「…ネギ・スプリングフィールド」
「はいよ」
厳かな雰囲気など知ったことかと普段着のまま出席した卒業式。周りの大人達は苦虫を噛み潰したような顔をしているが、仕方ない。3年ほど学園を抜け出していた生徒が戻って来て早々に卒業なのだ。納得出来ないだろう。
だが、その3年で爵位級悪魔による永久石化魔法の解呪に成功した。更にはそれを伝授し、数名の高位治癒術師も解呪に成功し魔法界の歴史に名を刻んだ。
そんなオレが魔法学校中退は魔法学校側の体裁がまずいことになる。親父は戦争で暴れたから学力面は注目されないが、オレは注目される。だから、3年以上前に単位は取得しており3年前からフィールドワークに出ていたと改竄したのだ。一応、テストも受けたがほぼ満点を取ったので問題ない。
「すでに"立派な魔法使い"として認められてはいるが、これも決まり。試験は用意されている」
「分かってますって。合格を目指すかどうかはともかく、受けますよ。それぐらいの空気は読めるし、やることが無くなってどうするか悩んでた所ですしね」
卒業証書を受け取り、その場で試験を確認する。
《日本で先生をやること》
「うん?どういうことだ、日本で教師?」
書類の偽造から始めて、募集を探して、最悪魔法でちょちょいと記憶を弄れと言うことか。
「日本の麻帆良学園の長が知り合いじゃ。そこで預かって貰えることになっておる」
ランダムに選ばれる試験内容なのに準備が出来てるって、細工したのを隠すつもりがないのか。あー、元老院に喧嘩を売ったのが響いているのか。
「了解です。確か、タカミチもそこで教師をしてましたね。連絡、取っておきます」
さて、出来るだけ早く日本に向かうか。裏側の事情も調べておかないとな。あと、表側の飯の旨い店もだな。イギリスに戻って来て絶望したのが飯の雑さだったからな。よくこんな国で暮らしてたな。
「Hey、そこの眼鏡をかけた娘」
学校からの帰り道、後ろから声をかけられて振り向いて見れば、赤髪のイケメンが地図を片手に手を振っていた。
「すまないけど、この辺りに反黒堂と言う和菓子屋があると聞いているんだが、知らないかい?」
「ああ、初めてだと気付かないか。目の前にあるその店だよ」
指を指した先には真っ白な壁の洋菓子店の様な店構えをした建物が建っている。
「何?げっ、筆記体で反黒堂って書いてある。普通気付かねえぞ」
本当にそう思う。ネタにも程がある。
「助かったよ。聞けなかったらあと1時間はさ迷う羽目になった。お礼にお茶に誘いたいんだけど、どう?」
「ナンパ?趣味、悪くない?」
自分で言うのもなんだが可愛げもないし、眼鏡も度が強い実用性重視の物で、最低限の身だしなみを整えているだけだ。
「そっちのつもりは全然ねえな。純粋に礼とこっちの情報が欲しくてな」
そういってコートのポケットから子供用の魔法の杖を見せてくる。
「なるほど。こっちに引っ越してきたの?」
「そういうこと。卒業試験でな。1ヶ月後に教師として赴任することになる予定だ。魔法世界の方で活動してたから旧世界での活動に疎くてね、そこら辺を教えて貰えると助かる」
魔法世界で活動していたねぇ。前から興味があったことだ。お姉ちゃんは頑なに私を手元に置いておこうとしているけど、そこに悪意がある。妹は天然で気付いてないけど、お姉ちゃんは私のことを嫌っている。
露骨なまでに生活に制限をかけられる。魔法関係の情報を与えられないのに問題児として扱われる。小学校低学年位の子供にすら与えられる教科書を貰えないのに、背中に特殊インクで掘られた刺青によって魔力を制限されているのに、そしてその事を呪いで伝えられないようにされているのに!私は欠陥品の問題児扱いだ。だから、僅かでも可能性があることに賭ける。
「良いよ。私も魔法世界に興味があるし。向こうには色々と、本当に色々と便利な、魔法の、魔法のような物で溢れているんでしょう?」
私に出来る精一杯の伝え方で助けを求める。お姉ちゃんはこの学園での地位を固めている。私の評価は固められてしまっている。それらを知らない外部の人間に助けを求めるしかない。
