「ホットケーキとコーヒーを1つずつください!」
目の前のテーブルのいちごパフェを見ながら、両手に持ったクレープを交互に食べ、ガムシロップを3つほど入れたアイスミルクティーでそれを飲み込んだ後、白髪に一箇所だけ赤い髪が線のように入った髪に、真っ白なコートを着て、黒いズボンを履いた、かわいらしい顔の彼はそう言った。
ここは、ゲーム「2nd World」空間内の喫茶店。
二人以外には誰もいない店内にはシロクマのソファ、シロクマの着ぐるみを着た店員、氷でできているかのような水色の半透明のカウンター、なんともかわいらしい内装のカフェの名は「Cafe.シロクマ」。
そして、先程子供のようにスイーツを食べ散らかしていた彼の名は「千 一織」。
シロクマの店主「遠海 志郎」のゲーマー仲間であり今まさに志朗に注文をしたところであった。
「まったく、いつまでたっても子供みたいな食い方して。イオリ、今日は何するんだ?」
少し長めの藍色の髪、メガネの似合うスッとした顔立ちで、シロクマの着ぐるみを着た志郎は、いつもの落ち着いた笑顔で一織に今日の目的を聞いた。
「覚えてないのかよロー!今日は、昨日やっと手に入れた 二つ名 ''翼を持つ者''でロー
とエリンを空に連れてってやるって話だっただろ!」
一織は今日こそ待ちに待った日であると言わんばかりの意気揚々とした声でそう言った。
「そう言えばそうだったな。確かに、2nd Worldで上級者だけの特権である二つ名''翼を持つ者''...なかなか楽しみだ。」
つい先日発売となったこの新世代VRゲーム、「2nd World」。
BLACK BOX というゲーム会社が開発したもので、
「あなたの住む世界で出来ることはゲーム内でも なんだってできる。」
というコンセプトどおり地球で起こっている出来事をリアルタイムで衛星を通じてゲーム内に反映するという画期的なVRゲームだ。
現実の地球のどこかで車が動けばゲーム内でも同じ場所で車が動き、現実の地球のどこかで人が立ち話をすればゲーム内でもその人に似たNPCが立ち話をする。
VRゲームといっても、従来の ゴーグルをつけて、体を動かして...などというものではない。
2nd World専用のイヤホン型の機械を耳に付けて目を閉じるとゲーム内に人の意識を飛ばすことが出来るのだ。
2nd World内では人間の五感は全て反映され、カフェのBGMを聞きパフェを見て味と匂いを楽しみ冷たさに頭がキーンとなるのを感じることが出来る。
「にしても、せこいよなぁ、イオリ。
2nd Worldやってるやつで二つ名持ってるやつ少ないのに。お前は4つも持ってるもんなぁ...。」
このゲームには非現実的な要素が二つある。
一つは「シュガー」と「二つ名」という二つの特殊ステータスがあることだ。
「シュガー」はRPGでいう「魔法」に当たるもので、プレーヤーがそれぞれ持っているシュガーポイント(SP)を消費して使用することができる。
「二つ名」は「スキル」に当たるものだ。
プレーヤーがレベルに応じて解放することができ、シュガーとは違って無制限に使用することができるが、プレーヤーに与えられる二つ名は最大でも一つだ。
ちなみに、レベルはどれだけあげてもプレーヤーのステータスが上がることはない。
そして、もう一つの要素は「別世界の存在」だ。
2nd Worldは地球規模で全てが再現されており、現実の地球のどこへでも行くことができるが、現実の地球にはない四つの国が存在する。
それは、太平洋に浮かんでおり、それぞれ「Life」「Material」「SpaceTime」
「Power」と名付けられている。
一織は最初に手に入れた二つ名、
「三名を連ねし者」によって、特別に新たな二つ名を三つまで持つことができるのだ。
2nd Worldで二つ名を持つこと自体が難しいことでもあり、四つの二つ名を持っていることもあって、一織はこの世界では有名なプレーヤーなのであった。
「ローも早く一個くらい二つ名持てよなー
現実でできないすっっっごいこといっぱいできるんだぞ!」
