「ったく、どこに行ったのやら」
スタッグフォンとバットショットにギジメモリを挿入してライブモードで空に飛ばす。
「全く、世話のかかる妹だな」
足元を見て自分と同じぐらいの大きさの足跡を探し、それを追って歩く。雪のおかげで足跡を見分けるのは簡単だ。まあそれで正解を引けるわけでもなし。足跡の先には黒髪の女の子がいた。
「どうしました?ここから先は何もないですよ」
「妹を探していてね。こっちは外れだったみたいだ。失礼」
戻ってきたバットショットをキャッチしてスタッグフォンから送られてきたデータを確認する。宿がここで現在地がここだからあっちの方角か。
「何ですか、それ」
「うん?ああ、こいつはバットショット。コウモリのガジェットに変形するカメラだよ」
少女に向けてシャッターを切って、データを見せてあげる。
「すごい!!撮ったのがすぐ見れるなんて!!」
「欠点はすぐに導力切れになることかな」
その点は技術進歩に任せる。というかスタッグフォンもそろそろ回収してやらないと。もう一度だけスタッグフォンからのデータを確認して移動していることから合流できそうな場所を予測して歩く。
少女はバットショットと戻ってきたスタッグフォンに興味があるようなので渡してやったので後ろを着いてくる。
「妹が世話になったようですまないな」
妹を先導するように歩く少年に話しかける。
「妹じゃなくてお姉ちゃん!!」
妹がいつものように反論するがスルーする。そういうなら少年に貰ったと思われる雪ウサギを崩して慌てるような姿を見せなくなってからにして欲しいものだ。
「いえ、こちらこそ妹の相手をしていただいたみたいで」
苦笑しながら妹が崩した雪ウサギを作り直す少年に改めてお礼と自己紹介をする。
「オレはアーク・ラインフォルト、そっちは双子の妹のアリサ。迷子の妹が面倒をかけた」
「良くあることだから気にしないで。リィン・シュバルツァーです。そっちは妹のエリゼです」
そんなことがあったからか、旅行中はリィンとエリゼと遊ぶことが多かった。特にエリゼはメモリガジェットを気に入ったのかライブモードをつついている。一番のお気に入りがファングなのはあれだけどな。そいつ、護衛のために純戦闘用としてコスト度外視して作った奴だから。
アリサの方は子供特有の変なプライドが邪魔をしてあまり混ざることをしなかった。遊びというのは現地の子供に教わるのが一番安全で楽しいのにな。
旅行も終わり、ルーレに帰る頃にはすっかり親友と呼べるぐらいには二人とは仲良く慣れた。エリゼは本当にファングのことを気に入ったらしく手放してくれなかったので譲渡することにした。お小遣いという名の予算は新しいガジェットを開発して売れる技術を母さんに見いだして貰って5%のマージンを貰うことでどうにかする。これまでと同じだ。
ルーレに戻ってからも文通で繋がりは途切れず、毎年のように爺ちゃんにねだってユミルに旅行に連れていって貰った。アリサは父さんや母さんと離れるのを嫌がって着いてこなかった。技術の進歩とともにメモリガジェット達の改良も行いながらドライバーの開発にも着手する。問題は着用者とアーマーのサイズが合わないということ。自動フィッティング機能を搭載しなければならないのだが、これが難しい。何事にも限界というのはあるからな。もう少し成長しないとどうすることも出来ない。
そんな暮らしの中、ある大事件が起こる。父さんが事故によって死亡した。母さん自身も余裕がないのだろう。張り詰めることで折れないようにするので精一杯なようだ。母さんには父さんの事故を自分なりに調査する許可だけ貰う。
父さんが亡くなったのは父さんの個人ラボで、激しい爆発により遺体はほぼ見つからず、部分的に見つかった手足から死亡したと判断されている。破壊されたラボを一目見て杜撰な調査に首を傾げる。爆発の跡から考えられる威力と周辺の被害が合わない。明らかに父さんが居たと思われる方向への爆発が抑えられている。まるでそこにドーム型の壁があったかのように。それにも関わらずその背後の机が完全に吹き飛んでいる。まるで見られてはならないものがあったので後から壊したかのように。予想を確信にするためにデンデンセンサーに調査させようとしたところで後頭部に何かが突き付けられる。