そして私は賭けに勝った。赤髪のイケメンは眼鏡を外して私の顔を、瞳をじっくりと覗き込む。
「ああ、なるほど。悪趣味だな。呪い、数秒だけ誤魔化してやる。どうして欲しいか言え」
その言葉の通り、私の中の呪いが無効化されるのを感じた。色々言いたいことはある。それを凝縮させる。
「助けて」
「おう、任せておけ」
「ようようよう、こんな時間にお集まりとは大変ですねぇ」
麻帆良学園を拠点にする魔法使い達の集会の最後に声をかけて近づく。
「ネギ君か、久しぶりだね」
魔法使いの集団の中にいる知り合いが声をかけてくる。
「タカミチ、おひさ~。こっちに来てすぐに尋ねたんだけど出張に出ててすれ違いになったみたいだな」
「そうだね。僕も帰ってきたばかりでね。それで、何故この集会に?」
「これから拠点を構えるんだから色々下調べをね。場合によっては試験なんて放り出して逃げないといけないから」
「えっ!」
「タカミチ、この学園の治安、本当に大丈夫なの?まだ3日目だけど、特大の厄ネタを拾ったんだけど」
「や、厄ネタ?もしかして、エヴァのことかい?」
そっちも厄ネタだけど、それはもう済んだことだ。
「禁呪の被害者を拾ってね、保護するために従者にした。んでもって、犯人を確認して制裁を加えに来た」
「禁呪!?制裁って何をするつもりだい!」
「社会的地位の剥奪と魔法使い生命の剥奪だよ。この禁呪、見つけ次第術者を殺してでも闇に葬らないと不味いレベルの物だから。ほいこれメガロとヘラス両国からの殺人許可証」
伝手を使って証拠を送りつけて取り寄せた殺人許可証をタカミチと学園長に投げ渡す。
「まさか、彼女がそんなことをするわけが」
「何か勘違いしていないか?タカミチが考えている相手じゃないぞ。まあ、まずは被害者の彼女に登場して貰いましょうか。それで一発で誰を抹殺するか分かるので。召喚・ネギの従者」
あらかじめ繋いでおいたパスを利用して弟子を召喚する。マスターが用意してくれた背中が大きく開かれたイブニングドレスを着た弟子が優雅に一礼を披露する。
同時に教師達の中から一人の女教師が飛び出し、弟子を切り殺そうとする。もちろん、予想出来ていたことなので魔力刃を展開して瞬動で間合いを詰めて足を切り落とす。無様に転がりながらも弟子を殺そうと、手にした刀を投げつけ、弟子の裏拳で叩き折られる。女教師自信も弟子が背中を踏みつけて動きを封じる。
「見ての通り、下手人が自白してくれた。タカミチ、学園長、こちらへ。他の者は動くな。動けば同罪と見なして手荒く拘束させて貰う」
「…彼女たちは姉妹だったはずじゃが」
「姉が才能ある妹を食い物にしていた。それだけですよ。現在主流の死の首輪法。アレの3世代前の術式、今風に名付けるなら搾取の刺青法とでも言うのかな。魂すらも奪うことの出来るクソッタレな術式。血縁にしか利用できないとはいえ、逆に言えばそれ以外は条件がいらない。どっかの領主一族が領民を孕ませまくって大量の魂と肉体を用意して悪魔と契約を交わした。魔法使い史上初めての魔王級悪魔の召喚による災害。歴史から抹消された大事件だ」
「まさか、あの件のことか!?」
「想像通りだ。タカミチはあまり分かっていないみたいだから説明するとだ、手間隙かければタカミチでも親父みたいになれるのがこの搾取の刺青法だ」
「僕が、ナギさんのように!?」
「なれるぞ。そこそこの才能がある血縁を数十人生け贄にすれば。悪魔召喚に関してはこれぐらいにして、今回は莫大な魔力を持つ妹から繋いだパスから魔力を搾取する物だな。100の内、対象Aに60、対象Bに20、ロスが15。本人には5しか残らない。なあ、対象Aである姉よ」
「…私は家の恥でしかないコイツを殺そうとしただけだ」
「そうか、じゃあ手加減する必要もないな。構わないな、弟子よ」
「マスターのお好きなように」
弟子の許可も降りたことだし、一つちょっとした授業でもやろうか。
