もし、西住みほに双子の妹が居たらという物語   作:青空の下のワルツ

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クリスマスパーティーが始まる。


聖夜の決戦

 

「んじゃ、乾杯しよっか?」

 

「「乾杯!」」

 

 角谷先輩の軽い乾杯の音頭でクリスマスパーティーは開始した。

 あたしと沙織が作った料理がテーブルに置かれて、立食パーティーのスタイルでみんなに楽しんでもらう。

 

「ねぇねぇ、まみりんとみぽりんのお姉さんって、なんか雰囲気が大人だし絶対にモテそうだよね?」

 

 沙織はまほ姉がモテそうな雰囲気だと口にする。

 ふむ。さすがは沙織だ。こういうセンサーは誰よりも鋭い。

 

「まほ姉はめちゃめちゃモテるよ。もう、大変なんだから」

 

 あたしは即答で沙織の言葉を肯定した。まほ姉はとんでもなくモテる。

 いつ恋人が出来たと紹介されてもおかしくないと、あたしは思ってる。

 

「まみ、適当なことを言わないでくれ。すまないな。この子の言うことは流してもらえると、助かる」

 

 するとまほ姉ったら、あたしが適当なことを言っていると、そんなことを言う。

 本人は気付いていないから仕方ないんだけど――。

 

「――は、はい。か、かっこいい……」

 

 既に沙織はまほ姉のイケメンオーラにやられてポーっと赤い顔をしている。

 そう、まほ姉は女の子にモテる。バレンタインには毎年アホみたいな量のチョコレートを貰っていた。

 その辺は男子顔負けである。そして、あたしはお裾分けを毎年貰っていた……。

 さすがにエリカのは食べないでおいたけど……。一応、彼女は本気みたいだし……。

 

「あらあら、まみさんの言うことは決して適当ではなさそうですね」

 

「というか、沙織がチョロい。釣り竿に針を付けなくても釣れるくらいチョロい」

 

 華が沙織の顔を見て楽しそうに微笑むと、麻子が幼馴染だけに放つ辛辣なツッコミを入れる。

 沙織がチョロいのは否定しないけど……。

 

「何か、それだとザリガニみたいですね。武部殿が」

 

 そんな麻子の言葉に反応して優花里が独特の言い回しをする。

 いやいや、ザリガニって……。確かに糸にスルメでも巻き付けたら簡単に釣れるけども……。

 

「ちょっと、ゆかりん! ザリガニは酷いよ。可愛くないもん」

 

「そういう問題なんだ……」

 

 沙織はチョロいことは否定せずにザリガニが可愛くないことに眉をひそめる。

 何かいつも会話が噛み合っていない気がするけど、楽しいからいいか。

 

「ザリガニかー。昔はよく取りに行ったよね」

 

「まみりん。ザリガニの話を膨らませなくて良いから」

 

 あたしが昔よく姉妹でザリガニを取りに言った話をすると、沙織がその話は要らないみたいな顔をした。

 結構、楽しい思い出なんだけど。需要はないのか。

 

「まぁ! 皆さんで行かれていたのですか? 仲がよろしいのですね!」

 

 と、思っていたら華がこの話題に食い付いた。

 

「ああ、特にみほが一番上手かった」

 

「ふぇっ? そ、そうだったかな?」

 

 まほ姉はみほ姉がザリガニを取ることが上手かったと回想する。

 みほ姉はあまり覚えてないみたいだけど……。

 

「いや、みほ姉が考えた取り方、あれは業者のやり方だったみたいだよ? ズバッと芋づる式に捕まえるやつ」

 

 みほ姉が考案した釣り方は数十匹のザリガニを一気に捕まえるやり方で、あたしが気になって数年後調べてみたらザリガニを卸している業者がしている方法とほとんど同じだった。

 

 それを小学生にもなっていないみほ姉は自分で思い付いたのだから、彼女の発想力はその頃から非凡だったのかもしれない。

 

「あまり大量に捕まえて帰ったから、お母様が卒倒しそうになってな。後にも先にもお母様があんな顔をしたのはあの日だけかもしれん」

 

 そう、大量にピースサインを送るザリガニの大群を見て母は倒れそうになった。

 そして、アホみたいに叱られた。ザリガニを返しに行った菊代さんには迷惑をかけたっけ。

 

「へぇ、みぽりんって大人しいって感じだったけどわんぱくだったんだね」

 

「は、恥ずかしいな。よく覚えてるね。二人とも」

 

 沙織が興味深そうにみほ姉を見つめると彼女は本気で恥ずかしがって照れて俯く。

 なんか、小動物みたいだな……。こういう生き物っていたような……。

 

「みほ姉の話なら覚えてるわよ。他にも――」

 

「そうだな。みほの話なら――」

 

 あたしとまほ姉は幼少期のみほ姉のエピソードを次々と語り合う。

 思えば色んなことがあったなぁ。

 

 

「おい、止まらないぞ。まみと西住まほのみほトークが……」

 

「ふ、二人とも、途中からなんか競ってない?」

 

 あたしとまほ姉がみほ姉の話で盛り上がっていると河嶋先輩と小山先輩が呆れ顔であたしたちを見つめていた。ていうか、みほトークって何?

