ユキアンのネタ倉庫   作:ユキアン

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ありふれた職業で世界堪能 先出し

 

ハジメが鍛え上げたシアの一族を見て頭を抱える。

 

「ハジメ、これじゃあ工作員としては使えん。ちょっと再調整するぞ」

 

「再調整?」

 

「殺し屋が常に殺し屋の精神で居るのは二流だ。日常に溶け込み、必要なときだけその本性を表す。スイッチの作り忘れだ。その調整を行う。弱さも武器の一つだ。相手が勝手に油断してくれるからな。まあその前に上下関係はみっちりと教え込まないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大体分かった。それではこれよりライセン大迷宮を制圧する」

 

調整を終えた豆に魔力の8割を注ぎ込んで床に叩き込む。調整した豆が魔力を糧に急成長を遂げ、迷宮内どころか壁をも崩し、周辺一帯を蔦で完全に固定する。

 

「蔦の上を渡ればトラップは起動しない。起動しようと蔦を調整するから安心しろ」

 

「ローグライクで壁を壊して突き進むような力技かよ。もうちょっと頭を使った攻略法は無いのかよ」

 

「ハジメ、簡単に言っているが、この豆の調整にどれだけの計算を使っていると思うのだ。下手なシム系の演算力を超えてるんだぞ」

 

正直言えば肉もどきを作るのよりは楽だ。今回は豆を豆のままでサイズや適応力を中心に組み替えているだけだからな。ちなみに一番きつかったのは魚もどきを作ること。肉もどきは大豆からこねくり回せば結構楽だった。それを美味しいように調理するのが難しいだけで。

 

 

 

 

 

 

 

「重力魔法、ここまで儂と相性の良い魔法があろうとは」

 

演算力をフルに使えばブラックホールどころか特異点すら生み出すことが可能のはずだ。何よりドラゴンボール式修行が可能になるのが大きい。ステータスに関する研究は続けた結果、朧気ながら見えてきた。ステータスの値は現在の自分が出せる限界値である。あとはそれを何処まで引き出せるかは表示されない。おそらくだが普通の人、天乃川達が3割と言ったところだろう。儂は改造と訓練の成果で8割、ハジメ達で6割程度だろう。シアは4割だな。魔物食をやってないからな。

 

「なんで徹が一番使いこなせるのか分からない」

 

「簡単だユエ、重力とは大地の力。農家にとって大地とは敵であり最大の味方だからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛ちゃん先生がこの都市にねぇ」

 

宿の厨房を借りて夕食の回鍋肉と餃子を作りながらハジメの話を聞く。

 

「天乃川たちは未だに100層にすら辿り着いていないらしい。それどころか、結構ギスギスしてるそうだ。徹に簡単に伸されたのが響いているらしい」

 

「ああ、あの時のか。空中分解はしてないのか?」

 

「八重樫が苦労してるってよ。天乃川の方針を八重樫が調整して、天乃川を宥めてなんとかだってよ」

 

「本当に八重樫の奴は運が悪いな。愛ちゃん先生はまだ街にいるのか?いるのならちょっと八重樫に仙豆を渡してやってくれ。今日の間に30粒ほど作れたから」

 

いや、待てよ。手紙も添えておこう。それぐらいはしてやらないと。

 

「オレも刀でも用意するかな。香織が結構巻き込んでるみたいだし」

 

ハジメも大迷宮で手に入れた鉱石で刀を錬成し始める。味噌と醤油もつけようかと悩んだが、取り合いになりそうなので止めておこう。

 

「それが作り終わったら三人を呼んでくれ。そろそろ餃子を焼き始めるから」

 

フライパンに油を軽く敷いてから餃子を敷き詰めて火にかける。底面が焼けた所で作り置きのスープを餃子にかけて蓋をして蒸し焼きにする。よく間違えるが、さし水、スープでもいいが、それを鍋肌に流し込むようにするのが多いが、餃子の皮の粉を落とすために餃子に直接かけるのが正しいやり方だ。ついでに流した粉で勝手に羽が出来る。

