「よーし。予定通り1週間の修行はこれで終わりだ。最後までよく頑張ったな。卒業の証としてこれを授ける」
死ぬほど精製が面倒な聖輝石で作ったペンダント『アバンのしるし』をベルとレフィーヤの二人にかけてやる。
「卒業と言っても心眼は会得出来なかったんだけど」
「あとは実戦で磨くしかねえな。こればっかりは全員躓くんだよ。オレも2ヶ月はかかったしな」
魔法生物相手に修行するのが一番って教わってたから魔法生物を作ろうとして無駄に時間を使っちまった。この世界だと怪物でOKだと気付くまでに時間がかかった。
「最初は1層で一対一の状況を作ってからだ。慣れれば階層を上げて、5層まで行けば1層に戻って複数を相手に。それを繰り返せば何とかなると思う」
目隠しと緊張感が心眼の覚醒に必要だと思うんだが、はっきりとは言えないんだよな。まあ、最終的には必死さと心の芯次第だな。
「そんで、こっちは餞別だ」
『なまくら』以上『入魂』未満でおまじない程度の魔法石を嵌め込んだ『パプニカのナイフ』を二人に渡す。
「オレの弟弟子が使ってた縁起物だ。元は結構由緒正しい物なんだがな。レプリカだから気にするな」
「弟弟子、ヴェルフとアイズさん以外にもいるの?」
「オレが教えたのはもう一人だな。後は兄弟子ヒュンケルと姉弟子マァム、弟弟子のダイだな」
もう会えないが、大事な仲間たちだ。
「オッタル、中々楽しそうなことをしているな」
「ヴェルフか」
オッタルが檻に閉じ込めているミノタウロスに魔石の入った袋を投げつける。
「ベルにぶつけるなら強化種にまで育てるぞ」
「何?まさかレベル1でスペシャルハードをこなしたのか?」
「くくっ、その通りだよ。何らかの成長促進スキルが生えてやがるな。だからこそ空裂斬の取得に苦戦している。レフィーヤはこの前の食人花で空裂斬のコツを掴んだ」
「二人も弟子に取ったのか。『千の妖精』は後衛だったはずだが」
「魔導師だろうが接近戦は出来た方がいいだろう。あと、オレは本来後衛魔導師だって何度言わせる」
「オラリオでも上から数えた方が早い剣士が何を言うか」
「本当のことなんだぜ。ダンジョンじゃ使いにくいレベルの呪文使いなんだぜ。見せる機会がまじで無いけど」
殺し合いなんて早々に起きないからな。
「是非とも見せて貰いたいものだが、今はこちらが優先される。それで、本当に強化種が必要になるのか?場合によっては死ぬぞ」
「当日はオレも近くに隠れて様子を見る。アイズとレフィーヤにも伝えておく。外側から見るのも修行の一環だ。あと、趣味」
「趣味?」
「オレは何度も見てきたけどな、壁を破った瞬間っていうのはとても美しいものなんだよ。オレは弟弟子のそういう場面を何度も見てきた。あれは癖になるぞ」
ダイみたいな爆発的な花火のような明かりは期待できないけどな。アレは癖になる。元から出来上がっていた上にフレイヤに魅了されているオッタルにはあまり分からないかもしれないがな。
オレがアバン流を教えてからも大して成長がみられない。自分がトップであることに安心しきっている。それじゃあ困るんだよ。
今の戦力じゃあ黒龍には勝てない。魔法反射が呪文にも有効な所為でメドローアでも殺せない。倒すには竜の騎士にしかできない魔法剣しかない。だからこそ、最強の剣技であるアバンストラッシュを使えるのは最低条件だ。そこに呪文を乗せる必要があるが、同時になんてことは竜の騎士にしかできなかった。だから、オレが他人の剣に呪文を付与するしかない。だが、それだけでは足りない。基本ステータスの暴力に敗れるし、信頼できる相手じゃなければ無理だ。
残念ながらオッタルは駄目だ。フレイヤの魅了にどっぷりと漬かりすぎている。残念だが、背中を預けるのは不安だ。
だからこそ、ベルには期待している。ダイに出会った時のような感覚にさせてくれた、主人公の可能性を秘めた少年に。
「はぁ、はっ、はあ」
いきなりのことだった。空裂斬の修行中、いるはずのないミノタウロスに襲われ、リリが最初の奇襲で気絶させられて逃げることも出来ずにいる。
何より、こいつ、強すぎる!
「くっ」
ミノタウロスの拳をパプニカのナイフで受け流す。既に支給品のナイフと長目のバトルナイフは折られた。支給品のナイフは大地斬で切りかかった時に折れ、バトルナイフはその後にミノタウロスの攻撃を受けた際に折れた。パプニカのナイフも受ければ折られるのが感覚で分かる。
大地斬で与えた傷は既に無くなっている。再生能力が高い。力も強い、強すぎる。間違っても5層にいて良い強さじゃない。勝てる未来が見えない。それでも生き残るために攻撃を受け流し続ける。
疲れからか、一瞬、リリを見捨てることが頭を過る。何を馬鹿なことをと頭を振った隙を点かれ、拳が僕を捉える。咄嗟に後ろに跳んだからこそダメージをある程度軽減できた。だけど脱け殻の胸当てが壊れる。それに肋骨をやられたのか呼吸に痛みが走る。
ヤバいヤバいヤバいヤバい!?受け流しや回避にまで影響が出る。とにかく動け!
