「会長、彼女はどうしたんですか」
「貴方に任せるわ」
そう言って資料を渡してきて仕事に戻る会長を見て困惑している一度だけ顔を合わせた少女を会長室の隣の貴賓室に案内する。
「気にしなくて良いよ、会長はいつもあんな感じだから。一度顔を合わせただけだから覚えているかは分からんが改めて、アーク・ラインフォルトだ。資料を読むから少しだけ待ってくれ、ティータ・ラッセル」
会長に渡された資料にざっと目を通す。ZCFと提携、ああ、エンジン周りか。代わりにこっちは人型工作機械?ギーガーの技術を寄越せってことか。まあ別に良いけど。若く優秀な技師に経験を積ませるぅ?喧嘩売ってるのか。ダメだ、会長に確認する必要がある。スタッグフォンを開くとメールが届いており、見てみれば書類外でデカイ釘は刺してあると。なるほどね、なら良いや。
「OK、理解した。取り敢えずは第5開発所預かりだな。主な商品はライダーシステム、アルバトロス、ペリカン、スコーピオン。あとは会長が面倒だと思った物だな。導力停止現象の際に攻め込んだ化石燃料エンジンの戦車とかだな」
「あの時の…」
「自分の作品がどれだけ周囲を傷つけるかを。そしてそれを知った上で自分はどうしたいのかを。ちなみにオレは直接的に14人、間接的に4000人位は殺してるかな。爺ちゃんも間接的に十万単位で殺してるし、死の商人って意味なら会長、母さんも万単位、ラッセル博士、ティータのお爺さんも十万単位で殺してる。技術者ってそういう職業なんだってことをこっちに居る間に勉強していくと良い」
技術者なら絶対に通る道だ。目の前の少女はどういう道を選ぶだろうか。目を反らすのか、道を断つのか、気にしないのか、受け止めて壊れるのか。
「取り敢えずは営業に連れ回すからスーツとか小物を揃えるところ、いや、待てよ、住居とかは聞いているか?」
「いえ、全部案内の人に任せるって」
「そこからかよ!宿を長期で取る、よりは工房の居住施設の方が、レンと仲が悪かったりする?」
「レンちゃんが居るんですか!」
「オレ、レンの保護者代わりだからな。最近はクロスベルの方にいるがちょくちょく帰ってくるぞ。問題なさそうだし隣の部屋を用意する。あと、レンにも連絡は入れておく。いや、サプライズで帰ってこいとだけ言うか」
たまにはいたずら返しをしても良いだろう。
「学生生活は楽しんでるか、リィン」
「色々と濃いのが揃ってるからね。おっ、かかった!」
リィンの竿が大きくしなり、ラインが右へ左へと暴れるので自分の竿を挙げて観戦する。
「クラスメイトが一番濃いだろうな。まあ、一番の驚きはハーシェル先輩だな。裏は一切無かった」
「マジで?最低でも貴種だと思ってたんだけど。網取って網」
用意しておいた網を構えて最後の引きに合わせて掬い上げる。
「良い大きさだ。レコードの更新には至らないが、自慢できるサイズだ。マジで何も出なかった。ライサンダー教官とロジーヌは聖杯騎士団守護騎士と従騎士ってのは判明した」
メジャーを片付けながらカメラを準備して構える。リィンもそれに合わせて顔の横に魚が来るように持ち上げる。
「ロジーヌはそうだと思ってたけど、ライサンダー教官が守護騎士?」
「しかも序列2位の匣使い。なんでトールズにいるのかは調査中。守護騎士が出張ってきている時点で厄介事だな」
写真を撮り終え、食用の魚なので絞めておく。
「オレ関連?」
「長期潜入だから別口だな。ついでで調査はされているだろうがな」
「ああ、発覚したのってヴァリマール関連からか」
「そういうこと。亜空間機雷に引っ掛かっていた。空間転移対策が効くとは思っていなかったな」
クーラーボックスに魚を放り込んでキャストし直す。
「話は変わるんだが、こっちの方はどうよ?」
小指を立てて聞いてみる。
「こんな身体であんな事情を持ってるのに作れるわけないだろう。そっちこそどうなんだよ」
「こんなちゃらんぽらんな性格であんな事情持ってるのに作れるわけないだろうが」
二人揃って溜め息をつく。
「いや、シュバルツァー家を継ぐなら嫁取りは必須だろう」
「そうだけど、身体はともかく事情を片付けないことには…」
「身体はなんとかしてやる。事情は一緒に乗り越えるだけだろう。で、気になる奴ぐらいはいるだろう?」
