ユキアンのネタ倉庫 ハイスクールD×D   作:ユキアン

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ハイスクールD×D 妖狐伝

うむぅ、なんだろう?何かに包まれ、あっ、鼻に何かが入っ

 

「くちゅっ!!」

 

オレらしくない可愛らしいくしゃみだこと。それにしても目が開けられんな。

 

「おおっと、すまんのう。大丈夫じゃったか十束」

 

これはどうもご丁寧?十束?誰のことだ。と言うか揺られてるんだが。くっ、目さえ開ければ。また眠くなってきやがった。寝てたのかよ、オレ。ああ、ダメだ。お休み。

 

 

 

 

 

 

とりあえず目が開かない理由とか色々なことが判明した。オレ、赤ん坊になってた。あれだ、転生とかいう奴だな。羞恥プレイは勘弁してくれよと言いたい。もう諦めたから問題ないけど。それからどうやらオレは妖怪らしい。それもかなり高位の生まれみたいだ。母が周りに大将や長、八坂様と呼ばれているからな。あと、たぶん尻尾もある。ふかふかの布団と思ったら母の尻尾に揺られていたりするからな。ふさふさで暖かくて気持ちいいんだこれが。これを自前で持っているとか、かなり嬉しい。

 

それから前世の頃の記憶が記録になっていた。意味が分かりにくいだろうが、オレも説明しづらい。こう、思い出せるんだけど、第三者の視点で見てるというか、記憶という名の本を読んでる感じ?だから、未練とかがほとんどない。決して尻尾に釣られたわけではない。とりあえず早く目が開くようになりたい。寝る子は育つと言うわけでお休み〜。

 

 

 

 

 

 

そこそこ成長して3歳、とりあえず色々まとめてみた。まず、この世界はかなり混沌としているが、格としては低い世界くさい。正確に言えば神秘が神秘でないというか、さすが多神教国家日本。日本書紀の神様がゴロゴロいる。そんでもって気安い。ちょっとした異次元にいるけど、簡単に降臨しちゃうのでありがたみはほぼ0だ。他の神話体系もそんな感じ。けどクトゥルーは未確認。というか確認したくない。居ても地球に来ないでほしい。

 

そしてその配下というか眷属というか、天使とか悪魔とか妖怪とかは年々数を減らして衰退中。やはり人間が生物として異常なのがよく分かる。あれだけ虐殺が起こっても以前より数を平気で増やすんだから。まあ、最近と言っても良いのかよくわからないけど、悪魔は道具を使って人間を悪魔に転生させれるようになっているらしい。新撰組の沖田が悪魔にいるらしい。

 

そしてオレこと十束は妖狐であることが判明した。この世界の妖怪は基本的に人間の姿になれ、全力を出す時のみ本来の妖怪の姿となり、人間の姿でもある程度の力を出すためには妖怪の姿の一部を出す必要があるようだ。妖狐の場合、尻尾とか耳だな。今の所一つしか尻尾がないが、母である八坂様は九つ、つまりは九尾の妖狐である。さらっと確認してみたけど、大陸の方にいた奴とも安倍晴明と戦った奴でもないらしい。ちなみに尻尾は力が高まれば増えるそうだ。つまりはいずれ自前の尻尾寝袋が出来ると?やべぇ、頑張らないと。

 

とりあえず目標は決まった。修行して自前の尻尾寝袋をゲットするのと母のあとを継ぐことだな。と言うわけで情報収集を兼ねて街に出かけよう。京の街は独特な味があって好きなんだよ。あと、鯉伴と一緒だと色々と無茶がきくし、色々ないたずらを教えてくれるから楽しいのだ。今日はどこに連れて行ってくれるだろうか。

 

 

 

 

 

オレは今、分水嶺に立たされている。裏を知る人間と妖怪の間で商売上の問題が発生したのだ。年々人間側の職人の質が下がり後継者も居ないところがあり徐々に終焉を迎えているのに対し、妖怪側は長命の職人が多く、平安時代から物を作っている職人がいるぐらいだ。さらには妖力を込めたりするからちょっとした効果がついたりする。つげ櫛なのに手入れの必要がなくなったりとか、油のノリがよくなって毛が綺麗になるのとか。尻尾の手入れにお世話になってます。話が逸れたな。