 

「徹が居て本当に良かった。飯が上手い」

 

「完全に餌付けされちゃって別行動が辛いよね。みんなが美味しそうに食事してる中で微妙な顔をしちゃったから気まずかったよ」

 

「ん、硬かったり、変に苦かったりしない」

 

「はっはっは、褒めても餃子の皮の余りで作ったデザートのミニパイ位しか出ないぞ」

 

いちごのコンポートを餃子の皮に包んで揚げ焼きにしたミニパイを山のようにして出してやる。餃子の皮は結構万能なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「山狩りの経験は、まあ、無いだろうな。儂の後ろをちゃんと追ってこいよ。やばいと思ったら大声を出す。それをどんどんリレー形式で前に回す。下手に動いたら遭難するからな。そうなったら放っておく。山を甘く見るな、返事!!」

 

「「「はい」」」

 

素人共が付けた跡を辿りながらターゲットを捜索する。邪魔な枝や藪を剣鉈で払いながら邪魔になる大きめの石を蹴り飛ばして後ろのメンバーが歩きやすいようにしてやる。

 

「ちょっと、そんな適当に歩いて大丈夫なの」

 

儂の後ろにいる園部が文句を言ってくるが何も知らないなら黙っていてほしい。

 

「適当じゃない。ド素人が山に入った時の痕跡を追っている。足跡が残っているし、不自然に折れている枝なんかがあるから慣れてるやつが見れば一発だ」

 

「動物じゃないの?」

 

「動物は自分の痕跡を残すことは死に繋がる。クマなんかが一番わかり易いんだが、あいつらは子供には自分の足跡を歩かせるし、バックしてから藪にジャンプして痕跡を隠す。他の動物も出来るだけ足跡を残さないように歩く。ド素人はそんなのを気にしないからな。例えばこの木のここで手をついたな。表面の色が若干違うだろう。手汗で表面が変質した跡だ。こういうのを追っている」

 

「一瞬でわかるものなの」

 

「慣れだな。余裕そうならペースを上げるぞ」

 

少しずつペースを上げて山を登っていく。ド素人を連れている割に意外と高い所まで登っているようだ。それでも少しずつ痕跡が分かりやすくなっているので追いついてはいる。進行ルート上に川が現れたので少し見渡せばキャンプ跡が見つかった。

 

「本当に追えてるんだ」

 

「これぐらいは魔法なんてものに頼る必要はない。少し休憩するぞ」

 

念の為に水を一口含んで確認してみる。わずかに鉄臭さを感じる。吐き出して上流に目をやる。滝になっているその上に僅かにだが盾のような物を見つける。

 

「ちっ、警戒態勢!!」

 

休憩できると思って気が抜けている足手まといのクラスメイトに活を入れつつハジメと打ち合わせを行う。

 

「あの盾か」

 

「ここからでも分かるぐらいの損傷だ。地面の散弾だな。大型生物だ。今の所、気配は感じられない」

 

「直接登るのか」

 

「迂回しているうちにその大型生物が戻ってくると面倒だ。調べてくるから全員を連れて下がれ。少し戻った所に開けた所があっただろう。あそこまで下がらせろ。だらだらと休憩されるわけにもいかないから昨日のパイでも食わせてろ」

 

餃子の皮で作っているから一人ずつ皿に盛る必要もなく、手づかみで食べれる。砂糖もふんだんに使っているから休憩には十分だろう。

 

「偵察だけで済ませるつもりだが、場合によっては交戦してそのまま仕留める。真面目にリアルモンハンになってきたな」

 

「レウスがいたら尻尾を頼む。あと逆鱗」

 

「レイアかもしれんがな。こっちは任せる」

 