「…デュバリィさん」
「えっ、ちょっと意外なんだが。というか、付き合いなんてほぼないだろう?」
「いや、実はちょくちょく会ってる。最初は物陰から親の仇を見るような目で見られていて、アリアンロードさんに目をかけられているのが気に食わないってハッキリ言われて、結構本気で戦うことになって、勝つには勝ったんだけど、定期的にやってきて手合わせをすることに。それで手合わせは朝練の時だから終わった後にお気に入りの喫茶店で朝食を一緒に取って、その時に軽く話すぐらいだけど、ほら、オレってどうしても事情の関係で一歩引いていたり、行動が一手遅れるだろう?それを是正して引っ張るなり押すなりして前へ前へと連れていってくれるところに惹かれて。あと、裏の事情も知ってるから。そういうアークは?」
「これと言って特定の人はいないかな。オレのストッパーになれる奴か、煉獄に繋がる崖を一緒に飛び越せそうな奴、強いて挙げるならシャーリィかな。道連れにしても罪悪感が沸かん。まあ、向こう見ずな所があるから心配も勝り、将来性の片鱗も見えていて期待もありってところかな。あと、裏の事情も知ってるから」
また二人揃って溜め息をつく。
「難儀にも程があるよね」
「だなぁ。もうちょっと負担を分散してくれても良いんじゃないかと女神様に文句を言ってやりたい。まあ、一族の借金だと思って返済するけどよ」
「一族の借金か、良い表現だね。親子で返済してるけど辛い」
「こっちは一人で、親父は散財してるけどな。絶対更正させて仕事漬けにしてやる」
「自分で仕事を増やしておいてよく言うよ」
「忙しいけど楽しんでいるからなぁ。あと、金稼ぎ」
「お疲れ様です。ところでエリゼから帝都のシルバニアショップのレンタルジオラマスペースに修羅場似愛家族ってのがあったって聞いたんだけど」
「それは知らん。オレは抗争編VS覇狼鬼帝率いる燦酈雄組は作ってるがあとはノータッチだ。同類が現れただけだろう」
「嫌な同類だなぁ」
「一人、面倒を見て貰いたい人物がいる」
オズボーン宰相に呼び出されたと思ったら銀髪の少女を紹介される。
「オズボーン宰相、オレ、最近あっちこっちで別の少女の世話をしているのを見られてロリコン扱いされているのですが」
「一人増えても問題ないだろう。私が紹介したのもこの子を含めて二人だけだ。私の責任ではない」
事実だけに反論できない。とは言え文句だけは言っておく。じゃないとさらに増やされそうだ。
「分かりましたよ。取り敢えず予算とどんな面倒を見ろと?あと、リィンが気になってる女性の写真と簡単なプロフィール、惹かれた部分をまとめた物です」
この前の休暇中に聞き出したことを書き記した書類を提出する。
「彼女は最新ロットのOZシリーズだ。製造されたばかりで知識のインストールは出来ているが経験が足りない。いずれはリィンの監視役として側につく予定だ。資料は確かに預かった」
「監視は表向き、裏向き?」
「表向きだ。護衛という体で監視も行う」
「ということはヴァリマールの公開後ですか」
「そうなる。整備の方はどうなっている」
「ガタガタです。こう、戦場跡に残された錆びだらけの一世代前の戦車を整備している気分です。現行機を引っ張ってきてフルカスタムする方が楽なんですけど、核部分とエンジンが解析しきれない状態です。自己修復機能も調子が悪いので何時になったらフルスペックを発揮できるかは未知数です」
「ガワに問題は?」
「そっちは全部新造しました。見た目だけは立派ですよ。エンジンも立ち上がりが遅いってだけで最大出力にも問題はありません。ですが、人間で言う血管と神経がボロボロで伝達速度に難があります。本人が先読みでなんとか対応していますが実戦は少し怖いですね」
「式典なら問題はないな」
「ええ、問題ありません。打ち合わせを行っておけばそれに合わせて振る舞うぐらいは出来ます。夏ですか?」
「その予定だ。ふむ、マントを用意すべきか」
「ヴァリマールにですか?デザインはどのように、それから生地はどうしましょう?」
「服飾関連にも伝手があるのか」
「はい、自前の工房があります」
「では礼服もまとめて依頼しよう。デザインは宮廷作法に準じていれば好きにして構わない」
