ユキアンのネタ倉庫   作:ユキアン

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ちまちま書いてた奴を一旦放出。


目覚めたら最大戦力の宇宙船持ちだったので、帰還を諦めずに傭兵として自由に生きたい 3

「加藤、歯を食いしばれ!」

 

全力の一撃を加藤の左頬にお見舞いする。叩きつけられたロッカーがひしゃげる。

 

「そして!」

 

倒れこんでいる加藤の胸倉を掴んで立たせ、力いっぱい抱きしめてやる。

 

「辛かっただろう。それから良かったな。翼君はこれで助かる。元気な姿を見せてくれるんだ。これからも翼君は生きていけるんだ。そこにお前が居てやらないでどうする」

 

「隊長、でも、俺は皆を裏切って」

 

「任せておけ、軍には残れないかもしれないが上層部はオレがどうとでもしてやる。最悪、ガミラスに来たって良い。コネはいくらでもある。お前と真ちゃんと翼君ぐらいなら居場所なんて何処にでも用意してやる。ヤマトのクルーには、謝罪行脚をやるしかねえな。許してくれねえかも知れないが、オレはお前の味方だ」

 

「隊長、すんません、すんません、隊長」

 

「勝つぞ、加藤。そんで生き残って翼君を立派に育ててやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土方艦長が戦死され、古代が指揮を継いだと聞き、少しだけ悩んだがマグネトロンプローブを周囲にばらまいたことで問題ないと判断する。

 

「アステロイドリングの応用か。全機、優先度を変更、目標ゲート前に居座る奴らだ!」

 

指示を飛ばしながら戦場を見渡していると色違いの艦がある。

 

「敵前線指揮艦を発見、こいつはオレが速攻で落とす!加藤、航空隊の指揮を任せたぞ!」

 

隊列を離れ、ヘッドオンの状態からビームカノンで艦橋っぽい部分を吹き飛ばす。途端にコントロールを失って爆散する。さらに周りの艦も次々と落ちていく。

 

「はっ、後ろで見てりゃあ良かったんだよ!ヤマト、今の内に突っ込め!」

 

次々と開いていくゲートを航空隊で先導してヤマトと共に突き進む。そして目的地を発見する。

 

「空間騎兵隊とチームアルファは突入、残りはヤマトの防空だ!加藤、半分受け持ってヤマト上方を守れ!残りはオレと下方だ!」

 

群れて来る敵機をビームカノンで凪払う。仲間の尻に食いついた奴らは機銃で破砕する。そうやって弾薬がギリギリになるまで飛び続ける。そしてその時が訪れる。敵機が次々と停止していく。

 

「突入部隊がやったか。全機デブリに引っ掛かって死ぬようなへまをするんじゃないぞ!」

 

これで終わったと思ったのだが往生際が悪く、再び敵が動き始める。突入部隊が引き上げてくるのを確認し、次の策を考える。

 

とは言え、残弾は残り少なく、ヤマトもエンジンが不調で波動砲は使えそうにない。武装も主砲が2門だけ。魚雷やミサイルは目標まで届きそうにない。使えそうな物を考えていたところ、キーマンが飛び出す。よく見れば胴体部に懸架しているのは波動掘削弾だった。あれならば致命傷を与えられるだろうが、かなり接近する必要がある。特攻になるはずだ。代わってやりたいが、時間がない。

 

機首をキーマン機の前方に向けて、オープンチャンネルに怒鳴る。

 

「航空隊各機、持てる限りの残弾でキーマンを、漢の花道を邪魔させるな!」

 

オレの指示の前に斎藤の騎兵甲冑がキーマン機に取りつき援護を始める。

 

『永井隊長さんよぉ、勝手をしてすまんが、俺はガミ公に最後まで付き合うぜ』

 

斎藤が長くはないのは知っている。邪魔をするわけにいかないな。これは斎藤が、操り人形ではなく一人の人間として選んだ道なのだから。

 

「キーマン、斎藤、オレからの命令はただ1つ!成すべき事を成せ!オレは貴様らのことを絶対に忘れない!」

 

『『了解!』』

 

『永井隊長、オレが代わりに!』

 

「古代、お前はヤマトの艦長なんだ。代わりになるならオレが先だ。そんな余裕はないがな。躊躇うな、古代!キーマンと斎藤の覚悟を汚すな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

キーマン達の特攻で沈黙したと思われた滅びの方舟が再度起動したことで絶望が艦橋を包み込む。波動エンジンの不調により、兵装は全て使い物にならない。まあ、そろそろ来るだろう。

 

「地球から艦が来ます!これは」

 

待ちに待った報告が来た。こいつが、オレ達にできる最後の反撃だ。

 

「通信繋げ」

 

モニターに映し出される相棒の姿は前に見た時より随分と老けていた。

 

『お久しぶりです、永井宙将』

 

「苦労を掛けてすまんな、瀬川君」

 

モニター越しに敬礼を交わす。

 

「瀬川一佐?その顔は」

 

『ふふ、久しぶりね古代君。時間断層でちょっとね。一番時間の流れが速い部分で色々とやっていたの、5年ほどね。まあ、身体の方はそれ以上の時間が経過したみたいね。永井宙将、ご注文の品をお届けに参りました。オペレーションチェリーブロッサム、行けます』

 

「よくぞ間に合わせてくれた。すぐに移乗する。古代、お前達は地球に帰還しろ。ここからはオレと瀬川君で終わらせる」

 

「そんな!?我々はまだ戦えます!」

 

