もし、西住みほに双子の妹が居たらという物語   作:青空の下のワルツ

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今回から新エピソードであるプラウダ高校編がスタートです。


プラウダ高校

「戦車道の短期転校研修制度ですか? いえ、聞いたことがないですね」

 

「今月できたばかりの制度だから知らなくて当然だろう。来年度から、新しく戦車道を開始する予定の学園艦の生徒が戦車道が盛んな学園艦に短期転校をして、ノウハウを学んでくるという制度だ」

 

 年明け早々に河嶋先輩から“短期転校研修制度”という聞き慣れないワードについて説明をしてもらったあたし。

 へぇ、国も本気で戦車道の普及に努めていく感じなんだ。確かに盛んな学園艦のノウハウさえ掴めれば、発展させる作業はより楽になるもんな。

 

「はぁ、なるほど。じゃ、河嶋先輩がそれに行って来るんですね」

 

「いや、私はまみ子に行ってもらおうと思ってるんだけどねー」

 

 あたしはてっきり河嶋先輩が短期転校をすると思っていたら、角谷先輩はあたしに行かせるつもりだと言ってくる。

 

「へっ? あ、あたしが行くの? でも、会長、あたしはまだ――」

 

「うん。まみ子が迷ってることは知ってるけど、私たちは全員初心者だ。お姉ちゃんは人見知りだし……。コミュニケーション能力が高いまみ子なら向こうの学校の子とも打ち解けられるでしょ? ウチらにはまみ子が学んで来たことを教えてくれれば良いからさ」

 

 角谷先輩曰く、戦車道の知識があり尚かつ人見知りしない性格のあたしがこの役割を担うのに適任とのことだ。

 そう言われれば、そうかもしれないけど、他校の戦車道のノウハウを教えてもらうのかー。

 

「うーん。確かにこの学校の戦車道を助けることは約束したしなぁ。わかったわ。行ってきて、その学園艦のノウハウをキッチリ教えてもらってくる。で、戦車道が盛んな学園艦ってどこなの? その感じだと黒森峰じゃなさそうね。グロリアーナ? それともサンダース?」

 

 あたしは角谷先輩の言うことを了承する。そして、行き先の学園艦を尋ねた。

 口ぶりから黒森峰ではないことは分かっていたが……。

 

「いんや。ウチらが制度を利用する最初の学園艦ってことで特別に全国大会の優勝校を手配して貰えたよ」

 

「えっ? て、ことは……」

 

「まみにはプラウダ高校に短期転校してもらおうと思っているわ」

 

 あたしは小山先輩から今年度の全国大会優勝校であるプラウダ高校に短期転校をして欲しいと言われる。

 まさか、プラウダ高校とは……。よく許可を貰えたな……。王者になった余裕というやつか……。

 

「へぇ、プラウダ高校ですか」

 

「やはり、姉二人が負けてしまった高校には行きたくないか?」

 

「いえ、プラウダ高校は1年で素晴らしい成長を遂げていました。その秘密は気になりますね」

 

 河嶋先輩にみほ姉とまほ姉が敗けてしまった高校に行きたくないか、と問われたが、あたしは逆にプラウダ高校には特に興味を持っていた。

 

 あの試合はアクシデントにばかり目が行くが、実際にみほ姉とまほ姉が居てあそこまで追い詰められたのは単純にプラウダ高校が強かったからだ。

 

 あたしの分析では去年度までのプラウダ高校ならアクシデントが起きる前に倒せていたのは間違いない。

 だから、強くなったプラウダ高校の秘密をあたしは知りたかった。

 

「まみ子ならそう言うと思ったよ。小さいことは気にしなさそうだもん」

 

「もう、あたしだって繊細なところくらいあるわよ。ほら、みかんの皮だってきれいに剥かなきゃ気が済まないし」

 

「それは繊細なのか?」

 

 あたしが繊細な女の子アピールをすると河嶋先輩が静かにツッコミを入れる。

 あら、あたしも母みたいにズレたことを言ってる?