「では一週間で何点かデザイン画を用意しますのでその中からお選びください」
「いや、それはリィンに任せてみよう。センスによってはそちらも鍛える必要がある」
「まずい奴も混ぜておきますか」
「…1点ずつ、別の理由で混ぜて確認するように。選んだ場合は修正を」
「承りました」
「うむ。話は戻るが彼女のことだ。一般常識を教えて、学生生活を送れるようにして欲しい」
「学生生活を送ったことのない一逸人が何を教えろと?」
「……」
「……」
「では任せた」
逃げたか。まあ、宰相も一逸人だからなぁ。
「まあ、なんとかしますよ。ほったらかしにして悪かったな。オレはアーク・ラインフォルトだ。肩書きは多すぎるから、ラインフォルトグループのお偉いさんで開発者、リィン・シュバルツァーの親友、オズボーン宰相の小間使いの3つを覚えておいてくれれば何れかに一致する。リィンとつるむなら長い付き合いになるだろうからよろしく」
「OZ74、アルティナ・オライオンです」
「取り敢えず、OZは名乗らない方がいいな。それと、よろしくと言われたらよろしくと返しておけ。余計な敵を作らなくてすむ。あと、貴族相手だとパターンも変わってくる。見分け方も覚えた方が良いな。リィンの側に付くなら政治面の経験も必要になってくる。これは忙しくなるな」
アルティナが目を白黒させている。混乱しているようだが一気に情報を詰め込んでパンクさせてやる。
「そうなると芸術品の審美眼と知識も必要になるし、乗馬とダンスも出来ないと不味いな。それに合わせた乗馬服にドレスに小物、それらに加えて流行の情報収集のやり方。騎神の知識と簡単な整備のやり方、おっとバイクも必須だな。まあ、ミニバイクを用意するか。それから楽器も扱えた方が良いな。それにお茶の知識も必要だったな」
「…それは、本当に必要なのですか?」
「貴族の付き人なら深い浅いは別にして最低ラインは必須だな。帝国執事検定、帝国メイド検定5級がこのラインだから。ねえ、宰相」
「うむ、貴族も幼い頃から成人するまでに最低限押さえることになる。恥をかけば家名を傷つけることになるからな」
「安心しろ、これでも執事検定準1級持ちだ。先程上げた全てに精通している。リィンの隣に立っても問題ない淑女に育ててやろう」
よくよく考えれば簡単なことだった。メイドとして仕上げれば良いだけだったな。よぉし、頑張るか。取り敢えず一番最初にすることは決まっている。
「服を買いにいくぞ。痴女じゃあるまいし、少女に着せる服じゃねえぞ。ミリアムの時にも文句を言ったからコートが付いているが、ボディスーツを止めろってのが分からねえのかよ」
「アレが理解するわけが無かろう。機能性にしか目が行っていない。それに予算の無駄だと思っているだろう」
「これだから頭の固い糞ジジイは嫌いなんだよ。予算ぐらいちょっと頑張れば余裕で作れるだろうが」
「そんな技術者はお前だけだ。普通は金食い虫に見られながら予算内で開発を行うものだ。借金もせずに自分で確保する者など片手で数える程だろう」
「甘えにしか感じないんですけどね。良い大人なんですから、自分の食い扶持ぐらい自分で稼がないと」
「お前は稼ぎすぎだがな。下手な貴族どころか侯爵並の税金を個人で納めているのは後にも先にもお前だけだろう。グループ本社よりも税金を納める社員など聞いたことがないぞ」
「稼ぎの殆どをヴァリマールの改修に持っていかれましたけどね」
オズボーン宰相が頭の中で計算して視線を反らした。ええ、信じられないような額をお子さんに貢いでいる状態です。なので何らかのコネを下さい。
「アークさんのロリコン」
いつものお茶会でエリゼに汚物を見るような目で見られるがそれで喜ぶような感性はしていない。
「事実無根だ。いや、外から見るとそう見られても仕方ないのは分かる。だが、レン以外は仕事の都合上だぞ。レンも妹みたいなものだし、断じてロリコンではない」
オレの両隣にいるメイド服を着たレンとアルティナとティータに視線を向けてから呟く。
「メイド好きの方でしたか」
「いや、それも誤解だ。アルティナに求められるスキルがメイドだったからメイド服を着せているだけで他意はない。レンは悪ノリでティータは巻き込まれただけだ。まあ、気になる男がいるみたいだからアピールポイントを増やそうと考えてもいるみたいだが」