「魔力器官、普通の臓器としては存在しないが魔法使いに備わるとされる魔力を産み出し、魔力を身体中に行き渡されているとする物。心臓と血管に例えられるそれらは伸び縮みするものだと考えられている。他者から魔力供給を受けて魔法を行使することが出来るからだ」
「ネギ君?」
「だからこそ魔法使いは罪を犯すとオコジョ妖精への変身刑に処される。あれは姿だけでなく魔力器官も変化させる。それによって魔法を封じる。近年では」
「まさか!?」
「学園長は気付いたようですが過去にはこの魔力器官を破壊する方法が存在していた。とはいえ、難易度が難しく魔力器官の治療は不可能であり、いざという時に契約でガチガチに固めた囚人兵にすることも出来ないことで廃れたのですが、コイツの使用には制限が一切かかっていない。一応、殺人許可証を得た際に確認しましたが使用許可も降りました。実験動物としてなら生かしても良いとね」
弟子に踏みつけられたままの女を見下しながら宣言する。
「これから貴様は自分が見下していた妹以下の欠陥品として生き恥を晒すだけの存在に成り下がる。大好きな方の妹も同じだ」
「貴様、こんなことをして私の家が黙っているとでも思っているのか」
「ああ、大丈夫だけど。だって」
魔法で撮影した楽しい光景を見せてやる。
「お前の家、もう処理済みだから」
燃える屋敷を背景に弟子の一族の生首が並べられている光景を見せてやる。
「言っただろう、殺してでも闇に葬るって。ただの小娘が再現したなんて上のお歴々が思うわけがない。一族でやっただろうって判断で処理した。残っているのはお前達三姉妹だけで、弟子以外は処理しろってな」
興奮して赤くなっていた顔が青くなる。ああ、止血していなかったか。魔法で傷口をふさいで止血をしておく。
「これで良しっと。ふふっ、足を失った時点で欠陥品だな。さて、魔法使いである自分にさよならする時間だ」
弟子に合図を出すと踏みつけている姉の口に舌を噛みきらないようにタオルを突っ込む。
「この魔力器官破壊魔法だが、毒を流し込むという表現が一番近い。魔力器官を心臓と血管に例えることから心臓に毒を流し込めば全体を破壊できるって考えだ。今回は変則的に弟子に流し込んで搾取の刺青を利用して魔力器官の心臓に流し込む。弟子の魔力器官は予め別の魔法で保護しているので影響はない。恐ろしく痛いが、自業自得だと思いたまえ」
呪文が糞長い上にラテン語ですらないのでカンペを読みながら魔力を練り上げる。詠唱が進むに連れ、集まっていた魔法使い達が下がり始める。学園長とタカミチも冷や汗をかいている。それだけ高密度の魔力が必要になるのがこれの欠点なんだよ。
「腐敗の毒血」
完成した魔法を弟子に流し込み、搾取の刺青を通して流し込む。とたんに、絶叫が2つ上がる。1つは目の前の欠陥品。もう1つは生徒達の中から。
「気を付けろ。そこから吐血を始めるが、体内にいれたら器官が壊れるぞ」
心配で駆け寄っていた生徒が飛び退く。ちょっとした嘘なんだが効果覿面だな。血の混じった泡を吹いて気を失ったな。時間はまだだな。毒が回りきるまではこのままを維持。
「あっ、タカミチ、こっちに来てからエヴァンジェリン殿の所に挨拶に行って、気に入られたからそっちで工房を構えることにしたから。部屋も空いてるからって住み込みで」
「いつの間にエヴァにまで。それに気に入られた?」
「オレの爵位級悪魔の永久石化の解除魔法はエヴァンジェリン殿の魔術理論を元にしている。他にも色々と尊敬に値する人物だ。敬意を払うに十分に値する。親父のような何も残していない者よりずっとね。まあ、オレの価値観が技術者寄りだからなんだろうけど」
親父を評価していないとまでは言わないが、戦争の英雄じゃあねぇ。一度しか顔を会わせたこともないし、母親も周りが隠すしでどう評価しろと?色々と調べて母親が誰なのかは判明したけどな。面倒な血筋だ。黙っていないと危険すぎる。
「ああ学園長、エヴァンジェリン殿から伝言です。次に会う時までに納得させられるだけの言い訳か物を用意しておけよ、です。ちなみに、オレは科学にも強いですよ。意味、分かりますよね」