 

「じゃあ、一週間くらいだけど、楽しんできなー」

 

 

 というわけで、あたしはプラウダ高校に短期転校することになり、プラウダのある学園艦に行った――。

 

 

「うわぁ、寒いわ……。冬の青森県なんだから当たり前か。夏に北海道に旅行したくらいで北の方って全然行ったことないもんなー」

 

「あなたが大洗女子学園から来た短期転校生ですか?」

 

 あたしがプラウダ高校の学園艦に到着して寒がっていると、長身のクールビューティって感じの女の子に話しかけられた。

 ここで、プラウダ高校の戦車道の関係者の方と待ち合わせする予定だったから、彼女はその関係者の方で間違いないだろう。

 

「あ、はい。大洗女子学園の生徒会から勉強をしに来ました。普通科1年の西住まみです! よろしくお願いします!」

 

「私はプラウダ高校、戦車道チームの副隊長をしております、2年生のノンナです。遠いところからようこそおいで下さいました」

 

 プラウダの副隊長であるノンナさんは丁寧な物腰であたしを歓迎してくれた。

 良かった。優しそうな人だな。

 

「どうも、ノンナさん。初めまして。優勝校で勉強をさせてもらえるなんて光栄です。今日からご指導よろしくお願いします!」

 

「――やっぱり似ていますね……。あの、すみません。名前を見てもしやと思っていたのですが、西住ということは、あの西住流の関係者でしょうか?」

 

 あたしがもう一度頭を下げると、ノンナさんはさっそく“西住”の名前について尋ねてくる。

 これについて聞かれるのは想定内だ。

 

「あはは、やっぱりバレますよね。仰るとおり私は西住流の次期家元の娘になります」

 

「やはり……。では、黒森峰の隊長の――」

 

「ええ、西住まほは私の姉です」

 

 あたしは戦車道関係者の中で有名になっているまほ姉の妹だということをノンナさんに告げた。

 この名前を背負ってプラウダ高校の練習に参加するのはちょっと覚悟がいるな……。

 

「気に食わないわね。だったら、お姉さんのところに行きなさいよ。それとも何かしら? 大好きなお姉さんを負かした学校にケチをつけるために来たの?」

 

「…………」

 

 西住の本家の娘だとノンナさんに伝えた直後、金髪の可愛らしい少女があたしに声をかけてきた。

 えっ? この子は……。

 

「カチューシャ、短期転校生なんて興味がないと仰ってませんでしたか?」

 

「気が変わったのよ。西住とかいう名前を見て。西住まほの妹を送ってくるなんて意味がわからないわ。あんたも黙ってるけど、何か言いたいことはないのかしら?」

 

 カチューシャと呼ばれた彼女はまほ姉の妹がここに来たことが気に食わないらしい。

 でも、あたしはその前に――。

 

「――可愛い」

 

「はぁ?」

 

「妖精さんみたい! こんなに可愛い女の子見たことがないわ! なんて愛くるしいのかしら!」

 

 この少女がとても愛らしくて、思わず抱きしめてしまう。

 わぁ、いい匂いがする……。

 

「ち、ちょっと! 離れなさいよ! 何考えてんの! バカ! ――ううっ、ノンナ!」

 

「まみさん、その方はプラウダ高校、戦車道チームの隊長です。気持ちはわかりますが、離してください」

 

 涙目になってあたしを引き剥がそうとするカチューシャさんを見てノンナさんは彼女がプラウダ高校の戦車道チームの隊長だということを告げた。しまった。なんてコトをしてしまったんだ……。

 ていうか、気持ちはわかってくれるんだ……。

 

「えっ? た、隊長ですか? す、すみません。こんなに可憐な方を見たのは初めてでして、つい」

 

「――ま、まぁいいわ。それより、あなたは何で黒森峰に居ないのよ」

 

 カチューシャさんはあたしが何故黒森峰に居ないのか質問する。

 これも当然の疑問よね……。

 

「それは戦車道を止めて、逃げ出したからです。お恥ずかしい話ですが」

 

 あたしがはっきりと大洗女子学園に居る理由をカチューシャさんに伝えた。

 この辺りは誤魔化しても仕方ないだろう。

 

