もし、西住みほに双子の妹が居たらという物語   作:青空の下のワルツ

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メリークリスマス!
クリスマスイヴにタイムリーにクリスマス編を終えることが出来て良かったです。


サンタクロースとして

 

 

「母さん!」

「お母さん?」

「お、お母様……?」

 

 あたしたちは自分たちの母親が目の前にいることに驚きを隠せなかった。

 えっ、これはどういうこと? まさか、角谷先輩が……?

 

「えっ、なになに? あのキレイな人、まみりんたちのお母さんなの?」

 

「いいえ、私はサンタクロースです」

 

「「はぁ?」」

 

 沙織の問いかけに真顔で“サンタクロース”だと答える母に対して、あたしたちは声を揃えて変な声が出てしまった。

 昔からよく分からないことをすることはあったけど、ここまではっちゃけた事はない。

 

「母さん、何をしてるの? ていうか、友達とか先輩も見てるんだけど……」

 

「ですから、私はあなたたちの母親ではありません。ただの通りすがりのサンタクロースです」

 

 あたしが母に友人や先輩たちの為に何をしているのか尋ねると、彼女はあくまでもサンタクロースキャラを貫こうとする。

 いや、無理だって。どんなにそう主張したって目の前にいるのは年甲斐もなくサンタのコスプレをしている痛い人だから。

 しかも、なんでそんなに胸元が空いてる衣装選んだし……。理由は何を言ってくるか怖いから聞かないけど……。

 

「いやー、たまたまサンタクロースと会っちゃってさ。サプライズゲストをお願いしたら快諾してくれて……。ラッキーだったよ」

 

 そんな中、ヘラヘラと笑いながら角谷先輩が母にサプライズゲストをお願いとか言ってきたので、この騒動を演出したのが誰なのかはっきりした。

 

「か、角谷……。お前はまさか……」

 

「やっぱり、会長が母さんに……」

 

 まほ姉はみたことないくらい動揺しながら、角谷先輩を睨み、あたしは予想通りだったと自分の中で納得する。

 

「だから、まみ子たちのお母さんじゃないって。ここに居るのはサンタクロースだ。西住流とか全然関係のない人だよ」

 

「こ、ここに居るのはサンタクロース? 西住流は関係ない……?」

 

 角谷先輩はサンタクロースは西住流と無関係な人だとか言ってくる。

 そんな彼女の言葉をみほ姉は首を傾げながら復唱していた。

 

「そうですね。サンタクロースは戦車道をしませんから。戦車には乗りません。ソリには乗りますが……」

 

「これは笑うとこなのか?」

「桃ちゃん。空気!」

 

 真顔でよく分からないことを呟く母に河嶋先輩が耐えきれずにいるみたいだが、小山先輩が静観の姿勢を貫けというような言葉を彼女にかける。

 

「で、サンタクロースなのは分かったけど……。何をしに来たのかしら?」

 

「愚問ですね。まみ。サンタクロースがすることと言えば1つだけでしょう。良い子にプレゼントを渡すのですよ」

 

 あたしがサンタクロースになった母に目的を尋ねると彼女はプレゼントを渡しに来たと普通の回答をした。

 手に持っている袋を開きながら。

 

「プレゼント……?」

 

「では、皆さんにお配りしますね」

 

 そして、母は事前にあたしが準備していたプレゼントを友人や先輩に配り始めた。

 

 確かに母からパーティーを開いてまほ姉にプレゼントを渡すなら参加者全員にプレゼントを用意するようにと指示されていた。

 だから、このプレゼントは母からみんなへのプレゼントと言っていい。

 

 

「うわぁっ! こ、この“やわらか戦車”の砲弾のレプリカ欲しかったヤツです」

 

「人をダメにしたあげく屍にする枕……」

 

「まぁ、伝説の白米、ゴールデン・コシヒカリですね! ありがとうございます!」

 

「プレミアム・ゼクシィだ。こんなのあったっけ?」

 

 友人たちが欲しがりそうな物をあたしは見繕っていたので、プレゼントは結構喜んでくれていた。

 

「わ、私たちのプレゼントまで。わざわざ申し訳ありません。ありがとうございます」

 

「サンタクロースさんには感謝だね」

 

 生徒会の先輩たちは揃って母に頭を下げて感謝を述べている。

 先輩たちには、あたしとみほ姉が二人とも世話になっているから母としても何かしたかったのだろう。

 

「あと、あなたたちにもプレゼントがあります」

 

「圧力鍋……。ありがとう。今度ビーフシチューでも作るよ」

 

 母はあたしに圧力鍋を渡す。自分で買ったけど、母から貰うとちょっと嬉しい。

 

「まみ、あなたが色々と努力していることは知っています。みほの体を気遣ってお料理を頑張っていることも」

 

「母さん……。いや、サンタクロースに言われると照れくさいな」

 

 あたしはみほ姉に健康でいてほしいから、彼女が転校してきて、より一層料理の勉強をした。

 コンビニが好きなみほ姉を少しだけ心配していたからだ。

 それにやっぱり好きな人に美味しいって言ってもらえると嬉しいし……。

 