「そうだな、だからこそお前達に次の戦いを任せたい」

 

「次の、戦い?」

 

「ガミラス戦役に続いて、このガトランティス戦役によって多くの人が亡くなった。それを補うようにAIによる無人艦隊やガトランティスの人造人間製造技術、果ては人権を無視して子供を製造するという考えに至るまで人類は疲弊してしまった。オレには地球が間違った方向に進もうとしているように思える。それを止める戦いをお前達若い世代に託したい。無論、オレ達のような年寄りも力を貸すがお前達若い世代が主体となって戦うんだ。これは分かりやすい解決策の無い苦しい戦いだ。だが、きっと乗り越えられる。古代、今度はお前達が先陣を切り開け」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本部に通信を繋げ藤堂長官に最後の挨拶を行う。

 

「これより本艦はオペレーションチェリーブロッサム、滅びの方舟に対し特別攻撃に移ります」

 

『永井宙将、多くは言わんよ。何か望みはあるかね』

 

「今大戦を終結に導いた功績を持って、加藤二尉並びに命令違反、敵前逃亡を行った兵士達の恩赦を承りたく」

 

『…分かった。無事に勤めを果たしてくれることを祈っている。瀬川一佐は何か望みはあるかね』

 

「時間断層のリソースの2割を民需へ振って頂ければそれで構いません。軍需は暫く減らしても問題ないでしょうから。それと私個人の資産は全て孤児への寄付に回して下さい」

 

「自分の資産も同じく」

 

『そちらも了承しよう。すまない、君たち二人に全てを託すしかない我々を恨んでくれ』

 

「軍人ですから。それにこれ以上若いやつらが死ぬのは見たくありません」

 

「私たちが育てた子供達をよろしくお願いします」

 

藤堂長官に敬礼を送り、返礼を受けて通信を切る。続けて芹沢参謀に繋げる

 

『なんのようだ、永井』

 

「最後の挨拶、とはちょっと違うか。独り言だな。まあ死に逝く者の愚痴に付き合ってくれ。数十年後に流行っているかもな。返事は期待しない。オレは今でも波動砲艦隊構想は反対だな。特に無人艦隊構想との組み合わせは気にくわない。それがやりたいならゲームの中でやってろ。機械で殺し合いなんて絶対にターミネーター案件だろ、と思っている。BBBは絶対に受け入れられん。それが一番効率が良いと判断したら有人惑星に躊躇無く波動砲を撃つぞ。ZZZはまあ、ギリギリ山南さんが乗ってたから受け入れられそうだ。滅茶苦茶デカイ戦闘機乗りと言えなくないから。だが、間違いだったとは思っていない。今もギリギリの所で踏ん張れているのは構想のお陰だ。だから間違ってはいない。でも、正解でもなかった。義肢、クローン、AI、そしてG計画。人であることを辞めようとするそれらをオレは受け入れられそうにない。機械は迷わないし間違わない。人は迷うし間違う。良い明日を機械なら掴めるだろう。だがより良い未来を掴めるのは人だけだ。多くの者が人であることを選び、ここまでやってこれた。まあ、ズォーダーも人であることを選んだ結果滅びの方舟がしつこく稼働を続けているんだがな。何が正解で、何が不正解なのかは未来の誰かに決めて貰えば良い。オレは自分が納得できる道を選んで死にたい。機械に生かされる人生なんて、家畜はまっぴら御免だ。熱を感じない生を過ごすぐらいなら潔く死を選ぶ。まあこれもオレの持論だ。受け入れられない奴らもいるだろう。それで良いんだよ。色々な意見がある。だからこそ世界は熱を持って輝いている。オレはそんな世界が好きなんだ。だからオレは死にに行く。後の事は任せます」

 

言うだけ言って通信を切る。後は瀬川君だけだな。

 

「最後まで付き合わせることになってすまないな。あの世まで付き合ってくれ」

 

「あの世でも付き合いますよ。フソウに乗ってから気持ちは変わりません」

 

「ありがとう」

 

艦長席から立ち上がり、瀬川君と抱きしめあって口付けを交わす。

 

「行こうか」

 

「ええ」

 

艦長席に戻り、強化宇宙服のヘルメットを装着してシートベルトで身体を固定する。

 

「ストラーダ発進、目標滅びの方舟」

 

 

 

 

 

 

 

 

『まだ抗うか、地球人よ』

 

「抗うさ、これまでも、これからも。ズォーダー、人間になった人造人間よ。お前は色々な星の住人に愛を知るために色々と馬鹿げた試練を与えていたようだな」

 

『古代に聞いたか』

 

「ああ。まあ、馬鹿なことをしているなと思ったさ。お前が欲しい答えはお前にしか出せないものだからな。ようやく気付いたからこそ滅びの方舟を起動させれたようだがな」

 

『何?』

 

「古代アケーリアス文明ってのは不思議な文明でな、高度に発達した文明で、ありとあらゆることを機械が行っていたようだ。お前達のような人造人間なんかも元はアケーリアス文明の技術の一部を再現した物だろうな。ただ、必ずと言って良いほど最後には人間の意志が尊重されるんだよ。その人間の定義もはっきりとしている。ある一定以上の知能を持った上で愛を知るもの。だからこそ、始まりのズォーダーとお前だけはガトランティスとしての人間なんだよ」

 

『またしても愛か』

 