「あら、こんなに可愛い3人のメイドに傅かれて嬉しくないのかしら」
レンがからかう様に煽ってくるが何を言っているんだと思う。
「衣装自体は似合っていると思うがレン自身の魅力を殺してまで属性を付与するのは間違いだな。お前の魅力は猫のように縛られない自由さだと思っているからな。職業の制服は似合わん。学生服なら似合うだろうが」
何故かレンではなくティータが顔を赤らめる。レンも固まっている。うん?口説いているように聞こえたか。いかん、ここから巻き返す方法は、オズボーン宰相に習ったこれでどうだ。
「逆にエリゼは型に嵌めた方が輝く。その型も少し大きめに、多少の動きが取れる程度の物だ。決められた役割の中で更に上を目指そうとする、上を目指そうと歩き続けれる姿は魅力的だ。ミルディーヌはがんばり屋であるのが良いところではあるんだが、まだ蕾だな。少し肩の力を抜いた方が良い。お前が思ってるよりも世界は広い。それを理解させてくれる人に出会った時に蕾は花開くだろう。それを見れるのが楽しみだ。殿下も同じく蕾です。ですが、ミルディーヌとは異なり、足りないものがあります。余計なことを言うと余計に花開くのが遅れそうなので一言だけ。貴女様はアルノールなのです。それを真の意味で理解した時こそ帝国の至宝は真の輝きを放つことになるでしょう。ティータはまだ短い付き合いだが、それでも技術者として優秀なのが分かる。本人もそれを楽しんでいる。楽しそうに仕事をする姿は好感が持てる。それが同じ技術者なら尚更な。まあ、少し独り善がりな部分もあるが、それは経験の差だな。子供っぽいと言われるかもしれないが、オレはそれを守ってやりたいと思う。アルティナは純粋な可能性の塊だな。知識は十分にあるからこそ少しの経験で一気に成長する。器の小さい奴らには脅威に見えるのだろうが器の大きな者達にすればそれが可愛く見える。いずれはリィンの隣に立つのだから成長の余地を残してあいつにも共感して貰いたい気持ちと教えられる全てを教えたい欲で結構悩む。ただ純粋すぎて嘘を見抜けないのがなぁ。民明書房の本を本当だと思うのはちょっと心配」
食らえ、全員の評価の垂れ流しによる情報量と質の波に溺れろ!特にミルディーヌと殿下。これからの舞台に立つには覚悟と能力が足りていないからな。自覚してくれると盤面整理に役立つんだよ。
「…女誑しですか」
経験が全く足りないアルティナには効果が薄かったか。それでも他は止めれたので問題ない。仕切り直すために戦略的撤退を行ってお茶を入れ直しにいく。
「人聞きの悪いことを言うな、アルティナ。メイドとしては減点だぞ。それと帝国男子、紳士にとっては普通だな。これが出来ないと社交なんて無理だぞ。ちなみにこれに関してはオズボーン宰相に師事してる。今は亡き奥方に叩き込まれたそうだ」
愛妻家だからなぁ。黒さえ居なければオズボーン宰相もリィンの奴も幸せに暮らしていたはずなのにな。その場合、アルティナは産まれてないのか。不憫な奴だ。ちょっとだけ優しくしてやろう。
「アランドール大尉、いきなり帝都まで同行しろとのことですが何かあったのですか?」
授業が終わり、明日の自由行動日の予定を確認するために旧校舎にあるアークの工房を訪ねるとアランドール大尉とアークが待っており、有無を言わせずに車に乗せられて帝都まで連行されている。
「ちょっとオッサンからお前達へのオーダーを持ってきた」
オーダーという単語に姿勢を正して拝聴の構えを取る。
「夏至祭において灰の騎神ヴァリマールの公開に先立ち、リィン・シュバルツァー、並びにアーク・ラインフォルトの2名を宰相府直轄の新設部署への配属を命じる。それと共に特務訓練を施すものとする」
「「宰相府直轄の新設部署への配属、そのオーダー承りました」」
「まあ、そういうわけだ。他の貴族にちょっかいを出される前に抱え込んでおこうってことだ。それにヴァリマールを他の奴に触らせる訳にもいかない。というわけで立派な紐付きだ。それで今から向かっているのは特務訓練場だ。半年間は週1での参加義務があるからな。移動に関してはこの車必須で、学園には明日通達がされる。リィンの負担がデカイが特務訓練を理由に公休は取れねえ。そこだけは理解してくれ。その分、名誉やら勲章はバンバンもらえることになってるらしい。アークの方もコネを色々用意してくれるそうだ。コネがあれば稼げるんだろう?」