「…まさか学園結界を」
「呪いとか契約の類いの大半を解呪した。こちとら専門家で魔力量も莫大。これぐらい余裕余裕。強制登校だけはコスパが合わないからと1年ちょっと位なら我慢すると言って貰えたけどね」
いやぁ、面倒にも程がある。かける時はそれ程難しくもないのに解除は死ぬ程面倒でコストがかかる。たぶん、かけられた生徒が自分で解除しないようになんだろうけど、虐めで引きこもっている生徒にかけたら自殺まっしぐらだな。
そんなことを話していると弟子の魔力量が跳ね上がった。毒が完全に回りきったか。
「これが私の本来の魔力。概算でも20倍。ご自慢の魔力量は殆ど私の物じゃないか!人から奪っておいて何が出来損ないだ、ゴミが!」
弟子が愚姉を魔力任せの肉体強化を施して蹴り飛ばす。まあ一発は許すよ。追撃は駄目だけど。引き取り先は決まっているから。
「そこまで。殺すとモルモットに出来ないからな」
「…ちっ、運が良かったね。私がいたぶってやりたかった」
念動でモルモットを引っ張り上げて待機させていた転移魔方陣を展開してその中に投げ入れる。これで後は向こうが面倒を見てくれる。
「さて、改めてだけど来月から教師として赴任することになるネギ・スプリングフィールドだ。こっちは弟子の立花葵。後見人も勤めることになる。基礎から叩き込むようになるけど、すぐに追い抜けるように指導していくつもりだ。感じるとおり、魔力量は十分、虐待に耐えれる心と身体。足りない知識と技術はすぐにでも補える。今までと同じように思っていると後悔するぞ。弟子、挨拶」
「立花葵です。今、目の前で起こったことが真実です。過去を引きずるつもりはありません。転校生が来たとでも思って頂ければ幸いです。言動も縛られていたので、あのゴミ共の望む姿であり人形でしたが、これからは違います。やられたらやり返す。それだけ、それだけは覚えておいて下さい」
二人で一礼をして転移で工房に戻る。三連休の間に弟子を最低限まで仕上げる必要があるからな。
「戻ったか」
工房に置いてある寝床代わりのソファーに座って魔道書を読んでいたエヴァ師匠に挨拶を返す。
「ただいま戻りました。マスター」
「葵は大分変わったな。魔法球で魔力のコントロールからだな」
「戻りました、グランドマスター。その前にちょっと包帯を貰えますか?愚姉を蹴った時に挫いたみたいで」
「慣れていない肉体強化、違うな、蹴り慣れていないのが原因か。武術も護身が出来る程度に修めないとな。最低限、自爆しない程度に。取り敢えず今回はオレが治そう」
弟子の足に触れて怪我の具合を確認する。軽い捻挫なのでぱぱっと治しておく。
「何も言わずに行きなり女の子に触れるのはセクハラですよ」
「医療行為だから問題なしだな。それに、もうやったってのに足を触ったぐらいでぐちぐち言うな」
「教師として赴任するなら理解してた方が良いですよ。イケメンなんですから勘違いする娘もいますよ。あと、性魔術って凄い便利ですね。知らないはずの魔法を魔力任せとは言え使えるんですから」
「キリスト教のせいで廃れたけどな。上に立つ者からすれば下々はバカな方がいいからな。反抗される可能性を減らす良い手だよ、まったく」
「そんなに便利とも言えんがな。知識の共有は自らの意思でやる必要があるからな。同性だとかなり面倒になる」
「普通に掘られましたけど何か」
同性でやったことがあると告白すると二人が一歩退いた。
「英雄様の息子だからな、高値が付いたよ。最短で壁を乗り越えるにはそれぐらいは必要経費だよ」
「…まあ、否定は出来んな。私も成り立ての頃はよく犯られていたしな。弱肉強食が裏の理だ。普通は適者生存なんだがなぁ」
「食い物にされていたのでよく分かります」
暗い話になりそうなのでぶったぎる。
「取り敢えず、最低限の知識はぶちこんであるし、ダイオラマ魔法球に不老薬も用意してある。この3連休はみっちりと魔法球で修行だな」
「私の方のダイオラマ魔法球に連結した。これで1時間で24時間を使える」