 

まあ、そんな感じで不信感が募っている中で地上げ屋がとある店を妖怪の力も借りて無理やり買い取ったと人間側が訴えてきたのだ。だが、妖怪側に立って言い分がある。妖怪の力を借りたと言っても単に工房の維持管理のために妖怪の力で支えるという説明して見本を見せた上で十分な金を妖怪のことを秘密にするという約束もあるので上乗せまでして払っている。工房の維持も店側の要求だったのに訴えられるのはおかしいと争う姿勢を見せている。

 

このままだと人間と妖怪がぶつかることになる。そうなれば、人間の住む京都か、あるいは妖怪の住む裏京都が壊れることになる。それを止める手段がオレにはある。だが、それをすればオレは戻れなくもなる。オレは京都も裏京都も愛している。だからそれが壊れる姿は見たくない。

 

そこまで考えてふと思う。いずれはそうなると思っていたが、それが早くなる。ただそれだけだと思い直し、母さんの元へ向かう。

 

 

 

 

 

 

「こんばんわ、久世さん」

 

「お前は、鯉伴と八坂の」

 

「息子の十束と申します」

 

「久世さん、お下がりを」

 

裏を知る人間のまとめ役をしている久世宗兵さんの屋敷に鯉伴と共にやってきた。鯉伴とは別の方法で隠れながら護衛の陰陽師を躱してきたのだが、陰陽師の護衛のまとめ役が傍から離れず、むしろこの場で纏めて話し合いに巻き込んだ方があとが楽だと考え直して姿を表したのだ。

 

「よう、火室。久しぶり」

 

「鯉伴、何をしに来た!!」

 

「今日は十束のお守りだよ。それ以外は今日は何もしねえって。八坂の大将にもきつく言い含められてきてるからな」

 

「何?」

 

火室と呼ばれた陰陽師がオレの方へとキツい目を向けてくるが、大したことではない。どうやら陰陽師の質も下がっているようだ。

 

「まずはご挨拶を。妖怪のまとめ役、九尾の八坂が息子、十束と申します。この度の事件について妖怪側からの提案があり、使者としてそれをお伝えに参りました」

 

「妖怪が提案だと?はん、こんな子供を使いに出す無礼な奴らの言い分など聞く必要は」

 

火室がそこまでいったところで鯉伴が首に刀を突きつけていた。

 

「今は八坂の大将が正式に使者として送った十束と久世宗兵が話し合おうってんだ。ただの護衛が口を挟むんじゃねえよ」

 

「貴様!!」

 

「よい。火室、お前は部屋から出て行け。ここまですんなり入られていては護衛の任を全う出来ているとは考言えぬ。この二人がその気なら儂は既に殺されているだろう」

 

「ですが」

 

「諄い!!」

 

久世さんが怒鳴り、ようやく火室が退出する。

 

「さて、これで話が進められるな。だが、その前に座るがいい」

 

「失礼します」

 

勧められるままにテーブルを挟んで対面の座布団に座る。そして口を開く。

 

「まずは無作法を働いたことを謝罪申し上げます。何分、時間が残されていなかった物ですから」

 

「火室一派か」

 

「はい。既に裏京都の境界線上に集結し、境界を操作し始めています。こちらも境界線の維持のために境界線上に高位の妖怪が集まっています。衝突すれば、一瞬で陰陽師が壊滅するでしょう。そうなれば、どちらも引くに引けない状況に陥るでしょう」

 

「地脈は其方に抑えられている上に、警備を軽々と超えられる以上そう見るべきだな。それで、そちらの提案とは?」

 

「そもそもの発端、原因は何処にあるとお考えでしょうか?」

 

「率直に来たな。ちなみに小僧、お前は何処にあるか明確に示すことができるか?」

 

「ええ。母、八坂も気づいていませんでしたが、私には見えています。久世さんも?」

 

「ふん、これでも長生きしてきたからな。そもそもの原因」

 

「それは」

 

「「金」」

 

同時に発した答えに鯉伴が驚いている。

 