「コネ作りって面倒なんですよ。新しく開拓するのが特に面倒なんです。まあ、最近は娯楽関係から作ってますけどね」
「どういう意味だ」
「娯楽が増えると趣味も増える。その娯楽の大元がオレですよ。そりゃあ内部リークし放題ですよ。開発は全部オレがやってるんですから」
「そりゃ確かに強いわ。趣味友は年齢も立場も無視できるからな。そんでもって商品も一級品だ。稼げるわけだよな。ぶっちゃけどんだけ稼いでるんだよ」
「装備を含めたアランドール大尉1個師団分は稼ぎましたよ。既に殆どを使いましたけど」
「…聞いたオレが馬鹿だったよ。これが上流階級か」
「いや、アークがおかしいだけですから。上流階級でもアークレベルの資産は家で代々築いた物で何十年って積み重ねでそうなったのに対して、アークは成り上がれる環境ではあっただけで、それを十全以上に扱ったのが馬鹿みたいな金額です。たぶん、世界で一番稼いでいる個人ですよ」
「直近で一番の稼ぎは導力演算機のOS開発とその特許で、滅茶苦茶売れてる上に今後もこのOSを使う限り不労収入として年間で数百億、いずれは数兆は懐に転がり込んでくる。なんせラインフォルトグループの導力演算機を全部コレに変更したから、今後発売される製品も全部このOSで制御することになる。このOS抜きでは社会の発展性が死ぬレベルのデカい開発をした分、取り分も当然のようにデカイ。これを元手に研究開発を行い、更に稼ぐ基本はこれの繰り返しですよアランドール大尉」
「そんな簡単に帝国を、いや、世界征服を宣言されても困るんだが」
「権力も権威も軍需力も持っているオズボーン宰相には負けますけどね。それにしても、特務訓練場とのことですが、帝都に、しまった!?」
アークが車から飛び出そうとドアに手を掛けるもロックされており、シートベルトも外れない。
「気付いたようだから話すが、悪いな、嘘は言ってない」
「アーク、アランドール大尉?」
「対ハニトラ訓練だ!」
「!?」
「そういうことだ。高位貴族御用達の政府直営の超高級娼館でトップ層に依る対ハニトラ訓練。お前らを他所に引き抜かれると不味いからな。当然の処置だな」
シートベルトを引きちぎろうと鬼気を全開で解放しても芯にゼムリアストーンを糸状に加工した物が仕込まれていた。差し込み側も同じくゼムリアストーン製で壊せなかった。用意周到にも程がある。
「諦めろ。骨は拾ってやるから」
笑いながらそう言うアランドール大尉に苛立ち、アークに視線を送る。それだけで通じ合う。アークスのリンク機能が無くてもこれぐらいは余裕だ。アランドール大尉に気付かれないように無駄な抵抗は続けておく。アークもどこからともなく工具を取り出して差し込み口を分解しようとしている。
だが、無情にも車はとある建物の中に入ってしまう。そこがアランドール大尉の言う超高級娼館なのだろう。降り口周辺は壁で囲われ、店内に入るとエレベーターしか存在しない。同伴しない限り、利用者が出会わないようになっている。こういう気配りが為されているのが超高級娼館ってことなのだろう。アランドール大尉がエレベーターのボタンが設置されているはずの部分の受話器を取り外して耳に当てる。
「宰相府で予約している者だ。そう、ああ、『ワルキューレは汝の勇気を愛せり』」
それが合言葉だったのかエレベーターの扉が開く。アランドール大尉が促すのでアークと共に乗り込む。そしてエレベーターが動きだし、目的の階で止まり、扉が開いた瞬間、一歩引いてしまう。
扉の先に待っていたのは美女美少女美幼女の最精鋭3個大隊であり、その圧に気圧されてしまったのだ。顔は目元だけを隠すマスクを付けているが、その程度で魅力が削がれることはない。それはアランドール大尉も同じで、アークは、何故か目頭を押さえていた。
「ようこそいらっしゃいました。私は当娼館を取り仕切るマダムと申します。お話はオズボーン宰相からお聞きしております。どうぞこちらへ」
「それじゃあオレはここで、なんだリィン、なぜ腕を掴む」
腕を掴むどころか羽交い締めにして口許も押さえ込む。気付いたようだがもう遅い!