「ひゅー、すげえ、オレの1時間で10時間の奴でさえ手に入れるのに苦労したってのに、24時間なんて理論上の上限に近い性能じゃないか」
「600年も生きていれば巡り会うことがあるだけだ。有効に使えば良い。不老薬なんて作れる時点でどっぷりはまっているのだろう?」
「正解。肉体的には20代前半だけど、実際はもっと上だよ。50にはいってないぐらいだな。永久石化の解呪法の開発にはそれだけ時間がかかる。若返りは難しいが不老はまだ楽だな」
「今回は3ヶ月にも満たない。必要はないだろうがな。喜ぶと良い孫弟子、世の女が求めて止まない不老を手に入れられるぞ」
「ある程度成長してからで良いです。マスター、おっぱい星人ですから」
「人は自分の持っていないものに惹かれるんだよ。まあ、脱童貞の相手が巨乳だったのも理由だろうがな。そこら辺も仕込んでやるよ」
「子供を?」
「オレの血は絶やした方が良いと思うからNO。避妊魔法は常時展開だな。今のところの情報だけだから今後変わるかもしれんがな。念のためにサンプルだけは残しておくけど超厄介な血筋だ。世が世なら王子様だぜ、柄じゃないけど」
「確かにな。そこは父親そっくり、でもないか。自分勝手と言うわけでもないからな」
「1回だけ会って、ちょっとした言葉と杖を渡されただけだ。あまり親ってのが分からねえんだよな。50年もそれが普通で、周りも母親の方を隠すしな。オレはオレだ。誰の子でもない、ネギ・スプリングフィールド。弟子にもそう思えるようになって欲しいと思っている」
「もちろんです、マスター。家のことで何か言ってくる奴なんてボコボコです」
「ふっ、それで良い。周りの言う立派な魔法使い(笑)なんて物を目指す必要はない。結局のところ、頼れるのは自分の力だ。力の意味は履き違えるな」
「暴力以外、知識や縁、運、諸々を含めた総合力、ですね」
「そうだ、それさえ分かっていれば良い。はっきり言えば搾取の刺青だってバレなければ肯定派だぜ。バレないように洗脳教育を施しておけば何の問題も起こらなかったはずだ。それなのに反抗心を育てるとか馬鹿だろ」
「確かに甘いな。目的のためだけに動けば良いものをついでのサンドバッグにするなんてな。まあ、私もその辺りは見てやる。励めよ、孫弟子」
「ありがとうございます、グランドマスター」
「ネギ様、高畑様よりお電話です」
「ああ、ありがとう茶々丸」
ダイオラマ魔法球内と外では時間の流れが異なり、連絡を取るのは非常に難しい。それこそ外に連絡員を置いておくようなことをしなければならない。それもマスターが力を取り戻したことで人形を置き、茶々丸とリンクさせることで問題を解決している。
ダイオラマ魔法球から出て、マスターの人形から電話を受け取る。
「お待たせタカミチ、どうしたんだ」
『急患なんだ、手を貸して欲しい!出来ればエヴァも!』
「あー、患者は女性なのか」
『学園長のお孫さんでエヴァのクラスメイトなんだ、頼む、エヴァを連れてきて欲しい!』
「分かったよ。魔力を高めて待っていて。それを目印に転移するから。すまないがマスターに急患で、マスターのクラスメイトだと伝えてくれ」
医療用の機材を召喚して中身を確認する。問題はないな。マスターと弟子も出てきたので荷物を担いで、タカミチの魔力を目印に三人で転移する。
「タカミチ、患者は」
「こっちだ!」
女教師や大学生の女生徒が壁を作っている前にいるタカミチが声を上げる。
「エヴァも来てくれたか。その、言いにくいのだが」
「ああ、そこまでで理解した。犯られたんだな」
「それもかなり手荒く。出来ればネギ君には」
「オレじゃないとどうしようもない部分以外は任せるよ。弟子、これも経験だ。エヴァ殿の手伝いを」
「分かりました」
マスターと弟子が女性達の壁の向こうに行ってすぐに戻ってくる。
「あれは駄目だ、手伝え。女だから等と言ってられん」
急いで飛び込めばマスターの言う通りだった。
「バカやろう!弟子、A4、B2、F7、H1の薬、それから輸血の準備とスライムの5、8、Xを4、いや、5本だ!」