余分な食料類をハジメに預けて滝の横をピッケルを使って登る。登った先には盾以外にも鎧の断片や折れた剣などが見つかる。傷の具合から岩の散弾以外に熱によって溶かされたあとも見つかる。もうこの時点で引き返したくなった。引き返したいのにターゲットの気配を拾ってしまった。さらに言えばその手前に大型生物の気配も拾った。八重樫もそうだが、儂も運が悪い。

 

相手に気付かれないように河を潜りながら上流を目指す。途中、メドローアで削られたような地形を見つけてさらに気分が悪くなった。本気で足手まといを逃してよかった。シアもこのレベルはまだ早い。

 

さらに上流に上ることで見つけてしまった大型生物は黒いドラゴンだった。リアルモンハン開始だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自意識がないからと生ぬるい対応をしていたのを止め、高重力場と絞殺用の大地の豆で完全に動きを封じる。生温い対応のせいで左腕を折られる羽目になったからな。仙豆を食って骨折を治し、黒竜の死に顔を見る。濁った瞳が更に濁っていき、段々と光を失っていく。そして光が消える最後の一瞬に濁りが消える。同時に黒竜が和服を着た黒髪の女性に姿を変える。

 

「おぅ、ファンタジーで定番の竜人かよ」

 

あの目の濁りが洗脳や暗示であるならたぶん大丈夫だろう。人工呼吸と心臓マッサージで覚醒を促す。胸が邪魔で心臓マッサージがやり難い。

 

「ああ、もう、世話が焼ける」

 

纏雷の電圧を調整してAED代わりを果たして電気ショックを叩き込む。咳き込むように覚醒したので一旦距離を取る。

 

「話せるか?無理そうなら首を横に振れ」

 

咳き込みながら転がり、orz状態で左手のひらをこちらに向けて首を横に振っている。つまりちょっとまってくれだな。念の為に装備の損耗具合を確認しながら待つ。

 

「面倒をかけた。申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」

 

「七夜徹。通りすがりの農家だ」

 

「いや、妾と真っ向勝負が出来る農家が居てたまるか。正直に話せ」

 

「いやいや、まじで農家。ステータスプレートにも農家ってちゃんと表示されてるから」

 

ステータスプレートの名前と天職以外を非表示にして投げ渡す。

 

「本当に農家じゃのう」

 

「畑を荒らす害獣とはいくらでも戦うぞ。それより、洗脳の類か?」

 

「うむ、簡単に説明するとそうなる。お主に似た黒髪黒目の男にの」

 

おそらくだが清水だろう。話を聞けば清水に洗脳されて、他にも大量の魔物を洗脳するのを手伝わされたそうだ。かなり面倒そうだ。

 

「それで、この話を聞いてどうするのじゃ?」

 

「ケツまくって逃げるのが一番だな。面倒だから」

 

「あれだけの力があるのにか?」

 

「なぜ力を振るわないとならない。この力は儂が鍛えて得た力だ。力を持つ者の義務?ならその力の恩恵を得るための代価を払うのが当然だ。儂が王で、敬い、税を払い、従順である民のためなら、もちろんこの力をふるおう。先祖代々から受け継ぐ使命を成すために生きてきたのなら、そのために力をふるおう。真の友が苦しんでいるのなら、喜んで力をふるおう。だが、儂はどの国にも所属しない農家だ。義務も使命もありはせん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「軽蔑したよ、畑山先生(・・・・)

 

「七夜、あんたこんな時に何を言っているのよ!!」

 

園部がぎゃあぎゃあ叫んでいるがいつまでこいつらは子供のままで居るんだ?