ミノタウロスの足元に飛び込んで転がって大振りの一撃を躱し、腰のポーチに手を伸ばして、ポーション瓶が割れていることに絶望する。
動きが止まったところをミノタウロスに蹴り跳ばされ、壁に叩きつけられる。左腕が折れたのか力が入らなくなり、頭を強く打ち付け、流れ出た血が両目を塞ぐ。
ダメだ、ここで僕は死ぬ。心が折れた途端、全身に力が入らなくなる。ミノタウロスの勝利に確信した雄叫びと近づいてくる足音が聞こえる。
死ぬのが怖い、恐い、コワイ、こわい。だけど、身体が動かない。
「ベルーー!ガンバレーー!」
微かに聞こえた声に反応して身体が動く。左に転がり、ギリギリのところでミノタウロスの攻撃を躱す。最初は幻聴でも聞こえたのかと思った。だけど、あれはレフィーヤさんの声だった。
レフィーヤさんに情けない姿を見られている。そう思えば胸元から身体に力が漲る。さっきまで死ぬと思って動かなかった身体が頭が動き始める。
我ながら単純なことに女の子に情けない姿は見せられないという思いが身体を突き動かす。まともに使える感覚器は聴覚だけ。一切の音を聞き逃さずにミノタウロスの攻撃を躱す。
音だけでも攻撃を躱せることに気づくと更に感覚が冴えてくる。ミノタウロスの動きに合わせて揺れる空気、壁や地面に落ちている血の匂いなどを感じとり、視界が封じられる前と同じ、それ以上に情報が手に取るようにわかる。同時に今まで感じたことのないそれを感じることもできた。怪物の体内にある力の塊、魔石の位置が。
怪物は魔石によって存在を保っている。心臓や脳よりも魔石が重要な生物。魔石を砕けば怪物は死ぬ。そして、そこに届かせる方法を僕は持っている。
ミノタウロスの蹴りに合わせて、その足を足場にして後方に跳んで距離を作る。ナイフを鞘に戻し、闘気をナイフにため込み、一気に魔石に向かって振り抜く。
「アバン流刀殺法、空裂斬!」
今までも闘気を飛ばす事は出来ていた。今までは距離も威力もコントロールも今一つだったそれが、完璧に決まった手ごたえがあった。ただ、威力が足りなかったのかミノタウロスが苦しそうな声を出すだけで生きている。だけど、焦りはない。今の僕は地を斬り、海を斬り、そして空を斬った。つまりは最強の剣技を身に着けた。
ナイフを逆手に持ち、腰だめに構える。あの日、ヴェルフとアイズさんが見せてくれたあの技を、今ここで再現する。
空裂斬でのダメージから冷静さを完全に失ったミノタウロスに向かって飛び込み、ナイフを振る。
「アバン、ストラッシュ!」
結果を感じる必要はない。僕の放ったアバンストラッシュはミノタウロスを魔石毎真っ二つにした。そこが僕の限界だった。前のめりに倒れる僕の顔が何かにぶつかり、強い衝撃を受けて意識が途切れる。
完全に力が抜けたベルを抱き止めようと走ったレフィーヤが胸で受け止めてしまい、恥ずかしさからビンタで張り飛ばした結果、心肺停止状態になったベルをザオラルでなんとか現世に繋ぎ止める。
「あっぶねぇー、こんなことで死なれたら流石に寝覚めが悪い」
「すみませんでした。反射的につい」
「エルフだからなぁ、ある程度は仕方ないと割りきるけど、時と場合は考えてほしかったな」
残っている傷をベホマで回復させてベルを背負う。
「リリ助もすまなかったな。こんなことに巻き込んで」
「その分のお金と装備はいただいているので。それにしても怪物の養殖なんてギルドにバレたら問題ですよ」
「ああ、大丈夫だ。ギルドも同じことをやってるからな。目的は違うけどな」
「え?いや、これ以上は、もとい、怪物の養殖なんてリリは知りませんよ。ミノタウロスの強化種が5層に居るなんて、なんて運が悪いんでしょうね!」
聞きたくないようなのでここまでにしておくか。まあ、多少はギルドに疑いの目を向けることになるだろう。オレ、ギルドのやり口が大嫌いだから。デルムリン島を知っていると尚更な。異世界の事を持ち込むのは反則だろうけど。神々って基本的に傲慢だからな。
「それじゃあ撤収。打ち上げの予定は3日後の夜だ。奢りだから金は気にするな」
「は~い、それじゃあお疲れ様です」
オレから逃げるようにダッシュで地上に帰還を始めるリリ助を見送り、オレ達はゆっくりと帰還を始める。
「土壇場で成功させる辺り、弟弟子そっくりだわ。きっと大成するぞ、こいつ」
たぶん、レベルアップもするだろうから祝いに装備一式を用意してやろう。アバンのしるしも光らせたんだ、おまけで無担保の低利子で作ってやる。ちょうどミノタウロスの強化種のドロップである角が手に入った。こいつを使って武器を作ってやろう。
帰り道に現れる怪物はレフィーヤが空裂斬の練習に使う。本人曰く弟弟子に負けるわけにはいかないと張り切っている。まあ、コツは掴んでいたし、ベルの分かりやすい見本もあったから今日中には習得するだろう。
ベル・クラネル
レベル2
力 I0
耐久I0
器用I0
敏捷I0
魔力I0
幸運I
魔法
スキル
憧憬一途
男意地炎
英雄願望
装備
支給品のナイフ(破損)
バトルナイフ(破損)
E:パプニカのナイフ
脱け殻の胸当て(破損)
脱け殻の籠手(破損)
E:脱け殻の脛当
E:アバンのしるし(勇気)
男意地炎
・男としての意地を張る時のみ全能力超絶上昇
・男としての意地を張る時のみ経験値取得量超絶上昇
・男としての意地を張る時のみ常時ステイタス更新
・意地を張る機会上昇