ギルドの前に馬車を停め、荷台に乗っている相棒に声をかける。
「着いたぜ、相棒」
「…そうか」
「そうだ。報告、よろしく。馬車を戻してくるよ」
「分かった」
ギルドに入っていく相棒を見送って馬車を預けに馴染みの商会に向ける。厩戸に馬と馬車を預けて、お互いにペーペーの頃からの付き合いの女商人に話しかける。
「うっす、儲かりまっか?」
「ぼちぼちやな。スクロールなら買うで」
「火球なら余ってるぞ。5金と羊皮紙」
「4金と5銀と羊皮紙」
「4金と5銀と羊皮紙とインク」
「4金と5銀と羊皮紙と3羽ペン」
「2に対して9金と2羊皮紙とインク」
「8つ貰おうかな」
「毎度」
背嚢からスクロール8巻き取り出して代金を受けとる。
「そっちはどないな感じ?」
「相変わらずゴブリンだな。つまりいつも通りだな」
「都の方じゃあ軍勢を集めてるそうやけど?」
「いつものことだろう?取り返してどっかが取られる。それの繰り返しだ。根本を叩かねえとな」
そのまま情報交換を続けていると相棒が姿を見せる。
「ゴブリンだ」
「急ぎか?」
「急ぎだ。新人が巣に向かっている」
頭が痛くなる。わざわざ受付嬢さんが相棒に頼んだってことは完全な素人ってことだ。
「時間と場所」
「今朝一番、西の開拓村」
ルーラのポイントは無い。馬車で急ぐしかないな。
「スタミナポーションを3つだ」
「はいな」
代金を払って1本を相棒に渡し、1本を飲み、残りの1本を馬に与えに向かう。あまり無理はさせたくないんだがな。
「術はどれだけ残っている」
「18ポイント。下級4回か、中級1回に下級1回だ」
「御者をやる。少しでも寝て術の回数を回復させろ」
戻したばかりの馬車と馬を繋ぎ直し、馬車の方で背嚢を枕がわりにして寝転がる。時間的に間に合わんだろうなと思いながらも眠りにつく。
「起きろ」
相棒の声を聞いてすぐに起き上がる。
「場所は確認してある。急ぐぞ」
「おう、術は下級2回分は回復したな。判断は任せる」
「行くぞ」
馬車を預ける話も通っていると判断して、相棒を追いかける。目的の洞窟を目指しながらも警戒を怠らず、見かけたゴブリンに短剣を投げつけて仕留めておく。
「1、装備は棍棒。物見、にしては一匹だけ。偶発的遭遇だな」
「…統率が行き届いていない。どちらだと思う」
「巣の入り口を見るまでは分からないな。行こう」
棍棒を腰に差して先を急ぐ。巣と思われる洞窟を見つけ、足跡を確認する。
「一番新しいのは新人だな。4つ」
「情報通りだ。ゴブリンは」
「13、15か?ってことは30前後の群れだな。シャーマンかホブが居てもおかしくない。遭遇していたら死んでいるな」
「…術は治療をメインに動け」
「ああ、了解した。フォーメーションはいつも通りだな」
「そうだ」
「行こう」
相棒が前、俺が後ろで洞窟に侵入する。松明とランプ、両方を使って視界を確保して奥へと進んでいく。
「横穴だ、足跡が新しい。襲われたな」
「ちっ、生き残ってれば良いな」
焦りはあるが、それでも速度は上げない。見落として奇襲を受けるわけにはいかない。
そして、しばらく進んだところで逃げてきている新人二人とゴブリンの姿を確認する。同時に相棒が短剣を投げつけて走り出す。
俺は新人二人の状態を確認する。負傷している女魔法使いとそれに肩を貸している女神官。傷は癒してあるようだが、解毒剤は使っていないのだろう。俺が居なければ死んでいたな。
「キアリー、そんでホイミ」
解毒と回復で2回。寝た分が無くなったな。浅かった呼吸が普通になり、意識を失った女魔法使いの状態を再度確認して危険な状態を脱したと判断する。
「彼女を連れて、戻れ、いや、着いてきた方が安全か」
ポーチから治癒の水薬の予備を相棒に渡して先行させる。女魔法使いを背中に担ぎ、ロープで固定する。
「良いか、オレの指示には絶対に従うこと。質問は無事に戻れた時にすること」
新しい松明を用意して女神官に渡す。