「そうだ。もっと正確に言えば愛するもののために危機に立ち向かう者こそが古代アケーリアス文明の定義する人間だ。まあ、最終的に物質的に満たされ過ぎてアケーリアス人の人間が死滅したことで文明としては滅んだようだがな。まっ、文明が内部要因で滅びるには十分すぎる理由だ。抗わなかったアケーリアス人が悪い。だが、外部要因で滅びさせはしない。ズォーダー、オレの愛するものたちを滅ぼさせはしない」

 

『愛するものたち、か。随分と欲張るな』

 

「二兎を追う者だけが二兎を得られる。そういうことだよ。さて、挨拶はこの辺で終わりにしようか。覚悟しろ、ガトランティス人、地球人の恐ろしさ、その身に刻み込んで死ね!」

 

 

 

 

 

 

 

「ダメージコントロールは足周りを優先、速度落とすな!」

 

コンソールに捕まりながら揺れに耐え、指示を飛ばし続ける。

 

「右舷上方に小型飛翔体、カラクルム級の砲撃端末に類似!」

 

あのビームを雨のように降らす奴か、収束場を作り出すのか知らんが撃たせるわけには行かん。更に正面からもカラクルム級が集まって撃つビームと同規模のエネルギー量を確認する。

 

「三式弾で吹き飛ばせ!重力子スプレッド、撃てえ!」

 

「波動防壁耐圧限界近づく、ストラーダに集中させます!」

 

ドレッドノート級のステータスが一気に赤く染まるが、多少の足になる以上切り離すのは惜しい。

 

「ドレッドノート級の実弾を投棄、誘爆を避けろ!あと少しだ!」

 

「小型機多数、迎撃、艦橋直撃備えて!」

 

右舷から左舷に抜けるように7機の小型機が艦橋部にぶつかり爆発を起こす。艦橋の一部が吹き飛び、右腕の肘から先を失ったが依然として操艦は可能だ。

 

「まだだ、アフターバーナー点火、ロケットアンカー、巻き上げろ!優樹、糞が!」

 

先ほどの爆発で吹き飛ばされたのか優樹の姿が見えない。艦内にいるのかどうかも分からないが結果は変わらない。

 

「先に待ってろ!すぐに追い付く!」

 

既に目の前にはズォーダーの乗る滅びの方舟が迫っている。起爆スイッチに左腕を叩きつける。

 

「くたばれやーー!」

 

 

 

 

 

 

 

改めて自分のやってきたことを客観的に見せられると気恥ずかしい。ミミにエルマだけでもアレなのにセレナ大尉に別れたばかりのダレインワルド伯爵家ご一行、更にはエルマの家族のウィルローズ子爵家ご一行とセレナ大尉の家族のホールズ侯爵家ご一行にまで見られると結構来る。

 

御令嬢方、何故そんなうっとりとした目でこっちを見る。御婦人方、御令嬢を止めて止めて。で、男連中はなんで渋い顔をしてこっちを見るんだよ。娘はやらんとか言って来てくれた方がこっちも楽なんだが。

 

そんな中、口火を切ってくれたのはフリードリヒ殿だった。

 

「あー、艦長、アレってどれぐらいが創作なんだい?」

 

「戦闘描写は多少弄られてますが、後はほぼ事実です。具体的に言うと、突入時に防空もせずに航空隊も全員白兵戦に参加してました」

 

オレ主観でカットされてる部分も多いが概ねそんな感じだ。

 

「そっか、ああ、うん、あまり理解できていないようだから軽く説明するけど、艦長はグラッカン帝国における貴族女性が男性に求める理想像ど真中だね」

 

いや、そんなの回避できないじゃないか。

 

「ちなみにどの辺りが?」

 

「リーダーシップ、滅私、献身、強さ、人間臭さ。この5つがバランスよくあると良いとされてる。艦長はかなりバランスが良い。多少の好みの差が出る程度だ。年齢差は特にマイナスにはならないかな。そこはある程度調整可能だから。ちなみに男親が娘婿に求める物も似ていて、このホロムービーがほぼノンフィクションなら艦長は実績を証明済みだね。ベレベレム相手にもやらかしてるし。だから渋い顔をしているんだよ。金剣翼突撃勲章持ちでゴールドスターも授与予定だと、爵位の問題もほぼ解決だしね。名誉子爵相当だけど、下手な伯爵家所か侯爵でも釣り合うね」

 

聞きたくなかった。こんなアラフォーのおっさんに絡んでないでもっと良い男を見繕いなさい。探せばいるだろう?

 

「ちなみに未婚の貴族女性陣にこのムービーとほぼノンフィクションという事実を添えて流せばそれはもうすごいことになると断言しておくよ。それに艦長は、持っているからね。味方のピンチに颯爽と現れて戦場を支配する、敵方の捕虜なのに普通に信頼されて指揮を取る、未知の宇宙怪獣との激闘、艦隊戦・艦載機戦・白兵戦・情報戦とあらゆる修羅場を潜り抜け、行く先々で味方を魅了するカリスマ性と実力。人情に溢れながらも時にはそれを噛み殺して冷徹な指示を出せる精神性。まさにヒーローと呼べる存在だね。実際、ベレベレム相手の大立ち回りに、私達をギリギリの所で救い出すと言ったこともやっているし、その才能は未だ衰えずだね」

 

全く否定できない。おっさんがヒーローってところが戴けないが、いや、マーベルとかっておっさんがヒーローやってるな。なんてこった正統派ヒーロー名乗れるな。

 

まあ、それ以上にショックを受けてるんだがな。あのムービーを見て思い出した。確実に死んだ覚えがある。まさか、これで悩むことになるとはな。

 