「あなたは口下手な母親にも気負いせずに自然体でいつも接してくれます。あなたと話していると母親は女子高生に戻ったような気になると言っていました」

 

「絶対に錯覚だから」

 

 いい感じのことを言ったと思えば母は突然変なことを言う。

 どの口が女子高生気分になったとか言うんだ。

 

「みほの制服をもう少しで着るところでした」

 

「パッツンパッツンになるし。歳考えろ」

 

 なんか危ない発言をしている彼女にあたしは遠慮なく意見する。

 この人の怖いところは冗談を言わないところだ。

 つまり、今の発言はマジで言ってるし、もう少しでパツパツになったみほ姉の制服を着た母の写メとか見せられて感想を聞かれるところだったということだ。

 

「スタイルは女子高生の頃から変わってないとあの人が昨日の夜のい――むぐっ……」

 

「言わせねぇよ!」

 

 あたしはまた母が娘とその友人たちに聞かせられないようなことを言いそうだったので、急いでその口を塞いだ。

 まったく、油断も隙もあったもんじゃない。何を考えてるんだろう?

 

「どうして、まみはあのお母様とフランクに話せるんだ……?」

「お母さん、私の制服本当に着てないよね?」

 

 そんなあたしと母のやり取りを見ていた姉二人は感想を口にする。

 みほ姉の制服は無事だったと信じたい……。

 

「とにかく、あなたの良いところはお気楽者なところです。戦車道を止めた理由はよくわかりませんが、気楽に考えても良いんじゃないですか? と、サンタクロースは思います」

 

 母はあたしの長所はこの性格だと言ってくれた。

 そして、戦車道に関しても難しいことは考えないで気楽に考えろとも……。

 確かにそんなことは西住流の次期家元は言えないよな。サンタクロースなら言えるんだろうけど……。

 

 そっか、母がこの格好をしているのは――。

 

「あくまでもサンタクロースなんだね……。うん。少し考えてみるよ。こっちに来て価値観が変わってきたんだ」

 

「そうですか……」

 

 あたしは自分なりに考えてみて今後の身のフリ方を決めると口した。

 この前の三校合同文化祭でアンチョビさんと話してから、自分のやりたい事を考えるようになった。

 このまま停滞するよりも動いたほうが良いと思えるようにはなっていたのだ。

 

 

「まほ……、あなたにはこれを……」

 

「こ、これは火の章……!? に、西住流の奥義書を私に……!?」

 

 まほ姉はあたしが実家から持ち出した西住流奥義書の1つである火の章を受け取って、びっくりした声を上げる。

 彼女はこれを渡されるとは考えてもいなかったらしい。

 

「もっと早く渡しても良かったのですが……。と、あなたの母親は思っていたみたいです。それほど、あなたの戦車道のレベルは高いとも」

 

 母はまほ姉の実力を誰よりも認めている。だから、いつでもこの本を渡しても良いと思っていたそうだ。

 そして、この本が無くても十分強いとも思っていた。

 

「そ、そんな……。大事な試合で負けてしまう私など……」

 

「お姉ちゃん、あの試合で負けたのは私が――」

 

「いや、車長が居なくなったくらいで、その車両が棒立ちになってしまったのは、私の責任だ。アクシデントが起こったときの対応を指導していなかったのだからな。無能な隊長なんだ……、私は」

 

 まほ姉は黒森峰女学園の10連覇がかかったプラウダ高校との戦いに敗けたのは自分のせいだと主張する。

 いやいや、あれはアクシデントのせいであって、みほ姉のせいでもまほ姉のせいでもない。

 無能な隊長だなんて、言わないでくれ……。みんな、まほ姉に憧れているんだから……。

 

「自分に言い訳をしないのはあなたの美徳かもしれません。しかし、自虐してはいけません。今まであなたが積み上げた練度は素晴らしい。それを誇りなさい。そして自信を持ちなさい。と、サンタクロースは思うのです」

 

 母はまほ姉の言い訳しない姿勢を褒めるのと同時に自分の積み上げた力を誇るようにしなさいと声をかけた。

 まほ姉の努力とそれが生み出した結果は素晴らしいとも。

 そして、自虐することだけは止めるように諭した。

 

「サンタクロースがですか?」

 

「そうですよ。残念ながら、あなたの母親は戦車道においては軽々に弟子を持ち上げることは出来ませんから」

 

「そうですね。私は勝利することが当たり前だと教えられ……。“よくやりました”以外の言葉を頂けたことがありませんでしたから」

 

 母は必要以上の言葉を娘にかけない。戦車道の指導に関してあたしたちには一切の情を排除しているからだ。

 

 まほ姉とみほ姉は才能が豊かだからこそ、母は余計な情がその成長を阻害することを恐れて私生活でもあまり感情を見せなくなってしまった。

 

 不器用だから戦車道の師範としての自分と母親としての自分の切り替えが上手ではなかったのだ。

 