 

「畑山先生、あんたは教師として生徒を守りたいと言った。もうあんたの中では儂もハジメも生徒ではないのだな。がっかりだよ。ハジメ、ウィルはまだ気絶している。このままフューレンまで帰るぞ」

 

「ま、待ってください!!どうしてそんな事を言うんですか!?」

 

「自分で何を言ったのか気付いてないのか?あんたはこう言ったんだ、強いんだから命をかけて自分たちを守れってな。巫山戯るな!!そんなつもりはなかった?違うな、あんたの目には儂らという個性よりも力の方に目が向いてしまっている。何より、こんな事態を引き起こした清水を説得できるという甘い幻想に囚われている。そんなのに巻き込まれたくないな」

 

「七夜!!」

 

「園部、人に頼る前に自分でなんとかしろ。お前は畑山先生の威を借りる狐だ。儂とハジメ以外は普通の一般人と同じ程度のありふれた存在だからな、他の勇者様方御一行とは大違いでね。おら、努力してこなかったツケが回ってきただけだ。テストと一緒だ。まっ、こっちでは命がかかってただけだ」

 

ここぞとばかりに召喚されたあの日の皮肉をぶちまける。

 

「……どうすれば助けてくれるんですか?」

 

「まずその勘違いから止めてくれ。1つ、力があるからってそれで見知らぬ人間を守る義務なんて無い。2つ、良い加減この世界は命が軽いのを理解しろ。3つ、クラスメイト全員が無事に帰れるなんて思うな。無傷で捕まえようが極刑だよ。心を入れ替える?洗脳が使えるやつが心を入れ替えるわけない。隙きを見て誰かが洗脳される。奴も男だからな。色んな女をとっかえひっかえってな」

 

その言葉でやっとクラスメイト達に清水に大しての危機感が生まれる。

 

「さあ、選択の時だ。命を選び取ると良い。今ならサービスで先生とクラスメイト達は一緒にフューレンまで連れて行ってやる。時間はそんなにないぞ」

 

「わ、私が何でも言うことを聞きますから」

 

「じゃあ、この街を見捨てるぞ」

 

「お、お金を用意します」

 

「それで何を買えと?ハジメが家電を作れるし、儂は飯は何でも作れる。味噌や醤油もいくらでも作れる。仙豆なんて漫画の中の代物だってな。服も儂とハジメの合わせ技でどうとでもなる」

 

説得できる物がないかと考えているが無理だ。この件に関してはハジメたちにも口出しさせないと念話で伝えてある。

 

「地球でもな、命の軽い国はいくらでもある。日本人で居たいならその葛藤を忘れるな」

 

それだけを告げてハジメたちと一緒に城壁から降りる。

 

 

 

 

 

 

 

ウルから十分に離れたところで仕込んでおいた種を発芽させる。神星樹に近いそれは、大地から栄養を吸う上に、動物からも栄養を吸い上げる。ウル一帯に存在する全ての動植物を食い滅ぼして実を付ける。さらばウル、さらば清水。出来上がった実はおいしくいただく。

 

そんな楽しい未来を思い描きながら、無神経を装いながら鼻歌を歌う。街を見捨てる判断に畑山先生は心を壊した。それで良いんだ。こんな非常事態に冷静に対応している儂の方がおかしいのだ。だが、これでも園部達は目が覚めない。これ以上は知らん。クラスメイトの義理分は色々と世話してやったからな。

 

最後に畑山先生とその親衛隊気取りのクラスメイトの宿を1ヶ月分とってやりおさらばする。ティオもユエやシアと同じようにステータスプレートを作りにいかせたので現在はフリー状態だ。どうしようかと悩んでいたところで足元に気配を感じた。おそらく下水があるんだろうが、流されている感じと弱々しい気配から子供が流されているのだろう。

 

どうするか2秒だけ悩んで事情だけは確認しておこうと思い下水へと降りる。酷い匂いだがそれにもすぐに慣れて気配を追って走る。子供が流されているとは分かっていたが、それでも3歳ぐらいで、しかも手足にヒレのような物が付いているのは想定外だった。一気に犯罪臭がしてきたので掃除したほうがいいな。

 

通信用の念話石を取り出してハジメたちと街の外れで合流する。女性陣に入浴と手当を任せ、ハジメにはスニーキングアイテムの作成を頼み、儂は保護した子供の服を買いに行かされる。まあ、無難な切り抜け方を知っていれば恥ずかしくもなんともない。

 