「スワンプマンかよ、いや、なんとなくそう思ってたがよ」

 

「スワンプマン?」

 

「あー、思考実験の1つだ。簡単に言えば私は誰だ?ってやつだ」

 

「ああ、クローンの記憶問題か。なるほど、アレらとは違うが状況は似ているか。どうする?」

 

「徹底的に調べるしかないだろうな。簡易医療ポッドじゃなくて精密検査用で、艦の方もか。精神面よりも物質面を調べないとな」

 

「おや、精神面は良いのかい?」

 

「オレがオリジナルでなかろうと、こっちに来てからやった分は全部オレの物だ。それだけでオレはオレであると胸を張って生きていけるさ」

 

なんかお嬢様方の熱が強くなったような。視線で周りの男性陣に確認すれば墓穴を掘ったなと返される。おぅ、普通にしているだけなんだが。一応詳細を尋ねておく。

 

「ああ、うん、人気の冒険活劇にこのクローン記憶問題のもあってね。主人公が拾った少年がクローンでね、悩む少年を立ち上がらせたセリフが『この冒険は元のアンタはやっていない、アンタと私達の物だ。胸を張りな、アンタはもう一人で立って歩けるだろう』でね。私も素でその言葉が出てくるのに驚いている」

 

逃げて良いかと視線で問えば、逃げられるならと返される。積極的に手を貸せばご婦人方が怖いと。それでもエルマやセレナ大尉はともかく、全くお会いしたこともないお嬢様方位はブロックしてくれても良くない?ほら、そっちのブラコンっぽい嫡男さん、ブロックブロック。駄目?じゃあ、何でここにいるんだと思った瞬間、全てを悟った。

 

「罠に嵌まっていたか」

 

オレの言葉に反応した面々からミミとエルマ、クリス、セレナ大尉は知らされていないようだな。時間が無かっただけだろうが。

 

「理由と目的もまあ、理解した。このホロムービーを用意したのもそのためか」

 

「みたいだね。私達も簡単な説明しか受けてはいないけど、理解はした。その上で言うなら、まあ、後は本人達次第で、としか言えないかな。別に強制されているわけでもないから私としては反対はしないと表明しておこう」

 

「…ああ、なるほど。それなら多少は感謝した方が良いか」

 

「そんな必要はないさ。それに艦長とは少しではあるが交流があるからね。その少しで十分信用できるのさ」

 

この辺りでようやくエルマとセレナ大尉が事態を把握して顔を赤らめて髪や服を気にしだした。それを見てクリスも気づいたようだ。ミミは、分かっていないようだ。

 

「で、そろそろこれを仕組んだ張本人に出てきて貰いたいのだが」

 

「残念だけど、政務が終わっていないようでね。あと2時間はお見えにならないそうだ」

 

「あー、ちょっと男性陣だけで話し合いをさせて貰えないか」

 

流石に情報が足りなさすぎる。何かヤバイことが裏で進んでいる。改めて男性陣だけで別室に移り、情報のすり合わせを行う。女性陣はザルツ人将校シュルツ時代のカットされた部分を視聴するようだ。軍人としては一番いきいきとしていた頃だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めまして、元地球連邦宇宙軍所属永井大樹宙将です。現在は傭兵ギルド所属のゴールドランカーです」

 

それぞれ自己紹介を終えて本題に入る。

 

「率直に、皇帝陛下はどれぐらい本気でグラッカン帝国に取り込もうと?」

 

それに答えてくれたのはセレナ大尉の父であるラウレンツ殿だった。

 

「はっきり言えば、かなり、8割ぐらい本気かな。裏側は使わないけど、表側は全て使うぐらいに。我々に打診はあったけど、全て断られたら皇女を差し出すつもりもあるみたいだ」

 

「…そこまでですか。波動コアと次元波動理論だけでは足りないと?」

 

「少し問題が発生していてね。当面は実験艦だけになる。本当に少数だけだろう。だが、あの戦闘力を手放すのは惜しい。というかこれを見て欲しい。ああ、もちろんトップシークレットだ」

 

そういってから端末から表示された物を見て顔をしかめる。化石同然の状態だが親の顔より見た艦が映されている。

 

「微妙に異なるがカラクルム級か」

 

「発見されたのはとある惑星の地層からで、3万年前から存在しているそうだ。君とあの艦を取り込みたい理由は理解して貰えたと思う」

 

「少なくとも3万年前にガトランティスが、滅びの方舟、もしくは同類、最低でも内部にあった生産場が存在していた」

 

「軍でもそう見ている。最低でも帝国軍の全艦艇をドレッドノート級に更新してやっと初期対応が出きるかなって所だ。今の所、波動砲が使えないから」

 

ドレッドノート級に更新できるのに波動砲が使えない?いや、そういうことか

 

「ああ、問題ってそっちですか」

 

「分かってくれるか。そういうことだ。よくあんなのを1万隻も揃えようとしたものだ。政治体系の差とは言え、正気とは思えない」

 

「たぶん、正気じゃなかったと思いますよ。人口の6割がガミラス戦役で亡くなり、更に1割はガトランティス戦役で亡くなった。私でも1万隻をやり過ぎだとは言えない。いや、軍需に片寄りすぎだとは思っていましたが、結果が地球の占領半歩、爪先前程度に追い込まれてますし」

 

「相手が悪いとは言え、酷い結果だ。何で地球人は絶滅していないんだい?」

 