「予想以上に早かった。中々に優秀だ」
背後からかけられた声に混乱する。この声の持ち主をオレは知っている。だが、このような声を出すはずがない。
「オレをどうするつもりだ」
「さあ?私は君を連れてこいと言われただけだからね。受けるつもりはなかったが、ここにはやり残したことがあったのでね。そうしたら君が来た。だからついでに連れて行くわけだ」
「……抵抗はしない」
「賢い子は嫌いではない」
「は、はははは、マジかよ」
知りたくもなかったことを知らされ、事の大きさに絶望する。オレの持つ知識では焼け石に水にしかならない。場合によっては状況を悪くする方が多い。とりあえずはガイアメモリの製造は中止し、設備は破棄することを同意した。代わりに結社の持つ技術を幾らか貰えた。それを使えば他のライダーシステムを作ることは可能だ。だが、それに意味があるのか。
オレを盟主の元にまで連れてきた男のこともどうでも良いと思ってしまうぐらいにオレの心は折れた。自分で立ち直れる自信がない。ああ、そういえば珍しく自信を取り戻させるだけの物があったか。とりあえず、何かをしていたい。
心が折れている分、製作に没頭してしまいすぐに完成してしまった。だらだらと時間を浪費したかったのだがな。それにいざ完成したところでこいつがどんな物か知っているオレは、スイッチを押す勇気がない。結局、オレはそれを起動出来なかった。
それからしばらく、いつもならユミルに旅行に行っている時期なのだが、父さんがなくなったばかりなので自粛していた所、スタッグフォンにエリゼから連絡が入る。
「どうしたんだ、エリゼ」
『……』
「エリゼ?」
向こうから連絡を入れてきているのにエリゼは何も話さない。それでも何かを話そうとしている呼吸が聞こえる。辛抱強くエリゼが話してくれるのを待つ。数分後、ようやくエリゼが話し始めてくれる。
『たすけて』
その一言から後は濁流のように言葉が次々と流れてくる。要約すればリィンの持つ異能の力に怯えて傷つけてしまった。リィンも部屋に閉じ籠ってしまってどうすればいいか分からない。
その話を聞いて、オレが思ったのはあの存在だった。一度も起動せずに埃を被っていたそれを手に取る。きっとエリゼとリィンの力になってくれるであろうそれ、アイちゃんに全てを託そう。今のオレにはそれぐらいしか出来ない。
エクストリームメモリにアイちゃんを持たせてユミルにまで飛ばす。それから音沙汰がなかったのだが、急にエクストリームメモリが手紙を持って返ってくる。中を確認するとルーレに家族で出掛けるから会えないだろうかということだった。駅まで迎えに行くから日時を教えて欲しいと返信を添えて送り返す。
そして、再会した二人の姿は以前と変わらない、仲の良い兄妹だった。アイちゃんはしっかりと役目を果たしたようだ。そんな二人を見て、疑問に思う。無駄なはずなのに、何故オレはアイちゃんを渡したんだ?
全てが無駄になるはずなのに。どうしてオレは二人を助けるようなことを?
「アークさん、本当にありがとうございました」
「アーク、本当にありがとう。異能に関しての問題は解決してないけど、それでも前に向かって歩くよ」
二人から向けられる笑顔を見て、オレの胸の奥に微かな火が灯るのを感じる。本当に微かな火だが、折れた心がゆっくりと再精練されるのが分かる。
「気にするな。オレに出来たのはアイちゃんを送ることだけだ。そのアイちゃんも話を聞いてくれるだけのオーブメントだ。だから、今の二人があるのは、二人が勇気を出して一歩を踏み出したからさ」
「それでも、その勇気をくれたのはアークさんです」
「だからありがとう」
無駄だと思っていたが、どうやら無駄ではなかったようだ。そうだよな、まだ時間は残っている。そして、オレの力と知識が足りないのだとしても、少しは足しになるはずだ。
何より、こうやって幼なじみを助けることが出来た。オレは完全に無力じゃない。抗う力はある。誰かを笑顔にする力がある。
「そうか、礼は受け取らせて貰う。ところで、ファングはどうしたんだ?」
そう尋ねると気まずそうにエリゼがテオさんからカバンを受け取って中身を見せてくれる。そこには想像以上のダメージを受けたファングが寝かされていた。
「えっ、ファングをここまで破壊するような魔獣に襲われたのか?」