「バーカ。二つ名手に入れるだけでレベル100まで上げなきゃなんねぇんだぞ。このゲームを楽しんだ具合によってAIがレベルを勝手に上げ下げすんのに、100までなかなかあげらんねぇだろ。」
志郎は一織をそう言って少し羨ましそうに見ながらコーヒーを入れている。
「2nd World、すごいゲームだよなぁ。本当に現実で起こっていることが同時にゲーム内でも起こるなんて。パフェもクレープもホットケーキもちゃんと味がわかって美味しいし、なんといってもそれが食べ放題!いくら食べても太んないから最高!」
大の甘党である一織は両手のクレープを食べ終わり、カウンターに置いてあったパフェに手を伸ばす。
「女子みたいなこと言うなぁ。食べ放題でも金はきちんと払ってもらうからな。ゲーム内のお金は現実でもポイントとして同じ価値で使えるんだから。」
「はいはいっ。わかってるさ!お小遣い稼ぎも2nd Worldの醍醐味だからな!」
一織がそう言うと、志郎は完成したホットケーキとコーヒーをカウンターへ出した。
「はい、お待たせ。シロクマホットケーキとペンギンコーヒー。」
「相変わらずダサい名前つけてんなぁ、、」
「こっちのかわいい名前の方が人気でんだよ。前みたく、シローケーキと しろーいコーヒーの方が俺はいいと思うんだが...」
「それはやめとけ...。」
一織は相変わらずの志郎のネーミングセンスに苦笑した。
「そういえばイオリ、最近2nd World内に変な噂が流れててよ。なんでも、近頃閉鎖された5つ目の別世界''Phantom''の閉鎖された理由が、プレーヤーの自殺らしい。塔から飛び降りたんだと。」
別世界にはそれぞれ1つずつ「塔」と呼ばれる建物がある。
誰も未だその建物に入ったことはないと言われていて謎に満ちているが、プレーヤー達の中ではおそらく現実から衛星が送ってくる世界のデータを受け取るための受信塔のようなものではないかと考えられている。
「ゲーム内で自殺だけならまだいいんだけど、どうやらそのプレーヤー、同時刻に現実でも死んだらしい。
一部プレーヤー達の中では、現実とゲームは繋がってる。なんて言ってるやつもいるらしいぞ。」
「...そ、そうなんだ。あまりゲーム内事情には詳しくないからなぁ俺。」
志郎の奇談に一織は言葉を濁す。
「悪るいな、食事中にこんな話をして。イオリは大の怖い話嫌いでもあったな。」
「いやいや、大丈夫大丈夫。まぁ怖い話くらい?全然怖くないし?大丈夫だしぃ?」
すまない。と謝る志郎に、一織は笑ってみせた。本当は全て知っているかのような気まずい表情で————。
「お邪魔しまーーーーーす!!」
店のドアを激しい勢いで開け、赤いショートボブで、犬のようなくりっとした目のかわいい少女が入ってきた。
「よぉエリン待ってたぞ〜!」
「やっほーいおりん!シロもやっほー!」
「いらっしゃいエリン。」
いつもの挨拶を交わし、「白浜笑鈴」はカウンターに座った。
「さぁ!3人揃ったし、本題だ!」
一織はホットケーキを一口で頬張り、コーヒーを飲み干して今日の予定を話し始めた。
「昨日レベル400に到達して手に入れた二つ名''翼を持つ者''を使って諸君を空へ連れて行こうと思う!異論がある隊員はいるか!」
「ありません隊長!」
「ありません隊長。」
得意げに満遍の笑みで話す一織に、笑鈴はまた満遍の笑みで、志郎は微笑みながら答えた。
「よし!外にじゃあ行くぞぉ!」
「おーー!!」
一織と笑鈴は椅子を蹴飛ばすように立ち上がり、ドアを開け、外へ出た。
「置いてくなよ!...はぁ、本当にあいつらは。あ、そういえば...イオリ!金払えぇ!!!」
残された志郎もシロクマの着ぐるみを脱ぎ、店を閉めて外へ出た。
新しい二つ名、新しい冒険、人が生身で空を飛ぶと言う未だ嘗てない体験に心を踊らせ、彼らは外の「世界」に飛び出した。
その「世界」は現実となんら変わりはしないがそれでいて、現実ではなく。
その「世界」は人々の理想が叶う場であり、人生のやり直しのきく場所であり。
そして
その「世界」は人の手で
いとも容易く、崩れ落ちる——————。
* * *
