もし、西住みほに双子の妹が居たらという物語   作:青空の下のワルツ

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目隠し戦車道とかいう、よくわからない練習。


地吹雪のカチューシャ

「うへぇ、怖い怖い! 怖いすぎるよ〜! 目が見えない状態で戦車に乗るってこんなに怖いものなの!?」

 

 あたしは目隠しをした状態で車長の席に座らされて、早速混乱していた。

 視覚が封じられるとこんなにも恐怖心が煽られるのか……。

 

『マミーシャ! 相手は三両よ! あなたの指示で全車両を撃破しなさい!』

 

 動揺しているあたしのところにカチューシャさんから通信が入る。

 目隠ししながら指示を出すってどうやって? こんな無茶ぶりまほ姉だってやらないわよ……。

 

「さ、三両も!? と、とにかくジグザグに動いて被弾を避けてください! 嘘っ! まだ被弾してないのに、いつもよりも揺れている気がする!」

 

 あたしは三両に追われている状況を想定して、逃げを選択する。

 ちなみに他の搭乗員はあたしに視覚的な情報を伝えないようにカチューシャさんに命令されている。

 砲弾が近くに着弾したときに感じられる揺れがいつもよりも格段に大きく感じるなぁ……。

 

『こらっ! あなたやる気があるの!? 逃げてないで、さっさと戦ってやられちゃいなさいよ!』

 

 逃げてばかりいるあたしに業を煮やしたカチューシャさんは、戦えと指示を出した。

 そんな無理ですって。見えないのにどうやって戦えばいいの?

 ええーっと、とりあえず音から情報を整理して……。

 

「やられるの前提で話すのは止めてくださ〜い! 後方に二両いることは何となくわかる。装填速度を想定して……! 今です! 右後方の車両を!! キャッ! 被弾した!?」

 

 あたしが相手車両の装填時間を分析して、そのタイムラグを狙い、停止して砲撃を命じると、今まで息を潜めていた三両目からの砲撃を被弾してしまう。

 

『このバカーシャ! 目隠ししてるくせに、マニュアル通りに動いてるんじゃないわよ。ぎこちないから、動きがいつも以上に丸わかりよ!』

 

 カチューシャさんはあたしの指示がマニュアル通りだと言ってバレバレになっていると指摘する。

 確かに手探りで指示を出しているから、いつもよりも格段に精度が落ちている。

 

「そ、そんな〜! じゃあどうすれば――?」

 

『訓練弾じゃなかったら、今ので撃破されてたわよ! ほら、第二ラウンド開始!』

 

 あたしが頭を悩ませていると、カチューシャさんが今のは訓練弾だと告げて、第二ラウンド開始を宣言する。

 今のは確かにクリーンヒットだったから、実戦なら撃破判定だったよね。ふーん。なるほど。

 

「そっか、当然、訓練弾か……。そうだよね……。よし、思いきって突っ込むわよ! ――って、全力で右側に回避! ――こ、この音は実弾? そういえば、最初の砲撃も……」

 

 あたしは訓練弾なら当たったとしても撃破を狙って突っ込んだ方が良いと判断して、突撃を指示した。

 しかし、急激に嫌な予感がして突撃の指示を撤回し回避をさせる。

 

 や、やっぱりこの砲弾は実弾じゃない。カチューシャさんって恐ろしい人ね……、訓練弾だと思わせて安心したあたしの気の緩みを確実に狙ってきた。

 

 したたかというか、練習でも容赦がなさすぎるというか……。

 

『へぇ、思ったより勘は良いじゃない。ほら、さっきとの差が分かったなら、殺気の正体も掴めるんじゃない? 実弾と訓練弾を混ぜて攻撃させてんのよ』

 

 実弾と訓練弾を織り交ぜることにより、車両から感じる気迫の違いを感じろとカチューシャさんは指示を出す。

 確かに撃破判定が出ない訓練弾を使うときは多少は気が緩むんだろうけど……。

 

「確かに、今さっきは何か分からないけどゾワッとしたわ。そっか、これが前にアールグレイさんが感じ取った殺気――。確かにみほ姉やまほ姉からはこれの何十倍も強い気迫みたいなものを感じて、あたしは萎縮したりしていた――」

 