「そうだけど」
「なんで生きてるんだリィン?」
「そこまで言うのか?」
「だって、ファングの装甲、現行戦車の装甲なんだぞ。戦車並の固さとは言わないが、それでもかなりの物なんだぞ」
そう説明すればようやく事の大きさに気付いたのか顔を青ざめた。
「良い医者を紹介するから診て貰おう。まあ異常が無いのも問題だし、異常があっても問題だがな」
ルーレで一番の設備が整っている病院で検査をして貰ったが問題無しだったので七耀教会の司祭様にも異能に関しての相談をしたところ、専門家を派遣してくれることになった。日頃から山吹色の菓子、もとい寄進を欠かしていないからな。
ファングは修理に時間が掛かるので後日エクストリームに送らせることにした。
「爺ちゃん、何を悩んでるんだ?」
「アークか。何でも、いや、今のお前さんになら。お前さんにも聞こうか。こいつを、列車砲をどう思う」
「使用用途が限られる運用の難しい兵器。こいつを撃ち込まれたら大抵の物が壊れる」
「そうだ。そして帝国はこれをクロスベルに向ける。大勢の市民に突き付ける。何故、儂はこんなものを作ろうと思ったのじゃ」
「ごめん、爺ちゃん。オレにはその気持ちが理解できないよ。大勢の市民に突き付ける?突き付けるだけでまだ撃ってない。それに比べれば100日戦役で使われた銃や戦車の方がよっぽど罪深い。数の問題じゃないとオレは思うよ」
「……数の問題か。儂も老いたと言うことか。そうじゃな、確かにその通りじゃ。腹は決まった。こいつの納品が儂の最後の仕事じゃ。会長職は馬鹿娘に譲る。そんでもって隠居じゃ」
「ユミルに隠居してくれると遊びに行きやすいんだけど」
「少し前から欲望を全面的に出すようになったのぅ。なんじゃ、とうとうエリゼちゃんとこれになったか?」
じいちゃんが小指を立てて来るけど、そんな関係ではない。
「シュバルツァー家が訳ありなのはじいちゃんも知ってるでしょ」
「まあのう。それでも法的にはリィン君が当主を継ぐのは可能じゃ。なんなら後押ししてやれば良い」
「リィンがそれを望むなら吝かではないけど、こっちから積極的にやるつもりはないよ」
「まあ、そこら辺は好きにすれば良い。さて、引退の件を馬鹿娘に伝えるかのぅ」
盟主にまたもや量産を禁止されたライダーシステムの要であるボトルを弄んでいると見覚えのない老人と少女を見つける。
「子供?D∴G教団から保護した者が他にもいたのか?」
「D∴G教団?いや、関係ないと思うよ。オレはアーク・ラインフォルト。結社とは、あ~、どういえばいいんだろうな。とりあえず、盟主から開発品の封印する代わりに技術供与を受けている者と言っておくよ」
「盟主が態々封印指定だと?何を作った」
「あ~、幾つかあるんだけど、星の記憶、概念の成分、欲望の具現。そしてそれらを身に纏うためのシステム。それらを量産するのが目標なんだが、量産が許されないんだよなぁ。結構自信作なんだけど」
手元にある赤と青のボトルを振りながら答えると少女に不思議そうに見られる。
「どうかした?」
「ウサギ?」
「ああ、こっちはラビットフルボトルでこっちはタンクフルボトル。さっき話した概念の成分を封じ込めたボトルだよ」
少女に渡してやると不思議そうに眺めた後に振る。
「良い音」
「気に入ったならやるよ。他にも幾つかある。好きにするといいよ」
先の2つと合わせて10個のフルボトルを少女に渡す。ドライバーはまだ渡せないな。
「ふむ、盟主が製造を中止させるほどの物には見えんな。レン、そろそろ行こうか」
「うん、ばいばい」
母さんが新しくメイドを雇った。シャロン・クルーガーと名乗ったが、名乗りに慣れていないのと目を見て分かった。裏側の人間であるのは間違いない。なにせ、目が笑っていない、笑えていない。だが、それを責めることはない。母さんが納得の上で雇っているのは分かる。雇い主でないオレに決定権はない。
「オレはアークだ、よろしく、シャロン。まあ基本的にオレはあちこち出かけているか、ラボに籠っている方が多い。妹のアリサの面倒を見ることが多いと思う」
「よろしくお願いします、アークお坊ちゃま」
「お坊ちゃまは止めて欲しいかな。それでしか呼びたくないのなら別に構わないが」
「では、アーク様で」