「おーーい!待てよー!」
「やっぱ眺めいいなここ!!」
「最高の''フライポイント''だね!」
Cafe.シロクマの看板が揺れ、声がかき消される程の少し強い風が吹いた。
Cafe.シロクマは2nd World内でイオリ達が住んでいる福岡のとある街を全て見渡せるほどの高台にポツリと建っている。
「ここから空に飛び立つのが一番だと思って今日ここに集まったんだからな!誰もこない店でもこういう時はいい仕事するなぁ〜。」
「悪かったな人がこない店で。二度とスイーツ作ってやらないからなイオリ。」
「ごめんなさい!後生だからそれだけはっ!」
言い合いをする一織と志郎をよそに、笑鈴は景色を眺めながら言った。
「ねぇ空ってもしかすると、誰も見たことない島があったりするのかな!」
「どうなんだろう。BB(BLACK BOX)のホームページには別世界についての項目に空島は載ってなかったけど。」
「行ってみればわかるさ!もしかしたらドラゴンが飛んでたりするかもしれないぞ?」
「ドラゴン!いいね、私ドラゴンがいたら捕まえて一緒に冒険したい!」
「ドラゴンって捕まえられるのか?というかどうやって捕まえるんだよ...。」
彼らは空への思いをそれぞれ抱き、手を繋いだ。
「よし!じゃあ行くぞ!」
「うん!楽しみだねシロ!」
「あぁ。楽しみだ。」
一織の周りを炎のようにオーラが漂う。
「我 ''翼を持つ者''!」
瞬間。それまで漂っていたオーラは大きな赤い鳥のような翼をへと形を変え、一織の背中のにまわった。
「しっかり掴まってろよ二人とも!」
勢いよく一織が跳ぶと同時に、三人の体は空へと飛び上がった。
一織達の住む街が眼下に広がりそれがどんどん小さくなる。
未経験の感覚による恐怖からか、それとも未体験の世界への期待か、彼らには凄まじいスピードで空へと吸い込まれているように感じられた。
「ひゃーーーーー!!!空を飛ぶってこんなに気持ちいいのか!」
「と、とてつもなく早いんだけど...。」
「ビビってんじゃねぇよロー!まだまだ高く飛ぶぞ!」
一織の手に力が入った。
すると、スピードはさらに上がり、翼は少し大きくなっていった。
高度が上がっていくと同時に、彼らの中にあった恐怖は消え去り、空の世界を楽しむことができるようになった。
「慣れてきたな!ローもエリンも大丈夫か?」
「あったりまえでしょ!」
「あぁ。もう慣れたよ。」
「じゃあ高さはここら辺でこのまま雲と一緒に飛んでみよう!」
一織は地面と垂直にしていた体制を、雲と平行になるように整えた。
「そういえば、俺たち今どこにいるんだっけ?」
イオリは目の前に表示されたマップを見る。
「そろそろ太平洋の真上だ。」
「なるほど、結構飛んだなぁ。」
一織と志郎は今まで自分達が飛んできた距離を見た。彼らはちょうど日本を離れ、太平洋を横断しようとしていた。
彼らがちょうど太平洋の中心部に浮かぶ四つの別世界の上空にさしかかった時だった。
「ねぇ!あれ何!?」
笑鈴が東方に見つけたそれは、真っ黒で、とても大きな立方体の飛行物体であった。
「なんだあれ?ロー、あれって最近追加されたやつか何か?」
「いや、知らないな。」
「近くまで行って確かめてみるか!」
一織達はその四角い物体に近づくと、それは想像よりも大きく、一辺100メートルくらいの大きさの立方体であり、表面には白い文字で''BLACK BOX''と書かれていた。
「あれ BLACK BOXって書かれてあるぞ!」
「もしかして、ゲーム内でのBLACK BOXの拠点なのか?」
「ねぇねぇ、あの正面にある穴って入り口なのかなぁ?」
立方体の表面には四角い穴が空いており、中へと通じているようだった。
「あのさ、俺にいい考えがあるんだけど。」
「やめとけイオリ。BLACK BOXの拠点かもしれないんだぞ、プレーヤー立ち入り禁止だったらどうする。」
志郎がそういうと一織と笑鈴は顔を見合わせて頷き、言った。
「私は中に何があるのか気になっちゃうなぁーー。」
「俺も気になるなーー。」
「シロも気になるでしょーー??」
「ローも気になるよなぁーー??」