「失礼マダム、オズボーン宰相からは我々の対ハニトラ訓練をお願いした、で間違いないでしょうか」
「大まかにはその通りです。他にもありますが、基本は防諜と女性の扱い方です。社交も必要になるのでそちらの方もとのことです」
「ありがとうございます。ではその訓練にアランドール大尉も参加させて欲しいのです。今後も彼が我々二人への伝言役になるのですが、そちらの訓練を受けていないようなので」
「あら、なるほど。しかしながら我々も商売ですので」
「無論、私の方で支払わせて頂きます」
「では契約を結びますか」
「結びます。リィン」
「結びます」
アランドール大尉の頭を強引に下げさせて受諾させる。
「契約成立です」
その瞬間、何かをされた。一番近い感覚はヴァリマールと契約を結んだ時の物に近い。
「リィン様は事情を知らないご様子ですね。アーク様からご説明をお願いしても?」
「もちろんです、マダム」
たぶん、逃げられないと思いアランドール大尉を解放すると逃げ出す素振りも見せずに大人しくマダムに付き添われて奥へと姿を消す。
そして、オレとアークは両腕を美女と美少女に取られ、ソファーに誘導される。すぐにお茶とお菓子も用意され、マナーのこともあるので少しだけ口に付ける。
「まず大前提からだ。マダムのことを探ろうとするな。マダムはマダムだ、それ以上でもそれ以下でもない」
「…何、その念の押方は」
「疑問に思うな。今から教える情報以外を知ろうとするな。マダムはこの特別な娼館を取り仕切ることが出来るだけの能力とコネと立場、その他諸々を持ち合わせるスゴい方であり、アーティファクトを所有されている」
「アーティファクト、再現不能な特別な道具だっけ?」
「そうだ。マダムはそれを所有しているが、それがどういう形をしていてどのような力を持っているかは分からない。ただ、縛られたことは分かったはずだ」
「ああ、それは分かった。ヴァリマールとの契約に近かった」
「話せるのはここまでだ。それ以上は踏み込むな、口にするな、考えるな」
「えっ?」
こんな中途半端に情報を切られては踏み込むしかない、アークが震えている?そこまでヤバいか!?というか、周りの女性達も緊張している!
「分かった。話は変わるけど、最近ロリコンだって噂が流れてるんだけど。エリゼからは口説いていたとも」
「ええい、トールズにまで流れていやがったのか。誤解だと念押ししておくぞ。いや、誤解されるような状態であるのは否定できないけどな。ラインフォルトグループとZCFの提携のために向こうの技術者を預かっているのとオズボーン宰相から一人鍛えてくれと依頼されているだけだから。ちなみにオズボーン宰相の方は夏至祭以降はお前の方に付きっきりだ。お前も同じ苦しみを味わえ!」
「なんでそんな仕事引き受けてるんだよ!クレア大尉とか他にもいるだろ!」
「軍務で忙しいんだとよ。どうも新しいテロ組織を追っているらしい。狙われるかもしれないから護衛も兼ねてるそうだ。つまりだ、駒を揃える時間が終盤に差し掛かっているということだ」
「話して大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。彼女たちは弁えている。ただの雑談なら彼女たちも混ざってきていたが政治の話に切り替わった途端、距離を詰めるのも止めて黙っている。ここはそういう場所なんだよ。取り敢えず、結論から言おう。このテロ組織のトップは蒼の騎神の契約者だ。それと蒼の深淵が協力することで何らかの計画が動く。オズボーン宰相もそれに合わせた行動を行っている。今回、出遅れたオレ達は流れに身を任せる形を取る。最優先は生き残ることとヴァリマールの死守だ」
「出遅れた?」
「脚本の流れを変えられない。今は蒼の深淵とオズボーン宰相の主導権争い中だ。一応オレ達はオズボーン宰相派ではあるが着地点が、あれ、黒の史書について話したことってあるっけ?」
「未来のことが書かれたアーティファクトって説明は受けた。内容までは聞いてないが」
「簡単に説明すると書かれていることは絶対に起こる。ただし、解釈は別だ。例えば、相克、七の騎神が争い、最後の一騎に全てが統合され巨いなる一となる。だが、どの騎神が勝者となるかは記されていない。つまり勝者だけは自由に決めれるということだ」
「なるほどね。相克に関してはそうなんだろうね」
「ほう、裏に気づいたか」