「鯉伴、貴方も気づいているでしょうが年々京都の街から活気が減っていってるでしょう。不景気も相まって観光客が減って、それがそのまま職人の収入に影響を与えているのですよ。人が減り、需要が減り、利益が減り、寂れた所に新たな職人を目指そうと思う者が付くと思いますか?」

 

「......妖怪ならともかく、人間には辛いだろうなぁ」

 

「この件、根はそこにあります。それを解決しないことにはこのような事件がなんども起こるでしょう」

 

「中々キレる坊主だ。これが妖怪どもの頭になれば京都などあっという間に乗っ取られるわ」

 

「そんなことはしませんよ。私は京都も裏京都も愛していますから」

 

「坊主のくせに一丁前なことを言う。お前に京都の何がわかる」

 

「……団子屋の米さんにはよくおまけを貰ってます。この和傘は傘職人の与一さんにオーダーメイドで、腰につけてる狐の面は京都で唯一の面職人の吾郎さんに作りかたを教えてもらいながら私自身で作り上げた物。みんな、オレが妖怪だと気づいていながら気づかないふりをしてくれて、本当の孫のように接してくれた方々だ。街というのは人そのものだ。私は、あの人たちの助けとなりたい」

 

睨む久世さんから視線をそらさずにそう言い切る。暫し沈黙が流れ、久世さんが口を開く。

 

「嘘ではないようだな。そこらのガキ共よりもしっかりとしてやがる。小僧もう一度名を聞かせてくれ」

 

「十を束ねると書いて十束、そう申します」

 

「十束だな。儂は久世宗兵、京都一帯の表と裏を管理する者だ。それで、妖怪側の提案とは一体なんだ?」

 

「根本的な原因は先ほども話した通り、金です。今は日本全体が不況となっており、何処も厳しい。むしろ、京都は世界的に見ても観光地ということで他よりはマシと言った所です」

 

「まあそうだな。ギリギリだが、なんとかやっていけてるからな」

 

「ええ。ですが、このままだと厳しいのも現実。ここで我々が利権で食い争うのは下策。小さなパイを奪い合うぐらいなら自分たちで大きなパイを焼いて貪り食う方が建設的です」

 

「ふむ、だがその大きなパイをどうやって作る」

 

「ターゲットは悪魔。あそこは金が余っていますからね。まあ、それと同時に天使と堕天使もターゲットに加えます。三者に干渉しなければ変な疑いを向けられてしまいますからね」

 

「なるほど、そう来るか。危険も大きいが返りもでかそうだな。どうやって危険を減らす」

 

「現在の所、京都に入る際には他種族は許可証を持った上で緊急時以外裏京都には入れず、指定された区域で許可を得た行動しかできません。それを条件付きで解放します。条件は表裏京都から何名かの案内役兼監視役兼護衛を付けること。付ける人数によって常識的な金を払うこと。大まかにはそんな所でしょう」

 

「ふむ、そんな所だろうな。だが、日本神話勢はどうする?あそこは京都自体に干渉しないが自分たちの領域にはうるさいぞ。そこが一番の観光地なのにだ。そちらはどうする?」

 

「ああ、そちらは既に交渉済みです。力ずくでしたが最終的には大人しくするのであれば普通の参拝や拝殿を見学する程度で、被害が出れば修繕などは我々妖怪が責任を持って行うことで許可してくれました」

 

「力ずくだと?」

 

「ええ、少し大変でしたが」

 

「鯉伴、どういうことだ?儂には十束が日本神話勢を力で押さえつけたように聞こえるが」

 

「ああ、そうだよ。八坂の大将にこの話を持って行く前に十束の馬鹿は日本神話勢にカチコミを掛けやがったんだよ、一人で」

 

「なんだと!?」

 

「名は体を表すって言うだろう。今見えてる尻尾に騙されるな」

 

ちぇっ、ネタばらしが早いよ、鯉伴。久世さんが凝視してくるので束ねていた尻尾を解きながら膨らませる。左右に同じ数だけ向けて数えやすいようにする。

 

「七、八、九、十尾だと!?」

 

「潜在能力じゃあ大将を越えてんだよ、このいたずら子狐は」

 