知らないことを知らないままにしておくのが苦手な志郎をその気にさせるのは簡単だった。
「いや。気にならないとは言ってないだろう。第一、本物のBLACK BOXの拠点がこんなところに浮かんでるわけないだろうし、他のプレーヤーが飛行物体を発明して飛ばしてるのかもしれないしな。うん。別に気にならないとは言っていないぞ。」
正直に言えばいいのに..。と二人は笑った。
「入ってみるか!」
「絶対にはぐれるんじゃないぞ。」
こうして彼らは中へと入っていった。
今まで見てきた世界が崩壊を目前にしていることなど、彼らは知りもしなかったであろう。
* * *
中へ入ると、そこは真っ黒な外見とは打って変わってとても明るかった。
とてつもなく広い真っ白な空間広がっており、そこに7つ、赤い玉座が中心を向いて円状に並べられていて、沢山の大小異なる白い立方体のオブジェのようなものがそこら中に置かれてあった。
「なんだろうこの部屋?」
笑鈴は不思議そうに辺りを見回したり、オブジェに触れて見たりしている。
「なんか、とにかくなんもないなここ。」
「玉座が7つ置かれているということは、ここで複数人が何かをしていたんだろうな。」
「何かってなんだよ?」
「さぁ、わからないが。」
一織と志郎も辺りを見回す。
数分が経ったころ、一織達が入ってきた穴から複数の足音が聞こえた。
「誰か来た!」
「しっ。エリン。ここの主達が戻ってきたのかもしれない。トラブルになってはいけない、隠れよう。」
「あのでっかいやつの向こうに隠れようぜ。」
彼らは声を潜め、一番大きな白い立方体の後ろに隠れた。
入ってきたのは、黒いフード付きのマントを着た人間だった。
背丈と輪郭から察するに、男四人、女三人といったところだろうか。
彼らはそれぞれ玉座に座り、最後に背の低い女が一つだけ装飾が豪華な玉座に座った。
「ボス。全ての準備、完了致しました。」
口を開いたのは、最後に座った女の右手側に座っていた男が太く、闇のこもった声だった。
「ご苦労様。...では。ようやく訪れた今日、この日をもって、私達BLACK BOXは
''World Fall''計画を実行し、人間を支配から解放するため、世界を作り変えましょう。」
ボスと呼ばれていたその女は、全てを悟ったような声で、静かに、覚悟を決めたようにそう言った。
「おいロー、聞いてたか、今の。」
「あぁ。どういうことだ、人間を支配から解放するために世界を作り変える...。まさか、現実世界の話じゃないとは思うが。」
「どういうこと?見えないよぉ、私もみたいー!」
背の小さい笑鈴は二人の後ろに隠れていて、何が起こっているのか全く分からずにいた。
「おい、押すなエリン。今大事な時なんだ。」
「大事な時なら私もみたいー!」
「こら、エリンっ...!」
エリンはローを踏み台にして身を乗り出した。
「最終決定の選択は私が押します。いいですね皆さん。」
玉座に座っている全員が頷く。ボスと呼ばれる彼女は立ち上がり、玉座の中心に出てきた文字
『 実行しますか? はい いいえ』
を見つめ、深呼吸をした後宣言した。
「私達は人類を救う!!」
そして、彼女は『はい』を選択した。
まばゆい光とともに、玉座に座っていた七人と一織達を残して、その空間にあるもの全てが消えた。
「何が起こったんだ、、おい、ロー無事か!?」
「あぁ、エリカも大丈夫か?」
「うん、私は大丈夫だよ。」
突然起こった光に、彼らは驚き、自分達に何も変化がないか確認し合った。
「誰だお前達は!!」
フードを被った七人の中の大柄な男がドス黒い声で一織達へ向かっていく。
その鋭い目はまるで呪いのように一織達の動きを止めた。
「お前たち、いつからいた!」
「...。」
一織達は男の形相から凄まじい恐怖に襲われ、何も答えることはできなかった。
すると、ボスと呼ばれていた女は男の肩に手を置き、下がりなさい と一言いった。
男は後ろへ下がった。しかし、男はそれでもなお一織達を鋭い目で見ている。
女はまた、悟ったような声で一織達にこう言った。
「あなた達を支配しているものはなに?