 

「てゆーか。ここまで来るとどっちが詳しいのか興味でるな!」

 

 角谷先輩は面白そうにあたしたちを見つめて、そんなことを言う。

 どっちが詳しいって、そんなのは決まっている。

 

「会長、それならあたしだよ。だって、双子だし。あたしよりみほ姉のこと知ってる人は居ないよ」

 

 あたしは自分こそが1番みほ姉のことを分かっていると主張する。

 生まれた時からずっと一緒だったんだから、当然でしょう。

 

「まみの冗談は聞き流したほうがいい。私はずっと二人を見守ってきた。私よりも詳しい者など居るはずがない」

 

 しかし、まほ姉はあたしの主張を否定する。自分が1番みほ姉のことを知っていると……。

 

「へぇ、びっくりしたわ。まほ姉が冗談なんて言うんだね」

 

「私は事実を言っただけだ。まみの戯言とは違う」

 

 あたしがまほ姉の言葉に反論すると、彼女もまったく譲らないという視線をあたしに送ってきた。

 むむ、まほ姉とはいえ譲れないよ。これは……。

 

「ちょっと、まみちゃんもお姉ちゃんも変なことで張り合わないでよ〜」

 

「みほ殿、無駄みたいです。お二人は互いに自らの主張を譲らないでしょう」

 

 みほ姉は困り顔をしていたが、あたしとまほ姉は優花里の言うとおりバチバチと闘志をぶつけ合っている。

 

「じゃあ、勝負してみたら。名付けてみぽりんクイズ10番勝負ー」

 

「おお、武部ちゃん。それ面白そーじゃん。やろう!」

 

 そして、沙織は“みぽりんクイズ10番勝負”という謎の企画を提案して、角谷先輩はそれに乗っかる。

 要するにみほ姉についてのクイズにどっちが多く答えられるってこと?

 

「お二人が姉として、妹として、タイマンを張るのですね。なんて素敵なのでしょう」

 

「あれが素敵なのか……? 五十鈴さんは面白い人だな……」

 

 楽しそうにあたしたちを見ている華を見て、麻子は不思議そうな顔している。

 華のツボはあたしも未だにわからない……。

 

 そして、沙織が出題者となり“みぽりんクイズ10番勝負”がスタートした――。

 

「第一問、みぽりんの誕生日と血液型は――」

 

「「10月23日、A型!」」

 

 あたしとまほ姉は間髪を入れずに答えを出す。

 これは簡単すぎる。

 

「すっごーい。同時だ」

 

「いや、今のは沙織の問題が悪い」

 

 沙織は素直に驚くが、麻子は冷静なツッコミを入れる。

 

「家族の誕生日とか血液型は忘れませんよね? まみ殿に至っては同じですし……」

 

 確かに家族のプロフィールを問題にされても……、とは思った。

 あたしは優花里の言うとおり自分の誕生日と血液型を答えただけだし……。

 

「むぅ〜。二人とも文句ばっかり! じゃあ、続いて第二問――」

 

 こうしてあたしとまほ姉の丁丁発止の攻防は続く。

 しかし、どんな問題もあたしたち二人は即答してしまうので、決着はつかない……。

 

 

「――はなんでしょう?」

 

「「マカロン!」」

 

 そして、9問目みほ姉の好きな食べ物をあたしたちは同時に答える。

 大丈夫、あたしはみほ姉の持っている1番値段の高い下着だって知っているんだ。

 

「これ、決着つくのか? というか、ついたところで何なんだ?」

 

「もう二人が1番で良いんじゃないかな?」

 

 河嶋先輩と小山先輩は一向に決着がつかない様子を見て、思いっきり飽きたという表情をしている。

 意味があるかと問われれば、プライドの問題としか答えられない。

 

「西住流に逃げるという道はない!」

 

「受けて立つわ……!」

 

 あたしとまほ姉は最後まで戦うことをお互いに誓いあった。

 戦車道での真剣勝負と同じくらいのプレッシャーを彼女から感じる――。

 

「なんか、凄い名言を聞いたような気がします……」

 

「この状況だと、どんな言葉も迷言になると思うが……」

 

 優花里は興奮し、麻子は眠たそうな顔をしつつ一応付き合ってくれている。

 さあ、そろそろまほ姉を倒すぞ――。

 

 そして、10問目で展開は大きく動く――。

 

「第10問、みぽりんが1番好きなのものはなーんだ!」

 