「頑張ったからとしか...あとは運と縁?」

 

「…帝国の長い歴史の中に、時折現れる存在がいる。味方にすれば結果的に幸運が、敵にすれば破滅が待っている無銘の存在が。地球がまるごとそれでも驚かないよ」

 

反論が難しい。

 

「話がずれたけど、陛下は本気だと分かって貰えたね。その上でだが、不肖の娘ではあるが、よろしく願いたいと思っている」

 

「見返りに何を。生憎持ち合わせはほぼ無いもので」

 

「いや、不肖の娘ではあるが幸せを願っているのだよ。私や妻が用意してきた縁談を文字通り全部叩き潰した挙げ句、軍に入って勇名を鳴り響かせ、あの年齢になっても浮いた話の一つもなかったというのはね、一般的な貴族の娘としては不肖の娘扱いをされても仕方がないものなのは理解してくれると思う」

 

「年齢は聞いていないのでなんとも。まあ、そういわれると言うことは適齢は越えていると」

 

「そんな娘があそこまで真っ直ぐに好意を向ける相手が今後現れる可能性と、その身を散らす可能性、凌辱される可能性、どれが一番低いと思う」

 

「お相手探しですか」

 

「そういうわけで、序列云々はあとで考えるとしてもセレナを任せることは決めている。今回ばかりは見逃すつもりはない」

 

「その件なんだが私からも最低2つ、出来ればもう1つ条件がある」

 

「…ほぅ、これだけの条件以上を求めると」

 

「求めるさ。1つ、私の身体の精密検査。私はそもそもどんな存在なのか確定させないことには不安がありすぎる。2つ、艦の精密調査。理由は同じだ。この2つは最低条件だ。駄目ならなんとしてでも逃げ出させて貰う」

 

「まあ子供が出来ないとかがあると問題か。治療もまとめてセットで費用もこちらが出そう。艦の方も私の方からメーカーに調査させよう。希望のメーカーはあるかい?」

 

「質実剛健なメーカーが良いな。ああ、それと艦に手を加えたい。少し大がかりで、伝が無いと頼みにくい物でな」

 

「一応、聞いておこう」

 

「現在、ストラーダの一番の問題として超高速ドライブ、並びにハイパードライブが行えないことで集団活動が非常に困難だ。今回、帝都に訪れる際にもエスコート役を同乗させる形になってしまった。これを解消するために追加のエンジンを外部に取りつける形を考えているんだが、そっちの知識がないから全部外注しようかと」

 

「ふむ、基本航行が出来ないのは盲点だったな。軍部でも気付いていないだろう。分かった。そちらもまとめてメーカーに要望しておこう。予算は、メーカーも想定していないだろうな。1000、いや、1500はかかるかな?2000はいかないと考えておいて欲しい」

 

「了解した。それから出来ればの条件だが、2年待って欲しい」

 

「何故?」

 

「地球連邦宇宙軍の規則だな。MIAから2年でKIAになって軍歴抹消となる。それまでは原隊復帰を諦めるつもりはないよ、一応。スワンプマンだけど」

 

「オリジナルの可能性も十分にある。証明なんて誰にも出来ないんだ。そう卑下するものじゃない。婚姻は諦めよう、だが婚約はして貰う」

 

「そこが妥協点か。分かりました」

 

「うむ、互いに納得できてよかった」

 

ホールズ侯爵との話し合いはこれでOK。ストラーダの改装もなんとかなった。バツイチで婚約する羽目になるとは思いもしなかったがな。

 

「さっきも言ったけど、ダレインワルドとしてはクリス次第というだけだね。ただ、例の件もある。指名依頼を出すかもしれないので、その時は受けて貰えると助かる」

 

「艦隊戦から白兵戦までお任せを」

 

「あー、いや、白刃戦も考えておいて欲しい」

 

「白刃戦?」

 

「えっ、地球にはないのか。そこから説明が必要か。簡単に説明すると貴族は肉体を生命工学的に身体を強化していて、その能力と単分子ブレードを使用しての接近戦を得意とする白刃主義というものが存在していて、例の人物が」

 

「白刃主義だと。騎兵甲冑で周辺の被害を無視してやった方が良いのでは?」

 

「騎兵甲冑って、あの駆逐艦を落としていたパワーアーマーのことかい?確かにあの火力なら問題ないだろうけど、被害が許されない場所とかもあるからね。それに必要あるかな?」

 

「必要だと思っているのですが」

 

「いや、艦長はホールズ侯爵令嬢と格闘戦の模擬戦闘をしていただろう?確かホールズ侯爵令嬢は中々の遣り手だと聞いている。それに十分に戦えていたなら装備を整えればなんとかなると思うんだけど」

 

「セレナと戦えていた?タイキ艦長、それは事実かね」

 

「ええ、軽く手合わせ程度にですが」

 

それを聞いて何かを考え込むラウレンツ殿を不思議に思う。

 

「そう言えば艦内ボクシングで数十戦は戦っていたな。素でこれか」

 

「ああ、よくよく考えるとおかしいことに気付ける。ストレス発散のためにある程度殴られてるのに数十戦、確か怪我もほぼ無かったはず。艦長、もしかしてサイオニック能力者かい?」

 

「サイオニック能力?えー、コミックなんかに出てくる不思議な力だったか?」

 

「概ねはそれだね。それの身体強化系」

 

マジかよ。気功術でも使えてたのかよ。

 

「いや、心当たりはない。地球にもガミラスにも体系化された特殊能力というものはなかった。私の一族の男は昔からタフだったから、そういう遺伝だと思っていた」

 

