父さんと共に晩餐会が行われている翡翠庭園に入るとオーレリア将軍がすぐにこちらにやってくる。
「無事だったかリィン・シュバルツァー!」
「あっ、はい。太刀筋が綺麗だから簡単に縫えたと先生がおっしゃっていました。それに高価な薬も色々と使っていただけたので戦闘はともかく普通の生活程度なら問題ないという診断が出ました」
その隣でアークは全身包帯姿で全治2週間の診断を受けていたけど。レンが色々な薬を持ち込んできてそれをチャンポンにして飲んで無理矢理治療していた。それでも今日のところは大人しくするそうだ。
「そうか。すまなかったな、最後の一撃を止めることが出来なくて」
「いえ、それだけ本気で戦ってくれていたことに感謝すら感じています。それにようやく壁を一つ超えれました。ありがとうございます」
「壁か。最後の一撃、あれがそうなのだな」
「はい。ですが、あれは脇道なんでしょうね。今までで最高の一撃でした。だけど、八葉一刀流としては間違っているのでしょう。そういう手応えがありました」
放った瞬間まではあれが老師の望む八葉の先だと思ったが、微妙に違うのが分かった。それが最後に闘気が薄れ、刀を砕かれる原因になった。
「それはそれとしてだ、何か詫びをしたいのだが、希望はあるか?」
詫びか。ここで断るのも失礼だし、何かあったかな?ああ、アレがあるか。
「ええっと、こんなことをルグィン将軍にお願いするのは失礼だと思うのですが、年明けから10日ほど、傭兵として雇われて頂けませんか?」
「おい、リィン!失礼だろう」
「傭兵?理由は?」
「ここ数年、ユミルでは年明けに強力な魔獣や、幻獣に襲われているのです。いつもなら自分とアークで退治しているのですが、参戦が厳しい状態です。アークも知り合いの猟兵に連絡を取るそうですが、空いているかは別問題ですので」
「そこで詫びを言い出した私か。だが、必要があるか?」
「年々強くなっていますし、それに自分もアークも対人戦の経験が少なくてオーレリア将軍に対して本当に本気だったとは言えません」
魔獣相手にはあの手この手その手あんな手こんな手、手が足りないから足でも良いよね、みたいな感じだから。それでもいつもボロボロだけど。
「ほぅ、中々楽しそうな話をしているね」
オーレリア将軍との会話に割って入った方を見て一礼する。
「これはアルゼイド子爵、何処からお聞きに?」
「ユミルで年明けに強力な魔獣が現れる、と言うところだね。あれだけ闘える君が強力と言い切る魔獣に興味がある」
「アークとはアイゼンガルドの主が来てもおかしくないと言い合ってます。だから巨いなる騎士でも引っ張ってこいとまで言われてます」
「アレはただの言い伝えでは?」
「少なくともドライケルス大帝の灰、槍の聖女リアンヌ・サンドロット様の銀、偽帝オルトロスの緋は実在してたみたいですよ。銀と緋は壊れてる可能性が高いみたいですけど」
「何?」
「アークが壊れたゼムリアストーン製の、人の間接部分の構造に似た機械を見つけたそうです。逆算すると10アージュ弱の大きさで付着していた油から250年前の物だそうです。滅茶苦茶嫌そうな顔をしてました」
あの顔はちょっと忘れられない。
「本当にあるのか」
「ただ、不思議なことに残っているはずの灰が帝室に無いということです。アークはそこに何か嫌な予感を感じているみたいですが」
「大帝が子孫に残すべきではないと判断するような物か。しかるべき時に必要と秘匿され忘れられたか」
「あるいは敵対する何者かに消されたか。アークは消されたとみています。公式記録所か、口伝でしかもおとぎ話のような物しか残っていないんです。物証があるのに」
「一気にきな臭くなったな。それでラインフォルトは似たような物を作るつもりなのか?」
「そこまでは自分も聞いてはいません。ただ、実験位はしてると思います」
まあ全然別の形になっているだろうけど。
リィンと二人で伝手を使って戦力をかき集めた結果、戦力が充実した。オーレリア将軍にアルゼイド子爵、それとおまけでアルゼイド子爵の一人娘であるラウラ、赤い星座と西風の旅団、シャロンに加えて、さらにレンが結社の方からアリアンロードさんとデュバリィさんたちまで連れて来てくれた。