「「す、好きなもの?」」

 

 みほ姉の好きなものという出題であたしとまほ姉は一瞬迷う。そして――。

 

「あ、あたしよ」

「わ、私だ」

 

 何故か、あたしは自分がその答えだと口にしてしまった。

 確かに、みほ姉はまほ姉の方が好きかもしれない……。

 

 だが、答えは――。

 

「ブー! 正解はボコでしたー!」

 

「「ボコ?」」

 

 正解を聞いてあたしとまほ姉は顔を見合わせる。

 いや、確かにボコが好きなのは知っているけど――。

 

「あ、あの熊にあたしって負けたの?」

 

「――私もまだまだということか」

 

 あたしとまほ姉は二人とも膝をついて愕然とした表情を浮かべる。

 あのクマ……、あたしよりもみほ姉に好かれてるなんて――。

 

「なんか、二人ともがショックを受けてるみたいだから、この辺にしよっか」

 

 あたしたちが互いに戦意喪失したのを見て、角谷先輩はクイズ対決を終えようと告げた。

 もう、一気に勝負の熱が冷めちゃった。

 

「ええーっと、まみちゃんもお姉ちゃんも好きだから。そ、そんなに落ち込まないでよぉ。だって、好きな()って聞くから――」

 

 みほ姉は落ち込むあたしたちを慰めるような言葉をかける。

 しかし、あたしたちが元気を取り戻すまでは少しだけ時間がかかった。

 

 それからクリスマスプレゼントの交換会を始めた。

 

「むっ、私のは武部さんのプレゼントか。何だろうか?」

 

「どうせゼクシィだろ……」

「ゼクシィね」

「そんなに簡単に答えを言っては面白くありませんよ」

「とはいえ、それ以外の答えが思いつきませんから」

 

 まほ姉のプレゼントを沙織が用意したものだった。どう考えても答えが一つしか思いつかないので、あたしたちは普通に答えを言ってしまう。

 

「ちょっとぉ! いくら私でもプレゼントにゼクシィは選ばないよぉ」

 

「これはネックレスか……。ずいぶんと可愛らしいものを」

 

 しかし、意外にも沙織のプレゼントは普通のアクセサリーだった。へぇ、珍しいな……。

 

「えへへ。これって身に着けているだけで、勝手に揺れて男の人を催眠状態にして落とすっていう魔法のアイテムなの」

 

「絶対に騙されてるわね……」

「時々、沙織が詐欺に引っかからないか心配になる……」

 

「ちょっと……!」

 

 どう考えても胡散臭いアイテムの説明を自慢げに行う沙織を見て、あたしと麻子は少し心配になってしまった。

 悪い男に引っかかるのだけは止めてほしい。

 

 そのあとは、みほ姉は華から花瓶を受け取ったり、あたしは優花里から戦車のプラモデルを貰ったりして、まぁまぁ盛り上がった。

 

 そして、盛り上がったパーティーもそろそろお開きの時間が近付いてくる。

 

「いや、今日は大洗女子学園の皆さんには世話になった。来年度から戦車道を復活させるみたいだが……。分からないことがあったら何でも相談をしてくれ」

 

 まほ姉は後半は角谷先輩と話し込んでいた。角谷先輩は聡明で有能な人だから、まほ姉も彼女と話すのは楽しかったと後日あたしに言っていた。

 

 特に、後輩とのコミュニケーションの取り方なんかは彼女から色々と学ぶところがあると感じたらしくメル友になったらしい。

 

「みほ、まみ、お前たちがここで再び戦車道を始めるのかどうか分からないが、自分の信じた道を進むんだ。まわり道することは悪いことではない。逃げるということと、寄り道をすることは違う。納得出来るまで、自分の本心と話し合って偽りなく生きなさい」

 

 まほ姉はあたしたちにそんな言葉を与えてくれた。

 これは彼女からの何よりも素晴らしいクリスマスプレゼントだったかもしれない。

 

 では、あたしもこれからまほ姉とみほ姉にプレゼントを渡さなくては――。

 

 あたしは角谷先輩に目で合図を出すと、部屋の照明が全て消灯して真っ暗になる。

 

 この隙にプレゼントを渡さなくては――。

 あたしは押し入れに隠していたこの場の全員に用意したプレゼントを取り出そうとする。

 

 しかし、押し入れに用意したプレゼントが無くなっている。どういうことだ? これは――。

 

 どういうことか、あたしは混乱していると、照明が付いてしまった――。

 失敗? あたしの脳裏にその二文字が浮かんだとき、驚きの光景を目にしてしまう。

 

「メリークリスマス……」

 

 目の前にはサンタのコスプレをした母が立っていた――。

 




こういう、日常のエピソードを描くのが楽しすぎます。
まぁ、まったく展開は動いてないのですが……。
感想とかあれば、よろしくお願いします。

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