「生憎、私はそれほど詳しいわけではないがウィルローズ子爵は多少は分かるのだったか」

 

「ええ、ですが我々の一族は大したことができなくなりました。精々が指先に火を出すとか、その程度なのだ」

 

そう言ってエルムドア殿が実際に火を出してくれた。

 

「感知する方もほぼ無くなったみたいで、故郷に残っている一族ならもっと知識もあるのだろうが、今すぐタイキ殿がサイオニック能力があるかどうかを判断するのも難しい」

 

「まあサイオニック能力者であるかどうかよりも正確な戦闘力を確認した方が良い。ちなみに得意な武器はあるかい?」

 

「使う機会はほぼないですが一応は流星剣と撃剣を」

 

「流星剣に撃剣?聞いたことが無いな。名前が違うのか?」

 

「地球でも珍しい部類ですし使い手なんてほぼいませんね。流星剣は剣の柄にロープを括り付けて投げたり振り回したりします。撃剣は投げナイフが一番近いかと」

 

「…独特だね」

 

「習得難度が高すぎたのと暗殺者がよく使っていたので根絶やしにされて廃れましたね。生き延びた達人級が再興する度に根絶やしにされてを繰り返して、銃器の誕生でそっちがメインになって細々とって感じです。たぶん、地球に使い手はいなくなりましたよ」

 

家の家系に流星剣使いがいて細々と繋いできたらしい。撃剣は従兄弟のサーカス団が細々と繋いできたらしい。なんか親戚、一族ごとに変な武術を継承してるんだよな。梁山泊かよ。

 

「少しはまともなものはないのか」

 

「そう言われてもなぁ。一応ハルバートも多少は」

 

「何故そう難度が高い物ばかりなんだ」

 

「剣も槍も斧も普通には使える。まあ二流程度には。流星剣や撃剣、ハルバートが一流なだけで。一番は銃火器だけど、あと格闘術」

 

微妙な空気になるが仕方ない。

 

「実際に見て貰うのが一番だと思う」

 

「では場を用意しよう」

 

部屋に入ってくるなり宣言する男性に、ラウレンツ殿達が立ち上がるので追従し、一礼する。

 

「ご予定よりお早いようですが、陛下」

 

「なに、ホールズ侯爵が早々に婚約を決めたからな、余の方も捩じ込んでおこうかとな。喜ぶが良いキャプテン・タイキ、やらかし歴に新たな1ページが加わっておったぞ」

 

やらかし歴が増えて、皇帝陛下が関与している。何が、いや、まさか

 

「ミミですか、えっ、かなり不味くないですか」

 

「うむ、理解が早いな。既に送り出した。詳細は、キャプテンは知っておいた方が良かろう」

 

マジでオレの運はどうなっているんだよ。ラウレンツ殿達も気まずそうにオレを見てくる。今の会話だけで内容を察したようだな。

 

「陛下、霊的、スピリチュアル、サイオニック?とにかくそういうものの浄化とかが出来る伝を紹介していただけないでしょうか」

 

「残念だが、効果があるものはグラッカン帝国には無いな。断言しておこう」

 

気休めに後で経でも詠もう。

 

「それでどうなっているので」

 

「それなのだが些か不味いことになった。これを見て欲しい」

 

映し出されるホロ映像で何が起こったのかを理解した。

 

「錯乱したんですね」

 

「ああ、今は鎮静剤で強引に眠らせてある。報告は聞いていた。最近は落ち着いているのも、男性相手出なければほぼ問題ないのも。だから興味を持っていたルシアーダに会わせたのだが」

 

ホロ映像に映し出されているミミに似ている子がルシアーダ皇女なのだろう。ミミはそれを見て混乱して錯乱したのだろう。

 

「それはそうなるでしょうよ。取り敢えず、ミミのことから済ませたいのですが、よろしいでしょうか」

 

「うむ、話は長くなる。席に着くと良い」

 

全員が席に着くと何処からともなくお茶がテーブルの上に現れる。

 

「まずは彼女、ミミの血筋だが妹、セレスティアの系譜で間違いない」

 

陛下の言葉に周りが苦笑を浮かべる。

 

「あー、艦長、セレスティア様は型破りな方でね、さっき話した冒険活劇の主人公のモデルとされていると言えばどういう方なのかは理解して貰えると思う」

 

うわぁ、またそのタイプの王族かよ。嫌そうな顔をしてしまい陛下に笑われる。

 

「キャプテンの運ならば出会うこともあろう。出来れば話を聞いてミミに関する情報を上げて欲しい」

 

「何時になるかは分かりませんが承知しました」

 

「よろしく頼む。それからターメーンコロニーに処理班を送り込んだ。しばらくした後に正常化されるだろう。軍の方にも少し問題があるようなので多少時間がかかるだろう」

 

「ああ、エルマの件がありましたね。やはりアレは異常でしたか」

 

セレナ大尉からも訓戒処分を受けたようだが、絶対に常習犯だったからな

 

「何かあったのかね?」

 

「軍との共同作戦中にエルマの艦が暴走して作戦のタイムスケジュールが多少遅れた。その分の補填は私の方でやったのだが、賠償を求められた。支払いの期限は二日、しかも日付が変わる直前の通達ですから丸1日もない悪質な物だった。作戦の指揮を取っていたセレナ大尉に直接確認して賠償自体は正当な物でしたが、限度一杯ギリギリまで絞ろうとしていましたし、口調が慣れたものだったので日頃から行っていて、直接ではないでしょうが懐が暖かくなる手があったんでしょうね」