さすがにこれだけの戦力があればオレとリィンが戦闘をする必要はないだろう。猟兵団にはアサルトグリップも1つずつだが渡してある。これでほぼ戦力は万全だ。そのはずなんだが嫌な予感がする。
「それにしてもリィン君とアーク君の傷跡は凄いね」
今は招待した方々と一緒に温泉に入っているのだが、初めてお会いするアルゼイド子爵に体中の傷跡を見られる。
「まあ、リィンと二人で4回ぐらい死にかけてますから。リィン、感覚が狂って八葉一刀流が使えないからってライダーシステムを使わないんで代わりに攻撃を受けるようにしていたらこの有様ですよ」
「確かにそうだけど、八葉が使えない方がデメリットが大きいんだって」
「分かってるからこうやって傷だらけになってでも庇ってるんだろうが」
庇わなくてもリィンが死ぬことはない。いや、死んでも動き続けることになる。そうなるとちょっとめんどくさい。だからお互いが死なない程度に庇う必要があるのだ。そしてライダーシステムの防御力分、オレが庇うことになるのだ。ライダーシステムの装甲を抜かれるとか本当に勘弁して欲しいけどな。
温泉から上がり、ビリヤードを楽しむチームと東方から伝わってきた麻雀というテーブルゲームを楽しむチームに分かれる。主に貴族系と猟兵系に分かれる形だ。オレはどっちかと言えば貴族系に分類される。一応な。本当に一応。会社の関係で社交も熟してるから。だから麻雀に行かせてくれ。
「いや、ギャンブルで勝った試しがないだろ。やめとけって」
「馬鹿野郎、ビリヤードなんて得意中の得意というか出禁になるレベルの腕前だ!」
「どんな腕前だよ」
「ナインボールでブレイクショットだけで終わる」
「その言い方、バンキングも正確だって言いたいのか?」
「機械みたいで気持ち悪いとよく言われる。まあ見てろ」
玉を5個横に並べて次次にショットして、寸分たがわずに手元側の短辺に並ぶ。
「気持ち悪」
「だろ?」
そんなわけで麻雀の方に混ざりに行こうとしたらアルゼイド子爵の娘であるラウラが怒りをあらわにしながらやってくる。
「リィン!この近くで暴れられる場所は何処だ!」
「今からは自殺行為だから案内は出来ないよ。明日なら案内するから」
リィンがハンドサインで事情を確認してきてくれと言うのでレンに話を聞いてみたら、まあ納得した。
デュバリィさんとシャーリーに道場剣道と煽られて、フィーとレンまで同意したのだ。オレも同意だ。アルゼイド子爵に確認を取ればまだ道場剣道の域に置いておきたいそうだ。それにも同意だ。武人としての皮なんて被ったままで居たかったさ。
翌日、売り込みも兼ねて武装輸送機アルバトロスにデュバリィさんにシャーリーにフィーとレンにラウラ、それに加えてその保護者とリィン、お目付け役としてエリゼとオーレリア将軍と言う大人数でリィンとオレの秘密の特訓場に移動する。
「アルバトロス航空をご利用頂き誠にありがとうございます。当機はまもなく特訓場LZに着陸致します。その際、大きく揺れることが御座いますので座席に座り、シートベルトを着用してお待ち下さい。お降りの際、忘れ物が無いようにご注意下さい」
特訓場から少し離れた場所に整地したLZにアルバトロスを着陸させ、医療品や非常食が入ったバックパックを背負い、シャベルを担いで降りる。なお、リィンも同様の装備だったりする。新しく用意した刀はエリゼに没収されたらしい。
バックパックは今までの経験を生かした装備だ。ポーチ程度の収納量では全く足りない。戦闘後に吹雪に見舞われる可能性も考慮している。そう、この後に襲われることを想定しているのだ。
リィンを先頭に特訓場まで案内し、レンとエリゼに導力魔法のアイスボルトを適当に放って貰い、リィンと二人でアイスボルトが消える前に素早くシャベルで雪を被せて押し固める。そうやって脆い障害物を適当に配置してから休憩所として大きなかまくらを用意している間にウォーミングアップを済ませて貰う。
「手慣れていますね」
珍しくアリアンロード様がオレに話しかけてくる。
「ええ。よく二人で使ってますから」
「そう、ですか」
「何か?」
「彼はどこまで知っているのですか?」
今後の予言に関わりあう存在が気になるのだろうか?
