕事を嫌々行うことなどありえません!!」

 

「では、オレがシャルティアに人間共を相手に商売をしろと言いつけたとしよう。その仕事ができるできないは置いておくとして、シャルティアは嫌な気分にはなるだろう?」

 

「それは、そうでしょうが、ですが」

 

「良いのだ、デミウルゴス。得意、不得意、好き、嫌い、それらを設定されている者もいる。それを否定したいわけではないのだ。それはそのままでいい。先程の例にも出したが、シャルティアに商売をさせようとする方が間違っているのだ。とはいえ、ナザリックの者では殆どが商売には向いていない。真似事程度なら問題ないだろうが、完璧にこなせるのはパンドラズ・アクター位のものだろう。あいつなら人間の姿を模倣出来る上に、元々はナザリックの財政面を任されているのだからな。もしくは、現地の人間を洗脳するという方法もある。そもそも何故商売をするのか、金が必要なのか、商人という立場が必要なのか、はたまたそういう気分だったのか。その時にならないと分からん」

 

「つまり確認を行えと?」

 

「少し違う。相談や提案を行って欲しいのだ。説明した通りリソースの再分配で色々と能力が低下してしまっている。先程から伝達事項が後から後から出ているのもその弊害だ。まあ、おかげでお前達と話せる時間が増えて嬉しく思う。誰かと会話するということ自体、リアルでは少なかったからな。少しでも疑問を感じたら気兼ねなく質問して欲しい。会話というのも娯楽の一種なんだ。そこに深読みは必要ない。そういうのはもっとお互いを知ってからだ。それらに加えてオレとモモンガさんは変わってしまった自分自身も知らなければならない。何度も言うがリソースの再分配による能力の低下ははっきりと分からない。これは時間をたっぷりとかけて経験して覚えていくしかないからだ」

 

「ですが御方様の手を煩わせる訳には参りません」

 

「デミウルゴス、言ったはずだ。会話も娯楽なのだ。お前達がオレたちを楽しませる。どこも手を煩わせていないだろう。それにオレたちには無限の時間がある。焦る必要はないのだ。オレとモモンガさんはお前達と共にあり続ける」

 

なんとなく気付いていた。NPC達は子供に近い。親を見失った迷子の子供に。やっと見つけた保護者から見捨てられないように何でもしようとする。それは悪いことではない。ただ、なんでもするのは時に悪い。だからこそ二人三脚で進めなければならない。

 

特にモモンガさんは自分というのを前に出してくれない。いつでも中立、調整役に徹して自分の意見を出さない。NPC達は絶対的な支配者(保護者)を求めている。そうなればモモンガさんは求められるままに絶対的な支配者(保護者)になってしまう。

 

悪のDQNギルド、アインズ・ウール・ゴウンの絶対的な支配者(保護者)、つまりは魔王(中二病)だ。しかも全肯定される魔王(中二病)だ。二度と元に戻れない場所まで引きずり込まれてしまう。過去を振り替えっても疑問に思わないぐらいに引きずり込まれて(重度に)しまう。

 

それを防ぐためには多数決は絶対に駄目だ。裏から独裁政権を立てなければ。デミウルゴスとアルベドを何とか落とせればパンドラズ・アクターもことを荒立てることはしないはず。最悪の事態だけは避けたい。

 

まあ、モモンガさんが自分の意志で魔王(中二病)をやりたいというのなら協力するけど。渋々だが納得したデミウルゴスが退出したのでアルベドに伝言を飛ばす。デミウルゴスの時と同じように入室してきたアルベドに極秘の任務を与える。アルベドはとても喜んでいた。明日が楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは一体どういうことですか、ヴァイトさん?」

 

食堂に集められた階層守護者たちと、自分の前に用意された朝食に疑問を持っているようだ。

 

「朝食が冷める前に手短に。周辺の調査及び、人類圏と呼ばれる地域での安全がほぼ確認されました。強大な魔獣ですら40に届かない程度、スレイン法国にはそれ以上の60程度が居るようですが数が少ないので警戒を怠らなければ問題はないでしょう。ナザリックの隠蔽も完了しました。これにより、警戒態勢を通常に引き下げると共に今日一日を休暇にしようかと。それと、モモンガさんにはこちらを」

 

予め打ち合わせをして傍に控えていたシズがお盆の上に布を敷き、その上に載せた人化の指輪をモモンガさんのもとへと持っていく。

 