「ああ。ところでシャロン、≪死線≫という名に聞き覚えはって、その反応は本人か」
周りに張り巡らされた鋼線の一本に指を這わせて弾く。
「何者ですか」
「結社の協力者。んでもって、足掻こうと必死な科学者だ。≪死線≫のクルーガー、お前はどうなんだ」
「私は……」
「答えが出ないか。なら、探せばいい。時間は無限にあるわけじゃないし立ち止まって無駄にできるほどでもない。だが、回り道する位の時間は残ってる。歩くことを止めるな、シャロン。それが生きている者の務めだ」
オレは窮地に立たされている。レンの存在を知ってから色々と世話をしてやって面倒を見ていたのだが、多少の対人恐怖症の傾向が見られていた。それもある程度落ち着いたと思い、少し人間関係を広げようと思い、ユミルへと旅行に連れ出したのだが、オレを挟んでレンとエリゼが睨みあっている。リィンは修行があるからと早々に逃げ出した。
「アークさん、その子は一体誰なんですか?」
「この子はレン・ローゼンベルグと言って、オレがお世話になっている人のお孫さんなんだ。ちょっと前まで酷い目に合っていて治療なんかでずっと一人だったから友達もいないんだ。だからエリゼには仲良くしてもらえたら嬉しいんだが」
「レンはアークがいればいいの」
そういってレンはオレの後ろに隠れてしまう。それを見てエリゼが頬を膨らませる。そんなエリゼをなだめるようにファングがエリゼの足元に寄る。それを拾い上げてレンに見せつけるかのように抱く。
「う~、アーク」
「あ~、ファングはちょっと無理だな。作るなって上から言われてるから」
まあレンには内緒でラビットラビットアーマーを作ってるんだけどな。
「やあアーク君、久しぶりだね」
「テオさん、お久しぶりです」
屋敷の方からテオさんがやってくる。肩にはフロッグポッドがいる。すっかりメモリガジェット達はシュバルツァー家に溶け込んだようだ。
そんなテオさんがやってくると同時にレンの手に力が籠る。
「大丈夫、レンは大丈夫、アークが側にいる、この人は大丈夫」
小声だが、しっかりと聞こえた。だけど、オレにはどうすることも出来ない。オレに出来るのは後始末位だ。
「君ははじめましてだね。私はテオ・シュバルツァー。アーク君には色々と世話になっていてね。よろしく」
テオさんがしゃがんで目線を合わせてくれたがそれは逆効果になる。素早く袋を取り出してレンの口元に当てる。同時にレンが嘔吐する。
「ど、どうしたのかね」
「すみません、事情は後で説明します」
異変に気付いたルシアさんにレンを任せてテオさんにレンの事情を説明する。
「D∴G教団、それも違法売春宿の被害者か」
「はい。それに薬物もかなり大量に使われた上に多重人格、それも最低でも3人分が消滅する程度に追い込まれました」
「そこまでとは。今はどうなんだい?」
「薬物の方は問題ないんですが、多少の対人恐怖症と一定の年齢層の男性に対する拒絶反応を患っています。それでもレン自身が克服したいと言うので少しずつでも色々な人に会わせてみることになったのですが、テオさんはドンピシャな世代なようで、それにそこを利用していたのはガワだけは紳士ぶっていたのが基本だそうです」
「そう言われると嬉しいような悲しいような」
「テオさんはガワだけではないですよ」
実際、人物評価を担当した鋼の聖女のお墨付きだ。あの人もレンのことを気にかけてくれているので助かる。
急に嘔吐したレンに何かがあると察したエリゼがレンのことを気にかけてくれるようになり、レンもちょっと素直ではないがそれを受け入れているようで少しずつ仲良くなってくれた。そんな訳で多少の時間が出来たオレはリィンの様子を見に行った。
そこそこ山を登ったところにある広場的な所で修行してるとのことなので駆け足で山を登る。目的地に近づくに連れ、鉄火場の空気が立ち込める。急いで駆け付ければリィンが異様な雰囲気を漂わせる熊の魔獣と対峙していた。それもリィンが押される形でだ。刀を杖にしてなんとか立っているリィンに止めを刺そうとする魔獣にスタッグフォンとバットショットにジョーカーメモリとルナメモリを挿入してマキシマムドライブを発動させる。