「何も。伝えるとしても、それは巻き込まれる要素の全てが、騎神のライザーに選ばれた後に伝えるつもりです。そしてリィンと共にあるつもりです」
「本気で言っているのですか」
「本気ですよ。オレはあいつと一緒に煉獄に飛び込む。そのための準備は進めてきた」
「あの程度の玩具で、ですか」
玩具ね。確かにブレイキングマンモスは玩具だ。本命は別だ。だが、誤解させておけばいい。
「今は玩具だろうが、必要な時までには完成させるさ。その時、貴女はきっとオレに感謝するね」
問題は本命よりもその下準備が大変なのだ。どうやって≪黒の工房≫から技術を盗み出すのか、これが問題なのだ。最優先であの技術を、Ozシリーズの技術を奪う必要がある。その上でアルベリヒを殺さず、かつオレが死んでもいけない。アリサは微妙だが、殺させるわけにもいかない。面倒な相手だな。
試合はバトルロイヤルで致命傷判定の攻撃を保護者がガードして陣地に2度まで引き返し、治療と休憩として5分間が与えられ、最後まで立っていた者が勝者という形とした。こうでもしないとラウラがいきなり敗北するのが目に見えているからだ。なにせ全員がライダーシステム持ちなのだから。
「ふん、今回は私一人である以上使わせてもらいますわ」
デュバリィさんが盟主に量産を禁止されたライダーシステムの1つ、ファイズドライバーを装着してファイズフォンにコードを打ち込む。
『Standing by』
「変身!」
待機音が鳴り響くファイズフォンを折り畳み、ファイズドライバーに突き立てて左に倒す。
『complete!』
赤いフォトンストリームがアーマーの基礎部分を形作り、スーツとアーマーが全身を覆う。ライダーシステムの中でもシンプルに危険なファイズが姿を表す。
続けてファイズフォンにコードを打ち込み、オートバシンを呼び出し、左アクセル部分にファイズフォンから取り外したミッションメモリを挿入して赤いフォトンブラッドの刀身を持つファイズエッジとして引き抜く。
「へぇー、シャーリー達とは大分違うんだね。まっ、別に構わないんだけどね」
『Power!』
「だね」
『Dash!』
シャーリーとフィーがプログライズキーのスイッチを入れ、ショットライザーに装填する。フィーはベルトに装着したまま、シャーリーは手に持ってトリガーを引く。
「「変身!」」
『『ショットライズ!』』
打ち出された弾丸が宙を舞って二人の元に戻り、シャーリーはそれをグリップ部分にショットライザーを装着して使うことが出来るSウェポンのチェーンソーであるテスタロッサで叩き割り、フィーは生身の時に使っている銃剣を大型化した物で叩き切る。
『Enough power to annihilate a mountain』
『Try to outrun this demon to get left in the dust』
それと同時に装甲が展開されパンチングコングバルカンとラッシングチーターバルキリーが姿を現す。
三人を見てラウラは不機嫌そうに睨み付けて大剣を構える。シャーリーとフィーがそれを確認する隙にデュバリィさんはアクセルメモリーをファイズフォンに軽くセットする。開始と同時にアクセルフォームで決めるつもりなのだろう。
一応の主催であるオレが開始の合図と最終確認を行う。
「それじゃあ、始める前に一言だけ。戦場には色々とある。結果がよければ全て良しなのもあれば過程が大事な物、その後が大事な物、数えれば切りがない。だけど、今回は結果が全て。勝てば官軍、負ければ賊軍。弱い犬の遠吠えを聞き流す準備は出来てるな?さあ、やれ!」
『Start up!』
開始の合図と同時に銀と赤の光がフィールドを縦横無尽に駆け巡る。最初にラウラが大剣を斬られた上で身体を浅く斬られ、フィーが走り出すもすぐに追い抜かれる形で切り払われ、防御を固めたシャーリーを手数で強引にねじ伏せる。アクセルフォームの戦闘方法として完璧な答えだろう。まあ、最後にミスをしているがな。
生身のラウラには流石にスパークルカットは放たないようだが、注意事項がすっかり抜け落ちているようでシャーリーとフィーに拘束のエネルギー波を4発ずつ放っている。同時に使うのは6発までと伝えていたのだがな。