「たぶんだけど、アークとオズボーン宰相はほぼ同スタンスで動いて、結末だけが異なるんだと思う。だから、蒼の深淵との主導権争いに参加せずにオズボーン宰相の駒として流れに身を任せるつもりだ」
「ほぼ正解。足りない部分があるが、それは今話すべきではないとオレは判断している」
「具体的に動くのは何時だ?」
「分からん。今年中ってことはない。2年か3年、5年はかからないだろうな。ここら辺は準備と切っ掛けしだいだからなぁ」
「切っ掛けか。何が足りていないんだ」
「熱量。オレ流なら代替案があるんだがな。何を熱源にするかは予想できるがどうやっての部分が読めない。全体を見る余裕が無いのが原因なんだが、若輩者にはキツいな」
「なるほどね。気を付けることは?」
「取り込まれないように。なのでこの対ハニトラ訓練も本気で受けるように」
「やっぱり?」
「今のところ、オズボーン宰相の台本の通りなら年頃の貴族の娘に包囲されるぞ。活躍次第で相手の爵位が上がる。シュバルツァー家の中傷なんて何処吹く風ってな位にな。それだけヴァリマールの契約者ってのは価値がある」
「そんな現実知りたくなかった」
「平民で良かったと常々思うわ」
「いや、オズボーン宰相がアークを逃がすはずがない。絶対巻き込んでくれるはずだ」
「…やっぱりそう思うか?オレもそう思う。しかもロリコンの烙印をついでに押されそう」
「…頑張って生きてくれ」
「そんなアーク様にはターニャをつけましょう」
いつの間にか戻ってきていたマダムが金髪の美幼女を指名する。
「アーク様は幼い少女相手に無意識で懐に入れて庇護しようとする癖があります。防諜意識はあるようですが、そもそも懐に入れるリスクを考えましょう。それが改善出来ないようなら徹底的に慣れて頂きます」
アークが天を仰ぐ。答えは分かっている。改善出来ない。それが出来るならレンもオレもエリゼもアリサもフィーも放っておくはずだ。
「よろしく頼むよ、ターニャ」
胸の奥に嫌だという感情や言葉やらを全部押し込んで笑顔で金髪幼女を受け入れるアークに、政治って大変なんだと思った。そんなことを考えていたオレに当てられたのはちょっと雰囲気がデュバリィさんに似てるなって思っていた女性だった。
「リィン様はあまり理解されていないようですが男性の視線は女性には分かりやすいのです。ロクサーヌをお気に召したようですし、まずは女性に慣れることから始めましょう」
「…よろしくお願いします」
事実である以上何も言い返せなかった。そっか、男の視線って分かりやすいのか。デュバリィさんにも気付かれてるか。大丈夫だよな?
「アーク師匠、どうでしょうか?」
ティータが見せてきたオーバルギアなる強化外骨格の設計図を見て首を傾げる。
「うぅん?なんだ、これ?戦闘用?作業用?操縦者の安全は保たれていない上に整備性も高いとは言えない。ネジなんかも良く使われるサイズと異なる。重心も高いから安定性も低い。ハードポイントがあるってことは追加装備があるんだろうが、更にバランスが悪くなるぞ。何がしたいんだ?」
「何でも出来た方が便利だと思って」
「商品として売りに出すつもりなら止めておけ。人ってのはある程度の制限、方向性といった方がいいか。とにかく枠が無いと何をしていいか分からなくなるんだ。まずは戦闘用と作業用に分ける。次に搭乗者の安全のために装甲、もしくは強化ガラスで覆う。下半身を大型化させて、重すぎるか。脚部をキャタピラに変更して接地面を増やして重さを分散させる。これだけでかなり使いやすくなる」
「戦闘用と作業用に違いが見当たらないのは何故なんですか」
「その2つの差は出力で分ける。作業用にリミッターを着けて出力を落とす。いざというときはリミッターを外すことで戦闘用に換装出来るようにしておく。ただし、リミッターは簡単には外せないようにもする。テロに使われるからな。ライダーシステムもその点に注意して使用者の登録機能と外部からの強制停止機能を用意してある。これでコストも押さえられる。一般人相手に商売をするならここまでは最低限押さえる必要のある知識だ。世の中がどうなってもいいなら話は別だがな」
「でもでも、郊外で魔物に襲われたら」
「なら速度制限は緩めにして逃げられるようにすればいい。というか、郊外で使う気だったのかよ。余計に搭乗者の周りを装甲化する必要があるじゃねえか」
設計図に赤で修正内容を記入していく。色々突っ込みたいが、それ以前の話だ。
「どの層に対しての商品なのかから考え直しだな。自分の技術を確認するための実験機なら遊び心がなくてつまらない」