 だから、サンタクロースになるくらいはっちゃけないと母親としての本音を出せない……。

 

 いや、やっぱりサンタクロースはおかしいから……。不器用すぎだよ……、母さん……。

 

「火の章は……、今日からあなたの物です」

 

「ありがとうございます。これから精進して、この書に相応しい戦車乗りになってみせましょう」

 

 火の章を受け取ったまほ姉は清々しい顔をしていた。

 これは来年度の黒森峰は強くなるだろうな……。王者に必ず返り咲くだろうし、戦車道ファンとしてその姿を見たい。

 

「みほ……、あなたにはこれを」

 

「うわぁ! ボコパジャマだぁ! ありがとう! サンタさん!」

 

 みほ姉は母を前に緊張を隠せなかったが、ボコパジャマを見てテンションが急上昇する。

 本当にボコが好きなんだな……。目をキラキラさせてるし……。

 

「みほ、あなたの行いは西住流の師範の目からすると到底許せることが出来ないみたいです」

 

「――はい」

 

 そんなテンションが上がっているみほ姉は母のひと言でしょんぼりした顔を見せる。

 この前の敗戦のあとにも同じことを言われているのだろう。

 

「しかし、サンタクロースは思います。あなたが自身の心に素直に従った上での行動なら恥じることはないと」

 

「えっ?」

 

 だが、そのあとの母のセリフを聞いて彼女は信じられないという表情で顔を上げる。

 まさか、あの母がこんなことを言うなんて……。

 

「あなたは誰よりも才能が豊かですが、心が弱いところを心配していました。そのあなたが、強い意志を示して動いたのであれば、それは成長であり、母親としては喜ばしいことなのでは、とサンタクロースは思うのです」

 

「お、お母――じゃなかった。サンタクロースさん……」

 

 母は内気で大人しいみほ姉が迷いなく行動を移したことを称賛した。

 まぁ、サンタクロースとしてらしいけど……。

 でも、みほ姉は仮にもあの母が自分の行動を肯定するとは思わなかったみたいだ……。あたしも思わなかった――。

 

「あなたのは母親は立場からこれからもあなたには厳しい言葉もかけるでしょうし、場合によっては勘当すら言い渡すかもしれません。しかし、あなたは自分の心に従いなさい。そして、行動なさい」

 

 でも、西住流の次期家元としての母はやはりみほ姉にとっては厳しい存在であり、勘当すらしてしまうかもしれない、と口にする。

 それでも、みほ姉は自分の意志に従って動くようにすべきだと母は主張するのだ。

 めちゃめちゃ厳しい……。母にとってみほ姉はやっぱり特別なんだろう……。戦車道の才能が……。

 

「よくわからないよ。どうすれば良いのか……」

 

「悩みながら答えを探すことも人生です。サンタクロースはあなたを応援しています」

 

 そして、どうしたら良いのかわからないと言うみほ姉に母はサンタクロースとしてエールを送った。

 これがこの人の精一杯なんだろう。彼女はみほ姉が自分に逆らうことも良しとしている。

 それだけの可能性を秘めてることを知っているから――。

 

「それでは、生徒会長の角谷杏さん、そして皆さん。みほとまみをよろしくお願いします」

 

「母さん! そっちはベランダ!」

 

「ま、まみ殿! 上空にヘリコプターが!」

 

 母はみんなに挨拶をしてベランダから飛び出す。

 そして、上空のヘリコプターから下ろされたハシゴに捕まりながら母は去っていった――。

 

 

「いやいや、どこからツッコミを入れれば良いかわからないぞ……」

 

「なんかワイルドな人だね。まみりんたちのお母さんって……」

 

 河嶋先輩と沙織は呆然と母の立ち去ったベランダを眺めていた。

 

「戦車道の家元とはあのようにアクティブなのですね〜」

 

「いや、華……。あの人を戦車道の家元のスタンダードにしないでくれる?」

 

 あたしは感心したような顔をしている華に対してそう言った。

 母のピントがズレた行動を戦車道の家系だからだと思われたくない。

 

「私はいい母親だと思う……。少しだけ心配していたが……、大丈夫みたいだな」

 

「そっか、麻子は……」

 

「気にするな。私は良かったとしか思ってない」

 

 両親を早くに失った麻子はあたしたちの母娘関係を心配していたらしい。

 彼女はクールに見えるが、その心の内は温かくて優しい……。

 

 こうしてあたしたち姉妹にとっては波乱だったクリスマスの夜は終わった。

 

 ちなみにまほ姉は随分前からサンタクロースの正体を知ってて黙っていたんだそうだ。

 知っていることがバレると母との繋がりが無くなってしまうと怖かったらしい。

 

 みほ姉は単純にショックを受けていて、それ以上に自分だけが信じていたという事実をただひたすら恥ずかしがって、ボコパジャマを着てベッドの上でジタバタしていた――。

 

 正直言ってそんなみほ姉が死ぬほど可愛かったです!!

 




本編に関係ないんですけど、書きたかったエピソードなので入れてみました。
クリスマス編はいかがでしたでしょうか?
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