「ゴブリンがいても声を出すな。全部こちらで対処する」
銀等級の冒険者証はこういう時にも役に立つ。新人の説得には一発だ。警戒しながら相棒の後を追っていく。ゴブリンの死体の他に少年の残骸が落ちている。女神官が口元を押さえて吐き気を我慢する。
「吐くなよ。臭いに釣られてゴブリンが来るぞ」
残骸から冒険者証を拾い上げる。
「大規模な討伐戦でもない限り、回収されるのはこれだけだ。この回収すらされずに消えることも多々ある。これが冒険者に一番多い末路だ」
女神官によく見えるように血塗れの冒険者証を見せつけた後に握らせる。現実を見せることが新人には一番良い。
そのまま先に進めば奥の方から相棒が走ってくる音が聞こえる。
「後ろに走る心構えをしておけ」
相棒の要請に応える準備のために松明を手放しておく。暗がりから相棒の声が聞こえる。
「回収した、直線、全力の火だ!」
同時にベギラマの準備を始める。残っている魔法力の全てを注ぎ込む。
「相棒と一緒に下がれ!」
女武道家を担いだ相棒に道を譲り、追ってきていたゴブリンの群れにベギラマを解き放つ。ベギラゴンとまではいかないが、それでも一直線にいるゴブリンの集団程度なら問題なく屠れる。
「たぶん、13だ。他は」
「ホブが1、ゴブリンが5、後は不明だ」
「炎の毒気のこともある。入り口まで退くぞ」
筋力増強の水薬を飲み、相棒から女武道家を受け取って女神官を先頭にして洞窟の入り口を目指す。酷い赤字に涙が出そうだ。まあ、スクロールを売ればすぐに取り返せる程度だがな。
口減らしとは言え、新人を使い潰すのはどうなんだよと思うが、個人でやれることには限界がある。上が何か、新人教育をやると言うのならある程度教官の真似事だったりをしても良い。
今は、この三人が潰れなかったらある程度までは一党を組んで仕込んでやる程度だな。
洞窟を飛び出し、女魔法使いと女武道家を降ろして投げナイフとショートソードを構える。相棒はショートソードとバックラーを構える。
洞窟から飛び出してきたゴブリンに投げナイフを投擲し、残ったのを相棒がショートソードとバックラーで仕留める。
「3、ナイフは打ち止めだ」
「2だ。ホブが来る」
洞窟から飛び出してきたホブに相棒が正面から、オレが右側から攻める。ホブの大振りを相棒は身を低くして躱し、ショートソードで軸足を切り着ける。体勢を崩したところに、オレがショートソードを首に叩き込んで切り落とす。バカの相手は楽で良い。
「状況終了。手当ての方はやっておくから後始末は任せるぞ。ああ、この子も連れていって後始末をさせろ」
「…分かった」
「冒険者を続けるならやっておいた方がいい。これから何度もやる必要が出てくる」
それだけを女神官に告げて再び洞窟に潜る二人を見送る。未だに意識を取り戻さない女魔法使いと女武道家から離れたところに腰を下ろしてしばらく待機する。急に背後から頭部に衝撃を受けるが予想通りだ。
「バカの相手は楽で良い。異変を感じて逃げれば良いものを目の前の餌に食らいつくんだからな」
衝撃と同時に抜き放った剣戟がゴブリンを両断する。そのまま二人に襲い掛かろうとしていた4匹のゴブリンを切り捨てる。
「これで全部だろうな。ったく、余計な魔法力を使わせやがって。スカラはそんなに持続力が無いってのによ」
ホイミを頭にかけて痛みをとっておく。魔法力はまだまだ余っているが、使いすぎはよくない。大魔導士ではあったが、魔法だけに頼ればすぐに死が訪れる。神々に気づかれるわけにはいかない。オレは駒の一つ。相棒という変わり駒の近くにいるちょっと魔法が使える程度の魔法戦士でいい。時折見られる感覚があるが、それだけである以上間違ってはいないはずだ。
前世では満足するまで自分勝手に生きたんだ。今世では大人しくするのも悪くない。それに相棒を放っておけない。
相棒を一人にしたら、絶対ゴブリンに殺されて行方知れずで終わる。それで良いと心の何処かで思ってしまっている。それとは別に師に叩き込まれた心構えと技が生かしている状態だ。