「娘に下着や靴も含めて一式プレゼントしたい。身長はこれぐらいで予算はこれぐらい。色は白から青か緑系統のものを頼みたい」

 

店員にそう告げればちゃんと用意してくれて奇異の目で見られることもない。幼女の服を一式買う変態からただの裕福な家の良いお父さんに早変わりだ。

 

戻ってみれば最低限の事情だけは聞いてくれていたみたいで、それをまとめた物を聞きながら着替えさせる。まあお馴染みの裏奴隷売買に巻き込まれた話だ。それは予想していたからハジメにスニーキングアイテムを用意してもらっている。問題はこの子、海人族のミュウの故郷が何処にあるかだ。ドライヤーで髪を乾かしながら頭皮のマッサージをしてやれば夢心地でぽろぽろと情報がこぼれ落ちてくるのをこちらで勝手に組み立てる。完全に寝落ちする頃には次の次の大迷宮の近くが故郷らしい。そこぐらいまでは送ってやろう。寝落ちしたミュウをティオに預けてハジメを連れてこの後のことを話す。

 

「半日で片を着けてくる。その間、ミュウを任せていいか」

 

「旅に連れて行くのか?」

 

「おう、儂にも少し考えがあってな。ハジメ、ここの所お前さん腑抜けてきている。儂が色々と、主に食を支えたり、手を汚してきたからだが、101層で再開した頃のどんなことをしてでも這い上がろうとする気概が薄れてきておる。一度締めなおした方が良い」

 

「つまり、次の火山の大迷宮に徹は付いてこないと」

 

「そうなる。神代魔法は少し惜しいと思うが、仕方あるまい。儂自身も少し、過去を思い出したほうが良い気がしておるのでな、今回の件は渡りに船だ」

 

「殺し屋としての勘と腕を取り戻すのか」

 

「ちょっと違う。領域をくっきりと分け直す。どうも最近、敵と味方が曖昧なのが多くてな。愛ちゃん先生は壊れて貰った方が被害が少ないのもあるが、あのままでは地球に戻ったあとの方が心配だ。だが、天乃川や園部のような無能な働き者が多くてな。あの練習用のダンジョンでブンドドして満足してくれているのならそれで良いのだがな。現実を見ない天乃川がそれで満足するはずがない。戦いの意味をちゃんと理解していないのだからな」

 

「殺しの経験か」

 

「そういうことだ。ハジメも香織も初めて殺ってから顔つきが変わってるんだぞ」

 

「そんなにか?」

 

「愛ちゃん先生の心をぶっ壊しても何も言わないだろう?」

 

言われてようやく気付いた顔をしている。

 

「まあ、壊した方が良かったって理由もある。愛ちゃん先生を救うためにもな」

 

「何かあるのか?」

 

「愛ちゃん先生が広めてる麦、バイオ汚染植物だ」

 

「バイオ汚染?」

 

「簡単に言えばあの麦が生えた土地ではあの麦しか育たん。そして普通の麦と交配可能だ。いずれこの世界はあの麦しか育たん世界になる。本人は気づいてないがな」

 

「それは」

 

「この世界の住人が気付いた時にはもう遅い。その気付くまでの時間を引き伸ばすために愛ちゃん先生には活動を休止して貰わないとな」

 

ハジメが未来を想像して顔を青くしているが、未来はそれよりも酷いぞ。一粒でも毒性に変異すればたちまち毒の世界に早変わりだ。

 

「それじゃあ、ちょっとメタルギアソリッドしてくるわ」

 

「ノーキルじゃなくてオールキルノーアラートだろう?」

 

当たり前だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴミが多いにもほどがあるぞ」

 

12組目14箇所目のアジトを殲滅して後処理を終える。新しい情報でまだ3割しか潰せていない。吐かせた情報の一部を報告するために念話席のインカムを取り出す。

 

「こちらファーマー、大佐聞こえるか」

 

『どうした、ファーマー』

 