「……あなたって、変な子ね」

 

「へ、変な子? ご、ごめんなさい。いきなり初対面の先輩を抱きしめるなんて――」

 

「そこじゃない。戦車道から逃げ出した奴なんて何人も見てきたわ。でも、逃げた奴はあなたみたいに清々しい顔をしていないのよ。もっと、卑屈でビクビクしてるわ」

 

 カチューシャさんに変な子だと言われて、さっきの無礼を再び謝ると、彼女はあたしが逃げ出したクセに清々しい顔をしているとか言ってくる。

 

「清々しい、ですか? いやいや、めちゃめちゃ卑屈になってますし、あたしは自分のこと根性なしだなぁって思ってますよ」

 

 いや、あたしは自分勝手に止めてるし、自分のことをダメダメだと思っているから、清々しいなんて評価されると思ってなかった。

 

「そんなふうに見える? ノンナ」

 

「いいえ。そもそも、彼女の立場でプラウダ高校に来ること自体がどうかしていると思います。どの面下げてというか、普通は別の人間を寄越そうとするでしょう」

 

「そ、そんなぁ。ノンナさんまで……」

 

 するとノンナさんまで普通はプラウダ高校に来ること自体がおかしいみたいな事を言われた。

 ここに来たことってそんなに変かな?

 

「大体、あなたはプラウダ高校のことどう思ってるのよ」

 

「プラウダ高校ですか? ずっと高校戦車道では2番手のイメージでした。あっ――」

 

「いいわよ。合ってるから……。続けて」

 

 カチューシャさんにプラウダ高校のイメージを問われたので、あたしはついつい万年2位のイメージとか言ってしまう。

 それでもカチューシャさんはそれを聞き流し、続けるように促した。

 

「戦力は黒森峰と大差ないはずなのに、去年度までは戦略や戦術面での粗さが目立って優勝には及ばないという印象でしたね。あと一歩のところまで追い詰めても、その甘さで勝ち切れない部分がありました」

 

「へぇ……」

 

「しかし、今年度は強かったです。戦略の幅が広がって戦術の面でも練度の高さが活かされるようになってました。それに、IS−2の砲手は素晴らしい。あの砲撃には思わず見惚れちゃいましたし、それを上手く使おうとする華麗な戦略には感服しました。去年度まであった甘さが完全に消えてましたので……」

 

「「…………」」

 

 あたしがプラウダ高校から感じたことを全て話し終えると、カチューシャさんもノンナさんも黙ってしまう。

 しまった、つい熱く語ってしまった。こういうのに付いてきてくれるのはやはり優花里しか居ないか……。

 

「す、すみません。他校の1年生のクセに生意気でしたよね」

 

「いえ、驚きました。従来のプラウダの問題点からカチューシャが改善した点までご指摘の通りです。……よく試合をご覧になっていたのですね」

 

 あたしが恐縮していると、ノンナさんがほとんど正解だったようなことを言ってくれた。

 やはり、このカチューシャさんがプラウダ高校の改革をしたんだ。

 この体格で隊長ってことはよほど頭が切れるのだろうということは予測できていた。

 

「まぁ、戦車道は好きですから。試合観戦は特に……」

 

「じゃあ、この前の決勝戦も見てたの?」

 

 あたしが試合観戦が好きだと言うとカチューシャさんは決勝戦を見たかどうか尋ねた。

 

「ええ、もちろんです。姉が二人出ていましたから。黒森峰の副隊長も私の双子の姉なんです。ほら、フラッグ車から降りて救助に行った」

 

「ああ、あの子ね。確かにあなたとよく似てた気がするわ。ちなみに、そのフラッグ車を撃つように指示したのはこのカチューシャよ――。カチューシャはその功績でプラウダの隊長になれたの。あなたのお姉さんには感謝しなきゃ」

 

「あ、そうなんですか」

 

 あたしは姉二人が決勝戦に出たと言うと、彼女がフラッグ車を撃つように指示をして、戦いに勝利したから隊長になれたと話をする。

 へぇ、やっぱり優勝に一役買ったから隊長になれたのか……。

 