 あたしはカチューシャさんに言われて初めて、最初の砲撃とさっきの砲撃から感じ取った“怖い感じ”がいわゆる“殺気”だということに気が付いた。

 そして、みほ姉やまほ姉から感じられる気迫に押されていた事にも……。

 

 うん。今度は怖くない。次の砲撃は――訓練弾だ。

 

「このまま突っ込んで大丈夫! 撃て!」

 

 あたしは車両が訓練弾を被弾しても構わないと思い、思いっきり距離を詰めさせて砲撃を指示した。

 

『一両撃破――。まぁ、ここまでヒントを出したら当然よね。さぁ、あと二両よ……』

 

 カチューシャさんは一両目の撃破は当然というような口調であと二両を撃破するようにと、私を煽る。

 

「大きく右から回り込んで、突撃! ――っ!? ダメ! 回避して! 容赦なく実弾ばかり使ってくるわね……」

 

 しかし、ここから先はうまく行かなかった。なんせ相手は実弾しか使わなくなり、私はただ恐怖心から逃げ惑うしかなくなってしまったのだ。

 

『マミーシャ! 実弾か訓練弾か分かるようになったじゃない。だったら、ここから先は全部実弾よ。感覚をさらに研ぎ澄ませなさい……!』

 

 更にカチューシャさんが全部この先は実弾にすると宣言する。これは無理なんじゃ……。

 

「感覚を……? ダメ! 次も回避! くっ、マトモに近づけないじゃない……! 研ぎ澄ますって……、どういうこと?」

 

 あたしはカチューシャさんの言っている意味が分からず、混乱の中、砲弾を何とか躱す指示しか出せなくなっていた。

 

『逃げてるだけじゃ、何も分からないって言ってるでしょ! ほら、意地でももう一両は撃破なさい!』

 

「――っ!? 今の音……、もう少しで被弾するところだった……。あれ? さっきの砲撃とその前の砲撃……、何か違う気がする……」

 

 カチューシャさんの檄のあとに続いて砲弾が車体を掠めたことを感じ取る。

 いや、今の砲撃は何かが――。あたしの脳は被弾しそうになった砲撃から違和感を感じ取った。

 

「もしかして……! 大丈夫! 真っ直ぐに直進して至近距離から砲撃を!」

 

 あたしは次の砲撃は外れると読んで真っ直ぐに動き、そして距離に余裕をもって砲撃することを指示する。

 よし! 手応えあり。あたしの車両は二両目を撃破した。

 

『よく感じ取ったわね。停止していない状態では適当に狙って撃つように指示していたのよ。ほら、真剣に刈り取ろうとするときの気迫と、適当なときの気迫じゃ全然違うでしょ?』

 

「ええ……、見えなくなって初めてわかりました。でも、これが分かったところで……」

 

 カチューシャさんは狙いをつけてからの砲撃と、適当に砲撃するのとでは感じられる気配みたいなものが違うという事が伝えたかったらしい。

 これも考えたことがなかった。なぜなら、あまり意味がないからだ……。

 

『そうね。こんなのを注意して感じ取るより、実際に見たほうが判断は早いわ。でも、この練習には意味がある……。それは――』

 

 そう、カチューシャさんの言うとおり、結局視覚に頼って判断をしたほうが早い。

 だって、目隠しして戦うなんてことないんだもん。

 

 しかし、カチューシャさんの声が低くなった瞬間にあたしの背中はゾクリと冷たい氷を当てられたような感覚に支配された。

 この吹雪の中で心臓を鷲掴みにされたみたいな感覚は何……?

 

「――っ!? か、カチューシャさんなんですか? 最後の車両に乗っているのは……」

 

『あら、気付いた? そりゃあ気付くわよね……。感覚が鋭敏になってるのだから』

 

「どこに逃げても無駄だと思わせるくらいの、この心臓を掴まれたみたいな感覚……」

 

 そう、最後の車両にはカチューシャさんが乗っていた。

 戦いながらあたしに注文をしていたのだ。それにしても、こんなに空気を変えることが出来るのか……。

 

『そう。これが、本物の殺気というやつよ。あなたの車両をこの後――どんなことがあろうと、破壊するわ――』

 

 そして、カチューシャさんから感じられる気配が一段階強くなった瞬間にあたしの恐怖心はマックスになる。

 