バットショットの強烈なフラッシュに怯んだところをスタッグフォンが突っ込み、ある程度の傷を負わせることが出来たが、2機ともひっかきで撃ち落とされて破壊されてしまった。それでもリィンに駆け寄ることはできた。
「大丈夫かリィン」
「はぁ、はぁ、あ、アーク、逃げて。あいつは、おかしいんだ、あの時みたいな」
リィンの言葉から以前にファングメモリを破壊した魔獣と同じような現象が起こっているのだろう。ここでリィンが逃げろと言うのはおかしなことでもない。だが、逃げることはしない。
「リィン、お前に夢はあるか?」
「一体、なにを?」
「オレの夢はな、オレが笑い、リィンが、エリゼが、アリサが、レンが、皆が笑える世界だ」
終わりが見えているこの世界、そんな絶望の未来ではなく希望に、笑顔にあふれる未来への飛翔。困難を超えるための力、ライダーシステム。
試作型であるサイクロンライザーを腰に装着し、右手にロッキングホッパーゼツメライズキーを持ち、スイッチを押す。
『KAMENRIDER‼』
ゼツメライズキーを左斜め上に掲げる
「変身!!」
ゼツメライズキーをサイクロンライザーに装填すると同時にロッキングホッパーのロストモデルが現れ、レバーを引くとロストモデルがオレの体に纏わりつき、それを突き破ることでその姿を現す。深藍色のアーマーに襟のサイクレッドマフラー、外の理に存在する正義を体現する男に似た姿を。
「アーク、それは」
「オレが開発した新世代導力鎧システム、そのプロトタイプ、仮面ライダー1型!!」
生命維持を最低限にまで落としてリミッターを限界まで外し高速で動く。AIの補助と神経接続による思考の高速化がなければ出来ない動きで熊の魔獣と正面から戦い、リィンから遠ざける。反撃の腕の一振りを受け止め、膝を胴体に叩き込む。それに怯んだ様子もなく、受け止めていた腕に力が更に入り、無理矢理爪で切り裂かれる。さらに体当たりで吹き飛ばされるが右目に蹴りを入れて潰す。そのままリィンの側まで転がり、素早く立ち上がるとリィンも呼吸を整えて覚悟を決めた顔で刀を構える。
「アーク、オレには夢がない!!オレは孤児で、オレのせいでシュバルツァー家は貴族の中で爪弾きにあって、夢を見るだけの余裕が無いから!!だけど、今は、アークの言う夢を共に見たい!!笑顔の未来が欲しい!!」
リィンの髪が白くなり、瞳が紅く輝く。そしてオレと同じ速度で動き魔獣を追い詰める。
「行けるな!!」
「先に行くよ!!」
リィンの刀に蒼い焔が纏わりつく。
「蒼き焔よ、我が剣に集え!!」
袈裟斬り、逆袈裟、右胴から拳を叩き込んで距離を離す。空いた隙にレバーを2回引く。
『ロッキング ジ・エンド』
高まるエネルギーを足に集中させ、余った分をサイクレッドマフラーから後方への推力として噴出させる。その勢いのまま、リィンを飛び越すように跳び蹴りを熊の魔獣に叩き込む。崖から落ちていく魔獣を見て緊張を解く。
「どうにかなったな」
「だね」
二人して地面に寝ころび、オレは変身を解除する。
「アーク、夢を見ることって悪いことかな?」
「内容にもよるだろ。世界征服とか酒池肉林とか言い出したらぶん殴ってでも止めるぞ」
「そんなこと言わないよ。オレのせいでシュバルツァー家は色々と大変な目に合ってる。だから、オレはシュバルツァー家から消えたいって思ってた」
「消えたら余計に面倒なことになるぞ。貴族ってのは噂好きだからなぁ。暇な連中も多い。まあ、まともな貴族もいる。平民とは価値観が違うだけで貴族としては普通の行為や言動をする奴もな。リィンが消えたら、それはもう色んな憶測が飛び回るぞ。あと、エリゼが泣く。それを録音してお前の下にまで絶対に届けるぞ。音声どころか映像付きで届けるぞ」
「それはやめてくれ」
「なら消えようなんて思うな。消えるにしてもシュバルツァー家の全員を納得させるんだな。それが無理なら、お前を引き取って受けたマイナス以上の利益をシュバルツァー家に齎せばいい。一番制約が少ないのは光の剣匠や雷神のような名のある武人になることだな」
「名のある武人か。成れるかな?」
「成れなきゃシュバルツァー家へのレッテルを剥がすのは難しいなぁ。望むならラインフォルトの伝手で強引にどうにかしてやれるぞ」
「それは、本当にどうしようもなく、かつ、緊急性が高い場合だけにしとくよ」
「そうしとけ。だけど、望むならすぐに相談しろよ」