「これは?」

 

「人化の指輪。装着者のステータスを半減させる代わりに人間種へと変化させる指輪です。無論、五感が得られるのも、飲食不可・睡眠不可も解除されるのは確認済みです。初期の頃に産廃になったある意味激レアのゴミアイテムです」

 

「人化の指輪。噂にだけは聞いたことがあります。すぐに人化のスキルと魔法が実装されてゴミになったって」

 

「モモンガさん、どうぞ貰ってください。オレはモモンガさんと一緒に食事がしたいんです。皆で作り上げたナザリックを堪能するには人間種に近い感覚が必要だと思うんです」

 

「そうか。やはり気にしてたんですね」

 

「正直、罰ゲームでリアルの食事を作ろうと思うぐらいには」

 

「そうですか」

 

そう言ってモモンガさんが両手に嵌めている指輪の1つを外して人化の指輪を付ける。同時にオーバーロードの姿から日本人の面影を残した20代ぐらいの姿の人間に変化する。ソリュシャンが鏡を持ってモモンガさんの横に立ち、顔を映している。

 

「う〜ん、ほとんどリアルと変わらないけど、若返ってるのかな?あと西洋系もちょっと混じってるような」

 

「オレもそんな感じだから仕様なんでしょう。それじゃあ、朝食、の前にもう1つ。料理長」

 

料理長に無理を言って用意してもらったのはリアルでのチューブの中身(肉っぽい何か味)が一口分と(消毒)水が入ったグラスだ。それらが眼の前に並べられる。ついでに衝立で階層守護者たちの人数分のスペースが用意される。中にはゴミ箱と無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)とティッシュが用意されている。さて、何人が耐えられるか。

 

「皆にもリアルでの環境がどのようなものかを理解してもらいたくてね。リアルで一般的に流通している物を再現してもらった」

 

「えっ、わざわざ用意してもらったんですか?」

 

「さあ、全員スプーンを持って、一斉に食べるぞ。せーの」

 

モモンガさんの質問を無視して守護者たちを促してゼリーを食べさせる。アウラとマーレは慌てて(消毒)水を口に含み、口を抑えながら衝立の中に飛び込んでいく。デミウルゴスとセバスは冷や汗をだらだらと流しながらも何とか耐えきっている。シャルティアとアルベドは咳き込みながら衝立の奥に消える。コキュートスは味覚が少し違うのか普通にしている。

 

「わぁ〜、ちょっとお高めの奴ですね」

 

「オレは基本これだったんですよ」

 

オレとモモンガさんは普通にゼリーと水を完食する。モモンガさんはむしろ少し嬉しそうだったりする。オレはこの数日で天然の食材を使った料理に慣れてしまったために以前ほど喜べない。しばらく待って全員が落ち着いた所で朝食が目の前に並べられて、ちゃんとした朝食が始まる。

 

「うわぁ、すごく美味しいですねヴァイトさん!!」

 

「そうだろう!!もっと美味しいものがいっぱいありますから、ちょっとずつ好き嫌いなんかも見つけていきましょう」

 

上機嫌に普通の料理を食べてもデミウルゴスやセバスたちから文句というか、お願いというか、もっと良い物を食べてほしいと言われることはない。自分たちが耐えれなかったりしたものを美味しそうに食べる姿を見てしまっているから。

 

「モモンガさん、あそこ行きましょう、スパナザリック」

 

「ええっと、ああ、あのいろんなお風呂がある」

 

「そう、るし☆ふぁーのゴーレムが動かない限りは大してコストが掛からないあそこですよ。お湯が使い放題ですよ!!」

 

「贅沢の極みじゃないですか!!そうだ、皆にも開放しよう。二人だけだと逆に落ち着かなさそうだし」

 

モモンガさんの言葉に守護者達が驚いている。

 

「至高の御方の為に作られた設備を我々が利用するなど」

 

アルベドが断ろうとするが、それに対する反論は用意してある。

 

「アルベド、使われないというのは虚しいものだ。お前たちが本来の役目を果たせなかったようにな。存在する以上、存在する意味がある。設備は使われてこそだ。コストが高すぎて使うのを躊躇うこともある設備や仕掛けなどもあるにはあるが、それはそれで悩まされるという役目がある。スパナザリックはコストも低く、我々二人だけでは使い切れん。特に、女湯は使えん。るし☆ふぁーのゴーレムに襲われるだけだ。アレとはタイマンならばともかく、複数体に襲われると不覚を取りかねないからな。宝物殿の最終防衛ラインにも使われてるぐらいだし」