患者の全身を覆う複数の呪詛と傷の治療のために魔法で状態を固定しながらスライムと薬で解呪していく。
「取り敢えず命に別状が無くなるレベルまでの治療は終わった。皮膚の再生はゆっくりやった方が綺麗に治せるから後回しにするとしてだ、学園長を呼んでくれ。確認することがある。弟子、毛布をかけてやってくれ」
「はい、それと水です。2時間近く時間が経っています。少し休憩を取った方が」
「集中を切らせたくない、水だけくれ。エヴァ殿は?」
「私も水だけで良い。来たか、こっちの維持は私がしておく。説明は任せた」
離れた場所にいた学園長がタカミチを引き連れて側にやってくる。
「木乃香は、木乃香はどうなった!」
「取り敢えず命の危機はさったよ。皮膚の再生はゆっくりやった方が綺麗に治せるから後回しにしている」
「…よかった、ありがとう、本当にありがとう、ネギ君、エヴァ」
「お礼は早いですよ。犯人の目処は?」
「それがさっぱりなんだ。魔法、科学両方で探しているのだけれど痕跡が見当たらないんだ」
「そうか。どうします学園長、追う方法はありますが、相手はかなりの手練れの上、怨恨からの犯行です」
「分かるのかね?」
「ええ、まだ解呪していませんが患者の女性機能を破壊した上でトラウマを植え付けていますからね。子宮と卵巣に呪いをかけた上でレイプで性行為へのトラウマを植え付けて、止めに魔法薬のビンを子宮内に転移させてから踏みつけています。族滅狙いですよ」
オレの言葉に周りの全員が顔をしかめる。稀にあることなんだがな。
「そっちの治療はまだです。精子から対象を追えますがどうします」
「追って貰えるかね。高畑君、申し訳ないが」
「僕の生徒でもあります。お任せ下さい」
「では用意します」
木乃香と呼ばれた少女から除去した精子と特殊なスライムと懐中時計を混ぜ合わせた魔道具を錬成する。
「ほい、使い方は日本人なら分かるでしょ」
「こ、これはドラゴンレーダー!?うわっ、本当に使える」
「近くにまで行けば対象に引っ張られるはずだ。任せたよ」
「ありがとう」
瞬動で走り去るタカミチを見送ってから追加のスライムをマスターに渡して体内の掃除と治療を任せる。
「記憶の処理はどうします。こちらでやっても良いですし、そちらにお任せしても良いですよ」
「…それについてなのじゃが、木乃香は婿殿の方針で魔法に関わらせないようにしておるのじゃ」
「…ちょっと何を言っているのか分からないです。この魔力量で封印もせずに魔法に関わらせない、馬鹿じゃないんですか?狙ってくださいって言っているような物じゃないですか。現にこうなった。護衛は?」
「あー、言いにくいのじゃが、素人がの。木乃香の幼なじみなのじゃが」
「亡くなったか」
「…あー、いや、そのじゃな、その子も訳有で側に居らんかった」
「馬鹿じゃねえの。って、ガキだったな。はぁ、面倒見きれん」
「…面倒、見てくれんかのぅ?」
「どっちの?」
「両方」
「弟子の件と今日の件で気付いているだろうけど、綺麗な身じゃない。ぶっちゃけるとエヴァ殿を師と仰いでいる」
懐からオレの仮契約カードを取り出して見せる。はっきりとマスターの弟子と書かれている。
「…分かっておる。じゃが、必要だと思っておる。今回のようなことが起こったのじゃ、手段は選んでおれん」
「ふーん、まあ、ちゃんと契約を詰めるなら良いよ。ただ、結構厳しくやるよ。たぶん、学園所属の魔法使い達とはやっていけない。伝手もコネも無しでガキ一人が生きてきたやり方だ。文句は受け付けない」
「それで構わぬ。何か、良くないものが動き出した。そんな予感がするのじゃ」
動き出して欲しくねぇ~。魔法研究しながら適当に女を抱いて暮らしてぇだけなのに。弟子を取るのは別に構わないんだけどな。技術の継承は義務だと思っているから。
教材の用意から始めるか。出来ればタカミチが捕まえてきてくれたら情報を絞れるだけ絞って教材になって貰いたいけど、無理だった時のためにホムンクルスを用意するか。