とりあえず、フォトンブラッドの中和剤が入った注射器を猟兵親父達に投げ渡す。医療品を持ってアルゼイド子爵の元にレンと一緒に走る。アルゼイド子爵もようやくラウラが異常に苦しんでいるのに気付いて回収するために飛び出す。
『3…2…1…Time Out! Reformation…Emergency Stop!』
時間ギリギリにスパークルカットが決まり、シャーリーとフィーが吹き飛ばされてバルカンとバルキリーが解除され、タイムリミットでアクセルフォームが解除されると同時にオーバーフローを起こしてファイズ自体が解除されてデュバリィさんが倒れこむ。
開始10秒で全員がフォトンブラッドに苦しむ地獄絵図の完成だ。猟兵親父どもは投げ渡した注射器をすぐに打ち込んで傷の手当てに移っているが、アリアンロードさんは首を傾げている。
「リィン、デュバリィさんを!」
ええい、あの人は変な所で抜けているんだから。デュバリィさんはリィンとエリゼに任せてレンが行う治療の助手を勤める。一応、手術の真似事は出来るが同い年の女の子相手に父親が見ている前でなんて出来ないからな。レンはオレとリィンを相手に慣れてるから安心して任せられる。
「タオルと純水と中和剤!子爵は上半身を押さえつけて!アークは足!」
ラウラに馬乗りになったレンの指示通りに足を押さえつける。レンはタオルをラウラの口に突っ込んで歯を噛み砕かない様にする。
「痛いけど我慢しなさいよ」
それだけ言うと傷口を純水で洗い流し始める。暴れるラウラをアルゼイド子爵と共に押さえ続ける。だが、思っていたよりも時間がかかっている。その後中和作業や傷の手当ても時間がかかり、原因を考えて答えを見つける。
治療が終わると同時にレンを抱き上げて物陰に走り口許に袋を当てる。同時にレンが嘔吐する。治療のためとは言え、少女を男二人が押さえつけて無理矢理事を済ませる。完全にトラウマを再現するはめになった。それでも治療は完璧に済ませてくれたレンには頭が下がる。
それにしても参加者以外もダウンするのは想定外だ。どうするか悩んでいると聞きたくない声が聞こえてきた。声のする方を見ればアイゼンガルド連峰の空に黒い点が見える。バットショットの望遠機能で確認すれば立派なドラゴンが見えた。望遠倍率から考えれば全長40アージュ前後、全高10アージュ強と言ったところだろう。
「ドラゴン型の魔獣1、全長40アージュ前後、全高10アージュ強。こっちに向かって飛行中、接触まで200程度!」
「子供たちは郷まで退避!アルバトロスは使うな!狙われる!」
「リィン、シャーリーとフィーも連れてこい!ラウラはオレが。エリゼは荷物を!」
リィンが背中にデュバリィさんさんを、右手でシャーリーを、左手でフィーを担ぎ上げてこちらに走ってくる。オレも背中にラウラを、左手でレンを抱き上げて走る。体調が悪いままの5人をリィンと二人して担ぎ上げて下山を始める。ここまでの道は獣道程度しかないがエリゼもその程度で足を止めるような生活を送っていない。魔獣や動物も逃げるように下山しているおかげで絡まれる事もなくユミルまで戻ることが出来た。ユミルでは魔獣の逃走に巻き込まれないように西風の旅団と赤い星座の団員達が臨戦態勢で待ち構えていた。
「じょ、じょうきょう」
「状況報告!」
息切れを起こしているオレの言葉をリィンが言い直す。
「魔獣と普通の獣の逃げ道になってる部分で一当てしただけだ。団長達はアレと?」
「そう、だ。けいかい、つう、しん」
「予定通りに主力は交戦中だ!警戒を怠らず、支援要請に備えて通信の確保!」
「了解した。予定通りだ、いつでも支援に迎える準備を」
ダウン組を避難所になっている凰翼館に預けて念のために余っているライダーシステムを見繕う。とはいえ、そもそも体がボロボロなので大した物が使えない。戦極ドライバーにマツボックリロックシードで誤魔化すことにする。
そして支援要請が来ることはなく、帝国の伝説がユミルの空を飛翔した。
「どうよ、リィン。あれが伝説の銀だよ」