 

「そうですよね。アレとは戦いたくないです。と言うわけだ、アルベド。皆でマナーを守って使え」

 

ついでに伝言でアルベドに指示を送る。

 

『作戦に変更なし。入念に準備せよ』

 

『畏まりました』

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜〜、贅沢すぎる」

 

「初めてですけど、これはいいですね〜」

 

当たりくじを引いたマーレとデミウルゴスに背中を流してもらい、広いジャングル風呂に揃って浸かる。

 

「娯楽小説なんかで命の洗濯だなんて書かれてる意味がやっとわかったな〜」

 

「良いフレーズですね〜」

 

今襲撃を受けたら即応できないだろうな。そんな事態は起こりえないから問題ないな。

 

「あ〜、チェレンコフ湯なんて作らせるんじゃなかった。もっとまともな風呂を作らせるんだった」

 

「何が入っているか分からないでしたっけ?最悪、ランダムでしょうね」

 

「実験致しましょうか?」

 

「やめておけデミウルゴス。実験なんてしたらゴーレムが起動するぞ」

 

「そうですね。それにしてもるし☆ふぁーさん、いなくなっても迷惑をかけてくれる」

 

「ちっ、あのクソ野郎め。何回迷惑をかければ気が済むんだ」

 

るし☆ふぁーに対する愚痴をモモンガさんと言い合い、区切りがついた所で他の湯船に浸かりに行く。サウナと岩盤浴の意味がわからなかった。何が良いんだ、あれは?露天風呂は混浴になっていて気配を感じたから逃走した。水風呂は一番最後に入るのが良いな。身が一気に引き締まる。

 

脱衣所に戻り、瓶に入れて冷やしてあったミルクを一気に煽る。マナーと言うか、様式美らしいのでとりあえずやってみた。

 

「あ〜、水風呂は失敗した!!火照った所に飲んで爽快感を得るものだったか!!」

 

「十分美味しいですけどね」

 

次回は絶対に水風呂を最後に持ってくるのはやめる。着替えを終える頃には昼食にちょうど良い時間になっていたので再び食堂に向かい、昼食をとってから第6階層の森林エリアに向かう。

 

「凄いですよね、これが自然なんですね。ブループラネットさんが居たら狂喜乱舞したことでしょう」

 

「そうですね。こっちに来てから言葉だけだったことが実感できて本当に楽しいですね。リラックス効果があるらしいですから。そしてリアルでは出来なかった贅沢もやっちゃいましょう」

 

「リアルでは出来なかった贅沢?」

 

「そう、こういう自然に囲まれた中で昼寝ですよ」

 

「ひるね?蛭音、蒜根、昼寝!?そんなことが許されるんですか!?」

 

「許される!!というか、オーバーロードだと一睡も出来ないんでしょう。今までの分も寝てください。ベッドは運ばせてますから。アウラ、マーレ、モモンガさんをお連れして」

 

「失礼します、モモンガ様」

 

「し、失礼します」

 

「あっ、ちょっと、待って」

 

「ちゃんと寝かしつけてね。添い寝までなら許可するから」

 

アウラとマーレに引っ張られて森の奥へと消えるモモンガさんを手を振って見送る。姿が見えなくなった所で本題に入る。

 

「さて、この後だが、私はある意味でモモンガさんを裏切ることになる」

 

「なっ、それはどういうことでしょうか!?」

 

アルベド以外が驚き、パンドラズ・アクターが戦闘態勢に移行する。それに合わせてデミウルゴスとコキュートスがオレとパンドラズ・アクターの間に立つ。

 

「それはどういう意味でしょうか、ヴァイト様。場合によっては私は全力で抗わせていただきますが」

 

「うむ、納得ができないというのならいつでも首を取りに来い。だが、今はオレの話を聞いて欲しい」

 

戦闘態勢は解かないまでも話を聞く気はあるのか無言で続きを促してくるパンドラズ・アクターに首を縦に振って続ける。

 

「まず、私がどのように裏切るのか、それはモモンガさんの持つリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを偽物にすり替え、人化の指輪に一日の間、外せなくなる呪いをかける」

 

「何が目的なのでしょうか?まさか、ステータスを半減させることでモモンガ様を殺しやすくするので?」

 