「お母さんからは面白そうって言ってもらえたんですけど…」
「愛娘フィルターで甘くなってるだけだろうな。シュミット博士に見せたらゴミだなって切って捨てられるな」
見れば見るほど理解が出来ない。何を目指しているんだ?コストを計算すると余計にそう思う。ちょっとグロいぞ。手本を見せるしかないな。確かエイリアンのパワーローダーの設計図があったはず。あったあった。
「5年ぐらい前に設計した強化外骨格の設計図だ。こいつは船や列車で運ばれてきた貨物の運搬を補助する目的で設計してある。帝国で運用されているコンテナを1機で運べるだけのパワーを確保出来るサイズで、出来る限りコストを押さえた作りになっている。駅や港での運用を想定しているから風防程度の防御で十分で、周囲は人と物で溢れて危険だから速度も落とす。それでもコスト面で折り合いが着かずにテストに使った4機だけが運用されている。現場からの意見はライダーシステムの方が使いやすいだ。自分の商品に負けるってちょっとショック。折角運搬作業用に作ったのにな」
邪魔にならない、整備の必要がない、清掃までされる、性能も十分、コストは長期運用で取り返す。そりゃあ強化外骨格は勝てねえわ。
「結局、顧客が本当に欲しかった物を提示できなければ商売人としては負けだ。ティータ、オーバルギアを買ってくれる顧客は居ると思うか?オモチャ代わりに数機は買っても良いが、悪いがそれだけだな。いや、ライダーシステムは輸出していないから帝国以外では売れるのか?一応、戦闘用と作業用で再設計して試すか?ティータはどうしたい?」
「えっと、えっと、試すだけでも試したいです」
「誰か運用試験をしてくれるところはあるか?ZCF以外で」
「作業用は知り合いの工房が少し、戦闘用は、遊撃士じゃ駄目ですか?」
「駄目。いや、その遊撃士がテスト後も使ってくれるなら有りだが、個人で運用するには維持費が高いぞ。遊撃士が薄給なのは有名だしな」
「それだと、リシャールさんのR&Aリサーチ位、王家はどうだろ?」
「ギーガーを売りに行った一回だけだから伝はないぞ。オレは基本猟兵に、赤い星座か西風の旅団に依頼している。専用のテスターは絶対に作るべきだ」
「うぅーん、とりあえずお爺ちゃんに聞いてみます」
「身内のコネは使えるだけ使い倒すべきだぞ。うちの妹はその辺がさっぱりだが。ちょっとオレかじいちゃんにねだれば最高級品の装備で固められるのに健気に魔獣狩りでセピスを集めたり、喫茶店でバイトしたりでやり繰りしているみたいだが、一定ラインより上はコネがないとな」
「そんなに違うんですか?」
「例えばここにコネをフル活用して調達したオレの戦術オーブメントがある。見れば分かる」
「あれ?スロット数が1つ多い!?それにロストアーツばかり!?それにEPスロットが3つ、もしかして容量を切り替えられるんですか!?」
「固定スロットの解放は出来なかったが、これが金とコネの合わせ技だ。追加スロットは固定なのもちょっとネックだが強力だろう?セピスも実は裏取引で入手できる。レートはグロいけどな。だが、時間を金で買うと考えれば有りだ」
ちなみに2ラインで固定スロットは時時幻空。
「あと本当に極秘だが旧型の戦術オーブメント用のオーブを新型用に改造できる。公開すると業界に殺されるから自分と身内、数人程度に内密に施すぐらいならなんとかだろうな。ラッセル博士には恩があるからその返礼だと思ってくれれば良い」
「お爺ちゃんに、ですか?」
「博士のゼムリアストーンの加工技術には助けられているんだ。アレがなかったら間に合わなくなっていただろうからな」
まじでヴァリマールの修理が出来ずに詰んでいた可能性があった。今さら魔女の技術を習得するのは…無理とは言わないがスケジュールがなぁ。本業にも活かせないし。だからラッセル博士にはデカイ恩があるのだ。そうでなければここまでティータの面倒をしっかりみたりしない。
「ところで、アルティナの情操教育の一環で作っているジオラマはどうなっている?」
「エリゼさんと一緒に小物を買って頑張っているみたいですよ。それと私も作ってみたんです」
「ほう、じゃあ店の方に飾るか?」
「はい。師匠は新しいのは作らないんですか?」
「最近、レンタルジオラマスペースが混沌としているから自粛中。ふざけすぎた。ちなみにティータのは?」
「私はツァイスの工房の再現をしてみました」
「そいつは楽しそうだ」
少なくともオレよりは健全だな。