 

「そんなことになっていたとは」

 

「そちらも合わせて処理する。どうも監獄の方にも手を出す必要がある」

 

「現状は把握しました。それでは、ミミの立場はどうなりますか」

 

「出来るだけ彼女の望みを叶えてやりたいと思っている。望むのであれば違法ではあるが記憶の処理も考えておるし、帝室に加えることも、今のままでキャプテンと共に過ごすのも構わないと思っている」

 

「ほぼ白紙で本人に選ばせると?」

 

「そのつもりだ。確認はキャプテンに任せる」

 

普通は帝室に引き取ると思うのだが、それだけ錯乱ぶりがヤバかったか。こちらに不利益なことはない。

 

「分かりました。数日のお時間をいただきます」

 

「それで構わない。では、キャプテンについてだ。ホールズ侯爵より見せられたであろう」

 

「カラクルム級ですね。ただし、私の知るものとは少し異なる」

 

「気付くか。そうだな、もう少し詳しく説明すると、若干大型化しており、艦橋部の砲が異なることだけは分かっている。性能は不明であり、他の艦は見当たらず艦内には搭乗者の跡は見つかっておらぬ。どう見る」

 

「他の艦が見つかっていない?カラクルム級以外も?」

 

「発見当時に当該惑星以外に星系内も調査したようだが発見されなかった。現在、再調査中だが報告は来ておらぬ」

 

「異常の一言ですね。それこそ私のようにいきなり現れたとしか言いようがない。それだと逆に何故カラクルム級が、と言う疑問が生まれる」

 

オレの場合は波動コア500個を同期させての自爆と言う莫大なエネルギーを発生させた。カラクルム級に、ガトランティスに同じようなことが出来るかと問われれば、否。

 

「そして恐らく、こいつは私の知るカラクルム級とは全くの別物だ。模倣艦、少なくとも性能は落ちているはずです」

 

「根拠は?」

 

「私の知るカラクルム級の生産方法はあのムービーでもありましたが、クローンのように一種のエネルギーフィールド内での成長です。サイズが小さいならともかく、大きくなることはありえない」

 

「生産物を変更できたかも知れないが?」

 

「それならば艦首部分、ここにあるはずの小型端末が無くなったのが重要です。ここにあった小型端末によって弾幕の形成、あるいは複数艦による決戦兵器の砲撃が行えます。これが無いのなら、多少固いだけの戦艦になります。それならば火炎直撃砲を持つメダルーサ級の方が脅威であると考えます。それが分からないガトランティスではない。戦闘用人造人間として産み出された奴らが武器の善し悪しが分からない訳がない」

 

「なるほど。実際に戦った者の所見は貴重だ。その上で問う、危険度をどう見る」

 

「現時点の情報では低いと言わざるを得ない。ただし、それ以外の脅威の可能性がある」

 

「そうか。やはりそちらの問題があるか」

 

「ええ、だからこそ波動コアと次元波動理論を駆使して欲しいのですが」

 

「はっきり言おう、波動エンジン搭載艦はともかく波動砲搭載艦の大量配備は出来ない。というか、本当にアレを1万隻も配備するつもりだったのか」

 

「少なくとも芹沢参謀は本気でしたね。駆逐艦クラスにも搭載するぐらいですし、無人艦隊構想と波動砲艦隊構想を全力で推し進めていました。本気でそれが地球のためになると考えていました。私は両方消極的反対の立場でしたけど」

 

「それで滅びたらどうする」

 

「その前に私は死にますよ。未来のための礎となって」

 

「実際に行っている本人から言われると納得しか出来んな。ますます帝国に組み入れたいと思う」

 

…グラッカン帝国にはオレよりも帝室に組み込みたい者はいるはずなのにこの推し方は異常だな。ひも付きで無いこと以外にもあるな。いや、ここまで話してあるんだ。いるのを確認したんだな。

 

「…白ですか。そして黒をお求めで」

 

そう尋ねた途端、皇帝陛下から表情が抜け落ちた。そのまま指でテーブルを叩きながら考えを走らせている。その行動で全員が気付く。

 

「…組み込まれるつもりは」

 

「戻れないのですから家賃分は働くつもりです。ただ、単独では無理です。十分な援護が必要です」

 

「提供された分以上の艦隊を用意し、指揮権を預けることになる。対処せよ。必要な地位も権力も与える。皆もそのつもりで事に当たれ」

 

「期限は」

 

「5年以内だ。航跡が安定せぬ。2年は大丈夫のはずだが変化があれば追って伝える」

 

「持てる限りの力で対処します」

 

「補佐として機械知性が傍に着きたいと申しておる。ホールズ侯爵、差配は任せる」

 

「機械知性が自ら言い出したのですか?」

 

「彼女たちにとってもそれだけ魅力的なのだろう。キャプテンのことを面白いと思ったのも事実だ」

 

ようやく皇帝陛下の顔に表情が戻る。公人としての顔と私人としての顔を分かりやすく出して頂いていたのがよく分かる。

 

「さて、そろそろ準備も整ったようだ。キャプテンの腕前を披露して貰うとしよう」

 

話しの裏で白刃戦の準備を整えていたようだ。恐らく、女性陣の方もキリが良いのだろう。久しぶりだが、身体は覚えているかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に身体強化を受けていないのか」

 

「受けた覚えは無いし、感覚は昔と同じだな」

 