「知ってたのか、アーク」
「おう、黙っていて悪いな。まあ、あんまり言い触らせるような事でもないからな」
「アリアンロードさんが?」
「そういうこと。文字通り250年以上を生きる伝説の御方だ」
「槍の聖女、リアンヌ・サンドロット様か。亡くなられたんじゃ?」
「騎神の搭乗者になるとな、契約が結ばれて騎神の霊力が尽きない限り不死身の化け物として生きることになるんだよ。それこそ心臓が無くなろうと動けるぐらいだ」
「心臓が…」
そう言って胸を押さえるリィン。それを無視するように話を続ける。
「まあ、あの人も死のうと思えば死ぬ方法はあった。だけど、とある事が終わるまでは死ぬつもりは無いそうだ」
「とある事。なあ、いや、あ~、アレに勝つつもりなのか?」
「250年前のポンコツに負けてたまるか!科学ってのは常に前に進む物だ。絶対に機体性能は追い抜く!」
じゃないと目的が達せないからな。
お茶会の時間になっても帰ってこないレンを呼びに転移でリベールの上空までやってきた。
「おーい、レン。お茶会の時間は過ぎてるぞ」
戦闘の区切りがついたところで水を差すようにのんびりとした声をかける。
「アーク、分かっててやってるでしょ?」
「もちろん。というわけで遊撃士諸君、ここらで手打ちといかないかね?」
「いきなり出てきて何を言ってるのよ、アンタは!アンタも身食らう蛇の一員なんでしょ!」
棒術使いの女の子が棒をこちらに向けてくるが、あまり時間をかけるとお茶が冷めるし、ゲストを待たせることになる。
「残念だけど、オレは身食らう蛇の一員って訳じゃない。関係者ではあるけどね。まあ、メリットが無ければオレの言うことなんて聞かないだろうからこんなのはどうかな?」
懐から2つのプログライズキーを取りだしてスイッチを押して離れた場所に投げる。
『『Giger!』』
現れるのはパテル=マテルと同サイズの2体の鉄の巨人、プロトタイプブレイキングマンモス、ギーガーだ。
「こいつらを相手にしてもらっても構わないぞ。もしくは、このまま帰してくれるなら1体プレゼントしてやってもいい。まあ、おバカだから単純に特定のターゲットと戦え程度しか理解しないがな」
「くっ、まさか量産されてるっていうの」
「いや、コストに合わないからこいつら2機だけだな。ドラギオンがあるからって買取り拒否されたから在庫処分に使おうかと」
そこまで話したところで面倒な人物を見つけてしまった。だが、それとは別の人物が一歩前に出てくる。
「お話は聞かせていただきました。これら、えっと」
「ギーガーと申します」
「ギーガーですか。ではそのギーガー、2機ともクローディア・フォン・アウスレーゼの名においてリベール王家が買取らせて頂いても」
「ええ、もちろん。お代さえ頂けるのなら。とはいえ、今すぐ現金と言うわけにもいかないので書面にサインと拇印という形で後日徴収に上がります。2機でポッキリ5億ミラとなります」
「5、5億ミラ!?」
遊撃士の女の子が驚いているが安いんだぞ。実際、書類にサインをするクローディア殿下は逆に安さに驚いている位だ。
「戦車より安いのですね」
「信頼性の部分が存在してませんので、その辺りは勉強させてもらっています。はい、問題ありません。これがマニュアルです。それとこちら、私の名刺となります。ご用があれば何時でもお待ちしております。それでは」
パテル=マテルを工房に転移させ、オレもレンを連れて帝都にある工房に転移する。殿下に絡まれたくないからな。まあ、名刺からオレの元までは簡単にこれる。今日だけ凌げれば十分だ。
リベールにギーガーの代金を受け取りに向かった後、通された部屋で二人の男性に出会う。あまり表舞台に立たない人なので知っている人も少ないが、高貴なる血を引き、これからの舞台に立つだけの権利だけは有している方に出会うが想定内だ。そして今のこの御方では話し合う価値が無い。故に一方的に話す。
「最初に言わせて貰いますけど、覚悟がないなら盤面に干渉出来ると思わないことだ。全員が己の力で未来を切り開こうとしている。他人のために道を作ろうなんて中途半端な気持ちじゃあ、何も出来ない所か、道を譲られた者が死ぬだけだ」