あざとく可愛らしいポーズをとって狐っぽく鳴いてやる。

 

「齢七にして八坂を超える力を持つか」

 

「力を持ってるだけで使いこなせてるとは口が裂けても言えないですが」

 

「その硬い口調も止めにしろ。本当にいたずら好きな奴だな」

 

「我々の未来に関わる話です。硬くて結構。それで、この提案のっていただけますでしょうか?」

 

「乗ろう。だが、火室達はどうにもできぬぞ」

 

「鯉伴、奴らは主流か傍流、どちらだっけ」

 

「傍流も傍流。上は不況で生き残りのために運営方針切り替えてるからな。妖怪を退治したって金がもらえるわけじゃないからな。依頼があって初めて金になる。だから維持するために副業を考えてたぞ」

 

「なら、ああいう跳ねっ返りは閉まっちゃった方がいいんだよねー。ねぇ、おじさん」</div>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

活気に溢れる街っていうのはいつ見ても良いものだ。いやぁ〜、2年前に一肌脱いで大正解だったな。まあ忙しすぎるのも問題なんだけどねぇ〜。組の立ち上げなんてまだまだ先で良いって言ったのに。それだけの力があるんだから若いうちから経験を積めだなんて。オレはまだ気ままに過ごしたいんだけどねぇ。

 

いつものように裏通りを和服に和傘に狐のお面に下駄と時代に喧嘩を売ってる格好で、よく考えたら裏京都じゃ普通か。表側だと観光客によく注目されるけど。一緒に記念撮影したりとか。綺麗なお姉さん達にだきしめられたりして役得です。さりげなくお世話になっている店に誘導したりしてますよ。客寄せパンダも兼ねてます。

 

そんないつもの休日に変化が訪れた。十字路の横から紅色の塊が突撃してきたのだ。

 

「きゃっ!?」

 

「ごはぁ!?」

 

気を抜いていたところに横からの衝撃に耐え切れず押し倒される。一瞬だけ尻尾を出して衝撃を殺したので怪我はない。とりあえず何が起こったのかを確認するために紅色の塊に視線を移す。そこには綺麗な長い紅色の髪を持った少女と言うか幼女と言うか、まあ年下の悪魔の女の子が居た。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん。それより、私行かないと」

 

「案内役から逃げてきたのか?」

 

逃げてきたという言葉にビクッと反応する少女にため息をつきながら立ち上がらせて、一緒に和傘の下に入らせる。

 

「静かにしてろよ」

 

「えっと」

 

「隠してやるよ」

 

そう言って妖力で傘の外側に貼っていた呪符を内側に貼り直す。絵柄が変わり、本当に誰かが覗いている目のような形に少女が驚く。

 

「ひぅっ!?」

 

「大丈夫だ。あの札は蛇の目と言ってな、傘の内側を曖昧にするものだ。怪しい行動をしなければ見られてもばれないさ。さあ、歩こう。ゆっくりで良いさ」

 

そのまま歩き出すと少女が後を追ってきてオレの帯をぎゅっと握る。

 

「ああ、帯はやめてくれ。服自体を掴んでくれ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「うむ、次からは気をつけてくれれば良いさ」

 

ちょうどその時、後ろからやってきた案内役の妖怪の姿を確認する。天狗の桔梗だと?つまりこの娘はかなり良いところの出か。はぁ、オレが面倒をみるしかないか。折角の休日が潰れるか。歩きながら式神を落として桔梗に事情を話しに行かせる。

 

「それで、なんで逃げてきたんだ?」

 

「だってつまんないんだもの。似ているようなところばっかり行くんだもの」

 

なるほど、確かに子供には神社は面白みがないからな。なら裏京都の方に連れて行くか。

 

「なら少しは楽しめる場所に案内してやろう。だがその前に腹ごしらえだ」

 

「腹ごしらえ?」

 

「この先に美味い団子屋があるんだよ。奢ってやるから着いて来な」

 

「うん」

 

歩いて5分程のところにある馴染みの団子屋に向かい、店の前の椅子に少女を座らせて傘を持たせる。それから店に入り店主の米さんに声を掛ける。

 