片ひざを着く兄さまとそれを見下ろすタイキに驚愕する。あれでも兄さまは白刃主義の貴族と同レベルの腕前なのだ。それを変わっている剣術とは言え、物の10分程で兄さまの動きに慣れて圧倒するとは思わなかった。

 

「流星剣、ネタだと思っていたが、ここまで脅威だったとは」

 

「今は慣れていないだけですぐに対処できるようになるでしょう」

 

「実践なら二度と慣れることのない身体にされているだろうがな」

 

いつもは見せないちょっと悪っぽい笑みに見惚れる。あれで結構善性で怠惰であるように見せかけて精力的に動いている。私達に知られないように裏で色々と調べ物をしたり、身体を鍛えていたりしている。それを裏付けるようにホロムービーで紹介され、それを否定しなかった。ホロムービーでは色々な姿を見せた。それに魅了されてしまった。

 

だからタイキを帝国に取り込むために婚姻を使おうとしてその候補に選ばれたのはラッキーだと思う。まあ、ミミが帝室の血統なのはヤバいと思うけど。今頃ターメーンコロニーは粛清の嵐が吹き荒れてるでしょうね。

 

そんなことを考えていたらセレナ大尉が相手を始めて、いきなり剣を全部適当に投げつけて接近して投げ飛ばして顔の横を踏み抜く。綺麗に決まったわね。

 

地団駄を踏んで再戦を望み、今度も切り結ぶようなことはせずに、剣に付いたロープを首に巻き付けられて投げる一歩手前で止まる。アレは首をへし折られていてもおかしくない。

 

更に泣きの一戦、今度はハルバードに持ち変えたことから切り結ぶのかと思えば、いなして反らして空振った剣を踏みつけて隠し持っていた短剣を首に添える。

 

遊んでいると思ったんだけど真面目な顔をするってことは意味があったのだろう。

 

「負けて悔しいって思う軍人は若い。負けるってことの意味を理解していないからな。負けるってことはな、見知った顔が一気に減るってことだ。アレは、結構来るものがある」

 

あっ、ヘビーな話だ。

 

「ガミラス戦役の初期、損耗率は未帰還だけでも8割前後人員の損耗率は9割強、無傷の奴を探す方が早い状況だ。悔しいなんて思う余裕なんてない。生き残れたという安堵もない。ただ、負けたな、それしか浮かばん。ある程度落ち着いたら艦や機体の状態を確かめて、顔見知りがどれだけ減ったかを確認して、で寝る。何処かで夢であればと思いながら戦前の頃を思い出しながら。そして目覚めて絶望する。それでも諦めることすら許されずに次に備えるか、諦めて銃口を咥えるか。負けるってのは、まあ、惨敗どころか全滅レベルまで行くとこうなる。で、一回でもこうなると戦闘行為に高揚感なんて物はなくなる。単純作業だ。流れてくる問題を素早く解決する。楽しむ、なんて考えは一切無くなる。真面目に手合わせを頼んだ時点で私の中で相手に合わせるなんて言葉はなくなる。負けない、そのために出来る全てを行う」

 

考え方が老成している。いや、アレだけの激戦を潜り抜ければおかしくないのか。

 

「貴族の身体改造による力の差は理解できている。まともに打ち合えば3合が限界だ。その後、握力が戻るまで無手になるなら打ち合うなんて選択肢はない。体力の差は正確には分からないが呼吸の乱れ方、その後の回復力で見ればこれも圧倒的に劣る。長期戦もあまり選択肢には上がらない。何より、流星剣と撃剣は邪道の剣、迷い惑わせ隙を付く剣だ。あまり見せびらかす物でもない。見せて問題ないのは格闘術とハルバード、白兵術。ここまで説明すれば理解できるだろう?」

 

2回目のロープは際どいけど、それ以外はその通りだと思う。

 

「さて、今の話を聞いて貰った上でだ」

 

タイキが用意されていた様々な形の剣を、同じく用意されていた様々な形のホルダーやロープを使って、いつも着ているコートに装着していく。最後に小さめのハルバードを両手に1本ずつ持って構える。

 

「一度だけ見せてやる。何度も歴史の流れを変えてきた流星剣を」

 

「いやいや、歴史を変えてきたって」

 

「流星剣、暗殺術で王族を殺しまくって王朝を2、3滅ぼしてるから。粛清で十数回滅ぼされかけてるけど。撃剣も有名な使い手は暗殺者」

 

「えっ、なんでそんなの習得してるんですか」

 

「なんか代々受け継いでる。家系図を追いかけても何処で入ってきたのか不明」

 

なにそれこわ。

 

「さて、やるか、やらないか」

 

タイキの問いに剣を構えるセレナ大尉。勝負は一瞬で着いた。気合いを入れて踏み込んだセレナ大尉が転んだのだ。顔面から。何が起こったのか分からなかったが、よく見ればセレナ大尉の足が不自然に閉じられている。

 

「流星剣、その真髄は剣ではなく、剣を操るヒモを自在に動かすことにある。名前が既に相手を惑わす武器なんだよ」

 

両手を分かりやすく振るうと僅かにだが糸が見える。ようやく顔を手で覆い隠すということは足だけでなく腕も封じられた結果、顔面から床に倒れる結果になったと。あれだけ思いっきり気合いを入れて、手のひらで転がされれば恥ずか死ぬわね。剣を大量に身に付けたのも全部囮なんだものね。しかも家族にまで見られている。立ち上がれるかしら?

 

 

 

 

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