社会?家族?それとも、この世界自体かしら?」
わけのわからない質問に、一織はやっとの思いで口を開いた。
「お前ら、何をするつもりだ!世界を作り変えるって...どういうことだ!」
「よせイオリ!現実世界のことなわけがない...とにかくこいつらに関わってるとやばそうだ、逃げるぞ!」
呪いのように動かない体を必死に動かそうとして、志郎は叫んだ。
女は再びその口から静かな声で言葉を発した。
「何をする''つもり''?ふふふ...もう終わったのよ。私達の計画は実行されたの。
''World Fall''計画。私達はそう呼んでいるわ。知りすぎたあなた達のためにせっかくだから教えてあげる。
2nd Worldの世界は現実世界で起きたことを反映してる。けれど、それを逆転したのよ。
2nd Worldの中の''どこか''で車が動けば現実世界の同じ場所でも車が動く。
2nd Worldの''どこか''でプレーヤーが死ねば、現実世界でもプレーヤーは死ぬ。
残念ながら、自然災害みたいな大きなことは現実世界に反映されるまでに時間がかかってしまうけれどね。」
「ゲーム世界で起こったことを現実世界でも反映させる...。そんなことが可能なのか...?」
志郎は半信半疑でいたが、女がとても嘘を言っているようには見えなかった。
「そしてこの計画にはもう一つ重大なポイントがあるの。ふふふ...それはね————。」
女が''World Fall''計画の全貌を明らかにする前に、フードの七人の中の一人がそれを止めた。
「ボス。福岡上空に到着いたしました。お時間です。」
「えぇ、わかってるわ。ここまでにしておきましょう。」
「まて!どう言うことだ!?ゲーム内で死ねば現実世界でも死ぬって...そんなの、嘘に決まってる!」
一織は告げられた衝撃の事実に反発するように女を睨みつける。
「あら?嘘だと思う?それなら、自分で体験してみるといいわ。
ごめんなさいね、あなた達は知りすぎた。
残酷な運命ね、ただ居合わせただけなのに。
さようなら。」
彼女がそう言うと、それまで白かった空間は少しずつ透明になっていく。
同時に、一織達の体は動くようになり、いつの間にかフードの七人は影も形も無くなっていた。
壁も、天井も、床も、全てが透明になった瞬間。一織達がいた黒い立方体は跡形もなく消えた。
「きゃーーーー!!」
「エリン!!!ロー!!!」
一織は二人の名前を叫ぶ。
その声は届くことはなく、彼らは真っ逆さまに今まで彼らが生きてきた「世界」に向かって落ちていった。
「くそっ...!」
一織の頭の中に女の声が繰り返される。
『2nd Worldの''どこか''でプレーヤーが死ねば、現実世界でもプレーヤーは死ぬ。』
はるか下方の悲鳴に意識を戻され、一織は叫んだ。
「我!!''翼を持つ者''!!」
一織は赤い翼をまとい、志郎と笑鈴の元へ飛んだ。
「ロー!!エリン!!!」
「イオリ!!」
「いおりん!!」
「うぉぉぉぉぉぉお!!!!!」
一織と志郎と笑鈴は互いに手を伸ばした。
地球に引きつけられ、世界に落ちていった彼らは、地面に叩きつけられる前に間一髪のところで一織に助けられた。
「大丈夫か二人とも!?」
「危なかった...。」
「ありがとうイオリ。」
「ふぅ、あの女突然落としやがって、死ぬっていうのは一体何がどうなって...。」
状況を確認しようと周囲を見回した一織は言葉を失った。
「世界」は簡単に出来ている。
「世界」は単純に出来ている。
「世界」は脆く出来ている。
彼らの眼前には、彼らが今まで生きてきた2nd Worldのその世界には、Cafe.シロクマも、彼らの家も、山も、人さえもなく。
ただ、白く平な砂漠が広がっていた。
それはあまりにも美しく。
人類の歴史も文明も罪も支配も、
全て、無かったことのように————。
初投稿です。
よろしくお願いします。