死んだら受付嬢さんやあの牧場にいる幼馴染みの女の子が悲しむだろうな。なんだかんだで付き合い長いし、世話にもなってるから無下にできん。
そんなことを考えていたら相棒が戻ってくる。うむ、ちゃんと女神官もゴブリンの餓鬼を殺してきたようだな。これが出来ないとこの先生きていけないからな。
村まで女武道家と女魔法使いを担いで戻り、預けていた馬車の荷台に寝かせる。そのまま女神官も乗り込み、御者席に相棒と共に腰かける。街に着くまで会話は無く静かな物だった。
ギルドに辿り着いても二人は意識を取り戻さなかったので部屋を借りてやることにする。
「受付嬢さん、すまないけど大部屋に3人をよろしく」
「はい。3人、ですか」
「間に合わなかった。こっちの2人もギリギリだな。冒険者として活動を続けるかは不明だ。とりあえず、2日分の部屋代と飯代。明後日の朝に今後について話し合うから会議室の予約も」
ポケットから金貨を取り出して受付嬢さんに渡すと部屋の準備に走ってくれる。
「それと明日は休みだから相棒に仕事を回さないように。装備の調達もさせないように触れ回っておいて」
これぐらいしないと相棒は休まないからな。
「それは、困る」
「牧場の仕事を手伝ってやれ」
「むっ……分かった」
「と言うわけで明後日の朝に集合だ。それから装備を整えて近場の物があればやる。無ければ流れで」
「…そうか」
「新人を運んだら解散だ。しっかり休めよ」
新人3人を部屋に運んで相棒と解散する。馬車を再び戻して、ギルドの食堂に女商人と出向く。
「遅くまで待たせて悪かったな」
「いえいえ、これぐらいはしてもバチが当たらない程度には儲けさせて貰ってますから」
「まっ、それで良いなら良いんだけどな。とりあえずエールとチーズ。出来るだけ古い奴な」
「私はエールと芋の素揚げで」
空いている席に座って厨房に注文を大声で通す。すぐにやってきたエールのジョッキを打ち合わせる。
「今日もおつかれさん」
「お疲れ様です」
エールで口を湿らせてから世界情勢に関しての話を聞かせて貰う。場合によってはルーラで女商人と商品を運ぶこともあるからな。
「どこもかしこも麦の成長が悪いが、芋は良し、豆も良し」
「生活苦とまでは行きませんね。むしろ芋と豆が豊作なら肉類も多少は落ちます。羊皮紙、買いだめしておきますか?」
「もちろん。革なんてちゃんと処理しとけば数年は保つからな」
「では押さえておきます。それと東の鉄の鉱山の一つが落とされたそうなので今の内に押さえておきたいので」
「明日の朝一で良いなら里まで送ってやるよ。四日後の朝一に荷物ごと拾いに行ってやる」
「ありがとうございます。あっ、ミードと炙り肉を追加で」
「こっちはエールとスープとパンとチーズの盛り合わせ」
予定を詰めれば後は飯を優先。昔からこれだ。そんでもって、家に戻ってベッドを共にする。明日は朝一からだからやることはせずにベッドを共にするだけだ。長い付き合いだ。お互いに話さなくてもそれが当たり前になった。きっかけは思い出したくもないがな。
全く厳しい世界だよ。
大魔導士
いつもゴブリンゴブリン言ってる変な奴の隣にいる別の意味で変な銀等級冒険者。
野伏と斥候と軽戦士の装備を身に纏いながら魔法まで扱い、商人顔負けの算術と話術を嗜み、駆け出しの詩人が恥ずかしさで逃げ出すほどの知識と独特な楽器を操り、貴族の礼儀作法や政治にも詳しいよく分からない奴。
冒険者にしては金を持っており、街中に家を持っており、時折金貸しのようなこともやっている。
駆け出しの頃からの付き合いの女商人とは共依存状態。昔はかなり酷かったが、現在は小康状態。それでも女商人の危機には他の全てを投げ捨ててでも駆けつける。
この世界を見下ろす存在を感知しており、駒であることを受け入れているが破滅的な賽子の音には敏感で、結果を表示させないように暴れることもある。