10代目雲の兄弟 霧雲の守護者になった者   作:白炉丸

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邂逅、霧 (後編)

「 まず、ここが何処か、だったよね 」

 

 凜弥は質問を確認しながら話し始めた。

 骸達は依然として黙ったままだが、意識はこちらに向け、聞く体制になっている。

 

「 だけど、その質問には詳しく答えられないな。この館は隠されてるからね。

 イタリアの中部地方とだけ言っておこうか。

 武器に関しては、取り上げる必要がないからそうしてるんだよ。

 僕もブラッコも、君達程度にやられる程 弱くないからね。

 そして君達をどうするか、だけど…。

 僕としては、君達の怪我が治ればどうでも良いんだよね。

 元々、君達を連れて来た理由は、ブラッコが目を潤ませて可愛くおねだりしてきたからだしね 」

 

「あ、アレは風邪のせいで」

「 あそこには、ブラッコ(これ)がバカみたいに連れ去られたから、僕のモノに手を出した報いを受けさせに行っただけ 」

「ご主人って(たま)に優しいよね」

「 ……… 」

「危なっ!壁に万年筆が刺さった!! これ直すの誰だと思って」

「 あとは、そうだな。弟と歳が近かったからかな 」

 

 僕がそう言うと、うるさかったブラッコがピタリと静かになった。

 

 しかし数秒後には

 

「えっ! ご主人って弟居たの!?

 今まで俺を置いて数回日本に行ってたけど、あれってもしかして弟に会いに行ってたの!?

 俺もご主人の弟に会ってみたい!ギャッ!!」

 

 うるさく詰め寄ってきたブラッコを 到頭(とうとう)出たヌンチャクで咬み倒し黙らせた。

 

( 失言だった… )

 

 

「 聞きたいことは、これでいいかな? 」

 

「え、えぇ……いえ、貴方の名前を聞いていませんでした」

 

 

( …そういえばそうだったね )

 

 骸の言葉にまだ名乗っていなかったことを思い出す。

 

凜弥(りんや)だよ。呼ぶならそう呼んで。家名は 半分捨てたようなものだから 」

 

 

 

 

「 それじゃあ、これからブラッコに館を案内させるよ。君達の部屋も用意させたから そこで寝泊まりすると良い 。

 それと、君達の呼び名が無いと不弁だから名付けさせてもらうけど良いよね?(答えは聞いてない) 」

 

 

 

 

 

 

 「 これで字を選んで 」と、凜弥は骸達に名前の候補が書かれた紙と伊日辞典、国語辞典を渡し、ブラッコと共に部屋から追い出した。

 

 ブラッコの案内が終わり部屋に戻った骸達は、すぐにここを去らずに、与えられた温かさを誤魔化しながら、傷が治るまで彼らを利用しようという考えのもとに 渡された物を読み、自分らの名前を決めた。

 

 

696番 → 六道(ろくどう)(むくろ)

候補1…ロクロ。候補2…ムクロ。

候補2を選択。辞典を使用し、自身の瞳と合わせ決定した。

実験で死んでいった子供達を想う。

 

1093番 → 柿本(かきもと)千種(ちくさ)

チクサに漢字を当てた。

千の位から‘‘千’’を、骸の目的であるマフィアの壊滅、その一歩として‘‘物事の大きくなる、はじめのもの’’の意味を持つ‘‘種’’を選択。

名字は犬に選ばれた。その手にはお菓子の柿の種が…。

 

 

K-N → 城島(じょうしま)(けん)

ケンに漢字を当てた。

自分は頭が悪いから と、氏名のどちらも骸に決めてもらった。

 

実験によって振られていた番号の種類が違う。

骸…600〜700。千種…1000〜1100。犬…KのA〜Z。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜中、現在5人だけの館内が突然騒がしくなった。

 既に就寝していた凜弥はその騒がしさに目が覚め、起こされたことにムカツキを感じ、その音の元へと足を進めた。

 

 着いたそこは骸達に貸していた部屋だった。

 騒がしい音の正体は子供達の声で、部屋の中から聞こえている。

 凜弥はその部屋の扉を開き中へと入っていった。

 

 

 

*

 

 

 

「う、ぐ…ぐあぁぁ!!」

 

「骸さん!」「骸様!」

「キミ達、少し下がってて!」

 

 部屋に入った凜弥が目にしたものは、右目を両手で押さえながらベッドに横向きで(うずくま)っている骸と、そのベッドを挟むようにして立っている犬と千種、そしてブラッコの姿だった。

 ブラッコは右目を抉り出そうと動く骸の両手を抑えつけながら、骸を心配して寄ってくる二人を下がらせようとしていた。

 

 そこに、凜弥が不機嫌を隠していない声をかける。

 

「 うるさいよ、君達。咬み倒されたいの 」

 

「これ見てそれ言うのご主人!! 

 ちょ、助けて! なんか骸くんの力が異常に強い! それに力がだんだんと上がってる!