「……いきなりだね。挨拶も無しに」
「挨拶以上に覚悟が必要となる、と言っている。世間からどう思われようが、なすべきと思ったことを成し遂げる。その覚悟がないなら当たり障りのない情報だけを渡して終わりです。別に覚悟が無いことを笑ったりしませんよ。なにせ貴方のお父上、陛下は全てを託して盤面を降りられましたからね、オリヴァルト殿下」
「なっ、父上が、いや、託して、まさか!?そんなに前からだと言うのか」
「まずは陛下と話し合われるのが懸命かと。殿下は指し手としても駒としても盤面に上がることが出来ますが、セドリック殿下とアルフィン殿下は駒としてしか盤面に上がれません。そして、陛下、もしくは殿下達の誰かが必ず緋の駒として盤面に上がる必要があります。私から今殿下に話せるのはそれぐらいですね。陛下とお話になられて覚悟が決まりましたらこちらまで」
名刺を取り出し、テーブルの上に置く。
「追加の情報とある程度の支援はさせていただきます」
「…1つだけ聞かせてくれないかい?」
「内容によりますね」
「君は何のために盤面に上がったんだい」
「800年前の馬鹿野郎共に負債を押し付けられた親友を、灰の駒をこのゲームの勝者にするために」
それだけは譲るわけにはいかない。誰を犠牲にしようとも、リィンとエリゼだけは絶対に救ってみせる。
月1間隔で開催しているお茶会。最初は聖アストライアに入学したエリゼに付いて行ったファングのメンテナンスをメインにちょっと世間話をする程度だったのだが、レンが混ざってお茶会になり、半年ほど経った頃にエリゼを尾行してきたアルフィン・ライゼ・アルノール殿下とミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエン公爵令嬢が加わる形となる。
男一人でかなり肩身が狭いのだが、レンとミルディーヌに絡まれて同じ席について参加させられている。ホストとして季節や流行に合わせた茶葉やお菓子を用意するのが面倒なのだ。まあ、これでも帝国政府公認試験である執事検定準1級持ちなので面倒なだけで大変だとは思わないのだがな。ちなみに1級は子爵家以上の家での実務経験がないと受験できない。メイド検定も同じでシャロンも準1級持ちだ。
ちなみに今回のお茶会はレンの誕生日会も兼ねているため若干豪華だ。前世の記憶から引っ張り出したこっちにないお菓子を作ったりしたのだ。特にクリームたっぷりのマリトッツォと練り込むドライフルーツを多彩にしたカッサータはお嬢様方に大変好評だったらしくレシピを差し出すしかパティシエから逃げるのが難しい位だった。あと、あの言葉は強い。場合によっては火に油を注ぐことになるがな。
「さて、プレゼントの方だがようやく完成した現時点での最先端最高傑作ガジェット『ラビラビ』だ」
レンにファングをねだられてから2年以上経ったがようやく完成したラビットラビットアーマー。原点との最大の違いは生体金属を使用したことでレンに合わせて成長することだ。ドライバーの技術も上がったことで下限は130セルジュまで下がった。これでレンにもライダーシステムが行き渡った。ビルドは特に扱いが難しいシステムだが、レンならば大丈夫だろう。
「随分と大きいのね」
まあ、レンが両手で抱き抱える必要がある大きさだ。ファングの4倍位デカイ。アーマーなので仕方ない。
「ペット兼護衛兼とある役割を持たせてあるからな。使い方はまた後日」
「あらあら、羨ましいですわねレンちゃん。エリゼのファングも可愛らしいし、たまに見かけるエクストリームも人懐っこくて私も側に置いてみたいのだけど」
「まあ、あるにはあるんですけど、殿下に渡して良い物なんでしょうかね?」
「あら?お兄様に専用のライダーシステムと車を贈られたと先日お聞きしたのですけど」
陛下と話し合われたオリヴァルト殿下は戦う道を選んだ。腹違いの弟妹を守るために。だから情報と多少の支援としてベルトさんとトライドロンとドライブピットを提供したのだ。随時更新もするし、ベルトさんには必要そうなデータは全て入力してある。最低でも緋の騎神のライザーになるところまでは道を整えるつもりだ。