「そうなんですかって、あなたは何も思わないの? アクシデントが起きて、お姉さんが出て行った隙を狙ったのよ」

 

「はぁ……、でも別に中止にはなってなかったですし、狙わない方が変ですよね?」

 

 カチューシャさんはあたしの反応が変だったのか、当たり前のことを問いただしてきた。

 フラッグ車に隙があったら撃たない方が不自然なんじゃないのかな? そんなのみほ姉だってわかってて救助に行ったと思うし……。

 カチューシャさんの言いたいことがよくわからない。

 

「――いや、そうなんだけど……。あーっ、あなたと話すとなんかペースが乱されるわね!」

 

「そんなことより、プラウダ高校の強さの秘密を教えてください。これから始まる大洗女子学園の戦車道を少しでも発展させたいので」

 

 イラッとしているカチューシャさんにあたしはプラウダの強さの秘密を教えて欲しいと懇願する。

 あたしはその為に来たのだから。

 

「――っ!? ふふ、()()()()()より? なかなか面白い子じゃない。合格よ。プラウダ流の地獄の訓練を教えてあげるわ!」

 

「改めて、よろしくお願いします! カチューシャさん、ノンナさん!」

 

 あたしがカチューシャさんに声をかけると彼女は少しだけ微笑んでプラウダの練習に参加させてくれると言ってくれた。

 一応、彼女の面談みたいな物は合格できたらしい。

 

「じゃ、とりあえずウチの子たちと混ざって走り込みからやってみる? 戦車道を途中で止めるような根性なしには付いてこられないかもしれないけど」

 

「あはは、確かにそうですね。やれるだけ頑張ってみますよ。戦車道の練習も久しぶりだなぁ」

 

 カチューシャさんに案内してもらった練習場で体力作りの走り込みを開始しようとしているプラウダ高校の戦車道チームのメンバーたちがいた。

 あたしはカチューシャさんの指示どおり彼女らに混ざって走り出した。何だかんだ言って体を動かすのは楽しい……。

 

「笑ってますね」

「笑ってるわね……。やっぱり、変な子……」

 

 あたしがニヤニヤしながら走っているとカチューシャさんはまたあたしのことを変だと言っていた――。

 

 なるほど、プラウダ高校の戦車道チームのみんなはこんなに走るのか……。こりゃ、黒森峰より練習してるかもしれないな……。

 

 

 

「ちょっと! 新参者に負けてるんじゃないわよ! 何のためにいつもの倍の距離を走らせたと思ってんの?」

 

「隊長、この人は誰なんです? ずっとニコニコして走っていたので怖かったんですけど……」

 

 いつの間にか先頭を走っていて、カチューシャさんはチームのメンバーに叱咤していた。

 あたしは練習量の甲斐あって体力だけはかなり付いていたから、走るだけなら結構頑張れる。

 

「誰って、そんなことも知らないの?」

 

「カチューシャがまだ紹介してないですからね」

 

 カチューシャさんはまだあたしのことをみんなには紹介していない。

 “西住”って言われたら、チームメイトも変な顔をするんだろうなー。

 

「――ふぅ、この子は“マミーシャ”よ。短い間だけど同志になるわ。負けたら承知しないから、そのつもりでいなさい」

 

 しかし、カチューシャさんはあたしのことを“マミーシャ”だと紹介して“西住”の名前は出さなかった。

 

「どうも、マミーシャです。よろしく」

 

 あたしはそんなカチューシャさんの気遣いが嬉しくて、ノリノリになって“マミーシャ”だと自己紹介する。

 優しい隊長で良かったなー。これなら、一週間頑張れそうだ。

 

「順応するのも早いのね……。ますます分からないわ。あなたが戦車道を止めた理由が……」

 

 そんなあたしを見て、カチューシャさんはあたしが戦車道を止めたことが信じられないみたいな顔をしていた。

 

 何はともあれ、あたしのプラウダ高校での生活が始まった。

 




プラウダ高校は3年生が引退した設定で行きます。
とりあえず、まみは体力だけは誰にも負けない感じです。
感想などお待ちしております!

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