「どうもアリエル(ミュウ)以外にもアコライト(香織)キスショット(ユエ)バニー(シア)ドM(ティオ)もターゲットになっているみたいだ。とにかく数が多い。デカイ所を任せたい」

 

『了解した。ついでに違法奴隷も救え、だろう?』

 

「拘束を解いて出口までの誘導で良い。保安署に匿名で裏組織を潰しまわっているのは伝えてある」

 

手紙にそこそこの金を包んで投げ入れたからな。いたずら扱いはされずに済む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハジメはお兄ちゃんなのに儂はパパか。そんなに老けて見える?ちょっとショックなんだけど」

 

「たまに田舎のじいちゃんかばあちゃんになってるぞ。特に150層の時とか」

 

「パパ、ねぇ。製造年月的には子供ぐらい居てもおかしくないけど、立たない儂の子供ねぇ」

 

「香織おねえちゃん、立たないって?」

 

「徹君はね、病気で本当はパパになれないからパパになれて嬉しいだって」

 

「一言もそんなこと言ってないんですけど。子供に嘘を教え込まない」

 

「パパは、めっ?」

 

上目遣いで悲しそうな顔をするミュウを抱き上げて説得する。

 

「ミュウの本当のパパに悪いからな。パパは駄目だ」

 

「でも、ママはパパは神様の所にいるから今は会えないけど、いつかは会えるって。パパなんでしょう?」

 

超否定しづらい。いや、ここで負けるわけにはいかない。

 

「儂はパパではないよ。それはミュウのママに会えば儂がパパじゃないってのも分かる」

 

「やっ、ミュウのパパなの!!」

 

「頼むからパパだけは駄目だ」

 

どれだけ説得してもパパ呼びを譲らないので妥協点として他のみんなと同じように名前を付けてもらった。トオルパパにしておけばなんとかなるはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の目的地である大砂漠に向かう途中、ハジメがフューレンの支部長に頼まれてホルアドに立ち寄った。儂はギルドとは無縁なのでミュウとティオと一緒に食材の買い込みに出かける。

 

「のう、徹よ。少し聞いてもいいかや?」

 

「今日の晩飯は香辛料たっぷりのスープ状の物だが?」

 

カレーはスパイスの使い方を学ぶには最適な料理だ。

 

「それは楽しみ、ではなくてだな。なぜそんなにも父親をやっておるのだ?」

 

「うん?意味が分からんぞ」

 

「今も寝ているミュウを起こさないようにおんぶしておるのとは別にして、ハジメ達を見る目もミュウを見る目も同じに見える。それに大迷宮だったか?次は参加せずに見守るだけとはまさに親が子に試練を与えるようなもの。同じ年頃の学友だと聞いていたのだが」

 

「ああ、一応書類上はそうなっているな。まっ、本来はもっと年上で、同年代ならハジメたちと同じ年頃の子供が居てもおかしくないんだよ。ただ、強制的に眠らされたり、薬漬けにされて成長がおかしいんだよ。裏社会の人間だったんだが、足を洗う際に今は見た目に合わせた経歴を偽造したんだよ」

 

「なるほどのぅ、それで殺しにも慣れていると」

 

「そういうこと。ミュウには内緒にしておけよ。ティオの目的を邪魔するつもりもないしな」

 

「……気付いておったか」

 

「神代魔法が欲しいってことだけは予想だが、そこさえ分かれば真実を知る儂らには簡単に想像がつく。同行して足も引っ張らないのなら儂は何も言わんよ。飯の用意程度苦にもならんからな。それにハジメ達は気付いておらんが、絶対にエヒトは最後に立ちふさがると儂は思っておる。奴は上で楽しんでおるようだが、飽きるか、思うように進まなければ絶対に降りてくる。その時の準備は着実に進めておる。一枚噛むか?」

 

「ほぅ、やはり裏の人間と言った所か。何をしておる、そして何を手伝えと」

 