「それを言われると強く言い返せないんですよね。分かりましたよ、でも使いこなせます?」
部屋の隅に置いてある太鼓の意匠のアタッシュケースからホイッスル程度の大きさの笛とディスクを3枚取り出す。笛を咥えて設定している曲を奏でてディスクに色が現れた所でそれをお茶会のテーブルに向かって投げる。投げられた3枚のディスクが変形し、茜鷹、瑠璃狼、緑大猿になる。
「ディスクアニマルの茜鷹に瑠璃狼に緑大猿。メモリガジェットの前に作った物だけど、最近改修した物です。まあ、装甲材とかバッテリーを最新の物に更新しただけですけど」
「使いこなせるとはどういうことですか?」
「この笛で指示を出してるんですけど、息を吹き込む、吸い込むの2種類とその強弱で音階が変化します。これがまあ、難しいんですよ」
アタッシュケースから新しい笛を取り出してアルフィン殿下に手渡す。アルフィン殿下が軽く吹くも音が跳ね回る。
「これ、本当に難しいですわね。繊細過ぎません?」
「楽器は専門外なもので。演奏は器用な方ですけど」
笛を再度咥えて、ネズミの国のリーダーのマーチを演奏する。それに合わせて工房の中で起動していたガジェット類が曲に合わせて踊り始め、それを見てお嬢様方が楽しそうに笑顔を浮かべる。
やっぱりこういう方が好きなんだよなぁ。戦車やら武装輸送機よりも。ライダーシステムは、まあ男の子だから大好きなのよ。
だからこそ、この光景を守れるように頑張ろうと思えるんだ。
久しぶりに母さん、会長とのミーティングを兼ねた昼食で母親としての顔が出る。
「アーク、アリサの件を聞いているかしら?」
「ああ、トールズ士官学園を受験した話?本人はばれてないと思ってるみたいだけど爺ちゃんから聞いてるし、シャロンからも聞いてる」
「わざわざ家名をイニシャルだけにしてるけど、脇が甘いのよね」
そう言って新型戦術導力器≪アークス≫の実験を行うことになっているⅦ組の名簿を渡されて目元を覆う。
「リィンには口止めしておいた方が良い?」
「本人は忘れているでしょうけど、一応初恋の相手なのよ」
「その初恋相手が参加してる誕生日会に毎年不参加の自分の娘を見てどう思う?」
「私の子とは思えないわね。まあ、アークも別の意味で私の子とは思えないけどね。貴方はどちらかと言えば前会長似よ」
「否定しないよ」
「それでアリサのことなんだけど、この派遣員、貴方に任せても良いかしら」
「Ⅶ組に追加でバイクの支給とそのレポートを提出させても良いのなら。まあ、レポートと言っても年に一度出せば良い形式的な物だけど」
「分かったわ。学園には私から通しておくわ」
それと同時に仕事モードに切り替わる母さんに苦笑が溢れる。この切り替えの速さが良いところで悪いところだ。何よりモードに合わせた話し方をしないと拗ねるのだ。アリサはそこを理解していないからすれ違うのだ。よく見れば分かるのに。
家族が大事と言いつつ、家族をちゃんと見ていない。そんな歪な子供がアリサなのだ。先程の話の通り、誕生日会を準備してリィン達以外にもルーレに住む友人達を招いているのだが、アリサだけ参加しない。だが、誰も気にしない。なぜならアリサの友人は居ないから。呼んでいないのではなく、アリサに友人は居ない。
日曜学校に一緒に通っていた子はいる。ただそれだけなのだ。ちなみにその子とオレは友人だ。日曜学校なんて通っていないのにな。通っている暇がなかったが、基本的にルーレに居て隙間時間があればそこら辺の子供に試作の玩具で遊んでもらい、データ収集を行い、改良して商品化するのだ。前世でも根強い人気を誇るミニ四駆、ビーダマン、ベイブレード、シルバニアファミリー、サンリオキャラグッズは中々の売り上げだ。なお、ネズミの国の連中は作っていない。次元をこじ開けて襲ってきそうだからな。
…アリサに友人が居ないのってこれのせいか?
でも、売り上げが美味しいし、遊戯王をアレンジした漫画とカードの生産ライン組んじゃったし…
家の家系は根っからの技術屋商売屋だ!身内の情より利益優先!