「それは絶対にない。何故そんなことをするのかと言われれば、アルベド、正確にはタブラさんがきっかけだな。そもそもアルベドはタブラさんがモモンガさんの嫁にするために生み出したNPCだ。モモンガさんには何度も勧めたのだが、恥ずかしがってな。だが、タブラさんが本当に望んでいたのはアルベドを嫁にしようとしたのではない。家族を、血の繋がりを持たせたかったのだ」

 

「血の繋がり?」

 

「モモンガさんは、リアルでは幼い頃に両親を亡くしている。モモンガさんを守るためにな。それからモモンガさんは他人と深く付き合えないでいる。もし関係を深めた相手を失ってしまったら、自分は耐えられないと思っている。オレも他の39人もそれをなんとなく理解していて深く踏み込めなかった。だけど、何かの時のためにタブラさんはアルベドを用意した。モモンガさんと自分自身を生き残らせるための防御型のガチビルドで設計してな」

 

いやぁ、嘘がペラペラと出てくる出てくる。まあ、2割ぐらいが嘘なだけで8割は真実なんだけどな。2割の嘘もモモンガさんの心情を予想しているだけで完全に嘘とも言いきれない。

 

「ですが、それはモモンガ様の御心を無視するものではないのでしょうか」

 

「無視しても構わないと思っている」

 

「それでは、私は」「パンドラズ・アクター!!」「......なんでしょうか」

 

「モモンガさんはなあ、もう限界なんだよ!!ユグドラシルがなくなったことに、もう他の39人と会えないことに、それらから目を背けてないと生きていけないぐらいにボロボロなんだ!!今ある物を守るためなら自分の全てを投げ捨てる位に!!その中には自分自身も含まれる!!命すら悩んだ末に捨てる可能性がある。ならば、それ以外の、ちょっとした願望程度なら仕方ないの一言であっさり捨てる。だからこそ、捨てられないものを押し付けてでも自分を捨てるようなことをさせてはならない!!そしてそれらを感づかせてもならない。初期の段階で気づけば、モモンガさんは自分の命を断つか、ナザリックから姿を眩ます。戻ってくるかどうかは不明だ。それだけは断固として阻止しなければならない!!」

 

「ならば最初から行わなければ」

 

「この際だからはっきりと聞こう、パンドラズ・アクター!!いや、ここにいる全員にだ!!お前たちが求めるのはナザリック大墳墓の主、絶対なる死の支配者、アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスター、モモンガを求めているのか。それとも、食事を出来たことを喜び、スパナザリックではしゃぎ、昼寝にちょっとの罪悪感と背徳感を感じているモモンガさんなのか。お前たちはどっちを求めている!!ちなみに、どちらであろうがモモンガさんがお前達を見放すことはないだろう。だが、ちゃんと考えて答えを出せ。お前たちの答えが、モモンガさんの今後を左右するということを。どちらでも好きに選べ」

 

「ヴァイト様はどちらを」

 

「その質問には絶対に答えないぞ、デミウルゴス。自分で考え、答えをだすのだ!!悩み、迷い、苦しみ、答えを出した後も考えよ!!」

 

それだけを告げて気配を絶ち、完全不可視化と飛行を同時に発動させて跳躍する。十分距離を離したところで飛行は解除して落下し、地面すれすれで一瞬だけ飛行を使用して慣性を打ち消す。そのまましばらく待ち続け、NPC達の気配が薄れた所でモモンガさんが寝ているベッドにまで移動する。

 

キングサイズのベッドの中央にモモンガさんが、右側にマーレ、左側にアウラが並んで眠っていた。こっそりと近づき、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを偽物にすり替え、人化の指輪に呪いを施す。時間制限でしか外れない分、強固な呪いだ。時間制限もそこまで長くないため、これを解呪するにはシューティングスターを使わなければならないだろう。モモンガさんなら一日程度ならいいやと言うはずだ。

 

再び完全不可視化と飛行の合わせ技で離れる。森の中を歩きながらどれだけがオレに敵意を見せるのかを考える。パンドラズ・アクターは微妙に敵対するだろうな。デミウルゴスもパンドラズ・アクターとは別の意味で不快感を持たれるかもしれない。セバスはこちら側だろう。シャルティアは理解しきれているかが怪しい。アルベドとアウラとマーレはこちら側だ。コキュートスは中立、この場にいないヴィクティムは不明といったところだろう。

 