「米さ〜ん、いつもの団子2人前にいつものお茶と、子供でも飲みやすい甘めのお茶一つね」

 

「誰か一緒なのかい?」

 

「ちょっとね、外国の観光客の子供だよ。神社を回ったりするのに飽きちゃったみたいだからオレが相手してるんだ」

 

「そうかい。ちょいっと待っておくれよ」

 

そう言って米さんが年齢を感じさせない軽やかな動きで団子とお茶を用意してくれる。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう。それじゃあ、これが代金ね」

 

財布から二人分の代金を払って戻ると、子供らしく足をぶらぶらとさせながら傘を回して遊んでいた。

 

「お待たせ。食べようか」

 

少女の分の団子とお茶をお盆ごと渡してやり、隣に座って団子に齧り付く。少女も食べようとしたところで傘に手を塞がれていることに気づき落ち込んでしまったので、尻尾で傘を持ってやる。

 

「ふわぁ、綺麗な尻尾」

 

「ふふっ、自慢の尻尾だよ。動物系の妖怪は尻尾がステータスになる重要な物でね、数が多ければ強さが、綺麗であるほどお金持ちであることが一目で分かるんだよ」

 

「どうして?」

 

「尻尾は力の塊なんだ。だから、数が多いほど力が大きい。尻尾を綺麗にするには、こまめに手入れをする必要もあるし、道具もいい物を使わなければならない。それにはお金がいっぱい必要なんだ。面倒だって思う人も多いしね」

 

「へぇ〜、そうなんだ」

 

興味深そうに尻尾に手を伸ばしてきたので遠ざける。

 

「勝手に触っちゃダメだ。力の塊だから何かあると問題が出るから。触る時はちゃんと許可を取ってからだな」

 

「ごめんなさい」

 

「素直な子は好きだぞ」

 

軽く頭を撫でてから傘を肩に担ぎ、おしぼりで手を拭いてやってから尻尾を差し出す。

 

「優しくな」

 

「いいの?」

 

「ああ、構わないよ」

 

少女はおそるおそる尻尾に手を伸ばして尻尾に触れる。

 

「ふわぁぁ、すごい手触り!!それにあったかい」

 

少しずつ大胆に触り始め、最後には抱きついて頬ずりまでする。まあ、気持ちはわからないでもない。今でもオレは尻尾に包まれて眠っているからな。しばらくして十分に堪能したのか尻尾から離れる。髪が乱れているのをオレのつげ櫛で梳いて整えてやる。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして。それよりも団子、硬くなっちまうぞ」

 

そう言うと慌てて団子を食べ始める少女を見て少しだけ笑みがこぼれる。良い所の出でも、子供らしく出来ているということは良い家族なのだろう。そう思いながら、尻尾の手入れをする。櫛を通して枝毛を爪で切り、隣で団子を喉に詰まらせている少女の背中を叩いてお茶渡してやる。団子を食べ終わり少しだけゆっくりした後に裏京都への入口へと誘う。

 

「ここは?」

 

「この小屋から少しは楽しめる場所に入れるんだよ」

 

少女の手を引いて小屋へと入る。

 

「おや、坊。そっちの子は?」

 

門番のヌリカベの土門が声をかけてくる。

 

「何、神社巡りに飽きた子の案内だよ。オレが付いているから、通してくれるか」

 

「まっ、妖怪の懐で暴れるような馬鹿もめっきり減ったし、坊が付いてるなら問題ないじゃろう。お嬢ちゃん、坊から離れるなよ。ちぃっとばかし乱暴者というか、酔っ払いがいるからのう」

 

「またこんな時間から呑んだくれてる、ああ、鬼どもか」

 

「うむ、あれはああいう種族だから気にしたら負けじゃ。さて、ようこそ裏京都へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疲れ切って眠ってしまった少女を背負い、肩には蛇の目を貼った傘を担ぎ、桔梗から知らされているホテルへと向かう。良い所の出だとはわかっていたが、まさか現魔王の一角を輩出したグレモリー家だったのは予想外だった。グレモリー家が宿泊しているホテルに近づくと、入口の所に紅髪の若い男性と銀髪の女性が立っていた。

 