「通信を切ります! 右側に全速力で――! ――っ!? 被弾した!? いや……、撃破された?」

 

 あたしは回避を指示したが、回避行動を起こした瞬間に、まるで車両が()()()動くことがわかっていたように、簡単に車体の急所に砲弾は捩じ込まれ、あっさりとあたしの車両は撃破されてしまった。

 

 なんてことだ。カチューシャさんを怖いと思った瞬間に勝負が終わっていた――。

 

 そして、ようやくあたしは目隠しから解放されて、車両から降りる。

 

 

 

「どうして私が右側に避けるとわかったのですか? そんな予知みたいなこと、みほ姉もまほ姉もできませんよ」

 

 その後、全体の練習が一段落してあたしはカチューシャさんにどうしてピンポイントに逃げる方向がわかったのか質問した。

 

「はぁ? 予知なんて出来るわけないでしょう。あなた、カチューシャの指示で2両の敵車両に右側逃げるクセを付けられてたのよ。そして、カチューシャが殺気を出せば、その瞬間にあなたは慌てて逃げる。狙い撃ちよ、そんなの」

 

 カチューシャさんはこともなげに、あたしにある方向に逃げるクセをつけるように砲撃を指示したということを告げる。

 マジか……。この人は何重に罠を張っているんだろうか……。周到すぎる……。

 

「まさか、今までも……」

 

「逃げる方向は何となく読まれてた可能性は高いわね。これって、あるレベル以上の選手は無意識にやってる技術だから」

 

 カチューシャさんはこういったテクニックは無意識に使っている選手がそれなりに居ると話す。

 姉二人は間違いないし、エリカとかこの前のアールグレイさんも似たようなことをしてたかも。

 

「先程のカチューシャさんの殺気……、あれは本能に語りかけられた感じがしました。どうしても、逃れられようがなかった……」

 

「それなら、良かったわ」

 

「えっ?」

 

「あなたが思った以上に鈍かったらどうしようかと思っていたけど、まぁ合格よ。それだけ感じ取れたなら」

 

 あたしは殺気を剥き出しにしたカチューシャさんになす術も無かったことを悔やんでいると、彼女はそれでいいと言ってくれた。

 彼女からすると、感じ取れただけで合格なのだそうだ。

 

「そ、そうなんですか? あっさりと撃破されましたけど……」

 

「当たり前でしょ。視覚が封じられた車長のいる車両なんて、ヒグマの赤ちゃんより弱っちいんだから。殺気だって、恐怖心が増幅されて敏感になっているから引っかかりやすくなっているだけだし」

 

「あー、なるほど」

 

 プラウダの隊長からすると、目隠しした後輩一人を撃破するなんて簡単なのだそうだ。

 しかも、目が見えない状況だからこそ、このような殺気から成る誘導には引っかかりやすくなると、種明かしする。

 

「大体、西住まほだって流石にあなたを瞬殺まではしないでしょ。さっきのアレは殺気の効果をより肌で感じ取りやすくしただけなの」

 

「確かに目が見えないだけで、とても怖くなって、敏感になっていた気がします」

 

「まぁ、使いこなせれば駆け引きの材料が1つ増えると思っておけばいいわ」

 

 カチューシャさんは、実戦ではこんなに上手く行かないから、出来るようになっても駆け引きの材料が増える程度に思うようにするようにと声をかけた。

 しかし、手札が増えるだけでかなり変わるような気がする。

 

「あっ、でもカチューシャさん。結局、あたしは全然その殺気とやらを修得出来なかったんですけど」

 

「やっぱり、バカーシャね。そんなに簡単に修得出来るなら、プラウダは黒森峰にもっと簡単に勝ってたわよ」

 

 あたしは殺気を感じ取ることは出来たけど、自分から発することは出来なかったと言うと、カチューシャさんはそんなに簡単に出来るようにはならないと説明する。

 あー、やっぱり特殊な技術なんだ。

 

「てことは、使える人って少ないんですか?」

 

「カチューシャの戦術に取り入れるレベルに達しているのはね。あなたは残りの日数で少しでもイメージ出来るようにしておきなさい。そして、姉と出来るだけ多く戦いなさい。今度は見方が変わっているはずよ」

 

「見方が変わって――。わかりました! 頑張ってみます!」

 