「足が必要だ。それこそ世界中を高速で移動できると尚良い。魔力を簡単に補給できる豆を用意するし、力を得る実も分ける」

 

「そんな都合の良い物があるのか?」

 

「魔力補給の豆はどこでも用意できるんだがな、力を得る実は栽培に土地を荒廃させるか、動物の命が大量にいる。この前居たウルはその実を得るために滅んでもらった。放っておいても魔物に滅ぼされ、その魔物が更に別の街を襲うところだったんだ。被害は少ないほうが良いし、無駄なく利用させてもらった」

 

「ほんに悪よのう」

 

「いきなり拉致された世界に同情なんかないさ。こうやって実際に話して触れ合うまでは有象無象、それはティオも同じだろう?ウィルのパーティーを殺したことを儂が黙っておればそのまま話に乗るぐらいだ」

 

「いやいや、火急の事態に余計な火種を持ち込まなかっただけのことよ。つまり、土壌が豊かで命が多く関わりが少ない場所までの足代わりで良いのだな?」

 

「そういうことだ。疑うのは正しい。だからこいつがサンプルだ」

 

実験で儂の魔力と限定範囲での土壌で作り上げた仙豆の半分のサイズしかない神星樹の実をティオに投げ渡す。それを受け取ったティオは手で弄んでから口に含む。次の瞬間、目を大きく見開き驚きの表情を見せる。

 

「ここまで即効性がある上に力が付いたと自覚できるほどとは」

 

「そいつはサンプルでかなり小さい。本体はこぶし大の果実だ。それがいくつ実るかは栄養次第。4:1でどうだ?」

 

「とりすぎではないか?いや、足代わりだけでそれだけ貰えれば十分か」

 

「これは完全固定だ。いずれ母数が増えても儂の取り分からの払いだ」

 

「それならばなおのこと。その契約を結ぼうぞ」

 

「材料だけは絶対の秘密だ。あと、栽培地もだ」

 

「分かっておる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、どいつもこいつも手間を掛けさせやがって」

 

拾った石を重力魔法を利用して高速で射出して魔物の頭を吹き飛ばす。

 

「七夜?」

 

「八重樫、仙豆だ。意識がないやつは香織に治療してもらえ」

 

背後から飛びかかってきた狼型を剣鉈で抜き打ちにして殺す。ハジメの取りこぼしで襲ってくる魔物を鍬で捌いて耕し、飛び道具持ちを最初の石の弾丸と同じようにして処理する。それと同時に出入り口にトラップの植物の種を打ち込んでおく。ハジメもそれを見ていたため、逃げ出そうとする女魔族を見逃し、女魔族は全身を茨に貫かれる。その上で生かされる。全身を貫かれ、身体の内すらも侵される苦痛を与えられた上で。

 

「痛いだろうが、安心すると良い。時期に脳まで侵されれば全てが終わる。ああ、死のうとしても無駄だ。この植物はもうお前を自分の一部だと認識している。さあ、受け入れると良い」

 

激痛に、全身を侵食される恐怖に悲鳴を上げる女魔族に優しく囁いてやる。時間をかけているのはクラスメイトに現実を見せつけるため。敗者の末路を見せつけるため。

 

「ま、待て、七夜。もうそんな酷いことは辞めるんだ!!」

 

ボロボロの天乃川が立ち上がって世迷い言を吐く。

 

「酷いこと?普通のことだろう。地球でも普通に行われている。日本でもこれよりはマイルドだが、普通に行われている尋問だ。ああ、拷問とは別だぞ。拷問ってのは情報を吐かせることを目的にしているわけではないからな。あれは壊すことを目的にしているんだ。今は薬一本で何でも吐かせるからな。これも一緒のことだ。一つ勉強になったな」

 

「そんな人を苦しめることが許されるわけがない!!」

 

「ああ、問題ない。こいつは魔人族だ。似たような姿をしているだけで別の生き物だ。その証拠にだ」

 

ナイフを取り出して魔人族の女の胸に突き立てて、切り裂き、内臓の一つになっている魔石を見せる。

 