うわぁ〜、男の方、魔王サーゼクス・ルシファーじゃないか。ってことは隣の女性がグレイフィア・ルキフグスか。戦いになることはないが、戦えば京都は壊滅だな。こっちも全力の十尾の妖狐形態じゃないとどうしようもない力を感じる。嫌いなんだよね、妖狐形態。尻尾と耳が生えるだけの獣人形態はともかく、巨大な狐となる妖狐形態はメリットよりデメリットの方が大きくて嫌いだ。獣性を強くなるからコントロールも難しい。メリットなんて龍脈の力を使った大掛かりな術式を使えるぐらいだよ。

 

さて、現実逃避はやめてと。蛇の目を剥がして姿を現すと件の二人が驚いている。とりあえず今のうちに畳み掛ける。

 

「グレモリー家の方でよろしいでしょうか?」

 

「あ、ああ、そうだよ」

 

「グレモリー家のご令嬢をお連れしました。まあ、見ての通りお疲れになって眠ってしまいましたが」

 

よだれで肩が冷たいから早めに抱きかかえてあげてほしい。

 

「すまない、グレイフィア」

 

「はい」

 

グレイフィア・ルキフグスが背中の少女を抱きかかえる。そういえば結局お互い自己紹介をしていなかったな。

 

「では、私はこれで」

 

「少しだけ良いかな?」

 

「なんでしょう」

 

「君の名前を教えてもらえるかい?」

 

「妖獣会総大将八坂が息子、十尾の十束と申します」

 

オレの名前を聞いて二人が驚いている。うん、その反応には飽きた。2年前からオレの名前を聞いた相手は全員そんな顔をするから。

 

「君があの。いや、失礼した。私はサーゼクス・グレモリー。隣にいるのは妻のグレイフィアだ。今日は魔王とは関係なく来ている。妹が迷惑をかけたようで」

 

「いえ、構いませんよ。京都と裏京都を好きになってくれたのならそれで」

 

「君は故郷を愛しているんだね」

 

「ええ。大好きです。だから、面倒でも十尾を晒して日本神話にカチコミをかけました。それだけの価値がここにはある。だから、貴方方も好きになってくれたら、嬉しいです」

 

別れる前に少しだけ妖力を使って狐火と幻術を利用して周囲の風景を幻想的に彩らせる。

 

「それでは最後まで京都の旅をご堪能ください」

 

一礼をしてから再び蛇の目を貼り直してその場から離れる。

 

 

 

 

 

 

 

グレモリー家のご令嬢の裏京都の案内を終えて一月後

 

「また来ちゃった」

 

「いや、まあ、オレが指名された時点でなんとなく分かってたけど、今回は一人なのか?」

 

「ううん、グレイフィアも一緒に来てる」

 

「お久しぶりです、十束様」

 

前回会った時は私服だったグレイフィアさんが今日はメイド服を着ている。恐ろしいぐらいにミスマッチしていて視線が集まる。

 

「えっ?グレイフィア、名前知ってるの?」

 

「はい。お嬢様がお眠りになっていた時に送ってくださいまして、その時に」

 

「ずるい!!私は聞いてないのに」

 

「聞かれなかったからな。おっと、仕事口調に直した方がよろしかったですか?」

 

グレイフィアさんに確認を取る。

 

「いえ、そのまま普段通りで構いません。その方がお嬢様もいいそうですので」

 

「ならこのままで。さて、改めて自己紹介だな。オレは十束だ。前みたいに狐のお兄ちゃんでも構わんぞ」

 

「私はね、リアスって言うの。リーアでいいよ」

 

グレイフィアさんが軽くため息をついているところを見ると礼儀作法に関しては習い始めてはいるようだ。まあ、ここでは一人の少女として過ごさせてあげてください。

 

「じゃあリーア、表と裏、どっちを案内してほしい?」

 

「裏が、やっぱり最初にお団子屋さん!!あと、狐のお兄ちゃんみたいな服を着てみたい!!」

 

「はいはい。それじゃあ、前と一緒の団子屋に行こうか」

 

「うん」

 

前と同じように手をつないで歩き出す。これがオレとリーアの長い付き合いの始まりとなった。

 


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