 カチューシャさんは今後の練習で、特にこれを理解してまほ姉やみほ姉との対戦経験を積むようにとあたしに告げた。

 多分、こういった技術があることを知っておき、それを体験して盗めと言っているんだと思う。よし、頑張って体得するぞ。

 

 この日から五日間、あたしはプラウダ高校での厳しい練習をこなしながら、何とか自分なりに気迫を発する方法を思案した。

 

 明日はいよいよ短期転校最終日。練習メニューは初日と同じく紅白戦だ。

 あたしはノンナさんの元でカチューシャさんのチームと10対10で戦う。

 

 

「あっ! ノンナさん! お疲れ様で――っわっと!」

 

 あたしは練習終わりに、タオルで汗を拭いていたノンナさんの元に駆け寄ろうとして盛大に転んでしまう。

 

「だ、大丈夫ですか。マミーシャ……。怪我は……」

 

「あははは、久しぶりに派手に転んじゃった……。地面が滑りやすくなっていますね」

 

 ノンナさんは呆気に取られながらも、あたしに近づいて手を貸してくれた。いやはや、お恥ずかしい……。

 

「おや? 手帳を落としていますよ。ん? みほ姉日記……?」

 

「ああっ! しまった! ホームシックになったときに読もうと思ってたみほ姉日記が……!」

 

 あたしが立ち上がると、ノンナさんはあたしが落とした手帳を拾う。それは、あたしがありとあらゆる“みほ姉との思い出”を記録した“みほ姉日記”だった。

 恥ずかしすぎて……、し、死ねる……。ここが大洗女子学園じゃなくて良かった……。

 

「双子のお姉さんのことを日記帳につけているのですか?」

 

「ち、違うんです! ノンナさん! あたしはみほ姉を尊敬しているんです! それなのにどうしようもなく彼女のことを愛らしく思うときもありまして――。だから、そんなみほ姉のすべてを記録したくて――」

 

 あたしはノンナさんが日記帳に対して特に引いたような顔もせずに真顔で日記について尋ねてきたので、この日記について情熱をもって語った。

 いや、本当にみほ姉のことを愛してるからこそなんだけど……。やっぱりまずいよね?

 

「わかります。あなたの気持ちは痛いくらいに……。同志マミーシャ。この日記にはいつか大きな意味が出てくるはずです」

 

 しかし、ノンナさんはあたしの感情が理解出来ると微笑みかけてくれた。

 なんか、ノンナさんが()()って言ってくれたのは初めてだな……。

 

「の、ノンナさん! ありがとうございます! いやー、ドン引きされると思いましたよ。だって、これって例えばノンナさんがカチューシャさん日記を付けてるみたいな――」

 

「どうしました? マミーシャ。なぜ、言葉を止めたのです?」

 

「いえ、分からないですが、これ以上は話さないほうがいいような気がしたんです」

 

 あたしはノンナさんがカチューシャさんの日記を付けてるとか変な冗談を言ったのはマズかったと思って慌てて話すのをやめた。

 それを言った瞬間にノンナさんの“殺気”のようなものが跳ね上がったような気がしたが、最近、神経質になったいるからだろう。

 

「そうですか。私は短い間でもあなたみたいな後輩が出来て良かったです」

 

「ど、どうしたんですか? 急に……」

 

 ノンナさんはあまり感情を表に出さないし、親切だけど馴れ合いとかも嫌いそうなタイプだと思っていたから、こういう事を言ってくるのはかなり意外だった。

 

「いえ、なんでもありません。明日は最終日……。紅白戦が楽しみですね。あなたが一週間で成長出来たのか? それとも……」

 

「成長出来てたら良いんですけど。明日はよろしくお願いします」

 

 明日のあたしは一週間前よりも少しは成長出来ただろうか? 

 

 そして、夜が明けてプラウダ高校への短期転校最終日となる。

 ここでの最後の練習メニュー――2度目の紅白戦が始まった――。

 




ノンナのカチューシャへの愛って重くて好き。
劇場版は特に格好良かった。
なんか、いつの間にかカチューシャがまみの師匠みたいになってるなぁ。
今年はあと一回くらい更新してプラウダ編を終わらせたい。
あと、感想なんてあれば嬉しいです!
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