 俺じゃぁ、これ以上抑えられない!!」

 

 ブラッコはいつになく真剣な声を発している。

 

「 替わって 」

 

 骸の状態を危険だと感じた凜弥は、力が足りないブラッコの替わりに 骸を抑えるけようと彼らに近づく。

 そして入れ替わる為にブラッコが手を離したその時、凜弥は嫌な予感を感じ、素早い動きで骸の両手を頭の上で拘束、自身の片膝で骸の足を強めに抑えつけた。

 次の瞬間──

 

 

 

「ぐわあ"ぁ"ぁぁぁぁ!!」

 

 叫び声と共に骸の右目の数字が変化し、目から血が流れ出して右頬から下が黒く染まり、左頬から下には 血管の様な複雑な模様が浮き出てきた。

 そして、その体から どす黒いオーラが噴出し始める。

 

( ワオ……これは…また、めんどうな )

 

 

 “暴走” 

 

 これが今の骸の状態を表してるだろう。

 

 骸の右目の数字は五。

 第五の道 人間道。‘‘最も危険で醜い能力’’と、骸に言わしめた力。

 

 骸はその眼を移植してからまだ日が浅い。力のコントロールが不十分だったのだろう。だから暴走した。移植による拒絶反応と言えるかもしれない。

 

 どちらにせよ今のままでは危険だと判断した凜弥は、眼の力を封じることにした。

 

 

 

*

 

 

  凜弥 lato

 

 空いている手をポケットに伸ばし、常に持っているリングを二つ取りだし指に嵌める。

 そしてその手を骸の右目にかざす。

 その前に……

 

「 ブラッコ。彼らを 」

 

「了〜解。 ゴメンね〜キミ達」

 

 合図をだせば、ブラッコは犬と千種を力を使い眠らせた。

 今から使うのは死ぬ気の炎。この力を彼らに見せるのはまだ早いから。それに骸は、自分の醜態を彼らに晒したくはないだろうしね。

 

 ブラッコに彼らの 骸の力が暴走した という記憶を消すように伝え、僕は雲と霧、二つのリングに炎を灯した。

 

 紫色と藍色の小さな炎がリングに灯る。

 

( リングの強度的に灯せる炎はここまでか……それでも、封じるのには支障はないな )

 

 ゆっくりと、慎重に炎を使っていく。

 

( 大空の調和の炎が欲しい…それか雨の鎮静 )

 

 そんなことを思いながらも封印を完了させた。

 すると眼の数字が六に戻って血も止まり、肌の色や模様も元通りになり、骸は力尽きたように眠りへと落ちていった。

 

 

 

( ひとまずはこれで良い )

 

 それでも この封印は一時的なものでしかない。

 

 今は死ぬ気の炎という一種の生命エネルギーを、晴の炎で相手の体を治癒させるように瞳に流し込み、眼の力を押さえつけているだけだ。

 流し込んだ炎は―補充しない限り―いずれ尽きる。そうなればまた今回の様な。いや、抑えつけた影響で 今回以上の暴走が起こるだろう。

 それを止めるには、今回以上の炎でまた眼の力を抑えるか。それとも、骸自身が眼をコントロールする(すべ)を身につけるしかない。

 

 

( ホント、厄介なのを拾ったな )

 

 

 

 

 

 

 

  次の日、館から少し離れた森の中、その木々が開けた場所に僕は来ていた。動向人は ブラッコと次期黒曜三人組。

 

 ここに来た目的はただ一つ。力のコントロールを学ばせる為だ。主に骸に。

 彼らに昨日の記憶が無いとはいえ、力の暴走があったのは事実。

 また暴走されては困る。拾ったのなら最後まで面倒を見なければならないのだ。

 犬のカートリッジも 先程あの場所から回収してきた。強制的にこれを使わせるつもりはないけど、犬なら使ってまで強うなろうとするだろうな。

 

 何故いきなりこんな事を始めるのかと、彼らは思うかもしれない。いや100%思うだろう。

 まあ、そこはブラッコに丸投げするとして──

 

 

 

 

  ──霧雲式制御訓練を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

*ー*ー*ー*ー*

 

 

 

 

 

 

 

 あれから半年後。

 凜弥はブラッコと共に、骸に幻術の基礎を、他二人にはそれぞれにあった戦い方を教えた。

 

 傷に傷を重ねていくような教え方の凜弥と、治すべき所は口で教えるやり方のブラッコ。

 戦い方だけではなく、言語などの知識も覚えさせ、飴と鞭を上手く使いこの半年を過ごした。

 

 原作通りなら、彼らはこれから北イタリアに行き、ランチアをマインドコントロールするだろう。

 骸達と別れる時に これからは好きにすれば良いと言っておいたから、彼らはマフィア潰しを始めるだろうな。そしてやり過ぎて復讐者(ヴィンディチェ)に捕まると。

 

 

 

 

 

 

 

 沢田家光と出くわした。

 すれ違う。それだけだった。

 

 

 

 橙色のおしゃぶりを首から下げていた女性を目にした。隣には見たことのある金髪の男が付き添っていた。

 あれがユニの母親のアリアか。




 色々と忙しくなってきてのとスランプ気味になってきたので暫く投稿スピードが遅くなると思います。
 また時間が経てば治ると思いますので、この小説を読んでくれている方には申し訳ありませんが、それまでお待ちください。

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