やれやれ、前途多難だな。自室へと戻り、工具箱を持ってソファーに座り、お守りのグロックの分解掃除を始める。ネジを一本まで綺麗に磨き上げていけば自然と落ち着く。ホルスターにグロックを収め、獣人形態で抜き、トリガーに指が入らないという情けない結果に終わる。誰かに見られたらやばかったな。恥ずかしさに引きこもる所だった。

 

「あっ」

 

ルプスレギナと目が合った。殺気もなく、離れた位置に立っていたので気付かなかった。口封じが必要だな。グロックをテーブルに置き、笑顔を見せながらルプスレギナに近づく。それなのにルプスレギナは後ずさっていく。だが、広い部屋とは言え壁はある。すぐに追い詰め、逃げられないように相対した状態で壁に手を付く。

 

「見たな?」

 

「い、いえ、何も見てないっす」

 

そう言いながらも、顔を背けるルプスレギナを見て後ろめたいこと、つまりは笑うのを堪えているのだと断定する。

 

「嘘はいけないな、ルプスレギナ。お前は今、嘘をついている。そういう匂いがする」

 

首元に鼻先を近づけて匂いを嗅ぐ。汗の匂いというのは精神にも直結しているのだろう。ワーウルフの鼻はそれらを嗅ぎ分けることが可能だ。ルプスレギナからは異変に巻き込まれてから今まで嗅いだことのない匂いと、緊張している匂いを発している。オレの予想は間違いない。

 

「主人に嘘をつくメイドには罰が必要だとは思わないか」

 

壁に付いていない方の手で顎を掴み、オレの方を向かせる。

 

「もう一度だけ聞くぞ、見たな?」

 

「は、はぃ」

 

さて、どうやって口封じをするか。命令だけで良い気もするが、もう少し何かがあった方が良いはずだ。ここは性的なお仕置きという名の褒美で誤魔化す。

 

「目茶苦茶真剣な顔で目にも映らない抜打ちの構えに見惚れていました!!」

 

うん?認識のズレが生じているだと?えっ、何この独り相撲。こっちのほうがよっぽど恥ずかしいぞ!!まだだ、ここから何とか修正してみせる。威厳を失わずに済む方法、何か、何か、そうか!!

 

「ふっ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。だが、お前は嘘をついた。今からその罰を与える」

 

ルプスレギナの肩と膝裏に手を回して抱き上げる。

 

「うええぇっ!?これって」

 

「暴れるな」

 

ルプスレギナをお姫様抱っこでベッドにまで運んで寝かせる。

 

「ウチ、どうなってしまうんすか」

 

「初めては優しくが良いと言っていたが、激しく目茶苦茶にしてやる。それがお前への罰だ、ルプスレギナ」

 

こっちも初めてだから優しくリードなんてしてやれないからな。多少乱暴に激しくならばやれるはず。良い口実ができて良かったよ。と言うわけで夕食前までルプスレギナを散々に抱いた。お互いに一番燃えたのが首輪をつけて鎖のリードを付けて後ろから思い切りやるのが一番だった。

 

あと、自分でもびっくりするぐらい出た。種族が変わった影響なのか分からないが、人間だったら確実に死んでる量が出た。そしてまだまだやれる。時間さえ有ればなぁと色欲に溺れそうになる心を引き締め直す。むしろ、オレよりモモンガさんが心配だ。アルベドってサキュバスだから、本職だろう?溺れる可能性が高い。まあ、人化を解けば大丈夫なんだろうが。

 

今の内に祈っておこう。タブラさんがちょっとはまともな考えであることに。あと、念を押してやりすぎるなとも伝えておかないと。

 

その夜、モモンガさんから伝言が繋がりそうになったのを着信拒否した。内容は聞かなくても分かっていたので聞く必要はないからだ。それにルプスレギナと一緒にフォアイルにお仕置きするのに忙しかったからな。ルプスレギナとの情事を覗いていたらしいから、とっ捕まえて拘束して焦らして見せつけてやっただけだ。ルプスレギナがネズミを甚振る猫のようだった。ワーウルフだから狼のはずなんだけどな。まあ、可愛らしいから良しとする。

 

 

 

 

次に見たい奴

  • ドラゴン★エクスプローラー
  • ダンまち 兎大魔導士
  • ゴブスレ 大魔導士
  • ネギま ダークネス
  • 龍の子
  • 遊戯王 諸行無常

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