「この通り、魔物の一種だ。お前達がこのお試しダンジョンで殺してきた魔物と一緒だ。姿が似ていて話が通じるだけでな」

 

「七夜、お前は何処まで人を捨てると言うんだ!!」

 

「弱肉強食って言葉を知っているな。お前らはこいつに負けていた。儂らが乱入せねば貪り食われていた。だが、その前に儂は一つ問わねばならん。天乃川、お前、殺すのを躊躇ってこの窮地に陥ったのであろう?」

 

儂がそう告げる前から天乃川に集まる視線に非難が含まれていた。こいつのせいで死にかけたと。

 

「儂は別れる前に言ったよな、天乃川に命は預けられんと。身の振り方を考えろと。園部達もそうだが、お前たちには現実が見えておらん!!殺し殺される場を甘く見過ぎだ!!今回は運が良かっただけだ。あと1日、儂らかお前らの日程がずれていれば死んでいたか慰み者になっていたか、そのどちらかだ!!魔物の中には他種族の雌を子袋にするのも多い。分かりやすく言えばゴブリンとかオーク、オーガも物によってはそうだな」

 

女子が顔を青ざめるが、ここで全員の心を折る。

 

「天乃川、お前は天職を勘違いした愚か者だ」

 

「愚か者だと」

 

「勇者とはなんだ」

 

「勇気ある者、選ばれた者だ!!」

 

「では、八重樫に勇気はないと思うか?」

 

「何を言っているそんなわけないだろう!!」

 

「では何故八重樫は剣士だ?勇気ある者ならば勇者で良いだろう?」

 

「だからそれは選ばれた者だから」

 

「違うな。間違っているぞ。お前には勇気しかないんだよ。剣も魔法もぱっとしない。勇気しかない者。だから勇者なのだよ。万能ではなく器用貧乏。それが勇者、英語に直すとブレイバー」

 

「なぜ英語に直した」

 

「ここが一番重要だ。英語で主人公はヒーローだ。ブレイバーなんてただの下級ジョブの一つ。ヒーローを目指す卵。別に選ばれたものなんて事実はない。勇者=主人公だと勘違いされてるのはドラゴンクエストの所為だ。スライムが雑魚と勘違いされてるのも一緒だがな」

 

「だ、だからどうしたっていうんだ!!オレは勇者として今まで頑張って、魔王を倒そうと」

 

「その部下にボロ負けして勝てるチャンスすら逃した。努力不足だな」

 

震えだす天乃川にさらに追撃をかける。

 

「勇者=主人公だと勘違いされてるのはドラゴンクエスト所為だが、その中でもとっておきのセリフを2つ紹介しよう。『強い仲間なら何人いたっていいし、そのうち勇者は1人だけっていうきまりがあるわけでもないし、2人いたって3人いたって…100人いたっていいんだからさ!』天職なんて関係ない、一緒の目的を持って戦えるならそれで良いんだとちっぽけなプライドを捨てることが出来た素晴らしいセリフだ。そしてもう1つ『…ボクは…あの時はじめて知った!真の勇者とは自らよりもむしろ…!みんなに勇気を沸きおこさせてくれる者なんだ、と…!!』強大な相手を前に怯む仲間を奮い立たせ、希望をもたらせる者、それこそが勇者。どちらのセリフからも分かるが、1人の力はちっぽけなもので、仲間と一緒に立ち向かうことこそが大事だということだ。さて天乃川、お前に付いてきてくれる仲間はいるか?」

 

「当然だ!!なあ、みん、な?」

 

天乃川が振り返った先には思っていたのとは異なる光景が広がっていた。目を合わせない者はマシで、敵意さえ見せる者が多い。1人だけ心配そうにしているが、それだけだ。

 

「ここに答えは出た。天乃川、お前は真の勇者足りえん。ブンドドで、ごっこ遊びで満足するんだな」

 

 

 

 

 


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